216 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:26:24.06 ID:BSWw06Wt0
東暦八〇一年七月七日、鮫島、島上空
ノパ听) 「島南東の森にはそれらしき施設は見当たらない……いや、VIP人は三日で地下要塞を作るって言うしなあ……」
連日の晴天は実に清々しく、任務を忘れて飛び回ってみたいほどであった
……が、軍人で在る以上はそうもいかない
今日の任務は表向きは島の偵察、ラウンジ艦隊が進撃するに当たっての下調べ
だがそれと同時に上司からもう一つばかし、言い付けられている
"宝探し"だ
ノパ听) 「でも見た感じ、この島にゃラウンジの大軍団に大打撃を与えられるほどの物なんか無い気がするんだよなあ……」
上司が言うには、この島には不利な戦況を簡単に引っ繰り返せるほどの新兵器開発工場が在り
そいつをどうにかしないとラウンジが敗北する恐れすら有るらしい
まあ、どう考えてもこれは誇大広告だが……実在したとすれば、実機が相当の化け物ということは容易に想像出来る
しかし、ヒートはそれがにわかには信じられなかった
217 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:27:00.31 ID:BSWw06Wt0
ノパ听) 『あー、こちらアルバトロス、こちらアルバトロス。本部聞こえてるー?』
職業柄、ラウンジの機嫌を損ねた国の惨状は嫌と言うほど教えられて来たし、実際にこの目で見る様にもなった
そういう国は大抵、ラウンジの圧倒的な物量の前に戦意を失い、数の暴力に敗北して来た
『聞こえている。どのような感じだ? アルバトロス』
だから今回も今までと同じ
私はこうやって空の上から戦争を眺めて、それで終わり
ノパ听)『出来る限りの兵器で防御を固めてるみたいだが、そこら辺は徹底的な砲爆撃で取り除けるだろう。
問題は例のお宝の方なんだが、そんな施設は――』
そんな風に考えていた
"ノパ听)ヒートが/ ,' 3荒巻と生き延びるようです"
219 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:27:50.53 ID:BSWw06Wt0
ノパ听)「――っ!?」
視界の片隅で一瞬――光が連続して点滅した、条件反射的に体が動く
操縦桿を引き絞って緊急回避、エンジンの真横を銃弾が掠めて行った
『!? どうしたアルバトロス!』
ノパ听)「クソッ、マジで出やがったっ!」
『アルバトロス! 応答せよアルバトロス!』
ノパ听)『こちらアルバトロス! どうやらお宝は本当に在ったらしい!』
体勢を持ち直そうとしたその時
自機の真横を"お宝"は翔け抜け、あっと言う間に小さくなって行った
220 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:28:24.98 ID:BSWw06Wt0
ノハ;゚听)「は、はえぇ……でも、やるしかない!?」
自分が今乗っている機体は"一応"ラウンジ空軍の最新型
偵察用に武装は軽めにしてあるが、速度と運動性能は旧式を遥かに上回っている
しかし、あのVIPの新型機はその"旧式を遥かに上回っている"新型のそれをさらに"超越している"
常識的に考えれば勝ち目は無い……だが、戦わずして逃げられるとも思えなかった
ノハ#゚听)「……クソッタレ! 通信切るぞ!」
『アルバトロス! 状況を説明せよ、アルバt――』
通信機のスイッチをオフにし、目先の敵に集中する
スロットルを奥まで押し込むと、エンジンは猛々しく震えてフル稼働状態に入った
私はさっさとこの仕事を片付けて、基地に戻ってビール飲んで寝るんだ……!
――――――――――
224 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:30:39.49 ID:BSWw06Wt0
/ ,' 3「んん?」
「どうした?」
/ ,' 3「いや、あんな飛行機……VIPにあったかなあってさ」
丁度密林の哨戒任務に就いていた時間だった
木々の合間から見える青い空を、見たことも無い飛行機が怪音と共に飛び去っていった
「馬鹿、知らないのかよ? この島じゃVIP空軍の最新兵器を作ってるんだよ。俺達陸軍の末端は知らされちゃいないが、今お前が見た奴が証拠さ」
/ ,' 3「そうなのか……知らなかっ――」
「ま、お前はいつもボーっとしてるから仕方ないっちゃ仕方ないな……ほら、先行くぞ」
/ ,' 3「――ああ、分かった」
この同僚は見てなかったのだが、そのとき
俺の目にはもう一機ばかり、プロペラを回す飛行機が映っていた
――――――――――
226 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:31:44.58 ID:BSWw06Wt0
ノハ;゚听)「嘘だろ……こっちは限界無視した最大出力だぞ……」
VIPの新型機とラウンジの現行最新機、その性能差は圧倒的だった
こちらが必死に追いかけるのを尻目に、相手はドンドン距離を引き離してくれる
しかも何時の間にやら反転して上昇、また一撃離脱攻撃をしてくるつもりだろう
ノパ听)「格闘戦にさえ持ち込めれば……!」
敵がどれだけの運動性を誇るのかは分からないが、格闘戦にはかなり自信があった
演習や実戦でかなりの数の敵を、格闘戦で討ち取って昇進して来たのが今の私だからだ
だが敵も新型機を駆っているだけあって相当のパイロットと思われる
自分と同等、もしくはそれ以上に見なければならない
敵も易々と格闘戦に持ち込ませてはくれないだろう
