('A`)みれんのようです川д川
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:00:52.32 ID:36PluNRoO
>>1 代理ありがとうございました

短編です

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:03:13.43 ID:36PluNRoO
 
('A`)「……ん、朝か」
 
時刻は7時30分。
昨日と同じ時間に目覚め、顔を洗い、服を着替え、昨晩作り置いていた朝食を温める。
テレビを点け、国営放送にチャンネルをあわせ、ニュース見ながら朝食を取る。
 
僕はいつも通りの朝を、いつも通りこなしていた。
平穏がつまらないとは思っていない。安定するように仕向けたのは、他ならぬ自分自身なのだから。
 
「時刻は7時45分になりました。変わって天気──」
 
食べ終わる時間も昨日と同じ、これから5分後には部屋を出る。
テレビのリモコンに手を伸ばし、スイッチを──
 
('A`)「……ん?」
 
テレビの画面に波紋が走った。
波紋は徐々に広がり、画面の日本列島がほぼ緑一色の何かに変わる。
テレビの故障かと思った矢先、何かがするりとテレビから飛び出してきた。
 
川д川「あなたは呪われました。これから13日後に死にます」
 
('A`)「……あ、そう」
 
こうして僕は死ぬ事が決まった。
 
 
  − ('A`)みれんのようです川д川 −
 

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:05:10.75 ID:36PluNRoO
 
('A`)「おはようございます」
 
死ぬ事が決まった僕は、取り敢えずいつも通り会社へ向かった。
いや、朝のそれで少し時間を取られたので、いつもよりは5分程遅れてしまった。
 
もともと多少の余裕を持って通勤しているので、その程度では遅刻のし様もない。
通勤手段も車や電車ではなく自転車だ。
渋滞に強く、ダイヤの乱れの影響も受けない。
 
不況やエコの流行で、今でこそ自転車通勤はは多くなったが、僕は高校時代からの年季の入った乗り手だ。
よっぽどの事でもない限り、時間通りに着けない事はない。
 
('A`)「さてと、まずは……」
 
所持品整理をやっておきたい所だが、流石に就業時間中にやりだすと何事かと周りが訝しむだろう。
元々会社に私物はほとんどないし、それは休み時間で十分だ。
 
それよりも重要なのは、現在の業務の引継ぎだ。
今僕が受け持っている仕事を、他の人から見てわかる様に整理しなければならない。
普段からそうしておけば良かったのだが、忙しさにかまけてつい疎かになる。
インデックスやコメントやら、小まめにつけておくべきだった。
 


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:07:12.27 ID:36PluNRoO
 
('A`)「1週間で終わるかな……」
 
出来れば作りかけをある程度は完成まで近づけておきたい所だが、時間的に厳しいかもしれない。
10日間は見ておくべきか。
 
('A`)「そうすると残りは3日か……」
 
余生を過ごすには短すぎる気もするが、これと言って他にやるべき事もない身の上だ。却って好都合かもしれない。
そう考え直し、目標を10日で出来る所までに設定し直す事にした。
 
川д川「あの……」
 
('A`)「ごめん、今は就業時間中だから、出来ればお昼休みまで待ってくれるかな?」
 
おずおずと話し掛けてきた彼女に、視線をデスクの上のモニターから離さず小声で返答する。
そう厳しいわけでもなく、位置付け的には3流の小さな会社だが、ここで話していると先程立てた計画にズレが生じてしまう。
 
川д川「あ、はい、すみません……」
 
('A`)「ごめんね」
 
申し訳なさそうに謝る彼女に、再度謝罪の言葉をかけ、僕は仕事に没頭する事にした。
 
・・・・
・・・
 


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:10:05.51 ID:36PluNRoO
 
川д川「申し遅れました、私は貞子と申します。以後、お見知りおきを」
 
('A`)「ドクオです。よろしく。と言っても、あと2週間程度だね」
 
昼休み、近くの公園の芝生に座り、持参の弁当を広げて昼食を取る。
いつの間にか彼女、貞子が目の前に立っていたので、隣に座ってもらうよう頼み、お互いに自己紹介をした。
 
川д川「あの……」
 
('A`)「なんだい? 君も食べる?」
 
弁当は僕の手作りだ。
と言っても、朝同様、昨晩の作り置きだ。
さらに言えば、晩ご飯を多めにつくり、それを配分している。
だから、朝昼晩とほぼ同じメニューになっていたりする。
 
川д川「いえ、そうではなく……」
 
残念ながら彼女は食事は食べられないと言う。
悪霊だから、と自分の事を説明した。
 


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:12:03.42 ID:36PluNRoO
 
('A`)「悪霊ね」
 
川д川「はい」
 
彼女の返事に1つ頷き、食事に戻る。
昨日から同じ食事とは言え、自分の好きな物しか入っていない弁当は美味い。
栄養のバランスがどうとかで、苦言を呈する人間もいるが、もうすぐ死ぬのなら気にしなくても良いだろう。
 
