从 ゚∀从サンライズ・ロマンチックのようです
1 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:11:18.39 ID:4JGF8iCo0
夜中にこんな、夢を見た。

まばらに草の生えた荒れ野で知らない女と二人、崩れた崖の下を覗き込んでる。
底の方には青っぽい暗闇と、無数の星屑が広がって流れている。

そろそろ行かないと。

腰を上げようとした所で、女がそれを引き止める。

「外にあるのは辛い事ばかりよ。
 あなたの周りにいる人全員が、あなたを傷つけようと狙っているわ」

確かに辛い事だ。
しかしそれは、当たり前の事のような気もするんだ。

オレは崖のふちに立つと、顔の見えない女に手を振って、地の底に広がる快晴の夜空に飛び込む。


2 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:12:05.77 ID:4JGF8iCo0







サンライズ・ロマンチックのようです









5 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:14:42.51 ID:4JGF8iCo0
从 ゚∀从 フー

夢から覚めてもやっぱり良い天気だった。
目も眩む青色の空の端っこに小さな雲がぷかりと浮かんでいるだけ。
鉄塔を支える太い柱が、地面に濃い影を落としている。

ガガッ

 『ラジエータ異常ありません!』

 『外壁チェック完了しました』

 『固定ボルトの取り外し作業、終わりましたモナー!』

 『OK、スタッフは30分以内に撤収…
 打ち上げまで1時間と45分前。
 予定通り、11時になったらカウントダウンを開始します』ガガッ

ポケットの中のごついトランシーバーから、時々雑音と一緒に声が漏れてきた。
センターの連中が忙しなく指示を飛ばし合っている。
いつもウツダシノウを連発している部下も張り切っていて、声に妙な力が入っているのが分かる。


7 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:15:34.42 ID:4JGF8iCo0
ハンディカメラの画面に発射台の様子が映っていた。
真っ白な外壁の日本製シャトル、赤い達筆な文字で「ひので」と記してある。
地味で朴訥な鉄骨の土台。
周囲に小さく車が数台。
ここからだとよく見えないが、数時間も前から打ち上げに向けて細々とした作業が続いている。
カメラの取り付けや、ボケた映像の調節をしている間に結構な時間が流れてしまった。

ガガッ

 『ハイン、見えてるか?』

从 ゚∀从y‐ ミエテルヨー

 『よし、通信もバッチリだな』

 『主任ー…本当にこっちで点呼取っちゃっていいんすか?』

从 ゚∀从y‐ イイヨー

 『うわぁ…緊張してきた…シニタイ…』


9 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:17:55.12 ID:4JGF8iCo0
从 ゚∀从y‐ イ`

 『今からそっちに向かうからな。カメラ大丈夫か?
 録画ボタン、押し忘れんなよ?』ガガッ

从 -∀从y‐ アイヨー

時計とカメラのバッテリを確認してRECモードに切り替える。

手すりに肘を突いて寄りかかり、鉄塔の下に広がる景色を眺めた。
焼け付くような眩しさだ。
地平の向こうに霞んだ山。
平地のド真ん中には発射台。
周りは青草。風に吹かれるたびに、波のように揺れて光っている。
細く伸びる灰色の車道。
つながる先は国道か、勤め始めて5年目の宇宙開発センターへのどちらかだ。

立入禁止区域ギリギリの場所で絶景なのだが、万一墜落してきたらヤバイ位置だとも思う。


10 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:19:57.71 ID:4JGF8iCo0
鉄塔の上には幽霊がいる。
って話を、聞いた覚えがある。





   鉄塔の上には幽霊がいるらしい

  マジで?

   あぁ、うじゃうじゃいると

  なんでそんなトコ登りたがるんかねぇ?

   さぁー…やっぱアレじゃね?
   天国が近いんだよ

  探してるようでs

   いやいやいや!ヤバイネタはやめとけ!!


11 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:22:28.28 ID:4JGF8iCo0
20分近く経った。
遠くの方で何かきらめく。撤収が完了した車だ。
光を返しながら、ちまちまと移動を始めた。

トランシーバーからは雑音ばかりが漏れてくる。
退屈を持て余し、タバコに火をつけた。


从 -∀从y‐~~



13 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:24:59.71 ID:4JGF8iCo0

   あの歳でそんな…

  急病で…心不全だったって…

   連れ合いはどうしてる?確か…

  ほら、あそこ…

   もうずっと寝てないんだって…

  ショックだろ…あんなに、元気だったのに



14 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:27:02.86 ID:4JGF8iCo0

  …どう言う事だよ

   …

  疲れてるだけだって…カゼみたいなもんだって、言ってたじゃないか

   …

  すぐに治るって、言ってたのに
  何でだよ…

   …ねぇよ


  何でだよ!?

   わかんねぇよ!!

  …なんで

   …


15 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:29:58.44 ID:4JGF8iCo0
(´<_` )ノシ 「ちょりーす」

从 ゚∀从 オセーヨ

(´<_` ) 「わり、大分遅れた。急いだつもりだったんだが」

从 ゚∀从y‐ イル?

ノ''(´<_` ) 「いらね」

从 -∀从y‐ チェー

ノ'''(´<_` ) 「俺は吸わないんだ」

弟者とは部署も違うので、まともに顔を合わせたのは久々だ。
煙草嫌いな所もうっかり忘れていた。
手元にはトランシーバーと、鉄塔の下に生えていたねこじゃらしが一本。
遠足のお供に雑草を連れ歩くタイプか。そんなところは実にアイツによく似ている。

ノ'''(´<_` ) 「現場、状況は?」

18 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:31:29.84 ID:4JGF8iCo0
ガガッ

 『1台撤収完了してません』

(´<_` ) 「40秒で支度しな」

 『把握』ガガッ


〜テレレレー テレレレンレーレレー


从 ゚∀从 ?

