(;´・ω・)    穴    (^ω^;)のようです
1 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:59:39.38 ID:UXLkRdzR0

1999年7の月。

恐怖の大王は、ついに空からやってくることはなかった。

僕の頭上に降ってきたのは、自分で放り投げた大量の外れ馬券だけ。

小さい頃からコツコツと貯金してきた全財産だった。

それとも、ノストラダムスは僕がすっからかんになるのを予言したんだろうか?


3 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:00:14.51 ID:UXLkRdzR0

あのときは本当にどうかしてたと思う。
すごい焦りを感じたんだ。

まだやりたいこともやってない。
今までの人生、我慢の連続だったのに。

どうぜ恐怖の大王がやってきて地球が滅ぶなら、なんて随分短絡的な思考回路だ。


4 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:00:37.54 ID:UXLkRdzR0
あれから僕は、再び堅実な生活を送ることを決意した。
人生、誠実が一番である。
そう思い直して、また貯金も始めた。

( ^ω^)「お米が少なくなってきたお。買い物にでも行くかお」

しっかりと生きていくタメには、しっかりと現実を見つめなきゃいけない。

無駄遣いをせず、質素な暮らしを努め、将来設計をする。
地味な生活だけど幸せな生活。

……彼女絶賛募集中。

5 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:01:21.59 ID:UXLkRdzR0
それでもたまに、気になることがある。

あの予言は、昔々の偉い人が民に散財させる為に仕組んだ罠だったんじゃないだろうか。
そもそも僕らには、ノストラダムスという人物が本当にいたかどうか確かめる術はない。

僕が知っている世界だって、テレビや新聞から得た知識でしかないんだ。

もしこの世の全てが、全てが氷山の一角だったら……?

メディアが僕らを操っていて、本当はもう地球は滅びる寸前だったら……?



漫画や映画じゃあるまいし、そんなことはほぼありえないと思うけど。


6 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:01:41.35 ID:UXLkRdzR0
( ^ω^)「……アホなこと考えてないで夕飯の準備だお」

暴走する妄想を中断して、僕は目の前の野菜たちを選別する作業に移った。
スーパーに並ぶ色とりどりの野菜。

人参、じゃがいも、タマネギ……。
今夜はカレーにしようかしら。

お酒は弱いけど、たまにはビールでも飲もうかな。
500ml缶一本で充分気持ちよくなれるのは、こういうときに経済的だ。


7 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:02:10.30 ID:UXLkRdzR0
ξ゚听)ξ「ありがとうございましたー」

レジの女の子は、僕の好みど真ん中だった。

( ^ω^)(……一目惚れされてたらどうしようwwwwwwww)

お釣りを手渡すとき、僕の手にそっと触れられる細く可憐な手。
女の子は小銭がこぼれないようにして、偶然手が触れただけなんだろうけど。

男って、ホント単純だな。

買い物袋の中から缶ビールを取り出して、プルトップに指をかける。
心地よい音と湧き出る泡が、僕の喉を鳴らした。

9 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:02:32.87 ID:UXLkRdzR0
スーパーからの帰り道。
僕は中学時代からの旧友に出会った。

(´・ω・`)「……」

( ^ω^)「ショボン!? ショボンじゃないかお!!」

(´・ω・`)「……ブーン……?」

お互い就職してからぱったり連絡はとってなかった。
何年ぶりの再会だろうか。

昔話に花を咲かせられるかと思ったら、ショボンはずっとうかない顔をしていた。

( ^ω^)「どうしたお? 何か悩み事かお?」

10 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:03:39.45 ID:UXLkRdzR0
(´・ω・`)「いや……」

( ^ω^)「なんだお、水臭いお!! 相談くらいのるお!!」

(´・ω・`)「……誰も信じないよ」

( ^ω^)「? いいから話してみるお。聞くだけなら出来るお」

(´・ω・`)「……」

どうやら親友は大きな悩みを抱えているらしい。
ならばその悩みを聞いてあげて、少しでも不安を取り除いてやるのが親友ってもんだろう。

(´・ω・`)「……大手薬品メーカーに就職してから数年で、僕は会社を辞めたんだ。ある人にヘッドハンティングされてね」

やがて彼は、ぽつりぽつりと話し出した。

11 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:04:09.19 ID:UXLkRdzR0
(´・ω・`)「そのある人ってのは、さる大金持ちでね。僕はおかかえの研究室に雇われることになった」