そんな楽しい食事を、再び彼女がおずおずと遮る。
 
川д川「あの……」
 
('A`)「ん? やっぱり食べる?」
 
川д川「いえ、そうではなく……」
 
('A`)「うん?」
 
川д川「聞かないのですか? 私の事とか、何で死ぬのかとか」
 
('A`)「ああ……」
 


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:14:17.35 ID:36PluNRoO
 
気にならないと言うのはウソだが、どうせ死ぬのなら気にしても仕方がないというのもある。
 
川д川「少しは疑ったりされないのですか?」
 
そしてあまりに非日常過ぎて、あまりに突飛な話を無条件で信じているのにも理由はある。
 
('A`)「そうだね、まあ、その辺は順を追って話さないと君も納得いかないかな?」
 
まず、彼女が僕の理解の及ばない超常的な存在である事は確かだ。
テレビの中から出て来るのは見たし、あのテレビに細工がされているとか、そんな程度では説明のつかない特異な現象だ。
さらに言えば、彼女自身に僕は触れないし、連れて来たわけでもないのに彼女はいつの間にか会社にいた。
 
僕自身がおかしくなった可能性も考えられるが、それならそれで今取っている仕事の引継ぎ作業も無駄になる事はない。
どちらにしろ、僕は死ぬのだろう。
 
肉体的にか、もしくは社会的にかだ。
 
('A`)「自身を悪霊と称する、そんな超常的な君の言う事だ。信じるしかないんじゃないかな?」
 
僕がそう話を結んでも、彼女はしばらく黙ったままだった。
いささか短絡的とも言える結論だが、間違っているとは思わない。
僕はただ、最善を尽くしたいだけだ。
 


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:17:12.06 ID:36PluNRoO
 
そんな事を考えていると、彼女はまた静かな口調で語り掛けてきた。
 
川д川「……不思議な方ですね」
 
('A`)「何がだい?」
 
川д川「普通は、もっと取り乱して、食って掛かられたり嘆かれたりするんですけどね」
 
彼女が言うには、僕の様な人間は初めてらしい。
僕も彼女の様な人間は、いや、悪霊か、初めてなのでお互い様ではなかろうか。
 
('A`)「自分にとってはの普通は、時に他人にとっての異常だったりするんだよ」
 
川д川「統計上、多分あなたの方が異常ですね」
 
('A`)「……データに基づく上での発言ならば、認めざるを得ないかな」
 
死ぬ前に常々思っていた疑問が解消できたのは幸運な事かもしれない。
僕は他の人と比べてどこかおかしいのではないかという疑問が。
不幸にも、その認識は間違ってなかった様だが。
 


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:19:12.30 ID:36PluNRoO
 
('A`)「さて、続きは就業後ね。これからまた仕事なんだ」
 
川д川「あ、はい、貴重なお時間を割いてしまってすみません」
 
('A`)「いや、中々楽しかったよ。女性と話す機会なんてそうないんだ」
 
そう彼女に笑いかけ、弁当箱を包み立ち上がる。
残念ながら残念な容姿の為、全くと言っていいほどモテない身の上だ。
この会話が楽しかったのは事実だ。
 
全く未練がないと思っていた生活に、新しく未練が出来そうというのも皮肉な話かもしれない。
 
・・・・
・・・
 
('、`*川「え、入ってくれんの?」
 
('A`)「ええ、何なら今すぐにでも」
 
('、`*川「マジ? 助かるわー。書類はあるから、こことここを書くだけよ」
 


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:21:52.88 ID:36PluNRoO
 
就業後、いつもはすげなくかわす保険の勧誘のおばちゃんに、初めて色良い返事した。
その顔を見て咄嗟に思い付いたのだが、死ぬとわかっていて生命保険に入るのは未必の故意に当たるのだろうか。
 
('、`*川「そうそう、そこにね、名前とね……」
 
喜びを露にするおばちゃんに、少々申し訳ない気持ちを抱いた。
昨今の不況で、保険の新規契約件数はかなり減っているらしい。
 
('、`*川「でも、急にどういう風の吹き回し? 前はそんな無駄な物には……って感じだったのに?」
 
('A`)「まあ、なんとなくですよ」
 
流石に無駄ではなく、確実に手に入りそうだからとは言えない。
10日以内には審査は通る様だ。
 
('、`*川「そう? まあ、私はなんでもいいんだけどね。受取人は誰にする? 私?」
 
('A`)「母で……」
 
('、`*川「あら、つれない。……なんて、冗談だけどね。母1人子1人だもんね、大事にしてあげないとね」
 


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:24:57.71 ID:36PluNRoO
 
('A`)「ええ、死ぬまでには孝行しますよ」
 
正確には死んだ後で、それも金銭でと言うのはどうなのだろうか。
当然僕が死んだら悲しむだろうが、そこは割り切ってもらうしかない。
母子家庭の割には、いや、母子家庭だったからか、それ程べったりな間柄ではなかった。
生きるのに精一杯で、触れ合う機会が絶対的に少なかった。
 