白(´<_` ) 「あぁ、悪い。俺」ピッ

(´<_` 白 「はい弟者。
       おぉ、デレか。ハイハイやってますよ。うん」

从 ゚∀从oO( .+'*ζ(゚ー゚*ζ )

19 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:33:11.71 ID:4JGF8iCo0
(´<_` 白 「あぁ、ちゃんと帰るよ。大丈夫、間に合う間に合う。
       そんな焦んなって。明後日だろ?
       産まれる時は、ちゃんと側にいるからさ」

从*゚∀从

(´<_` 白 「大体予定日とか何とか気にする事無ぇって。
       三日ちょっと早くなっただけだ…え?妹者?
       うん、うん。
       …別にいいとは思うが…。
       分かった。あぁ」

白(´<_` ) 「妹者だ。かわってくれとさ」

从*゚∀从9m ヒューヒュー

白(´<_`*) 「なんだよ別に恥ずかしくねぇしなんでもないよ早くかわれよ!」


从白゚∀从 モスモスー

 『ハインちゃん!元気?久しぶりだねぇ』

20 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:35:10.47 ID:4JGF8iCo0
从白゚∀从 ゲンキー

 『今イモちゃんにかわるよ。あっそれとね、弟者君に伝言。
 子供の名前考えといて、って。お願いできる?』

从白-∀从 オケーイ

 『ありがと!今度会うときは三人で…』


ガガッ

 『撤収完了。5分後にセンター前着きます』

 ガッ『クルー点呼確認しましたぁぁぁぁ!!!!』

(´<_` ) 「素晴らしい動きだ…といいたいところだが予定より67秒遅れてるな。急げ急げぃ」

 『すんません!出際に車がエンスト起こしちゃって!』

 『アホー!!何やってんのこんな時に!』ガガッ

21 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:38:05.87 ID:4JGF8iCo0
从白゚∀从 ウンウン

从白-∀从 ソーカソーカ


(´<_` ) 「ん?もういいのか?」

从 ゚∀从白 オウ

白(´<_` ) 「妹者、なんだって?」

从*゚∀从 パ・パw

(´<_`;) 「ぐっ!
      デレだなぁアンニャロウ…」

从*゚∀从9m ナ・マ・エw

(´<_`;) 「わーってるよ、それはもういい!」


24 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:43:53.46 ID:4JGF8iCo0

从*゚∀从y‐~~

ノ'''(´<_` ) 「…大体1時間前、か。あとちょっとだな」

点けたばかりのタバコの煙が、ゆるやかに鼻先をくすぐる。
風上に立つ弟者は、落ち着かない様子のまま、ねこじゃらしをくるくる回している。

ノ'''(´<_` ) 「半年…いや、5年か。長かったような短かかったような。
        思えば遠くに来たもんだ」

从 ゚∀从y‐~~

ノ'''(´<_` ) 「センター勤務の一番最初にこの仕事だもんなぁ。
        お前らなんか打ち込みすぎでカッツカツだったよな」

从 ゚∀从y‐~~ ソウカー?

ノ'''(´<_` ) 「そうだよ。あっという間に主任で、あっという間に仕事が増えてって」

25 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:45:27.05 ID:4JGF8iCo0
ノ'''( <_ ) 「挙句の果てにぶっ倒れるとかさ…。

        ばかばかしくってやってられなかったぜ、
        あいつの葬式するなんて、信じられなかったもんな」

从 ゚∀从y‐~~


ノ'''( <_ ) 「ま、立ち直れるものなんだな、人間ってやつは。
       呆れたもんだ」


27 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:47:36.46 ID:4JGF8iCo0
ノ'''(´<_` ) 「なんだかんだで、とりあえずひと区切りだ。
        アレが帰ってきてからがまた大変だと思うけども」

ねこじゃらしのふさふさが、シャトルの機体を指した。

29 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:49:52.76 ID:4JGF8iCo0

   ハインちゃん、久しぶりじゃのう
   デレちゃんじゃないけども…元気だったかの?
   ちゃんと、眠れておるか?
   休み休みやれておるか?
   ん、わらわは平気じゃよ!ただの付き添いじゃ
   デレちゃん一人では心細かろうし
   むふふふ、ちっちゃい兄上にもなぁ
   もし戻れなかったら見届け人は妹者になるぞって言ってあるのじゃ
   あれで愛妻家じゃからのぅ、そうなると悔しかろうし
   必ず駆けつけてくれるじゃろ…

   今日、電話があったら色々伝えるように父者から言われたのじゃ
   わらわにはの、よう、分からない話なんじゃが…




   ここからスペースシャトル、見えるかのう…?



30 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:51:25.88 ID:4JGF8iCo0
ガガッ

 『40分前です…皆そろそろ決心はついたかな?
 小便は済ませたか? 神様にお祈りは?
 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする準備はOK?』

 ガッ『なんかそう言われれば小便がまだだぁぁぁぁ!!!!
   トイレ行きたい!!!!!』

 『えぇー…』

(´<_` ) 「宇宙ですればいいと思うよ」

 『そんなぁぁぁぁ!!!!!』

(´<_` ) 「先に行っておかなかったのが悪い。
      今からスーツも脱げんし、予定通りにいけばもう少しの辛抱だ、我慢せい」

从 ゚∀从y‐~~ ゴシューショー

 『は、把握ぅぅぅぅ!!!!』ガガッ

31 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:54:15.52 ID:4JGF8iCo0
ノ'''(´<_` ) 「…イベントが始まる前は便所に行っとくっての、最近の学校では教えてないのかねぇ」

从 -∀从y‐~~ サーナー

ノ'''(´<_` ) 「休暇取るだろう?
        何をするか決めたか?」

从 ゚∀从y‐

从 -∀从y‐




          決めたか?

33 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 17:58:12.72 ID:4JGF8iCo0

   ハインさん、
   出来れば、兄者のことは早く忘れてやってください
   あの子はあなたを、幸せに出来なかった男です

   あなたはまだ若い
   いくらでもやり直しがきく

   どうかあの子に縛られず
   未来のある、輝かしい人生を
   選んで欲しいのです

  何故
  そんな風に言えるんですか
  あいつは

   私はあの子の父親です

   あの子を愛しているからこそ
   あなたには不幸になって欲しくない

  けどオレは


34 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:00:39.06 ID:4JGF8iCo0
ノ'''(´<_` ) 「伝言じゃないがな、持ってきたぞ」

从 ゚∀从y‐ ?