228 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:32:51.85 ID:BSWw06Wt0
こちらが勝つ確立は1/2、相手が勝つ確立も1/2
そう考えるとこの戦いは丁度、コインを使った簡単なギャンブルのようにも思えた
ノパ听)「……一か八か――」
そして
ノハ;゚听)「――ちっ、畜生……!」
落ちて来たコインは裏を向いていた
ヒートが格闘戦に持ち込める事無く、VIP機はチート的な機動力で上を捉えて機銃掃射
恐らくコクピットを狙ったのだろう――しかし、狙いは逸れて座席後部へ……と言っても、こっちは操縦不能状態に陥ってしまった
どうやら、ビールはしばらくお預けになるらしい
――――――――――
231 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:34:09.65 ID:BSWw06Wt0
「今日の哨戒は打ち切りで、墜落機の調査支援に向かえだとさ」
通信機を背負った同僚からその言葉を聞き、哨戒を中止した俺は件のラウンジ機墜落現場に来ていた――
/ ,' 3 「――で、これね……こりゃひでえ」
墜落現場の"周辺"に来たという方が正しい気がした
「荒巻! お前も早く消火手伝え!」
/ ,' 3 「りょーかい、っと」
墜落機のエンジンが衝撃で爆発したのが原因だろう
森は燃え盛っていた
/ ,' 3「コイツはちょいと厄介だなあ……」
兵士から消火用具を受け取り、そうぼやく
こんな大きな火を消した事など一度も無く、これから先の人生でも消す予定は無かったからだ
232 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:34:53.19 ID:BSWw06Wt0
そして戦争が終ったら退役して、火とは無縁にのんびり暮らす予定だったんだがなあ等と考えながら歩いていると
コツンと音を立てて、足に何かがぶつかった
何だろうか
/ ,' 3「……石? いや……お守りかな?」
拾い上げてみるとそれは宝石の原石に紐を取り付けた、簡単なお守りのようなものだった
炎に照らされ、赤い宝石が輝く
今そこで燃えている炎の様な、力強い光だ
/ ,' 3「VIP兵にこんな物を持ってる奴は居ない……とすると、行方の分からないラウンジのパイロットの物か」
見れば周囲には計器の残骸など、機体の破片が散らばっていた
このお守り諸共、爆発によって飛散して来たのか
「荒巻ィ!!」
/ ,' 3「あ、悪い悪い」
きっと大事な物だ、パイロットをとっ捕まえたら返してやろう
心の中でそう決めた
――――――――――
239 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:36:38.23 ID:BSWw06Wt0
ノハ )「う……うう……」
あの敵機にやられた後、機体から脱出したまでは良かった
だが、神は無情にも私を見捨てた
パラシュートは開かず、予備のパラシュートも高度不足であまり意味を成さなかった
幸いにも、密林の木々がクッションになって命は保ったのだが
木々同時に私の肉を切り、抉り、貫いた
241 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:37:45.96 ID:BSWw06Wt0
血が体を伝い、地面にポタポタと落ちていくのが分かる
中々体験できないイベントだな――
ノハ )「――クッ……!」
ナイフを引き抜き、重々しい手付きでパラシュートを切り放す
ノハ )「ガァハッ!?」
ドスン、と体が地面に落ち、衝撃と激痛に胃がひっくり返りそうになる
幸いにして密林地帯の土は柔らかく、着地による骨折などは無かった
ノハ; )「ッ……なんとかして……逃げねえ……と……ッ!」
腕に突き刺さった木の枝を抜き、傷口を手で押さえる
私はズタズタになった足を引き摺って、その場を離れた
きっと、直にラウンジ軍が来る
それまでの辛抱だ
――――――――――
247 名前:N| "゚'` {"゚`lリ ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:40:16.81 ID:BSWw06Wt0
七月八日、鮫島、村落南の森
/ ,' 3「これは……おい、すぐに本部に連絡だ」
「合点承知の介」
昨日の偵察機撃墜事件の直後、陸軍は俺の小隊に今までの哨戒任務の延長の様な感じで偵察機パイロットの捜索を命じて来た
そしてその任務の最中、俺の班は木に引っ掛かった落下傘を発見した
コードは刃物で切断されており、パイロットは自力で逃走したのだろう
/ ,' 3「そう遠くまで逃げているとは思えないが……ん?」
落下傘の真下、力無く垂れ下がるコードが指し示す場所
そこに蟲が群がっていた
/ ,' 3「……こりゃ拙い。死なれたら返す物も返せんよ……」
蟲は一心不乱に地面を嘗め回す
そこに溜まっている御馳走――血を飲む為に
――――――――――
250 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:41:28.12 ID:BSWw06Wt0
七月?日、鮫島、???
痛い、苦しい、体が熱い
焼ける、焼けてしまう……水、水が欲しい
ここはどこだ? 一体どこまで歩いた?
「だ、大丈夫かお!? しっかりするお!」
君は誰だ?
いや、もう誰でもいい
水……水を……
――――――――――
255 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:43:02.62 ID:BSWw06Wt0
七月十二日、鮫島、???