それでも、僕の数少ない心残りの1つにはなる存在だ。
こんな物で申し訳ないが、残せるものなら残してあげたいと思う。
 
('、`*川「はい、それでオッケー。審査は問題なく通ると思うから安心してね」
 
('A`)「一応は健康体ですからね」
 
青白く、不健康な顔付きではあるが、ここの所風邪1つ引いていない。
大病も患った事もないし、健康診断に引っかかるような事もなかった。
 
('、`*川「見た目がそれだからねー。あ、そうだ、契約のお礼に今度食事を奢られてあげようか?」
 
('A`)「はは、遠慮しときますよ」
 
上機嫌のおばちゃんの冗談をかわし、帰り支度をして会社を出る。
途中でスーパーに寄って、晩ご飯兼、朝ご飯兼、弁当の食材を仕入れてこなければならない。
 
・・・・
・・・
 


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:27:11.96 ID:36PluNRoO
 
スーパーで買い物を済ませ、家に帰り着く。
食器を洗い、米を洗う。
風呂に入り、食事の準備と、いつも通りをこなす。
 
保険の契約の所為でいつもよりはだいぶ時間は遅れてしまっているが、作業自体はいつも通りだ。
何も変わらない、いつもの事だ。
 
('A`)「……この作業もあと10回ぐらいしか出来ないのか」
 
そう考えるとまた少し未練が湧いた。
どうでもよい、生きる為に仕方なく行っている作業なのだが、いつの間にか少しは愛着が湧いていたらしい。
 
川д川「手馴れたものですね」
 
('A`)「毎日やってるからね」
 
気が付けば少し離れた隣に彼女がいた。
就業中、保険の契約中、買い物中、帰宅中と姿が見えなかったが、悪霊の割には空気を読んでくれる人の様だ。
 


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:29:33.26 ID:36PluNRoO
 
川д川「死にたくなくなりました?」
 
どうやら先程の呟きは聞かれていた様だ。
しかし僕は苦い笑みでそれを否定する。
 
('A`)「いや、流石にこの程度じゃね」
 
今日は適当に肉と野菜を焼いて、適当に味をつけたものとオニオンスープだ。
いつも通り、僕の好みの味だった。
 
・・・・
・・・
 
川д川「死にたくないと思わないのですか?」
 
食事が終わり、食器を片付け、コーヒーを淹れ、一息ついていると彼女が話し掛けてきた。
やはり空気は読んでくれるようだ。
 
('A`)「思ったら、死なずに済むのかな?」
 


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:32:05.92 ID:36PluNRoO
 
川д川「いいえ、その位では無理ですね」
 
彼女は重々しく首を振り、僕の言葉を否定する。
しかし、ただの否定ではなく、多少勿体つけた言い回しをつけた。
彼女の言葉を別角度から解析すると、それ以外のやり方で死なずに済む方法がある様だ。
 