ノ'''(´<_` ) 「お前の預かり物。打ち上げの日程が決まった時に父者から寄越された。
        正確に言えば父者から母者、姉者、デレを経由して
        最終的に俺、という謎の行程をたどっているが」

从 ゚∀从y‐ ソカ

ノ'''(´<_` ) 「約束だからな」

从 ゚∀从y‐~~

38 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:05:16.13 ID:4JGF8iCo0
  おい兄者、勉強教えてくんね?

   えー?何?今日から?

  今からだよバーカ。お前頭いーじゃん

   そりゃあ頭だけなら弟者よりいいが…どういう風の吹き回しだ?
   つーかお前ヤンキーじゃん、今からやって間に合うのかねぇ

  ケチい事いってんじゃねー、行きたいトコあるんだよ
  障害学習って言葉あんだろ?

   ちょ、字…
   いや、それでいいならそれにしてもいいんけど…

  どの道もう反抗する相手もいねーしなぁ、暇で暇でしょうがねぇの、ははは
  いいだろ?

   うん…


当時は全く知らなかったけれど、アイツはNASAに勤めていたうちの両親に憧れていたらしい。

40 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:07:48.02 ID:4JGF8iCo0
  なぁ、兄者
  オレさー今まで、さ
  何てバカな事してたんだろ

   うん。
   まぁいいんじゃね?
   馬鹿だって分かったんなら


      ( ´_ゝ`)


   これから頑張れば、全然大丈夫だろ




高校に上がったばかりのあの頃は、まったく物知らずな、カルシウムの足りないガキでしかなかった。
だからそれっぽい事を言っただけの同い年のガキを、馬鹿みたく尊敬したのだってカルシウム不足が原因だ。
オレのせいじゃない。

41 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:09:38.64 ID:4JGF8iCo0

   まぁ見てろよ、お前ごときノータリンでも俺の手にかかればすぐに優等生さ!
   なんせお脳のつくりが違ヒデブゥ

  あー、ワリィ、あまりにも腹立ったもんだから


从*-∀从y‐ ククッ

ノ'''(´<_` ) 「このタイミングで笑うのは止せ。
        凄くなにか企んでるように見えます」

从 ゚∀从y‐ サーセン

ガガッ

 『発射35分前です』

火の無いタバコをくわえて、地面を見下ろす。
クラッとくる高さだ。落ちたら絶対タダじゃすまない。
鉄塔の影では、ねこじゃらしが揺れていた。

42 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:12:57.51 ID:4JGF8iCo0

  子供の頃から空を飛ぶのが夢だったんだよなー

   "で、今はこんな仕事をしています。
   人生って不思議ね"?

  ミル姉乙。つーかメチャクチャ懐かしいネタだな

   そんな気分にもなるわ。弟者の奴がさっき漏電見つけてよぉ

  ゲェ、マジ?ナイスタイミン

   あいつも悲鳴を上げてたよ…せめてタバコ吸い終わるまで待っててくれねぇかな
   あ"ぁぁ、太陽のバカヤロー!世界が紫色に見えてきた

  …なー兄者。思うんだけどさ、紫外線って日に日にパワーアップしてね?

   あぁ、暴力レベルだよな。オゾン層の逆襲

  人類総皮膚病計画っていう米国の陰謀だったりして

   あるあ…ったら逆に怖いわwwww

43 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:16:23.59 ID:4JGF8iCo0
  ですよねーwwwww
  な、来週うちに帰れるな

   やっとだよな。どんくらい帰ってなかったっけか
   知ってるか?俺弟者の嫁さんの顔まだちゃんと見てないんだぜ

  ああデレ?メッチャかわいーぜ、惚れんなよお前

   惚れない惚れない、弟の嫁弟の嫁

  何したい?

   そうだな…白衣以外のものを着る

  あははは!それあるー!

   なっ?なっ?あるだろ!

  あとさ、きちんとした飯食いたくね?外食でも弁当でもないやつ

   それも魅力的だがリバースしそうだなぁ…
   うん、とりあえずは即寝だよな。何は無くともシーツ洗って


45 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:19:45.05 ID:4JGF8iCo0
  そうだなー掃除機かけてなー

   ハハハ




家には帰れなかった。


兄者は数時間後に倒れて、病院に担ぎ込まれた。
過労だった。当然だ。

48 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:22:17.14 ID:4JGF8iCo0
その時はそんなに顔色も悪くなくて意識もしっかりしていたから、騒ぎが大袈裟になりすぎていただけかとすっかり安心してしまった。
駆けつけて損した、なんて憎まれ口まで叩いて。

1週間の入院期間中、見舞いに行けたのは2回だけだ。
病院食の愚痴が話題に上り、帰ったら何をしたいか、という話題が自然と、どんな飯を食いたいか、になっていた。
それから仕事の報告。アイツは特にプロジェクトの事や、センターの皆の事をあれこれ気にしていた。

後は、別になんでもない話とか。
出来れば毎日何度でも、そんな話をしたかった。




从 ゚∀从y‐

ノ'''(´<_` )

弟者はねこじゃらしを手元で弄びながらトランシーバーに声をかけている。
たまに吹いて来る風がふさふさをもてあそび、カメラの端に黄色い穂が当たった。

49 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:24:53.00 ID:4JGF8iCo0

カメラといえば、実家の荷物を整理した時に出てきた古いビデオテープ。
ぶつぶつ途切れる汚い画面に、子供の頃のオレと死んだ母親が映っていた。
大方死んだ父親が撮影したものだ。
ビデオデッキの中で、半端に再生されたままの状態で眠っていた。

仲の良かった2人は、仲良くアメリカから帰ってくる途中で墜落事故にあって、仲良くそのままになってしまった。

グレた娘の可愛かった頃を、何を思って見ていたのだろう。


51 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:28:36.61 ID:4JGF8iCo0




兄者にとってのオレというのは。
一体何だったのかと。
今も考えている。





52 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:29:42.41 ID:4JGF8iCo0
ガガッ

 『最終気象チェック完了、OK出ました』

 『トイレ行きたいんですがぁぁぁぁ!!!!
 行けないとなると余計行きたくなるんだぁぁぁぁ!!!!
 どうすればいいんだぁぁぁぁ!!!!』

 『どうでもいいよ!!』

 『宇宙でしろモナ!』

(´<_` ) 「我慢だ我慢」

 『そんなぁぁぁぁ!!!!!』ガガッ

53 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:32:53.14 ID:4JGF8iCo0

 おーい、来たぞー

 飲みもん買ってきたぞー

 兄者?