ノハ; )「う……うう……」
ノハ;゚听)「ここ……は?」
( ^ω^)「おっおっ、気が付いたかお。ここは僕しか知らない鍾乳洞の一つだお」
目が覚めると、私は洞窟の中に居た
傍らには見知らぬ少年
体を起こそうとすると激痛が身を駆け抜け、起き上がることは出来なかった
256 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:44:02.07 ID:BSWw06Wt0
(;^ω^)「ま、まだ起きない方がいいお。包帯は取り替えておいたけど、傷口はまだ塞がってないし危険な状態だお」
ノハ;゚听)「ッ……君が助けてくれたのか?」
( ^ω^)「見つけた時はビックリしたお。止血はしてあるけど全身血塗れ、おまけに凄い高熱、今にも死にそうだったお。
幸い、病院から医薬品を大量にかっぱらって来てたから手当てに問題は無かったお」
ノハ;゚听)「そうか、それはすまなかった……で、君はこれから……私をVIP兵に引き渡すのか?」
( ^ω^)「! ……」
"VIP兵"、その言葉を聞いた瞬間、少年の顔が強張った
何か思い出したくないことでもあるのだろうか――触れてはいけなかったのかもしれない
( ^ω^)「……実は、お姉さんにはちょっとした恩があるお。だからこうしてここに匿ったし、これからも奴らに引き渡す気はないお」
ノハ;゚听)「……」
260 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:45:08.72 ID:BSWw06Wt0
平静を装う少年の顔には、確かに怒りが滲んでいた
そういえばこの島の民間人はVIP本土に引き揚げた筈である
つまり――この子は何らかの事情があって、島に取り残された民間人なのではないだろうか
それならば、このVIP兵への態度もどことなく納得がいく気がする
VIP兵は間接的に、この子の命を危険に晒したのだ
恐らくこの子はこの島の兵士を、これっぽっちも信用していない
ノパ听)「そっか、そーゆうことか……ありがとうな、少年」
( ^ω^)「おっおっ、恩を返しているだけだお。礼には及ばないお」
そしてこの日から数日間、私が動けるようになるまでの間
私と少年の奇妙な共同生活が始まった
263 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:47:39.65 ID:BSWw06Wt0
七月十三日、鮫島、鍾乳洞
( ^ω^)「今日のご飯は川魚の塩焼きだお」
ノハ;゚听)「いつ作ったのか知らないけど……煙で誰かに場所とかバレるんじゃないのか?」
( ^ω^)「おっおっ、実はこの辺に軍の地下施設の隠し排気筒があるんだお。
毎朝一定の時間帯にこの島には濃い朝靄が掛かる、だから軍はその時間に溜め込んだ排気ガスをまとめてそこから出しちゃうんだお」
ノパ听)「つまり、その時間にそこに行けば、誰にも気付かれずに料理が出来ると?」
( ^ω^)「そーゆうことだお、それじゃあ頂きますお……ハムッ! ハフハフッ! ハフッ!!」
ノパ听)「きめえwwwwwwwwwww」
268 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:50:39.38 ID:BSWw06Wt0
七月十五日、鮫島、同所
ノパ听)「これはこうやって、弾を一発づつ詰めて行く。で、これを本体にセットしたらスライドを引いて――トリガーを引き絞る」
( ^ω^)「!」
カチンという音と共に、拳銃の撃鉄が降りる
発砲音はせず、弾は出ない
ノパ听)「今のは空薬莢だから銃弾は出ないが……次の弾を使うと火薬の反動でスライドが後ろに押し出されて、
こうやって空薬莢が排出される。で、次の弾が自動的に装填される」
( ^ω^)「すげえお!」
ノパ听)「そうだなー、すげえなー……そうだな、コイツはお前にやるよ」
(;^ω^)「!?」
ヒートの狂言に、ブーンが目を見開いて驚く
一体彼女が何を考えているのか、ブーンには分からなかった――しかし、投げられた銃はしっかりキャッチして、ちゃっかり懐に仕舞い込んでいた
272 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:52:02.74 ID:BSWw06Wt0
ノパ听)「一人で島を脱出するんだろ? 人殺しをしろって言ってるんじゃない、有ると何かと便利だから持って行けって言ってるんだ」
(;^ω^)「で、でも……それじゃあヒートさんは……」
ノパ听)「実はもう一丁持ってるんだよ。その鞄をとってくれるか?」
(;^ω^)「あ……ど、どうぞだお」
ノパ听)「サンキュ、えーっと……あった、これだこれ」
ヒートが取り出したのは黒光りする大型のリボルバーだった
小柄な彼女が扱うとは思えないほど――
( ^ω^)「――すごく……大きいです……」
ノパ听)「嬉しいこと言ってくれるじゃないの……親父の形見のリボルバーでな、水牛を一撃で仕留めたこともある」
(;^ω^)「mjsk」
279 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:53:34.68 ID:BSWw06Wt0
ノパ听)「mjmj。その銃は官給品だし、私にはコイツがあるから要らない。大事に使ってやってくれ」
( ^ω^)「……分かったお、大事に使わせてもらうお」
ノパ听)「あ、これ予備のマガジンとホルスターな。マガジンは二本有るから両方渡しとく……それと、暴発しないように常に気をつけろよ?