('A`)「だったら思っても仕方がないんじゃないかな?」
 
川д川「そういうのって、そんな簡単に割り切れるものなのですか?」
 
割り切れている僕は、きっと生存本能が欠落しているのだろう。
諦観という持って生まれた資質のお陰かもしれない。
 
人生なんてそんなもんだ。
ひょっとしたらそれが、僕の座右の銘なのかもしれない。
 
('A`)「君はどうしたいんだい?」
 
川д川「私は、あなたを呪い殺したいです」
 


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:34:02.96 ID:36PluNRoO
 
('A`)「なら好都合じゃないか?」
 
川д川「そうですね。でも……」
 
('A`)「でも?」
 
川д川「何だか私が納得がいかないんです」
 
('A`)「何に対してかな?」
 
川д川「あなたに対してです」
 
納得するしないは、個人の自由だ。
事実、僕は彼女の存在に納得している。
 
だが彼女は納得いかないと言う。
 
物凄く不可思議な存在の彼女を僕が納得しているのに、至って平凡な存在の僕を彼女が納得いかないというのも
笑える話かもしれない。
 


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:36:08.07 ID:36PluNRoO
 
('A`)「昼の説明で納得してくれたんじゃないのかな?」
 
川д川「あなたの特殊な考え方に付いては多少は」
 
('A`)「僕はそれが普通だと思ってるんだけどね」
 
しかし、統計には従おうと思う。
僕の考え方の方が特殊らしい事は認めよう。
 
彼女は僕が何故、生に執着しないのか不思議がっている様だ。
 
('A`)「してないわけじゃないさ。でも……」
 
川д川「でも?」
 
('A`)「君という超常の存在が僕を殺すんだろ?」
 
だったら諦めざるを得ない。
僕という何の取り得もない人間が、この状況下を打ち破るビジョンが全く見えて来ないのだから。
 


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:38:04.35 ID:36PluNRoO
 
川д川「がんばれば何とかなるかもしれませんよ?」
 
('A`)「君は僕を殺したいんじゃないのかな?」
 
川д川「ええ、殺したいです」
 
('A`)「だったらいいじゃないか」
 
結局の所、彼女は僕の反応に面食らっていると言うか、物足りなく思っている様だ。
悪霊と呼ばれる彼女だ。少しは恐れ、驚いて欲しかったというのが本音らしい。
 
('A`)「随分とかわいい考え方の悪霊だね」
 
川д川「それをかわいいと解釈できるあなたはやはり特殊ですね」
 
僕は、彼女に驚かなかったわけを説明する事にした。
 
('A`)「そういうホラー映画を前にテレビで見たんだ」
 
川д川「私は作り物ではありませんよ?」
 
('A`)「うん、でも、それでちょっとインパクトを欠いたのは事実なんだ」
 


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:41:05.48 ID:36PluNRoO
 
登場も、言い様も、彼女は虚構の世界では有りがちな存在だ。
そう言うと、彼女は傷付くだろうか?
 
川д川「次からは登場の仕方を変えた方がいいんでしょうか?」
 
('A`)「どうだろう? 君が言う様に僕が特殊なら、今回はたまたまだと割り切ってもいいんじゃないかな」
 
僕の提案に彼女は首を傾げ考える仕草をした。
悪霊というからには、死者の霊、つまり元は人間だったのだろう。
その頃の名残りが、時にそういった仕草で出ている様だ。
 
川д川「少し考えます」
 
('A`)「僕もアイデアを出そうか?」
 
僕の提案を、彼女はやんわりと断ってきた。
僕の独特のセンスがお気に召さなかったらしい。
賢明な判断かもしれない。
 


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:43:16.03 ID:36PluNRoO
 
('A`)「あ、ごめん、観たいテレビがあるんで、今日はこの辺で」
 
僕は彼女との話を打ち切り、テレビのリモコンに手を伸ばす。
テレビはニュースぐらいしか観ないが、唯一毎週欠かさず観ている番組がある。
僕の好きだった作家の遺作をドラマ化したものだ。
 
最初は酷い原作レイプで見れたものじゃなかったが、次第によく研究された独自の解釈を入れ、面白さが増してきた。
これは特殊な僕のみの評価ではなく、世間で評価もそんな風に高まっていった。
残り3回の放送を残し、話は盛り上がって来ている。
 
('A`)「あ、これ、最終回観れないな……」
 
また少し未練が湧いた。
 
川д川「死にたくなくなりましたか?」
 
彼女はいつの間にか少し離れたクッションに座っていた。
どうやら消えずに部屋に残っていたらしい。
 
('A`)「まあ、結末は原作で知ってるからね」
 
濁した回答だが、巷の噂では最終回は原作に忠実になるらしいからウソではない。
見たいか見たくないか聞かれれば、見たいと答えざるを得ないけども。
 


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:45:49.66 ID:36PluNRoO
 
川д川「どんなお話なんですか?」
 
('A`)「悲恋……かな? ベースはミステリなんだけどね」
 
僕は彼女に解説しつつドラマを観た。
原作では悲恋で終わる話だが、主人公の心理描写が素晴らしかった。
好きな物の話をするのがこんなに楽しいということを、久しぶりに思い出した気がする。
 
川д川「来週も観たいと思えました」
 
('A`)「観ればいいさ」
 
川д川「最後まで観れないのは残念ですね」
 
('A`)「僕が死ぬ時に、テレビはこのチャンネルで点けたままにしておくから、君は観るといいよ」
 
僕がそう言うと、彼女は何も言わず、すっと掻き消えた。
また明日、という言葉を残して。
 
僕は明日からの予定を考えつつ、少し早めに寝ることにした。
色々あったが、いつも通りの1日を終えられた気もする。
 
・・・・
・・・
 


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:49:03.44 ID:36PluNRoO
 
翌日、いつも通りの朝をこなし、いつもの仕事をこなし、家に帰る。
その間彼女は、ずっとそばにいた様だ。
空いた時間には話しかけてきたりもしていた。
 
彼女の姿は僕以外には見えていない様だ。
僕が幻覚を見ている可能性は、死ぬまで消えることはないのかもしれない。
 
川д川「何をするんです?」
 
('A`)「掃除。いわゆる、身辺整理ってやつかな?」
 
晩ご飯が終わり、僕は部屋を片付け始めた。
死ぬのなら、部屋は片付けておくべきだろう。
 
川д川「手伝えたらよかったんですけどね」
 
そういって彼女は、小さく腕を振り、テーブルを素通りさせて見せた。
彼女は物に触れない。
その理屈でいくと、床にも地面にも触れられない気がしたが、彼女は浮いているのだと言う。
座ったりしているのはポーズだけの様だ。
 