 寝てんのか?

 飲まないの?

 なぁ…


55 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:34:37.06 ID:4JGF8iCo0
2度目の見舞いの日。

仕事明けで重たい頭を抱えて病室に行くと、兄者はまるで半分寝てるように、うつらうつらしていた。
話し掛けてもぼーっとしたまま、たまに少し笑うだけ。
ベッド脇に腰掛けて途中まで一人で喋っていたが、しばらくするとつられて瞼が重くなってきて、傍らで寝てしまった。

時間にして大体1時間半。
妙に長い夢を見たような気がする。

目を開けたときには、もう兄者は死んでいた。

56 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:36:00.75 ID:4JGF8iCo0
最初は息をしていない事にも全然気がつかなくて、眠っているだけかと思った。
指先に触るとびっくりする程冷たくて、呼んでも叩いても反応が無くて、それから後の記憶が無い。
ナースコールを連打して叫んでいたらしい。

葬式ともなると、これがどうやってやり過ごしたんだか全然覚えていない。

断片的に思い出せる事といえば周りの人たちの顔。
姉者にすがって泣いてる妹者とか、憔悴しきった弟者が車を運転しているところとか、頭を下げてるお父さんとお母さんとか。

センターの連中も来て、色々言ってくれていたはずだ。思い出せない事が、まったく申し訳ないくらいだ。


春に打ち上げる予定だったシャトルの完成は延期になった。
オレはというとろくに眠れなくなり、生れて初めてカウンセリングなんて代物を受ける羽目になった。

「休んだ方がいいでしょう」と言われたものの、即日長期休暇とか、ましてやセンターを辞めるのだけは断固拒否した。
主任の職を引き継いだばかりで代わりはいなかったし、代わりなんか置いていきたくなかった。
生涯かけると決めた場所だった。
アイツの残した仕事だった。

59 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:41:27.09 ID:4JGF8iCo0

 コレ、
 お父さんが預かっててください

  これは?

 兄者が仕事を残していったんです
 半年以内に終わらせられなければ、その時に籍を抜きます

  ハインさん、そんな無理は…

 オレがここにいるのが嫌なら、ハッキリそう言ってください
 ガサツで女らしくないし、アイツとの子供なんかもいない
 …他人ですから

  そういう事ではありません!
  兄者は、ハインさんを一人で残して

 お父さん、ずるいですよ
 理由をアイツに着せるなんて

  …

60 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:43:49.40 ID:4JGF8iCo0

 そういう事じゃないんなら、お願いします
 オレを"流石 ハインリッヒ"のままでいさせてください
 オレには親父もお袋もいない
 行くところなんて、どこにも無いんです








  オレ、ここにいたいんです



62 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:45:19.54 ID:4JGF8iCo0
ガガッ

 『発射10分前!』

 『人、人、人…噛んだらどうしようかんだらどうしようカンンダラドドドドド』

 『おい、気をしっかり持て!状況は皆同じだ!』

 『そうそう、見物席の方では実況とか入ってるみたいだし。
 こっちの会話ももう流れてますって』

 『全国放送…テレビ…生中継…あぁぁぁ見物客がああんなに…』

 『どうしましたモナ?』

 『ドクオ壊れました!』ガガッ

(´<_` ) 「あちゃー、キレたか」

 『ヒトガイッピキヒトガニヒk…』

从 ゚∀从 オチツケー

64 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:47:26.59 ID:4JGF8iCo0
(´<_` ) 「駄目だこりゃ。
      うーん、そのままだと進行に支障をきたすし、機材壊しかねんなぁ。
      せめていつものテンションに戻してくれ」

 ガッ『了解!ドクオうぜぇ!!』

 『ドクオキメェ!』

 『仕事しろドクオ』

 『出来ないなら家帰れ!!』

 『好きな時にトイレ行けるなんて幸せだと思わないのかドクオォォォォ!!!!』

 『お前の代わりなどいくらでもいるぞ、ドクオ!!』ガガッ


 『…ウツダシノウ…』

从 -∀从

御粗末。

65 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:49:51.02 ID:4JGF8iCo0

  はい、荷物と着替え準備しといたから、持ってって

 サーセン

  いいってこと
  アンタも頑張ったわね、最初はどうなることかと思ったけど…
  ちゃんと休みなさいね。聞いたわよ、最近病院に行ってないんでしょう
  不謹慎な言い方になるけど、アンタにまで死なれちゃどうしようもないわ

 あはは、任して。死なねーから

  …兄者ったらホント馬鹿よねぇ、アンタがいたのにさ
  私、姉貴なのに…何も言われずにいかれちゃった

 …

  生きているって、こうやって少しずつ何もかも失っていくって事なのかしらね
  ふふ、なんか凄くヤな気分


  アンタの携帯、父者に見せてもらったわ


66 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:51:19.35 ID:4JGF8iCo0
 あ、
 そっか、あー、なんか…
 マジでバカだよなーアイツ