( ^ω^)「すごいじゃないかお!! さぞかし給料も良さそうだお!!」

お金は問題じゃないよ、と前置きして。

(´・ω・`)「……今思えば、あそこの研究所は全てが異常だった」

(´・ω・`)「技術が恐ろしく高いんだよ。今の医学会の根底から覆してしまうような研究がいくつもあった。
      世の中に出回っている医学技術なんて、本当は随分遅れているんだ」

( ^ω^)「……ま、まさか」

(´・ω・`)「信じられないだろうね。だけど、ここまで話したんだ。最後まで聞いてほしい」


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/06(火) 05:04:30.89 ID:UXLkRdzR0
僕は手に持った缶ビールをぐいとあおると、ショボンの次の言葉を待った。

(´・ω・`)「……ありがとう。そこでは、雇い主の命令で様々なものが作られていた」

(´・ω・`)「でもひどくずさんな管理でね。一度作ったものの研究レポートなんて、ほとんど残っていなかった」

(´・ω・`)「結果さえ良ければいいのさ。研究結果で雇い主が満足したら、すぐに捨てられるんだ」

(;^ω^)「……」

正直、ショボンの話すことはすべて眉唾ものだった。

透明人間になれる薬。
癌を治す治療薬。

そんなものがなぜ市場に出回らないのだろう。

13 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:05:04.05 ID:UXLkRdzR0
(´・ω・`)「わからない。もう今となっては調べようがない」

( ^ω^)「い、今となっては? どういうことだお? クビになったのかお?」

(´・ω・`)「……うん。正確には、研究所がなくなった。雇い主が逃げ出したのさ……研究結果を恐れてね。
      今頃はどんな衝撃にも耐えうる核シェルターの中じゃないかな」

……バカらしい。
そんな言葉が頭をよぎった。

しかし、昔から冗談を言わないショボンだった。
僕は言い知れない不安を覚えた。

14 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:05:52.18 ID:UXLkRdzR0
(;^ω^)「そ、その研究結果って……?」

(´・ω・`)「……ある日、僕らは雇い主に『全てなかったことにする薬を作れ』と命令されたんだ」

( ^ω^)「そんなむちゃくちゃなwwwwwwwwwwwwww」

(´・ω・`)「僕もそう思うよ。でもあの研究所は普通じゃなかった。作っちゃったんだよ。全てなかったことにする薬を」



(´・ω・`)「ただ、それは、触れたもの全てを消してしまう液体だった」




15 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:06:33.70 ID:UXLkRdzR0
( ^ω^)「……なんだおソレ」

(´・ω・`)「液体が完成したとき、すぐにフラスコが溶けて消えた。急いで別のフラスコに入れ替えたんだけど、それもすぐに溶けて消えた」

(´・ω・`)「何度も何度も何度も何度も何度も……やがて研究所には液体をたらさないよう防ぐ物体がなくなった」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「みんな、何を考えたと思う? 液体を下に漏らさないよう、一人一人順番に液体の器になっていったんだ」

(;^ω^)「……え? え?」

(´・ω・`)「一人一人溶かされて消えていった。もう研究所には何も残っていない。僕は怖くなって逃げ出したんだ」

(´・ω・`)「わかるかい? 僕は逃げ出したんだよ。一人で。研究所の床を溶かし、大地に到達し、それすらなお溶かしていくの液体から」

16 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:08:11.86 ID:UXLkRdzR0
ショボンは昔から嘘を言わない男だった。
これは、彼との数年間の空白が作り出した小粋なジョークなだろうか。

そう信じたい。
誰かそうだと言ってくれ。

でも、もし本当だとしたら?


(´・ω・`)「研究所に小さな穴を空けた液体は……」


(´・ω・`)「少しずつ少しずつ、地球の核に近づいていっている」


17 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:08:33.02 ID:UXLkRdzR0

ああ、そうか。

僕の知っている世界は、氷山の一角だったんだ。






(´・ω・`)「……全て……全て、溶けて消えてしまうんだよ」





19 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:10:23.34 ID:UXLkRdzR0


ショボンの言葉は、もう耳に入ってこなかった。

ショックからか、地球がおかしくなったせいなのかはわからない。

ただ、血の気が引いて、恐怖のあまり手足が震えている感覚のなかで、ひとつだけ感じるモノがあった。




20 名前: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 05:10:44.76 ID:UXLkRdzR0









地面が、揺れている。











22 名前: ◆6iGliislx. :2008/05/06(火) 05:11:30.90 ID:UXLkRdzR0
(;´・ω・)    穴    (^ω^;)のようです

おわり


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