( ^ω^)ブーンたちが戦場を駆け巡るようです
9 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:06:15.93 ID:txPOpYhS0
 今日もまた、一人の兵士が息絶えた。

 私のいる病室に担ぎこまれてきたとき、彼は既に虫の息だった。
 肉が大部分を抉られ、血が噴出し、傷口から肋骨が見え隠れしていた。

 まもなく、口周りに無精ひげを蓄え、汚れの目立つ白衣を着た軍医が病室を訪れた。
 軍医は一瞬顔をしかめ、モルヒネを投与するよう命じて、病室を去った。

 この一連の作業もずいぶん慣れてしまったのは、喜ぶべきことか、悲しむべきことか。
 私はほとんど無意識のうちに注射器を手に取り、静脈の位置を確かめ、注射器の先端を刺し、ピストンを押していた。

 兵士が、私の顔を見る。
 注射器を見てそれとなく悟ったようで、彼は枯れそうな声で「ありがとう」とだけ言い残して、安らかな顔で目を閉じた。

(* ー )「ありがとう……か」

 そんな優しい言葉なんか掛けてくれなくていいのに……。

(* ー )「いらないよ……そんな言葉」

 いっそ、この役立たずと汚く罵ってくれれば……。
 少しは、私の気分も楽になるのかもしれないのに。




12 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:08:08.05 ID:txPOpYhS0
 私たちは看護婦。たとえ、仮初めであっても、紛い物であっても、間違いなく看護婦。
 こんな私たちに救える命があるならと、躍起になって働くつもりだった。

(* ー )「何か役に……立ちたかったのに」

 しかし、戦場での私たちは、あまりに無力だった。

(* ー )「死んでいくのを、ただ見ているだけなんて……」

 私たちに出来るのは、兵士を逝かせてあげることだけ。
 できるだけ苦しまない、道理に適った方法で。

 結局、私の手では誰の命も救うことは出来ないのだろう……。




13 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:10:03.04 ID:txPOpYhS0





 (*゚ー゚)しぃは誰一人として救えないようです







17 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:12:01.95 ID:txPOpYhS0
 新斗山にもぽつぽつと山百合が咲き始めた、夏のある日のこと。

 家族そろって朝食を食べていると、激しく、というよりは乱暴に、ドアをノックする音が聞こえた。

「はいはーい、今行きますねー」

 母は手にしていた茶碗を机に置くと、すぐに玄関へと駆けて行った。
 一体、誰だろう。こんな朝早くに。
 私は、空になった茶碗を置き、「ごちそうさま」と手を合わせ、すぐに母の後を追う。

「今、開けますねー」

 母が鍵を外し、扉を開く。

(,,゚Д゚)「……朝早くに、失礼します」

 そこにいたのは、この照りつけるような日差しの下、小汚い薄緑色の生地の厚い服を着た男だった。
 背は高く、体を鍛えているのだろうか、体格はしっかりしている。
 それよりなにより、肩のあたりに入ったその刺繍に目がいった。

(,,゚Д゚)「……国軍のものです。これを、娘さんに」

 私も母も、ただ呆然とその手紙を受け取るしかなかった。





19 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:13:01.02 ID:txPOpYhS0
 手紙を貰った翌日から、学校では通常の授業を中止し、兵役に付くための訓練が行われることとなった。
 対象となるのは、村立鮫島中学校の生徒、四十人。
 男子は陸戦、女子は看護の仕事に回されるとのことだった。

 講習のためにやってきた衛生兵の話によると、VIPは現在、敵国であるラウンジと開戦秒読みの状態であるという。
 ラウンジがVIPへの石油の輸出を停止したことが原因らしい。詳しいことは、よくわからないけれど。

 ただ、訓練を受けていくうちに、少しずつ、少しずつではあるけれど、
今まで自分からは遠くはなれた存在だったはずの「戦争」というものが、近づいてくる気がした。



 訓練が始まってから、二週間ほどが立った。
 鮫島は相変わらず平和だ。
 私はいつものように、友達と並び、帰り道を歩いていく。



23 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:14:34.15 ID:txPOpYhS0
 訓練が始まってから、二週間ほどが立った。
 鮫島は相変わらず、あきれるほど平和だ。
 私はいつものように、友達と並び、帰り道を歩いていく。