  ホントよ、ばかばかしくって、ふ、アハハハ…

 …姉者


  …おかしいね
  だって、さっきまで本当に、なんでもなかったのに
  怖いくらい、何とも思わなかったはずなのに


67 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:52:50.36 ID:4JGF8iCo0







          メッセージ は   一件   です ピー









70 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:57:59.20 ID:4JGF8iCo0

   もすもすー。オレオレ
   ただいま留守電テスト中ー

   …
   うん、お前さ、病院にケータイ忘れるとかどんだけよ…
   アラーム音鳴るまで気付かなかった俺も俺だが
   看護婦さんに取られるとこだったぞ

   …あれ?看護婦さん?看護士さんだっけか?まぁいいや

   あー、えーとな、ハイン
   あんま根詰めすぎるなよ、忙しいのは分かるが
   飯食えよ、ウィダーばっか飲んでんじゃねーぞ
   トマトを食えトマトを

   …一緒に帰れなくて、ごめんな

   …
   百円無駄にさすなよ、馬鹿ー ピー


   この 伝言 を 消去 するには …

71 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 18:59:19.05 ID:4JGF8iCo0

バカって言ったほうがバカ。

人の心配ばっかして、先にいっちまう奴なんか。

最悪のバカ。

73 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:02:02.63 ID:4JGF8iCo0
ガガッ

 『2分前です…シニタイ…』ガガッ

(´<_` ) 「OK、カウント30秒前から開始」

 『本当に大丈夫か?w』

 『代わるモナ?www』

(´<_` ) 「煽るなお前ら」

 『平気っす…主任に託された仕事ですから…』

ノ'''(´<_` ) 「律儀だな」

从 -∀从y‐ ダナ

ノ'''(´<_` ) 「…ぶっちゃけ誰にやらせてもいいと思うんだけどなぁ、俺も…」

从*-∀从y‐

74 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:04:53.57 ID:4JGF8iCo0


          ここに いたい んです




   ハイン、


75 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:05:39.24 ID:4JGF8iCo0
   父者の言った事なんか気にすんじゃないよ
   アンタはもう私の娘なんだ
   行くところが無けりゃいつまでもここにいな

   確かに若いからさ
   色々あるだろうし、思うところもあるだろうよ
   時間をかけて決めな、一人じゃないんだ

   なに、また新しく相手が見つかっても
   今度こそ幸せになれば、それでいい





   簡単な話じゃないか。

78 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:09:50.48 ID:4JGF8iCo0
ガガッ

 『えー…1分前になりました…ウツダ…


 スペースシャトル"ひので"発射準備完了


 ご来場の皆様、30秒前からカウントダウンを開始いたしますので、よろしくお願いいたします』ガガッ




   ハインちゃん、久しぶりじゃのう
   デレちゃんじゃないけども…

   …今日な、父者から色々伝えるように言われたのじゃ
   わらわには、よう、分からない話なんじゃが

   聞いてくれるようなら言っておいて欲しいと


79 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:13:00.56 ID:4JGF8iCo0
ガガッ

 『30秒前! 25秒前!』


(´<_`;) 「カウント日本語かよ!
      当たり前っちゃ当たり前か!?」


 『20秒前!19、18、…




 15秒前!14、13…』



80 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:16:31.92 ID:4JGF8iCo0


 『10!』




   「母者の言うとおりだ」って





82 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:21:48.81 ID:4JGF8iCo0
 『9、8、7、』




    「縛ってたのは私の方だった」って

    「ハインちゃんの自由でいいんだ」って、そう言っておったのじゃ





83 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:24:04.08 ID:4JGF8iCo0
 『6、5、4、』




   …ここからスペースシャトル、見えるかのう…?





84 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:26:59.46 ID:4JGF8iCo0




 『3!』




从 ∀从 「弟者!」

(´<_` ) 「ん!?」




 『2!』





86 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:29:22.66 ID:4JGF8iCo0

从 ∀从 「オレは!


      あの家の


      皆が」




从 ;∀从




 『1!』



88 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:32:17.16 ID:4JGF8iCo0


「大好きだよ」



89 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:33:17.26 ID:4JGF8iCo0








   0









91 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:37:15.59 ID:4JGF8iCo0

本当は見たかったんだ。
そりゃあ見たかったさ。
アイツとの未来を。

こうしてここにいるのだって、まるで、ありがちなドラマのラストシーンみたいに、アイツが傍に来てくれるような気がしたからだ。

だけど、そうでなくても、オレはすごい幸せ者なんだって、思うよ。

馬鹿だけどさ。


92 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:41:02.37 ID:4JGF8iCo0
ノ'''(´<_` ) 「馬鹿じゃねぇよ」

そうかな。

ノ'''(´<_` ) 「そうだよ」

弟者が投げてよこした携帯電話が、日の光を受けて赤く輝いた。
煙が舞い上がる。
水蒸気と土煙が混ざったシャトルの軌跡。
ゆっくり、ゆっくりと落ちてきた携帯電話が手の中に納まる。アイツの最後の声が入ったそれが。
重力も無くなったように。

ノ'''(´<_` ) 「まぁ、ひとまずお疲れ。

        義姉さん」

二つ折りの携帯電話の間には、結婚指輪という名のついた洒落のきいていない金属の輪が挟まっている。

耳元に、アイツが笑う声が聞こえたような気がした。

94 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:43:32.84 ID:4JGF8iCo0








y‐~~

センターに内定が決まった日もよく晴れていた。
大学時代だから、ざっと5年前。
ベランダの上の洗濯物があっという間に乾く、残暑の厳しい8月の後半。

95 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:45:36.93 ID:4JGF8iCo0
( ´_ゝ`)y‐~~ スパー
从 ゚∀从y‐~~ スパー