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:51:12.95 ID:36PluNRoO
 
('A`)「最初のテレビにも触れられなかったの?」
 
川д川「あの時はまだ実体化してませんでしたから、少々今と異なりますね」
 
彼女は電波の中を旅し、僕の部屋に辿り着いたらしい。
初っ端の発言が電波だったのも、頷ける話なのだろうか。
 
しかし、僕が知っている都市伝説とはだいぶ異なる。
もっとも、そのメディア自体が廃れつつあるから、あの都市伝説もいつか消えるのかもしれない。
それに、彼女自体が僕の持つそういった都市伝説、そして悪霊のイメージからは程遠い。
こういったものはもっと狂気を孕んだ物だと勝手にイメージしていたが、彼女はかなり理知的だ。
 
('A`)「まあ、元から手伝ってもらうつもりはなかったから気にしないでよ」
 
そういう提案をされること自体が想定外だ。
彼女は僕を殺したいのではないのだろうか?
僕が彼女の言う、特殊なケースだから少し興味を持たれているのかもしれない。
 
やはり彼女は僕のイメージする悪霊からはだいぶ外れている。
 


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:53:42.77 ID:36PluNRoO
 
('A`)「それにまあ、女性にはあまり見せたくない物も片付けないといけないしね」
 
川д川「収納の隅のやつですか」
 
('A`)「……ですね」
 
時既に遅かったらしい。
しかし彼女は物に触れないのだから、中は見られていないはずだ。
表紙で引かれそうなものだが、それ以上何も言わない所を見ると、そういうものだと割り切られているのかもしれない。
世慣れた悪霊だ。
 
('A`)「じゃあ、片付けますんで」
 
別に断る必要もないが、何となく気まずい空気を払う様に宣言して作業を開始した。
こちらも10日程かけて、のんびり片付けるつもりではあるが、大きい物はどうするべきか。
それ以前に、あまり片付き過ぎているのも不自然だ。
予め死を予期していたと思われかねない。
 
それだと生命保険が降りない可能性がある。
自殺は扱いは確実にNGだ。
 


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:55:32.74 ID:36PluNRoO
 
('A`)「普段から綺麗好きだったと思わせる程度に止めておくか……」
 
最悪、母親の手を煩わせることになるかもしれないが、その辺は保険金もあるし大丈夫だろう。
自然死に見える死に方なら、何かの時の為に書いていたという形で遺書を残してもいいかもしれない。
 
('A`)「というわけで、僕はどんな死に方をするのかな?」
 
川д川「ようやくそれを聞きましたね」
 
普通は真っ先に聞かれる質問の1つだと彼女は言う。
しかし、僕がそれを気にするに至った経緯を説明すると、やはり特殊だと呆れられた。
それを聞く時は皆、目を血走らせた必死の形相だったらしい。
 
('A`)「一応、表情は変わるんですね」
 
川д川「ええ、悪霊になってからは初めてかもしれませんね」
 
僕の回答に、彼女はほんのわずか眉尻を下げた。
苦笑している様にも見えたが、それは多分僕の気の所為だろう。
次の瞬間には彼女はまた無表情に戻っていた。
 


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 22:58:57.97 ID:36PluNRoO
 
そしてそのまま、また明日、と昨日と同じく掻き消えてしまった。
 
('A`)「あ、死に方……」
 
無人の部屋に、僕の言葉が空しく響いた。
 
・・・・
・・・
  _
( ゚∀゚)「なんスか、突然?」
 
次の日も、その次の日も同じ様ないつもが続き、彼女と話す内容も割とどうでもいい話ばかりだった。
そして9日目、やっておきたかった大体の仕事が片付いた僕は、後輩のジョルジュに声を掛けた。
 
('A`)「いや、確認だよ。僕のファイルが入ってるフォルダはここだからね。解説はこのテキスト」
 
僕が死んだら、同じ部署で比較的近い仕事をしている彼が僕の仕事を引き継ぐ事になるだろう。
今の内に伝えられる事は伝えておきたい。
今更という気もするけど、僕の性格上、職場ですら余りフランクに話せなかった。
  _
( ゚∀゚)「ああ、はいはい、定時報告っスね。……真面目っスね、先輩は」
 
仕事上、定期的に進行状況等報告は必要になるわけで、こうやって成果物の中間報告は部署内で行う義務がある。
しかしそういったことを管理する人間すらいない小さな会社は、最終的な結果だけを報告しているのが現状だ。