薬室はいつも空にして、セーフティは絶対に掛けておけ。そうすりゃ暴発は滅多に起きん」
( ^ω^)「把握だ――おっ!?」
ブーンがマガジンとホルスターを受け取った瞬間、地響きがした
ノパ听)「ラウンジの砲爆撃か、ここ数日は治まったと思ってたんだが……いよいよかも知れないな」
( ^ω^)「いよいよ……? ラウンジ軍の上陸かお?」
ノパ听)「ああ、そうなれば私はラウンジに帰れて――お前をラウンジで保護してやれる。もうこんな過酷な日々を送らなくていいんだ」
( ^ω^)「……そうかお、それは――よかったお」
ブーンの言葉は先程とは打って変わって無機質な物だった
283 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:55:10.13 ID:BSWw06Wt0
そして後日、目を覚ますとそこにブーンの姿は無かった
私の荷物と、まだ温かい川魚の塩焼き、そして手紙が残されていた
――――――――――
284 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:55:37.49 ID:BSWw06Wt0
七月十五日、鮫島、北の砂浜
「ま、マジなんですかモナーさん……荒巻隊長がラウンジのスパイだって……!?」
「し、信じられねえ……あの荒巻さんが……何か証拠はあるんですか?」
「クックック……この手紙モナ」
「何々……"VIPは北の砂浜を第一上陸拠点と読んで、予定通りに防衛線を張っている。島の南から攻めればラウンジの勝利は確実"……う、嘘だろ!?」
「これ荒巻さんの字だよ……そんな……」
(クックック……これはモナーが一晩かけて荒巻の手紙から文字を写し取って書いたもの……偽造だと誰も気づかなくて当然モナ……後は荒巻を……ククク)
290 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:57:09.25 ID:BSWw06Wt0
七月十六日、鮫島、北の砂浜の南
/ ,' 3「モナー、そこに居るのか? こんな早い時間に何の用だ」
前日の夜、俺は小隊の副隊長であるモナーに呼び出されていた
何の用かは分からないが――とりあえず、奴は大事な話だと言っていた
故郷に居る家族のことだろうか? 奴とは村が一緒だから、どちらかが帰れれば、片方の家族には安否を伝えることが出来る
しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、奴はそんなことを話そうとはこれっぽっちも思ってなかった
( ´∀`)「……"何の用だ"、それはこっちの台詞モナ」
/ ,' 3「……何を言っているんだ? さっぱり分からんぞ」
( ´∀`)「ラウンジのスパイであるお前が、何でVIPの陣地に用があるんだと言っているモナ!」
/ ,' 3「!? 待て、何のことだかサッパリ分からんぞ。俺はラウンジのスパイなんかじゃ――ッ!?」
モナーの持つ拳銃が火を噴き、足元の地面に穴が開いた
( ´∀`)「次は当てるモナ……ククク、荒巻スカルチノフ少尉。お前をここで処刑するモナ!」
モナーが拳銃を構え直し、俺は反射的に横に跳ぶ
/ ,' 3「クッ! 血迷ったかモナー!?」
1秒前まで自分の心臓が在った場所を銃弾が切り裂いていく
咄嗟に避けていなければ、間違いなく死んでいた
294 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 22:58:44.67 ID:BSWw06Wt0
(#´∀`)「煩い! 貴様は昔からいつも! ずっとモナーの前に立っていて邪魔だったんだモナ!
お前が居るとモナーは実力を発揮出来ない、モナーはもっと力のある人間なんだモナ! お前の下でくすぶっている様な人材じゃないんだモナ!」
/ ,' 3「貴様ァッ!」
(#´∀`)「――ッ!?」
モナーが拳銃を撃つより早く、ライフルを構えて放つ
弾は本命こそ外したものの、相手の手から得物を弾き飛ばした
(#´∀`)「クッ……誰か! 誰かー!」
/ ,' 3「しまっ――クソがっ!」
VIP兵が駆けつけて来るより早く、俺は南へ駆け出した
こうなってしまった以上、もうあそこに戻ることは出来ない
目指すは先日まで歩いていた熱帯雨林
唯一の救いはラウンジ上陸への備えで、武器弾薬その他諸々とフル装備状態だったことか
――――――――――
299 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:01:03.68 ID:BSWw06Wt0
七月十七日、鮫島、村落南の森
森は静かだった
昨日まで熾烈を極めていた砲撃作戦はもう終了したらしい
ノパ听)「と、いうことは……ラウンジが上陸を始めたってことか」
体はもう十分動く、後はVIPの防衛線を突き抜けてラウンジ拠点に行くだけ
必要な物は鞄に詰め込み、ゴミは鍾乳洞に置いて来た
今、私は帰還への第一歩を踏み出した
――――――――――
302 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:03:06.39 ID:BSWw06Wt0
七月十八日、鮫島、村落
逃げてから二日目、追手を上手く避けながら村落まで辿り着く――
/ ,' 3「――っつっても、もう人は居ないから廃墟も同然だけどな……住人には悪いが、物色させて貰いますか……」
心の中で民家の住人に頭を下げ、台所を中心に物を漁り始める
目ぼしい物は既に兵士に持って行かれているようだが、それでも幾らかの食料品は残っていた
/ ,' 3「お、漬物発見――腐ってら……お、奥の方に芋が残ってるな……」
「その芋も腐ってる。こっちの床下倉庫の中にまだ大丈夫なのが結構残ってるぜ」
/ ,' 3「本当か!?」
二日間、ろくな飯も摂らずに逃げ続けていたので腹がペコペコだった
この発見は非常に大きい
/ ,' 3「よっしゃあ! これで暫くは飯に困らないな!」
「よし、早速食おう!」
二人はハイタッチして喜び、早速獲物に手を付けようとする――
303 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:03:31.03 ID:BSWw06Wt0
――ふたり?