从 ゚∀从y‐ 「…やっちゃったよ」

( ´_ゝ`)y‐ 「あぁ、ついにやっちゃったな…」

从 ゚∀从y‐ 「…結果発表見たよ」

( ´_ゝ`)y‐ 「あぁ、俺も見たよ…」

( ´_ゝ`)y‐~~ スパー
从 ゚∀从y‐~~ スパー

97 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:47:10.31 ID:4JGF8iCo0


( *´_ゝ`) 「「うおぉぉぉぉおおおおお!!!!!」」从゚∀*从


( *´_ゝ`) 「おめでとぉぉぉ!!!」

从*゚∀从 「アリガトー!!!
       ダメかと思ったーーー!!!!!」

( *´_ゝ`) 「駄目なはずねぇよ俺が勉強教えたもん!!」

从*゚∀从 「じゃーなんでこんな喜んでんだ!!氏ね!!!」

( *´_ゝ`) 「それとこれとは話が別だぁぁぁ!!!!」

「うるさいよアンタたち!!ちょん切られたいのかい!?」

( ´_ゝ`) 「すいません母者!!!」

从 ゚∀从 「すんませんお母さん!!!」

100 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:50:09.27 ID:4JGF8iCo0
从*゚∀从 「いやーマジこえーなお母さん」

( *´_ゝ`) 「おい顔笑ってんぞ顔」

从*゚∀从 「だってよー」

( *´_ゝ`) 「うははは、分かるけどさ。快挙だぜ快挙。流石だな俺ら」

从*゚∀从 「文字通りなー」


( ´_ゝ`)ノo 「ほい」

从 ゚∀从o 「…ナニコレ、部品?」

( ´_ゝ`) 「タラララッタターン、手作り指輪ー。
       オーにしか見えないとか言うなよ?」

从 ゚∀从o 「へー。何製?」

101 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:51:43.76 ID:4JGF8iCo0
( ´_ゝ`) 「ステンレス製」

从 ゚∀从o 「錆びに強いな」

( ´_ゝ`) 「錆びに強いな」

从 ゚∀从o 「何で指輪?」

( ´_ゝ`) 「お祝いお祝い」

从 ゚∀从o 「そんなら新しいケータイ買ってくれよー」

( ´_ゝ`) 「それは今度な。ホラ、

       結婚したじゃん」

从 ゚∀从 


从 ゚∀从 「ヴぇ」

( ´_ゝ`) 「え、何その反応」

102 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:53:58.34 ID:4JGF8iCo0
从*゚∀从ノo 「ぎゃっ、やっべなんか超恥ずかしいんだけどコレ!!
        捨てていい?捨てていい!?海に捨てていい!!?」

( ;´_ゝ`) 「わーダメ!!やめろ!俺の傑作だぞ!!
        このホラ、キラっとした部分なんかFPのガラスをちょちょいっとなぁ」

从;゚∀从 「それが恥ずかしいってんだよバカ!バカ!
      こんなんつけられるかバカ!」

( ;´_ゝ`) 「なんだよー!バカって言ったほうが馬鹿!」

从;゚∀从 「バーカ!!」

( ;´_ゝ`) 「バーーーカ!!!」

@#_、_@
(  ノ`)  「おいそこの馬鹿共」

( ;´_ゝ`)从;゚∀从 「「あ"」」

@#_、_@
(  ノ`)  「ご近所に丸聞こえだよ」

103 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 19:58:20.54 ID:4JGF8iCo0
(#)_ゝ`)y‐~~ スパー

 Ω       ←げんこつ食らった
从 ゚∀从y‐~~ スパー


(#)_ゝ`)y‐ 「なんつーの?格好つけたいじゃねぇか。俺だってさ」

从 ゚∀从y‐ 「フーン」

(#)_ゝ`)y‐ 「いらなくても受け取れよ」

从 ゚∀从y‐ 「いるよ」

(#)_ゝ`)y‐ 「えっ、いるんだ」

从;゚∀从y‐ 「い、いるよ!何べんも言わすな!!
        あっ、ケータイも忘れんなよ!今度買えよ!あ、赤いのがいい!」

(#)_ゝ`)y‐ 「へぇへぇ」

105 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 20:01:29.36 ID:4JGF8iCo0
(#)_ゝ`)y‐~~ スパー
从 ゚∀从y‐~~ スパー




オメデトー
アリガトー




「兄者、オレには目標が出来たぞ」

「俺もだ。答え合わせするか?」

「おう。せーの…」


106 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 20:02:33.82 ID:4JGF8iCo0

「「10年以内に」」


「「スペースシャトルを」」




「「打ち上げる!」」




107 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 20:04:05.68 ID:4JGF8iCo0
「ちょwwwwww乗るんじゃねーのかよwwwwwwww」

「お前もなwwwwwwwwwwww
 だって浪漫じゃないか!人間を空にブッ飛ばす機械を設計するんだ、ライト兄弟みたいに。
 俺らがやっちまえば日本初、成功すれば歴史の教科書ににその機体の名前、載っちゃうんだぜ。
 "我が子"の名を残すってところがまたかっこいいだろう!」

「うんまぁそーだなーwww」


そうだよな。




从 ゚∀从y‐ 「お次は巨大ロボかなー」

ノ'''(´<_`;) 「何の話だオイ?お前休む気無いだろ」

从 ゚∀从 「いやーさすがに一年くらいは休暇とりたいよな。
       コレはアレよ、目標よ。それから、」


从 ゚∀从ノo 「ロマンってやつ」

109 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 20:08:36.51 ID:4JGF8iCo0

ガガッ

 『軌道確認、OK!』

 『SRBが切り離されました。動作正常』

 『トイレに行けるぞぉぉぉぉ!!!!』ガガッ


指輪越しに丸く切り取られた空を見上げる。
白煙は大気圏を越えて、どこまでも高く伸びていく。







110 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 20:12:34.33 ID:4JGF8iCo0
足軽特攻でした。
金曜日のアフターファイブ、週末、果ては休み明けまで
パソコンの前で全裸待機を決め込んでいるドM共よ。
愛してる。支援ありがとう。愛してる。心底愛してる。

今日のために部屋を掃除したり、
緊張と暑さの余り汗ダラッダラになりながら
投下→お茶→投下→お茶を3時間あまりにわたって繰り返す
私も勿論、ドMです。

ラジオで朗読された時は死んでもいいと思いました。


>>6
実は投下直前までタイトルにAAを入れる気は無かったんだが、
それだと誰も気付いてくれなさそうだから
ホイホイのつもりで主人公に出張ってもらった。
>>44
結婚してください。