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:01:21.95 ID:36PluNRoO
 
僕も、中間の集荷こそすれど、今まではこうやって報告する事はなかった。
  _
( ゚∀゚)「相変わらず見易い事で。いいんじゃないっスか、これで?」
 
('A`)「そうかい? わからないことがあったら早めに聞いて欲しい」
  _
( ゚∀゚)「いや、大丈夫っスよ。先輩の文章はわかりやすいっスから、読めばわかりますんで」
 
そうジョルジュは言ったが、見た所面倒臭いから早めに切り上げたいという様子でもないから安心した。
恐らく言葉通り、ちゃんと理解してくれたのだろう。
これで僕が死んでも、今の仕事は何とかなる。
  _
( ゚∀゚)「ソースの修正指摘とか、いつもありがとうございます」
 
そんな事を考えていたら、ジョルジュが突然頭を下げた。
僕は急な事に反応出来ず、ただじっとジョルジュを見詰めるしか出来なかった。
  _
( ゚∀゚)「あ、いや、何かいい機会なんで、今までその、こっそり修正してもらったりの礼も言っとこうかなと」
 
('A`)「……あれ、僕だと気付いてたの?」
  _
( ゚∀゚)「ええ、まあ。チーフじゃああはいきませんから」
 


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:03:06.37 ID:36PluNRoO
 
ジョルジュが言う様に、僕は時々先輩としてジョルジュの成果物を上に報告する際に、簡単なものは修正、
手間のかかるものは指摘してジョルジュに返していた。
上から返却されて来たという形で。
 
('A`)「ごめんね、勝手な事して」
  _
( ゚∀゚)「何で謝るんスか。マジで感謝してんスよ?」
 
これまで大きな失敗もなくやってこれたのは先輩のお陰だと、ジョルジュは言ってくれた。
僕が口下手でそういうのは苦手そうだから、今までは心の中で感謝していたけど、今日は珍しく僕の方から
話し掛けてきたので、いい機会だからと礼を言う事にしたらしい。
 
('A`)「そっか。何か逆に気を使わせてたみたいだね」
  _
( ゚∀゚)「だから、感謝してるのはこっちなんですって」
 
ジョルジュは苦笑しながらまた礼を述べた。
そこにウソはなく、本心からの言葉だと容易に感じ取る事が出来た。
 


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:05:17.69 ID:36PluNRoO
 
帰り際にジョルジュは、今度飲みに行きましょうと誘ってくれた。
僕は、無言で手を挙げて答えた。
はっきりわかる肯定の返事を出来ない事が申し訳なく思う。
 
また少し未練が湧いた。
 
・・・・
・・・
 
翌日、昼に社長室へ足を運んだ。
明日から1週間、有給を取る事になっているのでその報告だ。
僕は会社に入って初めて有給を取った。
 
( ・∀・)「で、本当の理由はなんだね?」
 
('A`)「リフレッシュ休暇ですよ」
 
有給は制度として存在するのだから、取る事自体は問題がない。
でも、休んだからといって、その分の自分の仕事を誰かがやってくれるわけではないのだ。
仕事を後回しにするだけの有給を取る人間はこの会社では皆無だ。
 
冠婚葬祭など、やむを得ぬ事情がある場合のみ取っている。
 


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:08:06.19 ID:36PluNRoO
 
( ・∀・)「……ふむ、話したくないか」
 
流石に休む理由が死ぬからだとは言えない。
死ぬ為に身を隠す猫みたいだと場違いな感想も抱いたが、正直に話した所で頭がおかしくなったとしか思われないだろう。
 
1週間も休む理由がこれと言って思い付かなかった僕は、何とも適当過ぎる理由で休みを申請した。
先にも述べた様に制度として存在する以上、有給が余りまくっている僕の申請が通らないはずはない。
理由が何であれだ。
 
( ・∀・)「まあ、いいさ。ゆっくり養生してくるんだな」
 
僕は社長の部屋を辞する事にした。
もっと問い詰められるかと思ったが、意外にあっさりしたものだった。
 
( ・∀・)「鬱田君」
 
('A`)「はい」
 
( ・∀・)「困った事があったら、何でも相談してくれ」
 
('A`)「……はい」
 


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:09:08.02 ID:36PluNRoO
 
( ・∀・)「君はうちの大切な社員なんだ」
 
('A`)「はい」
 
( ・∀・)「それだけだよ。じゃあ、1週間後にね」
 
('A`)「はい。……ありがとうございました、社長」
 
・・・・
・・・
 


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:10:58.43 ID:36PluNRoO
 
川д川「どうされました?」
 
('A`)「うん……」
 
その日の帰宅後、食事の後、ぼうっとしている僕に彼女が話し掛けてきた。
ずっと考え事をしていた僕は、彼女の質問の解答としては相応しくない返事をしていた。
 
('A`)「あ、ごめん、ちょっとね」
 
そのことに気付いた僕は、慌てて言葉を繕った。
彼女が来てからの今日までの事考えていたと正直に話す。
 
('A`)「僕は思ったより周りを見てなかったんだなって」
 
社長のあの反応は、正直言って全く想定していなかった。
そんな人情肌だとは知らなかったし、あんな言葉をかけられるとは全く思っていなかった。
 
そして就業後、ジョルジュは元より他の社員も色々と心配して声を掛けてくれた。
そのどれもが、上辺だけの言葉ではないと僕には思えてしまった。
僕がこれまでどんな就業態度で、どんな仕事をしていたか、皆はちゃんと見てくれていた。
いつの間にか僕は、仕事の上では信頼を得ていたらしい事を初めて気付かされた。
 