(*゚ -゚)「……戦争って、本当に起きるのかな?」

 私が呟くと、ミセリが笑った。

ミセ*゚ー゚)リ「どうしたの? いきなり?」

(*゚ -゚)「ううん……なんとなく、ね」

ミセ*゚ー゚)リ「……何かあったの?」

(*゚ -゚)「何にも……ただ、ちょっと不安になっただけ」

ミセ*゚ー゚)リ「……変なの」

 ミセリはそうやって笑うけれど、実際にこうやって私たちが訓練しているということは、戦闘は思ったよりも近くにやってきているのではないか。
 そんな気がして、内心は不安で不安で仕方がない。

 でも…。
 口に出せば、なおさらこの日常が遠くなってしまう気がして、私はそれ以上、何も言えなかった。


25 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:15:44.84 ID:txPOpYhS0
 起きてしまうのだろうか、戦争が。

 もし、本当に起きてしまったら、私たちは……私は、どうするのだろう。

 考えたくもなかった。

 何をすることも出来ず、ただ逃げ惑い、戦争が終わるのを待つだけの自分を想像するのが、嫌だった。



 このときは、意識すらしなかった。
 戦場で生きるということが、どのようなことなのか。
 歴史の教科書の一ページでしか見たことのないそれが、どんなものなのかわからなかったから。



 焼け爛れる家、倒れる木々、そして、肉の焦げる、想像を絶する腐臭。

 「生」とは、幾ばくもの「死」の上に成り立っているものなんだ。
 ぼおっとする頭の中で、私はそう理解した。

                    ―――は瀬川書房 「鮫島の戦い」より抜粋―――




27 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:17:26.24 ID:txPOpYhS0
 ――島民を乗せた数隻の船は、港から真っ直ぐ北に進み、本土へ向かう。
 沖に出る頃には、母の振る手はもう見えなくなっていた。

 故郷を後にするものは、残された子の生存をひたすら願い、請う。
 軍が相手では、面と向かって文句を言ってやることもできない。だから、ひたすら請う。

 残された生徒たちは、何を思い、何を信じて戦うべきなのか。
 明日果てるとも知れない命を、誰がために燃やすのか。



 ほぼすべての島民が船で本土に避難し、島には軍隊と学徒隊、それにこの島を離れることを拒んだごく一部の島民だけが残された。

 男子二十名からなる「矢追学徒隊」、及び女子二十名で構成された「山百合学徒隊」は、
およそ三週間の訓練を終え、今日から兵役に就くこととなった。



 学徒隊も含め、衛生部隊(看護部隊)は村立病院を宿舎及び野戦病院として利用することになった。

 初日、山百合学徒隊は、大きく二つの行動班に分けられた。
 ひとつは、都村兵長率いるA班、もうひとつはギコ曹長の率いるB班だ。

 各生徒がどちらの班に所属することになるかが記された張り紙を見て、私は思わずため息をついた。



28 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:19:20.58 ID:txPOpYhS0
(*゚ー゚)「B隊……か。ミセリと分かれちゃったね……」

 少しナーバスな私をよそに、ミセリはいつもどおりの調子で応じた。

ミセ*゚ー゚)リ「ま、宿舎は共同みたいだから、そんなに気にすることないよ」

 その様子を見て、私はどこか言い知れぬ不安を感じた。

(*゚ -゚)「戦争が近づいてるかもしれないのに……なんだか、緊張感ないなあ」

ミセ*゚ー゚)リ「昔から、しぃは考えすぎなんだって。もっとリラックスしなきゃ」

(*゚ -゚)「……そうだね」

 もしかすると、ミセリの言う通り、自分は事態を重く受け止めすぎているのかもしれない。
 もう少し肩の力を抜こう。と、深呼吸をして、大きく伸びをした。
 なぜか息がつまる感じがして、肺一杯に息を吸うことができなかった。



 各班詰所に集まると、それぞれ管理官との顔合わせがあった。

(*゚ー゚)「……あれ?」



32 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:21:08.14 ID:txPOpYhS0
 その管理官の背は高く、体を鍛えているのだろうか、体格はしっかりしている。