114 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 20:18:15.45 ID:4JGF8iCo0
ご飯食って休憩してから
サイドストーリー的なものを一本上げようかと思うのですが、
正直本編と違い、思いついたから書いたって代物です。
読まなくてもおkですし、爽やかもへったくれもありません。

116 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:21:48.01 ID:4JGF8iCo0
腹ァいっぱいだ…

投下します。

117 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:23:05.63 ID:4JGF8iCo0


川д川夕刻の浪漫のようです。あと真夏のスペースシャトル



118 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:24:26.20 ID:4JGF8iCo0

私は ひとりぼっち





駅前のカフェで友人と会い、大学時代の先輩の話を聞いた。
ちょっと前に旦那さんが亡くなったらしい。

120 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:26:31.94 ID:4JGF8iCo0
ξ ゚听)ξ 「ショックだったわ、死んでも死ななそうな人だったから余計にね…。
       お葬式にも行ったんだけど、何だかすごく怖くなっちゃった。
       悔いの残らないように生きなきゃダメだなぁーって、心底思ったわ…」

川д川 「その人…悔いの残らないように生きたお陰で早死にしたんじゃない?」

ξ;゚听)ξ 「ばっ、バカねー!違うわよ、そういうんじゃなくって…もう!
       大体その人、奥さんだっていたのよ?!悔い残りまくりじゃない!
       不謹慎な事言うのはやめてちょうだいよ!!」

川д川 「はいはーい」

ξ;゚听)ξ 「貞子ったら、女のクセにホッントデリカシー無いんだから!」

川д川 「好きで女に生まれてきたんじゃないしねぇ…」

121 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:27:50.08 ID:4JGF8iCo0
大体、もっと不謹慎な言い方をさせて貰えるならばこう言う。

「最近は恋愛結婚たって誰もかれもあっという間に冷めちゃって長くても十年二十年で破局でしょ?
 大好きだった人を時間と共に幻滅していくような虚しい人生送る人よりはさぁ随分幸せなことじゃない。
 だって好き合ったまま死に別れられたってことは二人にとってはお互いが永遠になるじゃないの。
 映画なんか全部そんな感じでしょ。特に韓国の。
 内容よりもそれ見て泣いてる人が面白くってゲラゲラ笑っちゃうようなアレよ。
 コレが本とかになれば見た人はきっとこぞってこう言うわね。
 "あーんステキな話だわー"って」

怒られたくないから言わないけど。

122 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:31:35.11 ID:4JGF8iCo0
彼女は大手の旅行会社勤務だ。
最近新しい部署に配属されたようで、内側から溢れ出るやりがいの光を纏って輝いていた。

ξ ゚听)ξ 「アンタもちゃんと仕事しなさいよね」

川д川 「はいはい、わかってますよー」

ξ;--)ξ 「もう…」

川д川 「そんな顔しないでよ、有給消費してるだけなんだから。
      これでも大学では真面目なのよ?」

ξ ゚听)ξ 「副手っていうのよね。どう?大変?」

川д川 「別に。少なくとも、あなたんトコよりは全然暇ね」

ξ ゚听)ξ 「そうなのかしら?
        ま、とにかく若いうちは真面目にやんなさい。それが一番よ」

川д川 「だからやってるってばぁ」

124 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:34:42.83 ID:4JGF8iCo0
ちっちゃな美大の仕事なんて、そう大変なものじゃないと思う。
少なくとも彼女のやっている仕事に比べれば、地味だし、ダサいし、隣接する音楽家の馬鹿学生からは「きたなーい」なんて言われるし。
そういう事言ってくる連中に限って、ブランド物のバッグにちゃらちゃらしたミニスカート履いて、お水みたいな髪型してたりするんだけど。お前ら本当に勉強してんのかって感じの。

しばらく話をしてから友人とは別れた。
帰る途中でコンビニに寄り、カップラーメンを買って、家でネットをしながら食べた。

今夜は面白いスレッドが全然立たない。

125 名前:音楽家→音楽科 ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:37:03.86 ID:4JGF8iCo0


その夜、夢を見た。



126 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:38:34.17 ID:4JGF8iCo0
異様にムカムカするカラフルな色の太陽。

数字のゼロがとめどなく落ちて来る真っ黒な空。

赤色をした砂漠の岸辺に広がるゼロの沼地。

その向こう、禿げ上がった黄土色の地面に巨大な亀裂が走って、断崖絶壁になっている。

裂け目のふちには緑色の草花がほんの少しだけ。
私はそこに立ち尽くして、知らない女と二人、谷底を覗き込んでいた。


128 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:40:59.51 ID:4JGF8iCo0
深い、深い岩の裂け目の奥底には、目を覆うような星屑の海が広がる。
数え切れない程の遠い光が、一つ一つ、まばたきする度にきらきら瞬いた。

そのうち、しゃがみ込んでいた傍らの女が一歩踏み出した。
脱色された髪の毛が顔の片側にかかっていて、表情が読めない。

怖い、と思った。
このまま行かせるのは危ない。
行かせてはならない。
ここにいなくちゃいけないのに。

川д川 「ダメよ、行っちゃ」

腕を掴んで引き止めると、女は前髪を揺らして私を見た。
長い睫のかかった、暗い瞳だった。

129 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:43:19.67 ID:4JGF8iCo0
从 ∀从「でもそろそろ時間だし」

川д川 「ダメ。ここから出てしまったら、あなた凄く苦しむわ。私、分かるもの。
     外にあるのは辛い事ばかりよ。
     あなたの周りにいる人全員が、あなたを傷つけようと狙っているわ」

从 ∀从「…それは、うん。確かに怖いな」

腕を引く力が緩んだ。
ほっと胸をなでおろしたところで、女の唇がゆっくりと動く。

从 ∀从「でも、さ

      それって何だか、当たり前の事って感じがするんだよな。


130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 21:45:05.66 ID:4JGF8iCo0
      人間って、結局そうじゃん。
      自分のいいようにするために、皆がいつだって誰かを滅茶苦茶に傷つけてるんだ。