僕はまた少し未練が湧いた。
 



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:14:16.15 ID:36PluNRoO
 
川д川「死にたくなくなりましたか?」
 
彼女はまた、目的と相反する言葉を僕に投げかける。
宣告された日も含めて13日という事らしいから、僕の命の期限はあと3日だ。
足掻くのなら、もうあまり猶予はない。
 
でも……
 
('A`)「いや、むしろ安心して死ねそうだよ」
 
それもまた、ウソではない。
 
・・・・
・・・
 
川д川「何もされないんですか?」
 
('A`)「してるじゃないか?」
 
そう言って僕は読みかけの文庫本を持ち上げて彼女に見せた。
 


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:16:18.65 ID:36PluNRoO
 
明けて翌日、僕はまだ読んでなかった文庫本を片付ける作業に入った。
これも未練といえば未練だ。
全て読んでしまうことに決めた。
 
彼女が何処へも出かけないのか聞いてくるが、僕にはこれと言って出かける当てもない。
最後に母親に会っておくべきかとも迷ったが、色々考慮した結果、会わない事に決めた。
前回実家に帰った時は結構長く話せたので、今はあまり話す事もない。
想い出は美しいままにしておこう。
 
川д川「悪霊の存在を信じているのなら、それを払う存在も信じてたりしないんですか?」
 
('A`)「それは盲点だったな」
 
僕は文庫本を目で追いながら答える。
彼女はまた、呆れているのだろうか。
 
('A`)「でも、僕と君が並んでお払いに行ったら、僕の方がお払いされそうな見た目だよね」
 
川д川「そこは否定しておくべきですか?」
 
悪霊に気を使われるとは思わなかった。
やはりその位、僕の外見は残念な姿らしい。
 


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:18:50.83 ID:36PluNRoO
 
('A`)「君は僕が死んだらどうするのかな?」
 
川д川「また別の人を呪い殺します」
 
('A`)「僕で終わりには出来ないかな?」
 
川д川「出来ません。出来ませんが……」
 
('A`)「が?」
 
川д川「あなたの前で終わりには出来ますよ」
 
('A`)「君は僕を殺したいんじゃないのかな?」
 
何度目かわからない同じ質問を彼女に聞いた。
彼女は何も言わず、しかし、掻き消えもしなかった。
 
('A`)「君が成仏すれば、ってパターンかな?」
 
ベタな都市伝説に当てはめれば、大体その辺りが相場だ。
多分、それで間違いはないだろう。
 


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:21:04.50 ID:36PluNRoO
 
でも、僕は彼女を成仏させるつもりはない。
僕が死ぬのを止める気もない。
 
('A`)「これらを読み終わったら考えるよ……」
 
僕は文庫本に集中する事にした。
彼女は何も言わず、ただそこにいた。
 
・・・・
・・・
 
それから丸2日かけて、僕は室内の全ての本を読み終えた。
積んでいた本は意外に多く、思った以上に時間を取られた。
多くの未練が消え、いくつかの未練が出来た。
全て完結してから本を買うよう習慣付けていれば良かったかもしれない。
 