(,,゚Д゚)「……帝国大学薬学部六年生、ギコ曹長だ。よろしく」

 小汚い薄緑色をした生地の軍服に身を包んだ彼は、見覚えのある青年だった。

 誰からともなく、黄色い声が上がった。

(,,゚Д゚)「静かに」

 青年……ギコ曹長は、その様子をみるなり顔をしかめ、張り上げるような声で言った。
 騒がしかった部屋内が、一瞬にして静まり返る。

 そして、隊長は小さく咳払いをすると、早口できっぱりと、しかし堂々と、きつめの口調で、言い放った。

(,,゚Д゚)「さて諸君、まもなく我が軍はラウンジとの交戦を迎えるだろう。
     我々の任務は、端的に言えば雑用だ。しかし、兵士の命を預かる仕事である。
     決して、手を抜くことがないように心掛けろ。何か問題を起こせば、女子供と言えども、例外なく体罰が飛んでくるぞ」

 その態度は、まだ少しだけあどけなさの残る井出達とは、まるで対照的で。

 また少し、いつもの日常が遠ざかった気がした。




35 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:22:24.90 ID:txPOpYhS0
 この時には、まだ気付いてすらいなかった。

 言い知れないような恐怖と、痛みと、苦しみと。
 この世のありとあらゆる負の感情を背負いながら、この戦争を生きていくということが、どのようなことなのか、また、それが何を意味するのか。

 私たちは、戦場で戦うにはあまりにも若くて、弱くて、無知で、脆くて……なにより、綺麗すぎた。



 鮫島島民を乗せて本土に向かった船のうち、一隻がラウンジの空爆によって沈められたと知ったのは、翌日の朝のことだった。





37 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:24:59.32 ID:txPOpYhS0
 隊長の報告に、教室に集められた二十人が、一斉にざわめき出す。

(,,゚Д゚)「―――朝の報告は以上だ」

 それは、あまりにも重く、信じがたく……非日常的で、残酷な言葉。

ミセ*゚ -゚)リ「船が……沈んだ?」

(* - )「……嘘……でしょ?」

 私は、隣で困惑するミセリや、その他大勢の生徒を尻目に、教室を出た隊長を追う。

(* A )「隊長! 隊長!」

 私の呼びかけに気付いたか、隊長は歩みを止め、こちらに振り向いた。

(* - )「……本当……なんですか? 船が……」

(,,゚Д゚)「何度も言わせるな」

 私の言葉が、隊長の低く鋭い声に遮られる。

(,,゚Д゚)「戦争は既に始まっている。何が起きても不思議じゃない」

(* - )「でも……!」

 ……それ以上、言葉が続かなかった。
 少し間の悪い沈黙の後、隊長が口を開く。



40 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:27:07.77 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「……しぃ、と言ったな」

 隊長は、視線をゆっくりと下げ、私と目を合わせて言う。

(,,゚Д゚)「……俺が上官で良かったな。ほかの奴だったら、お前は今頃裸に剥かれて鞭打ちの刑だ」

 その言葉に背筋が凍り、やっと我に返った。

(,,゚Д゚)「お前の気持ちは、わからんでもない。だがな、戦争とはそういうものだ。
    せめて、自分の家族だけでも無事に本島にたどり着いたんだと信じろ」

 私は、俯いたまま涙を流し、絞るように声を出し、言う。

(*; -;)「……しかし……大勢の命が失われていっているのに……そんなこと……」

(,,゚Д゚)「……まあ、良心が許さんかもしれんがな……。過ぎた事を嘆いても、仕方ない」

 隊長は懐中時計を取り出して時刻を確認すると、私に背を向けた。

(,,゚Д゚)「時間だ。俺はもう行く」

 カツ、コツと、規則的な足音が廊下に響き渡る。
 それは少しずつ小さくなり、やがて、消えていった。





42 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:28:58.71 ID:txPOpYhS0
 本土から送られた物資の仕分けをしながら、もう何度目かもわからないため息をつく。