307 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:05:06.63 ID:BSWw06Wt0
ノパ听)「いやー、ホント危なかったぜ。水も食料も切れちゃって死にそうだったんだ」
どうみてもラウンジの兵士です本当にありがとうございました
/; ,' 3「……」
ノパ听)「どうし――ノハ;゚听)「……アハハ」
ノハ;゚听)「アディオs/ ,' 3「動くな」
女の兵士だった
見た感じ、陸軍の服装ではない
それにここまでラウンジが押して来ている筈も無く――彼女は間違いなく、数日前まで自分の隊で捜索していたパイロットだ
310 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:08:16.42 ID:BSWw06Wt0
ノハ;゚听)「クッ、しくじったか……」
/ ,' 3「十一日前に鮫島上空で撃墜されたラウンジ機のパイロットだな? 本部――いや、今はもう違うんだったな……」
ノパ听)「?」
/ ,' 3「……俺に捕まったのが運の尽きだったな、諸事情でお前を本部に引き渡すことが出来ない。このまま俺に同行してもらうぞ」
ノハ;゚听)「なんかよく分からんが……アンタも割と面倒な事態になってるようだね」
/; ,' 3「……察してくれてどう――ッ!?」
女を後ろ手に縛り、民家から出ようとした時だった
見回りの兵士に見つかってしまった
「貴様ァ! 陸軍兵士がこんな所で何を――あ、荒巻スカルチノフかっ!? 誰か! 誰か――」
/; ,' 3「ッ、モナーの野郎……!」
咄嗟に拳銃を抜き、三発の銃弾で兵士の胸と腹を撃ち抜く
「――ガッ……ハァッ……」
急所に鉛弾を食らったVIP兵はその場で崩れ落ち、動かなくなった――絶命したのだろう
ついに言い逃れも出来ない状況になってしまった
311 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:09:23.79 ID:BSWw06Wt0
ノパ听)「……どうやら、私より遥かに面倒事みたいだ」
/ ,' 3「……ああ、ちょっと仲間に謀られてな。南の森へ逃げるぞ」
ノハ;゚听)「え、ちょ、私逆戻りっすか!?」
/ ,' 3「なんだ、お前さんずっとこの森に潜伏していたのか? ならどうして見つけられなかったんだろう……」
ノハ;゚听)「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
こうして俺とこの女の、奇妙な逃亡生活が始まった
――――――――――
318 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:12:01.60 ID:BSWw06Wt0
七月二十五日、鮫島、村落南の森
『こちら三班、目標はまだ見つからない。繰り返す、目標はまだ見つからない』
「クッ、愚図共が……戦闘ばかりの役立たずだけかこの島は」
前線でのラウンジ戦から外され、十五名の兵士を率いて森でのネズミ狩り
班を七つに分け、多方面から虱潰しに探しているものの未だに尻尾を掴む事すら出来ない
それどころか、あまつさえ――
『軍曹、聞こえていますか? こちら三班、目ひょ――』
――この始末である
これで二班、四人目の死者だ
先の二人は無線通信機に夢中になってる所を狙撃されて死亡していた――今回のこの、三班も同じだろう
「荒巻スカルチノフ……モナーの奴も厄介な奴を逃がしてくれたもんだ」
326 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:15:56.86 ID:BSWw06Wt0
状況的なことを考えると、モナーの行動はどこか妙だった
兵士から話を聞くと、一人で荒巻を殺そうとしていたらしい――恐らくはラウンジのスパイというのは狂言で、モナーは何らかの理由で荒巻を消したかったのだろう
しかし、現実に奴が敵となってしまった以上、迷惑を被るのはこちらなのだ
消すなら消すで、最後までキッチリとして欲しかった
「本当に厄介なことになっ――ッ!?」
肩を撃ち抜かれた
何処からだ?
右か、左か、開けた地形――否、森の中からか
「クッ――!」
そして目が合った――気がした
333 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:19:00.22 ID:BSWw06Wt0
その死神は絶妙の立ち位置で狙いを付ける
ストックはしっかりと肩に付けられ、体は銃と完全なまでに一体化していた
そして奴は静かに、冷徹にトリガーを引く
撃鉄が降り、薬莢から弾頭が飛び出す
薬室を抜けた弾はライフリングに沿って回転し、やがて銃口を真っ直ぐ抜ける
真っ直ぐ
真っ直ぐ
真っ直ぐ、頭へ
「ガァッ……ア……」
視界が、思考が真っ白になる
最後に見たあの死神は――笑っていた
――――――――――
337 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:21:59.78 ID:BSWw06Wt0
ノハ;゚听)「……」
一週間前から私を連れて歩くVIP兵――荒巻スカルチノフ陸軍少尉は実に恐ろしい男だった
/ ,' 3「……」
視界の悪い森の中、数十メートル離れた敵を――それもほぼ一撃で撃ち殺している
さらに性質が悪いのが、仮にも"仲間だった"VIP兵を表情一つ変えずに、ということだ
/ ,' 3「指揮官らしき男を殺った、これでしばらくは追手の足も止まるだろう」
撃たれる側からしてみれば、この男は笑いながら人殺しをしているようにも見えるだろう
/ ,' 3「……どうした? ここを離れるぞ」
ノハ;゚听)「……あ、ああ」
この男には躊躇というものが無いらしい
昨日の味方が敵になっても、瞬時にそれは敵であると割り切れるのだ
恐らく、コイツと一緒に居れば身の安全は保障されるのだろうが――全くもって生きた心地がしなかった
――――――――――
341 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:23:56.99 ID:BSWw06Wt0
七月二十六日、鮫島、鍾乳洞
/ ,' 3「こんな場所が……」
ノパ听)「ある少年が教えてくれた。ずっとここに隠れていたんだよ」
追っ手から逃れる中、そろそろ疲労も限界に達していた
そこで私は荒巻に、あの秘密の鍾乳洞に隠れようと提案した
/ ,' 3「少年? ……はて、この島に民間人は居ない筈なんだが――」
ノパ听)「……避難の船から放り出されたんだよ、それで鮫島に流れて来た」
/ ,' 3「――そーゆうことか……」
荒巻の面持ちが急に神妙になり、表情が曇る
VIP兵を躊躇い無く殺すくせに、未だにラウンジとも戦うと言ってる奴だ――まだ、VIP国民を守るという使命感だけは持っていたのだろう
ノパ听)「……お前が気にすることじゃねーよ、そりゃ海軍と空軍の責任さ」
344 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:25:12.20 ID:BSWw06Wt0