      たとえそれが、相手のためであってもさ」

川д川 「そんなのイヤよ、怖いわ」

从 ∀从 「でもオレ、行きたいな」



从 ゚∀从 「そこにいたいんだよ」


131 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:47:34.31 ID:4JGF8iCo0
女の腕が、そっと離れて行く。

川д川 「バカじゃないの」

从 -∀从 「バカじゃないのー」

女の口調はまるきり別の意味を含んで、優しく私の言葉を返した。
きっと誰かに教わった言い方なんだろうな。
女は一度振り返って私に手を振った。
崖の向こうに足を踏み出し、星空の向こうへと落下して消え去った。

132 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 21:49:50.24 ID:4JGF8iCo0


夢から覚めて暫くの間は布団から出るのがおっくうで、丸まったまま目を閉じていた。
起きてみたってどうせ真っ白のスケジュール表と、うんざりするボロアパートの砂壁が目に飛び込んでくるだけだ。
こんな事していても王子様はキスなんかしに来ないけど、私は未だに期待してて、その倍の倍くらいは怖がっている。

137 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 22:09:07.11 ID:4JGF8iCo0
無音の胸騒ぎ。

遠くで、誰かが目覚める音がする。



布団から手を伸ばしてテレビのリモコンのボタンを押すと、日本初有人ロケット打ち上げまであと10分、とかいう派手な速報が入っていた。
真っ白な機体の表面に真っ赤な塗料で文字が描かれているから、脳内で自然と日の丸が連想させられて、一言で言えばダサい。

布団をはいで洗面所に向かう。
ぶつぶつ音を立てる切れかけの電球に舌打しながら顔を洗った。
外出する予定なんか無いから洗顔フォームとかは使わない。

寝癖を水と手櫛で整えて洗面所を出る。脱ぎ捨てられた服を蹴飛ばして、勢いのままカーテンを開けた。
ムカつく程眩しい日差し。
鍵を開けて、薄汚れたガラスをスライドさせる。

スリッパを履いて窓の桟を踏み、落下防止用の柵を越えて屋根の上に出る。日焼けしそうだ。
ロケットの発射台は、確かここから東に数km離れたところにあるはずだ。
ボロいアパートだが高さは他の建物に負けていないので、もしか、という淡い期待がこみ上げる。


139 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 22:15:34.47 ID:4JGF8iCo0

   ワーイ ロケットー           __
川*゚ -゚)(・∀ ・*)ノ (*`・ω・´)⊃|口。:|| ←テレビ
ソウダナ                 ̄ ̄

隣の家の家族が小型のテレビを持ち出して同じ事をしているのが視界の端に入ってうざったいが、それよりも空の向こうにじっと目を凝らす。

あと一分くらいのはずだ。
テレビの音がこちらにも届いた。
もうじきカウントが始まると、アナウンサー。

冴えない声で放送が流れた。
三十秒、
二十秒、
十秒

…四、三、
二、





141 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 22:23:02.74 ID:4JGF8iCo0

青空が目に痛くて、段々憎らしくなってきた。

    ワイワイ   __
川*゚ -゚)(*・∀ ・)|口。:||(`・ω・´*)
       キャッキャ ̄

川д川 ハァ…

結局、空の端に小さな光がキラッとしたのが見えたくらいで、特別なことなんか何も無い。VTRとかでよく見る大迫力の発射シーンは、ここからじゃ全く見えなかった。
しばらく目を凝らしてみたものの、近所の子供がテレビと空を見比べながら、キャァァ、とか悲鳴を上げるのが耳について、ムカつくだけだった。
せめてあのしょぼくれたロケットの光が大気圏突入前に爆発し、聴衆を楽しませながら露と消えてくれればいいのに、等と想像をめぐらせる。
更に数分経つと、色々どうでもよくなってきた。

142 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 22:26:33.56 ID:4JGF8iCo0
ガキは何にでも楽しくなれて、勝手に一人で浮れて騒いでも誰にも咎められないのだから、羨ましい。
能天気に笑う父親と母親の声。いつかこんな家族が持てるんだ、なんて希望をもった時期が、私にもありました。

目を閉じて、テレビから発せられる電子音に意識を集中させる。
思い描く、青空の真中に伸びて行く光と、白い煙の軌跡。




143 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 22:28:49.94 ID:4JGF8iCo0

ねぇ、夢の中のあなた。

あなたの行きたかった世界ってどこ?

天国?
地獄?
星の向こうの別の宇宙?
それとも、期待しただけ損をする、空気の汚れた地球のどこか?

私が怖くて踏み出せなかった場所にいるあなた。
暗い瞳の奥に、星が光ってた。

きっと、私の人生にはこの先絶望も希望も起こり得ない。
何にも無いまま息を吸って、光を浴びて、暗がりの中でカップラーメンを齧りながらただ生きていく。

ねぇ、私はここにいるわ。

見つめて。振り向いて。誰でもいいから、私を気にしてよ。
ジェット気流の向こうの青空に隠された、暗い海の向こうへ飛び出すその前に。

144 名前: ◆E.g9aJrsII :2009/08/21(金) 22:35:04.11 ID:4JGF8iCo0
快晴の中を突き抜ける一本の道。
多分あれは、これから誰かが辿る道のひとつになるんだ。
輝かしい未来のひとつに。

顔が焼ける感覚を覚え、屋根の上にしゃがみ込んだ。近所の家族は未だに屋根の上に居座って、楽しそうに話をしている。
仕事先の美大は夏休みだけれど、明けにはきっと"イメージ表現:スペースシャトルをテーマに四色の色彩で表しなさい"的な課題が出るに違いない。

今日は私も絵を描く事に決めた。
嫌味なくらい晴れた世界の中でも尚薄れる事の無い、夢に浮かんだあの景色。
星屑の川面と彼女の笑顔。

川д川 「ふん…
     なんじゃそりゃ」

気に入らないわ、と一人でうそぶきながら、もやしみたいな両手を空に向けた。
血管が透けて、太陽のように、赤かった。







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