(*゚ -゚)「はあ……」

 こんな気分は初めてだ。心配で、心配で、とにかく気が気じゃない……。
 そんな状態で行う作業など、当然捗るはずもなく……。

(゚、゚トソン「しぃさん、手がお留守ですよ?」

(;゚ -゚)「痛っ!」

 都村隊長に、頭を小突かれた。

ミセ*゚ -゚)リ「ねえ、しぃ……気持ちは分かるけど、今は、出来ることをやるしかないよ」

 隣で包帯をダンボールから出していたミセリのもっともな一言が、私の気持ちを逆撫でする。

(*゚ -゚)「分かってるよ、分かってるけど……」

 もしかすると自分の家族の、そうでなくても島民のみんなの命が危機に瀕しているというのに……。
 私たちには、何もすることができないのだ。
 それが歯痒くて、申し訳なくて……とても、居た堪れなかった


44 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:30:08.40 ID:txPOpYhS0
 夕方になると、膨大な量の段ボール箱も大半が空箱になり、なんとか作業も区切りがついた。
 薬品の仕分けをしていたギコ隊長が、小さく伸びをし、肩を回しながら言った。

(,,゚Д゚)「よし、明日の午前中には片付きそうだな……」

 衛生部には、薬品を扱える人間が両手で数えられる程度しかいないらしく、隊長はそういった面でも活躍しているらしい。
 さすが帝国大学在学だけあって、仕事は出来るみたいだ。

(,,゚Д゚)「少し早いが、今日の仕事はこれで切り上げるぞ。各自休憩して、七時から夕飯だ。それじゃあ、解散」

 隊長が告げると、それまで作業をしていた衛生兵が、わらわらと部屋を出ていった。



 夕食の支度をすべく、食料庫から材料を運んでいた途中。
 ちょうど、正面玄関を通りかかった時だった。

(;^Д^)「誰か! 誰か居ないか!」

 突然扉が開いたかと思えば、叫び声とともにVIP軍の軍服を身に纏った若い男が、病院に上がりこんできた。



46 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:32:46.99 ID:txPOpYhS0
(;^Д^)「誰か……あ、君は……学徒隊の子か?」

(*;゚ -゚)「は、はいっ! 何か御用ですか?」

 そして……男が背中に担いでいたのは……

(;^Д^)「この子を、お願いしたいんだが」

 滴り落ちる水滴、はあはあと激しく喘ぐ声、ほんの少しだけ蒼ざめた顔。
 ……紛れもなく、水に塗れた、一人の少女だった。



 その場を通りかかった隊長の助けを借り、担架で少女を病室へと運んだ。
 気を失っているけれど、様態は正常。外傷も大したことはない。
 処置は私が中心に行ったけれど、トラブルもなくすぐに終了した。

(,,゚Д゚)「これでよし。しっかし……随分綺麗な子だな」

 隊長が思わず、息を呑んで言った。


49 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:34:59.19 ID:txPOpYhS0
(*゚ー゚)「この子……リオンって言うんです」

(,,゚Д゚)「知り合いか?」

(*゚ー゚)「いえ、近くで見たのは初めてですが……昔から、美人で評判でした」

 ベッドに横たわるリオンの姿を見た。
 まだ少し水滴の残った彼女の身体は、御伽噺の人魚姫を彷彿とさせた。
 大袈裟かもしれないけれど、そのくらい、彼女は美しかった。

(,,゚Д゚)「しかし、良かったな」

(*゚ー゚)「はい、無事に済んで、本当に……」

(,,゚Д゚)「いや、それもそうだが……そうじゃなくてな」

 私の言葉が、遮られた。

(,,゚Д゚)「この子、船に乗ってた島民だろ? だったら……」

 そして、はっと気付かされる。

(,,゚Д゚)「船に乗ってた他の人にも、助かった奴はいるんじゃないか?」



51 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:36:19.70 ID:txPOpYhS0
(*;゚ o゚)「あ!」

 そうだ。確かに、そう捉える事もできるじゃないか。

(,,゚Д゚)「比較的、島に近いところで沈められたのかもしれないな……。或いは、海流にでも乗ったか」

 一旦会話が途切れ、隊長が自分の右手首を覗いた。どうやら、腕時計で時間を確認したようだ。

(,,゚Д゚)「さあ、いい加減飯の支度に戻るか。いくぞ」

 私は「はい」と返事をして、部屋を出る隊長を追った。

 先ほどまではあまり好ましくなかったはずの隊長の姿が、少しだけ、格好よく思えた。



 食事を終えてしばらくすると、件の若い男がここを訪れた。

 男の名前は、プギャーというらしい。
 私は早速、リオンさんの眠る部屋へ、プギャーさんを案内した。

(*゚ー゚)「いまは眠ってます。大丈夫ですよ」

( ^Д^)「そうか……ありがとう」

 プギャーさんは彼女の様子を見ると、私に礼を言った。
 思ったよりも、いい人のようだ。



53 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:39:08.16 ID:txPOpYhS0
(*゚ー゚)「リオンっていうんです」