/ ,' 3「……フッ、それもそうだな……」
ちょっとした慰めのつもりだったが、軽く受け流された
やはり掴みどころの無い、嫌な奴だ
ノパ听)「……そーいえば、お前はなんで軍に入隊したんだ?」
/ ,' 3「うーむ……面白い話じゃないぞ」
ノパ听)「別に、気にしないからお姉さんに話してみって」
/; ,' 3「お姉さんって……」
どう見ても自分の方が年下だったが、そこはノリの問題なのでスルー
/ ,' 3「それじゃ、話すかね……何年前だったかな、確か俺が七つの頃だから……」
――――――――――
345 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:25:55.26 ID:BSWw06Wt0
東暦七八一年、VIP、小村
「――それでは父さん、母さん。士官学校で学び、立派な軍人になって帰って来ます」
二十年前、まだ毎日野山を駆けずり回って遊んでた頃だ
慕っていた二番目の兄貴が陸軍士官学校に合格し、単身上京することになった
/ ,' 3「……にーちゃん、どっか行ってしまうん?」
「スカルチノフ。チビにぃと力を合わせて、父さんと母さんを助けるんだよ」
チビにぃとは三番目の兄貴のことで、この日彼は祖父の家で手伝いをしていて居なかった――今思うと、顔を合わせたくなかったんだろう
/ ,' 3「にーちゃん……」
「お祖父さんにも伝えておいて下さい、それでは……」
この二番目の兄貴は俺に釣りや虫取り、兎狩りを教えてくれたりと一番好きな兄貴だった
――――――――――
347 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:26:48.93 ID:BSWw06Wt0
東暦七九一年
十七になった俺は、予ねてから考えていた事を両親に打ち明けた
/ ,' 3「親父、お袋。俺、士官学校受ける」
「「ハァ?」」
予想通りの返答が帰って来た
「お前なあ……兄貴の背中を追いかけるのも結構だが、現実をよく考えろよ」
「アンタこの前、学校の成績表になんて書いてあったと思ってるの? "もっと頑張りましょう"よ? 何夢見ちゃってんの?」
/; ,' 3「そ、それは……こ、これから一生懸命勉強するんだよ!」
「「どーだかねえ……」」
/; ,' 3「……」
そして1年後――俺は見事に不合格した
ちなみに同郷のモナーは合格し、見事入学を果たしたのだった
――――――――――
353 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:27:59.72 ID:BSWw06Wt0
東暦七九二年、VIP、公園
/; ,' 3「はぁ……」
合格発表から数日後、帰るに帰れなかった俺は公園で一人落ち込んでいた
宿泊代も尽き、残った金は夜行列車の運賃と僅かな小銭のみ――絶望的だ
「そこな若者よ、そんな顔をしちゃあイカン。何かお困りかね?」
話し掛けて来たのは小柄な老人だった、蓄えた口髭がなんとも言えないオーラを発している
/; ,' 3「え、ああ……実はですね……」
356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/27(月) 23:29:30.17 ID:BSWw06Wt0
そして俺はこの老人に自分の境遇を洗いざらい話し、これからどうすればいいのか分からないと伝えた
すると老人はこう言った
357 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:29:51.52 ID:BSWw06Wt0
「……ふむ。君、狩りはやったことがあるかね?」
/ ,' 3「? ……あります、一応」
「それならちょっと、私について来なさい」
/ ,' 3「……?」
俺はこのままここで時間を無駄にするよりはいいだろうと思い、老人について行くことにしたのだった
「車を出してくれ」
「ハッ」
そして俺は黒塗りの高そうな車に乗せられ
「ここいら一帯は陸軍の訓練場でな、普通の人間は入ることも出来んのだよ」
/; ,' 3「はぁ……」
小一時間ばかり揺られて
「ほれ、着いたぞ。お前さんの試験場じゃ」
/; ,' 3「……なんぞこれ」
終わったとばかり思っていた人生の分岐点に、初めて立ったのだ――
――――――――――
358 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:31:01.65 ID:BSWw06Wt0
/ ,' 3「――そこでいきなりライフル渡されて、目視で"あのスイカを三発以内で撃ち抜いてみ"って言われてだな。
百メートルぐらい先にあるスイカを指し示されて、最初はもう訳が分からんかった」
ノパ听)「……で、どうなったんだ?」
/ ,' 3「どうもこうも、一発目で銃の癖を掴んで二発目で目安を付けて、三発目で割ってやったよ。
そしたら"合格じゃ"って言われて、気が付いたら2ヵ月後に陸軍士官学校の入学式に居た」
ノハ;゚听)「どんだけ……」
/ ,' 3「後で聞いたら、その爺さんが実は時の陸軍大将殿でな。俺は運良く拾われたんだよ」
ノハ;゚听)
「……お前の人生、波乱万丈なんだな」
/ ,' 3「まーな。ホラ、今度はお前の番だよ」
ノハ;゚听)
「え? 私も話すのか!?」
/ ,' 3「? 当たり前だろ」
ノハ;゚听)「マジかよ……えーっと、だな……」
――――――――――
363 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:33:06.36 ID:BSWw06Wt0
東暦七八二〜七九五年、ラウンジ、素直家
「ヘイヒート! 父ちゃんお前のためにオモチャ作ってやったぞ!」
ノパ听)「わぁ飛行機だ! 父ちゃんありがとう!」
368 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:35:37.38 ID:BSWw06Wt0
「ヘイヒート! 父ちゃんお前のために誕生日プレゼント買って来てやったぞ!」
ノパ听)「わぁ"隻腕のフィレンクト"のDXアクションフィギアだ! 父ちゃんありがとう!」
373 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:37:03.52 ID:BSWw06Wt0
「ヘイヒート! 父ちゃんお前のためにバリボンの新刊買って来てやったぞ!」
ノパ听)「わぁ"バリー・ボンズと秘密のステロイド"だ! 父ちゃんありがとう!」
377 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:39:53.12 ID:BSWw06Wt0
「ヘイヒート! 父ちゃんお前のために昇格して来たぞ! 今日から大尉だ!」
ノパ听)「わぁスゲェ! 父ちゃんスゲェ!」
380 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:40:50.25 ID:BSWw06Wt0