その日の深夜、まどろみの中、枕元に誰かが立つ気配を感じた。
誰かと言ってもこの部屋には僕以外には彼女しかいない。
 
川д川「明日、あなたは死にます」
 
('A`)「そうだね」
 


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:22:41.38 ID:36PluNRoO
 
川д川「結局何もされなかったんですね」
 
('A`)「したさ」
 
仕事を片付け、生命保険に入り、部屋を片付け、文庫本を読み終えた。
出来るだけ多くの未練がなくなる様に努力はしたつもりだ。
 
その過程で別の未練も数多く見付けてしまったのは、全くの計算違いだったけども。
 
川д川「だったら、生きてその心残りを果たすべきではないですか?」
 
('A`)「出来ないよ。君が僕を殺すんだから」
 
何故彼女は、僕に死ぬ事を躊躇わせようとするのだろうか?
僕が死の影に怯えない事が不満なのだろうか。
 
('A`)「死ぬのが怖くないわけじゃないよ」
 
川д川「生きる方が、もっと怖いのですか?」
 
('A`)「……正解。怖いと言うよりは、キツいとか、面倒とかの方がしっくり来るけどね」
 
彼女はやはり賢い。
悪霊にしておくのがもったいない位だ。
 


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:25:49.17 ID:36PluNRoO
 
川д川「であれば、あなたは死なない方がより苦しむことになるのですかね?」
 
('A`)「それもどうだろね?」
 
僕は、今死んでも構わないくらいどうでもいい人間だと思っていた。
でも、本当は生きててもいいんじゃないかと思えるほどには未練もある事に気付けた。
 
('A`)「多分、フィフティー・フィフティー、どっちでもいいんだ」
 
川д川「もしそうなら、あなたは生きる道を選ぶべきではないのですか?」
 
('A`)「君は僕を殺したいんじゃないのかな?」
 
川д川「死にたくなくなりましたか?」
 
何度言ったか、何度聞いたか覚えていない言葉を、僕と彼女は同時に発した。
 
('A`)「本当を言うとね、この2週間あまり、僕はずっと楽しかった」
 
('A`)「明確にやるべき事があったし、何より……」
 
川д川「……」
 


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:27:41.81 ID:36PluNRoO
 
('A`)「君と話すことが楽しかった」
 
('A`)「生と死、今の所、判断条件はフィフティー・フィフティーだけど、これには君の存在を加味していない」
 
川д川「私の……存在?」
 
('A`)「僕が生きる道を選んだら、君は消えるんだろう?」
 
川д川「ええ」
 
('A`)「僕が死ぬ道を選んだら、僕は消え、君の事も考えなくて済む」
 
だから、死ぬ道を選ぶ。
生きていても、君と話すことは出来なくなるのだから。
 
川д川「……物凄く、無茶苦茶な気がします」
 
('A`)「僕は特殊なケースなんだろ?」
 
僕は僕なりの精一杯の笑顔で彼女に答えた。
彼女も少し、微笑んでくれた気がした。
 


83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:30:15.63 ID:36PluNRoO
 
川ー川「ありがとう」
 
その言葉を残して、彼女はすっと消えてしまった。
随分とあっさりしたものだったが、それが彼女とのお別れなんだと僕は即座に理解した。
最後まで、悪霊らしくない人だった。
 
僕は結局、彼女に生かされてしまった様だ。
 
('A`)「……そのタイミングで成仏されると、僕がフラレたみたいだよね」
 
それがきっと事実なのだろう。
僕はやはり悪霊にもフラレるような残念な外見なのだ。
 
・・・・
・・・
 


85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:33:32.33 ID:36PluNRoO
 
こうして僕は、僕のいつもに戻ってしまった。
残された物は、2週間前と何ら変わる事のない僕の生活だ。
 
変わった物と言えば、毎月生命保険料が徴収されるようになった事と、職場での会話が増えた事ぐらいだ。
処分した日用品やらもまた買わなければならない。
 
('A`)「結局、彼女は何だったんだろうな」
 
晩ご飯兼、朝ご飯兼、弁当を作りながら、僕は考える。
彼女の言葉を借りれば、彼女は悪霊だ。超常の存在であった事は疑い様がない。
僕が作った幻覚の線もあるが、僕は自分がそれ程病んでいるとは思いたくないので、その線は捨てる事にした。
 
しかし、彼女は悪霊らしい事は何1つしていない。
僕に死の宣告をし、勝手に消えて逝った。
 
彼女が消えた理由も僕はわからない。
こういった話の典型を例に、満足したので成仏したのだと考えるしかない。
何に満足したのか、僕には当然わかり様もない。
 
あのドラマの最終回は巷の予想とは少し外れていて、原作とは違い悲恋が成就する結末だった。
僕はこの結末を彼女と一緒に見たかった。
 
('A`)「……見れんかった事もまた未練」
 
我ながらつまらない洒落だ。
 


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:37:09.34 ID:36PluNRoO
 
彼女が僕に残した物は大きかった。
 
これは恋だったと言うべきなのだろうか?
 
僕は確かに彼女に惹かれていた。
彼女と話す時間が、とても心地良かった。
 
経験不足の僕には、それが恋だったのかはわからない。
どちらにしろ、もう終わった事だ。
 
('A`)「未恋であり、未練」
 
恋には届かなかったけれど、まだ終わってはいない。
僕はこの未練を、そう位置付けた。
 
未恋という未練が、僕をいつもに止めているのだ。
 
 
 
  − ('A`)みれんのようです川д川 終 −



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/17(日) 23:44:37.76 ID:36PluNRoO

あとがき

元ネタは当然リングとか貞子ネタですが、違い過ぎて無いようなもんですね。

あとがきに書くような事も大してない、何か歪んだ思考をさらけ出しただけな気がします。

読んで頂いて感謝です。
支援等、ありがとうございました。


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