( ^Д^)「リオンさんか、ありがとう」

 ……今の言葉は、私に向けられたのだろうか?
 「ありがとう」ということは、おそらくそうなのだろう。

(*゚ー゚)「私の名前じゃないですよ。あの人の名前です」

 私はそう訂正すると、髪留めを解き、その場にあった椅子に座った。
 夏場のこの地域は随分日の入りが遅いけれど、もうすっかり、外は暗くなっていた。

 しばらく会話を交わした後、プギャーさんは兵舎へと戻って行った。
 「あーあ、また叱られるだろうな……」なんて漏らしながらも、不思議と彼は満足気な様子だった。

 私も、仕事に戻らなければいけない。
 というのも、先ほどから浜に打ち上げられた島民が何人かここに運ばれてきて、急に仕事が出来たのだ。

(*゚ー゚)「さあ、忙しくなるな」

 そう呟きながら包帯を取る私の顔は、きっと、小さく笑っていただろう。





56 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:40:22.11 ID:txPOpYhS0
 夜。
 決まりとして、学徒隊は屋上の見張りを交代で行うことになっている。
 見張りと言っても、学徒隊にできることなんて大したことはない。申し訳程度のものだ。

 そして、私と組むことになっているのは……。

(,,゚Д゚)「よろしくな」

(*゚ー゚)「宜しくお願いします」

(,,゚Д゚)「どうした? 夕方と比べたら、えらい元気になったな? 何かあったか?」

(*゚ー゚)「何も……無いですよ?」

(,,゚Д゚)「ふうん」

 ふと隊長が、服の中から何かを取り出した。
 それは月の明かりに照らされ、ぎらりと鈍く、黒く光る。

(,,゚Д゚)「決まりだ。持っとけ」

(*;゚ -゚)「えっ……」



59 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:41:42.92 ID:txPOpYhS0
 伸ばされた手に、私は怯む。
 そう、隊長の手のひらの中のそれは、紛れも無く……人の命を奪う為に文明が生んだ、悲しい利器。

(,,;゚Д゚)「そうあからさまに嫌がるんじゃない」

(*;゚ -゚)「だ、だって!」

(,,;゚Д゚)「まあ……気持ちはわかるが、決まりは決まりだ。安全装置を外さない限り弾は出ないから。ほらっ」

(*;゚ -゚)「……はい」

 私はしぶしぶ、震える手で銃を受け取る。
 初めて手にしたそれは……とても重たく、冷たく……そして、金属の独特の手触りが、とにかく不気味で仕方なかった。

(,,゚Д゚)「……銃は、怖いか?」

(*;゚ -゚)「当たり前じゃないですか! 隊長は平気なんですか?」

 私が聞くと、隊長はフェンスに背をもたれさせ、コンクリートの床に腰掛けた。

(,,゚Д゚)「怖いと思った時期も、あったな……。まあ、今は平気だ。慣れてしまったからな」

 そして、ポケットから煙草を取り出して火をつけると、それを吸いながら話し始めた。



61 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:44:49.58 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「どうして、たかだかいち大学生の俺が、曹長まで成り上がっているのか……知ってるか?」

 その視線は私ではなく、どこか遠くを見ているように見えた。
 とすれば、それは私に向けられた質問ではないのだろう。
 少し間を置いて、隊長は続けた。

(,,゚Д゚)「俺は、最初兵科にいたんだ。そのときだった」

 そして急に私の方に向き直ると、あの低く重く、鋭い声で、こう言った。

(,,゚Д゚)「俺はこう見えて、武器の扱いは得意でな……そうだな、ざっと、十人位は殺しただろうな」

 私は、背筋にぞわぞわと寒気が走るような感覚を覚えた。

(,,゚Д゚)「その功績が認められて、曹長までのし上がったんだがな」

 そして嘲笑するように、隊長が聞く。

(,,゚Д゚)「どうだ? 目の前の男がもう十人殺してる極悪人だと思ったら、虫唾が走るだろう?」

 あまりにショックが大きく、私は何も言うことができなかった。
 隊長はそんな私には目もくれずに、白い煙を吐きながら、相変わらず遠くを見つめていた。



63 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:45:29.60 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「おっと、そうこうしてる内に交代らしいな」