「ヘイヒート! 父ちゃんお前のために我が家に代々伝わる例のお守りを持って来てやったぞ!」
ノパ听)「わぁ我が家に代々伝わるあのお守りだ! 父ちゃんありがとう!」
381 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:42:05.98 ID:BSWw06Wt0
「ヘイ……ヒート……父ちゃんお前のために……父ちゃんのリボルバー……残してやったぞ……」
ノハ;凵G)「父ちゃん! 父ちゃぁあああああああん!」
――――――――――
385 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:43:26.92 ID:BSWw06Wt0
ノパ听)「――そして私は愛する父ちゃんの背中を追って空軍に入隊、腕を上げてつい3ヶ月前に少尉に任官されたのだ!」
父ちゃんとの熱い思い出を語り終え、肩を上下させている私に対し
荒巻の反応はぎこちなかった
/; ,' 3「……まあ、なんというか……十人十色って言うしな」
ノパ听)「……なんだよその反応は」
全く失礼な奴だ
誰もが涙するあのハートフルストーリーを聞いて感動しないとは
/; ,' 3「いや? ……あ、そういやこれ返すの忘れてたな」
ノパ听)「これ?」
荒巻は私の視線をさらりと受け流すと、そう言ってポケットから何かを取り出した
/ ,' 3「これ、お前のだよな?」
388 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:45:34.42 ID:BSWw06Wt0
ノパ听)
「? なんだそ――ノハ;゚听)「!!!???」
突然荒巻が私に顔を近づけ、心臓が跳ね上がる
手は依然として縛られたままなので突き飛ばすことも出来ず、私はその場で固まってしまう
荒巻は何かをしているようだが――今の私に彼が何をしているかを考える余裕はなかった
荒巻は仏頂面をしているが悪い男じゃない、むしろどちらかと言えばいい男の部類に入るだろう――
――って、私は何を考えているんだ!
389 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:46:38.36 ID:BSWw06Wt0
……と言った具合にパニックを起こしていると何時の間にやら荒巻の作業は終わったようで、さっきまで座っていた位置に戻って私の首の辺りを指し示した
ノパ听)「……首? ――これ!」
首に掛けられた物――それはあの鉱石のお守りだった
どうやら荒巻は私の首にこれを掛けてくれたらしい
/ ,' 3「大事なお守りなんだろ? だったら首から提げて肌身離さず持っとけ」
ノパ听)「お前……」
てっきり、撃墜の時に無くしてもう二度と戻ってこないと思い込んでいた
凄く嬉しかった
ノハ*゚听)「……ヘヘッ、ありがとう!」
/; ,' 3「ん、お……おう」
私の中で荒巻の評価が少し変化した夜だった
――――――――――
392 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:48:23.09 ID:BSWw06Wt0
七月二十八日、鮫島、村落南の森
「おい、こんな所に洞窟があるぞ!」
「本当だ、知らなかったな……」
「中を調べてみるぞ、敵が潜伏しているかもしれん」
ノハ;゚听)「……」
息を押し殺し、太い柱の後ろに隠れた
入口の方から足音がコツコツと響いて来る
鍾乳洞の存在がついにVIPにバレたみたいだった
396 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:49:45.93 ID:BSWw06Wt0
/ ,' 3「ヒート」
声を潜めた荒巻が私を呼んだ
/ ,' 3「俺の合図で飛び出せ、敵の目を惹き付けるんだ」
ノハ;゚听)「……出来るのか?」
薄暗くてよく分からないが、荒巻は拳銃を構えているようだった
私を囮にして、敵兵を一瞬で皆殺しにするつもりなのだろう
/ ,' 3「俺を信じろ」
ノハ;゚听)「……」
短い間の沈黙が、永遠に近いほど長く感じられた
そして私は短く、答えた
ノパ听)「……信じたぞ!」
/ ,' 3「うん、いい返事だ」
398 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:51:19.77 ID:BSWw06Wt0
「ゴミが落ちてる」
「明らかな生活痕だな。まだそこら辺に隠れているかもしれん、警戒――」
三人の兵士がランプを持って接近、私の左右の地面がオレンジ色に照らされる
/ ,' 3「……行け!」
ノパ听)「おらあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「――噂をすればネズミか!?」
「撃つぞ!」
「待て、もうひと――りっ……」
「!? おい、しっか――がっ……はぁっ……」
ヒートに目を奪われた敵兵達は思わぬ伏兵から虚を突かれる
そして伏兵は彼らに慌てる間を与えることも無く――淡々と命を刈り取った
401 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:52:00.74 ID:BSWw06Wt0
「ッ……くぅっ!」
/; ,' 3「しまった、一人逃がした!」
しかし、殺したと思った内の一人が起き上がり、逃げ出した
このままでは増援をわんさかと連れて来られてしまう危険性がある
拙い、非常に――拙い
「本部……本部に――」
だが駆け出した敵兵に、真横から誰かが飛び掛った
ノハ#゚听)「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「――おぐぁっ!?」
ヒートだった
未だに手は縛られているものの、驚異的な脚力でジャンプ――見事目標を押し倒したのだ
403 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:52:56.13 ID:BSWw06Wt0
ノハ#゚听)「おらおらおらおらおらおらおらおらおらあああああああああ!!!!!」
「へぶっ! あばっ! ひぎっ! ぐえええっ!」
ノハ#゚听)「ふんがっ! ふんぬうっ! もるすあああ!」
「はぎっ! ぐげえぁっ! きゅきっ――あべしっ……」
ノハ#゚听)「……ふぅ」
/; ,' 3「……」
兵士の上に馬乗りになったヒートは相手の顔面にヘッドバットを連打
荒巻が遠目に見た兵士の姿は、額は割れ、鼻は折れ曲がり、それは無残なものだった
405 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:53:31.52 ID:BSWw06Wt0
ノパ听)「……ここはもう危ないな。そろそろ別の場所を探した方がいいんじゃないか?」
/; ,' 3「……ん、あ、ああ」
一方ヒートの頭は全くの無傷で、異常と言えば額に兵士の血がべっとりと付着しているぐらい
この女の頭はどんな構造をしているのだろうか?
荒巻はこの後一生、それについて考えることになるのだが――それはまた別のお話
/ ,' 3「西の海岸に同郷の奴らとの秘密の溜まり場が在ってな、そこに――」
突如、荒巻の話を割って鳴り響く轟音、怒号、そして悲鳴
/; ,' 3「――また敵か!?」
ノハ;゚听)「と、とにかく! 先ずはここを脱出しよう!」
――――――――――
408 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:54:24.59 ID:BSWw06Wt0
七月二十八日、鮫島、村落南の森
「クラウザーさん! VIPの部隊と遭遇、交戦開始しました!」
一人の屈強な兵士が指揮官に駆け寄り、大声で状況伝達をする
爪τ゚д゚|「ウム」
そして指揮官――には似つかわしくない、悪魔のような顔をした男が短く返事を返す
「行くぞ野郎共! あんなザコ共クラウザーさんが手を掛けるまでもないわ!!」
『SATSUGAIせよ! SATSUGAIせよ!』
男の掛け声で指揮官の周囲に控えていた部下達も盛り上がり、"殺害せよ"と連呼
全員の目が
頭が完全にイカれていることを、示していた
410 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:55:52.50 ID:BSWw06Wt0
/; ,' 3「……アレは……」
ノハ;゚听)「き、聞いた事が……ある……」
そして物陰から様子を伺っていたこの二人も――頭がどうにかなりそうだった
ノハ;゚听)「ラウンジ陸軍の中でも有名な、最も残虐性の高い部隊……その名も――」
――ラウンジ陸軍デス・レコーズ独立小隊第一分隊、通称DMC隊
分隊を率いるヨハネ・クラウザーU世大尉をある種の宗教の様に崇拝、驚異的な士気と戦闘能力を誇るラウンジ屈指の部隊
そんな悪魔の様な連中が今、目の前を行軍しているのだ
/ ,' 3「……拙いな」
ノパ听)「どうするよ……鍾乳洞に戻る訳に――」
ヒートが体のバランスを崩し、体が草木に当たって音を立ててしまった
ノハ;゚听)「――も……?」
/; ,' 3「……」
412 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:57:01.70 ID:BSWw06Wt0
「誰だ今の!?」
「向こうからだ!」
「敵か!? いや、この際どうでもいいか!」
「SATSUGAIせよ! SATSUGAIせよ!」
「SATSUGAIせよ! SATSUGAIせよ!」
『SATSUGAIせよ! SATSUGAIせよ!』
あの叫び声と共に、数多の銃弾が二人の頭上を掠めて行く
荒巻が咄嗟にヒートの頭を掴んで伏せ、なんとか避けることが出来た
ノハ;゚听)「……ご、ごめん……私のせいだ……」
/ ,' 3「いや、仕方ないさ……ただ、どうしたもんかな……」
荒巻が名案を思いつくのを待ってくれる筈も無く、茂みの向こうから鉛弾が嵐の様に降り注ぐ
414 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:57:43.86 ID:BSWw06Wt0
/; ,' 3「この状況だと逃げるのは困難だな……」
ノハ;゚听)「……ッ」
自分が情けなかった
新型機に撃墜されたことが
うっかり捕まってしまったことが
そして今、信頼出来る男を危険に晒してしまったことが
ノハ )「……荒巻」
/ ,' 3「ん?」
ノパ听)「私も――私も戦わせてくれ……!」
/; ,' 3「な……何言ってるんだお前? 捕虜を逃がす危険を秘めたことをする馬鹿がどこに居る!?」
ノパ听)「確かに……確かに私はラウンジ空軍の人間だよ。でもな――」
415 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:58:14.89 ID:BSWw06Wt0
息を大きく吸って、言った
ノパ听)「――ラウンジ兵だって言い張るには、長いことお前と一緒に居過ぎたんだよ」
ノパ听)「ちょっとお前のことを好きになり過ぎた!」
416 名前:ノパ听) ◆xPmNiQwsF. :2007/08/27(月) 23:59:47.57 ID:BSWw06Wt0
/; ,' 3「……!?」
そして荒巻が固まった
ノパ听)「? どうした、早く縄を解いてリボルバーを返してくれ!」
/; ,' 3「あ、え……あ、ああ」
荒巻はぎこちなく縄を解くと懐から愛銃を取り出し、返してくれた
私はそれを受け取り、西部劇の様に軽く回転させて調子を確かめた
/ ,' 3「……あれ? なんで俺、縄を……」
ノパ听)「よし、ここは私が引き受ける。荒巻は狙撃ポイントを探してくれ!」
/; ,' 3「あ、ああ……」
我に返った荒巻に指示を出し、私達はその能力を最大限に活かすべく動き始める
そしてその直前、荒巻が言った