 暫く、お互い無言で見張りに集中していると、隊長が言った。
 振り向くと、私と顔馴染みの女生徒が居た。

(,,゚Д゚)「ごくろーさん、お前はもう寝ていいぞ」

(*゚ー゚)「あれ? 隊長は?」

(,,゚Д゚)「俺はもう二人受け持ってから都村と交代だ。明日も早いぞ。さっさと寝とけ」

 ほら、と促されるままに、私は病院内への扉をくぐり、歩いていった。

 布団に入ると、みんなが周りに居るのに、どういうわけか少し寂しく思えて、なかなか寝付けなかった。




66 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:47:15.24 ID:txPOpYhS0
 鮫島に駐在している陸軍兵は、敵がいつ攻めてくるかわからないので、常に浜で見張りを行っている。
 学徒隊や衛生部も例外ではない。
 私は、照りつけるような真夏の太陽の下、白い砂浜を歩き回っていた。

(*;゚ー゚)「あついー……」

 水筒に入れた水をごくごくと飲みながら、見張りを続ける。
 幸い、鮫島は水源に富んでいるので、私のような学徒兵にもきちんと供給が回ってくる。嬉しいことだ。

(*;゚ -゚)「ふぅ……あれ? 何だろう……」

 ふと辺りを見渡すと、遠くの方に、何か大きなゴミのようなものが見えた。
 一体、なんだろう。

 駆け寄ってみると、それがゆっくりと、小さく動いているのが分かった。

(  ω )「……」

(*;゚ -゚)「ひ……人?」

 まだ幼い、男の子だった。背丈は私より少し小さい程度で、歳は十一か十二か、おそらくそれ程だろう。
 この子もリオンさんと同じように、沈められた船に乗っていたのだろうか。


68 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:49:24.06 ID:txPOpYhS0
(*;゚ -゚)「とりあえず……」

 私は、男の子を背中に担ぐと、隊長のもとへ向かった。

(*;゚ -゚)「隊長ー!」

(,,゚Д゚)「おー、どーした?」

 望遠鏡で地平線を覗いていた隊長は、こちらに振り向くなり、私の背中の男の子を見ると、形相を変えて言った。

(,,;゚Д゚)「……お前、何してるんだ? ……それ、死体か?」

(*;゚ー゚)「いえ! ちゃんと、息があります!」

 物騒なことを言う隊長の言葉を慌てて否定する。

 その時だった。



 突然、あたりにサイレンのけたたましい音が鳴り響いた。




70 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:50:50.55 ID:txPOpYhS0
(,,;゚Д゚)「くっ! 敵艦隊が近づいてくるぞ!」

 私は、慌てふためく。

(*;゚ -゚)「ど……どうしましょう!」

(,,;゚Д゚)「とりあえず、お前はそれを病院に連れてけ! 処置は任す! あと、怪我人を受け入れる用意をしとけ!」

(*;゚ -゚)「は……はいっ!」

 隊長に言われるがまま、私は男の子を担いだまま、学校へと走っていった。
 深い森の中、草木に足を取られながらも、とにかく走った。

 遠くの方で、二、三度、爆音が響いた。続いて、銃声も。

(*;゚ o゚)「いやぁっ!」

 いったい、私の身体のどこにこんな力があったのか。
 私はまるでその恐怖から逃れるように、無我夢中のままとにかく走った。

 やがて、舗装された道に出て、学校が見えてきた。

(*;゚ o゚)「はあ……はあ……」



72 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:52:19.80 ID:txPOpYhS0
 息も絶え絶えに病院の中へ入り、ベッドの上に男の子を寝かせると、私はベッドに寄りかかって、へたり込んだ。


 婦長さんに状況を説明し、すぐさま包帯や薬品の準備に取り掛かる。
 そのうちに衛生部隊が戻ってきた。担架に運ばれ、怪我人が次々と担ぎ込まれ、ベッドは埋まっていく。
 その手当てに追われながら、私はふと、聞こえてくる音に耳を傾ける。

 年中を通して小鳥のさえずりが聞こえていた鮫島。
 今はどれだけ耳を澄ましても、必死に聞き取ろうとしても……火薬の弾ける音しか聞こえてこない。

 しばらく、爆撃音が後を絶たなかった。きっと近海では、激しい砲撃が行われているのだろう。

 もし、二年前のラウンジとの衝突のときのように空軍が動き出せば、この学校は……。
 いや、この鮫島全体が、一瞬にして火の海に飲み込まれるのではないだろうか。
 そして……何もかも灰になって消えてしまうのではないだろうか。

 そう、それこそ……私たちが生きていた証など、何も残らずに。



74 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:53:29.94 ID:txPOpYhS0
 嫌な想像が次から次へと溢れては、私の脳髄を満たして行く。
 それを打ち消すように、思い切り首を振り、頬を叩いた。

(*゚ー゚)「考えていても、仕方ないよね……」

 ベッドの少年に、視線を落とす。

( -ω-)「Zzz……」

 この島で戦う兵士さん、命からがら沈んだ船から戻ってきた、島民のみんな。
 毎日多くの人々が命を落とすこの戦場で、一人でも多くの命を救えるように、私達は最善を尽くさなければいけない。

 私より小さい子だって、こうやって、必死に生きようとしてる。私が頑張らなくて、どうするんだ。
 そう自分に言い聞かせ、奮い立った。


76 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:54:55.53 ID:txPOpYhS0
 夕方になって、やっと砲撃の音が止んだ。
 ラウンジ軍は撤退したようだ。VIP軍の戦艦を迎えるため、港に向かった。

 戦艦はかなり砲撃を受けたのか、あちこちに大きな穴が空いていて、素人目にもダメージの大きさが見て取れた。
 搭乗していた兵のうち、負傷した兵が担架に乗せられ、次々と病院へ運ばれていく。

 いったい、どれだけの数の兵が、運ばれていったのだろう……。
 負傷兵の運搬を終えて病院に戻ると、予想通り、かなりの数のベッドが埋まっていた。



(,,゚Д゚)「おい、学徒隊。集合してくれ」

 しばらく怪我人の手当てをしていると、突然、部隊全体に隊長からのお呼びがかかった。
 二人の隊長に促されるがまま、私たちは病院の外に集められる。

(,,゚Д゚)「よし……やっと全員揃ったな」

 周りを見ると、既にほかの衛生兵も集まっていた。
 一体何が始まるだろうと思っていた矢先、隊長が口を開いた。

(,,゚Д゚)「早速だが……お前たちには、死体処理をしてもらう」





79 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:56:05.17 ID:txPOpYhS0
 百聞は一見に如かず。
 想像はしていた。話にも聞いた事はある。
 講習のときに、衛生部は「そういう仕事」を任されることもあると聞いていたから、ある程度は覚悟もしていた。

 けれど……。
 実物を見た時のショックと言うのは、やはり計り知れないものだ……。

「おええぇえぇぇぇぇええぇ……」

 数十分後、トイレで激しく嘔吐している私がいた。



 トイレから出ると、隊長に出くわした。

(,,゚Д゚)「どうした? 気分悪そうだな」

(*;゚ -゚)「よく言いますね……あんな仕事をしたら、誰だって……」

 焼け爛れた皮膚。まるで獣にでも引き千切られたような五体。
 そして、極めつけは腹部から飛び出した、奇妙な色の内臓……。
 ううっ、思い出しただけで、吐き気が止まらない。

(,,゚Д゚)「そうか……」

 隊長は少しだけ困惑したような顔を見せた。



82 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 21:58:50.74 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「吐き気を催してるところすまないが、多分明日もあるぞ?」

(*;゚ -゚)「え……ええぇぇっ!!」

 ああ、もういったい何度目だろう。また、自分の耳を疑った。
 冗談じゃなかった。
 あの作業を、明日も……いや、明後日も、きっとその次の日も……これから毎日のように、繰り返していくというのだろうか。
 ……想像しただけで、今日食べた物をすべて戻してしまいそうだ。

(,,;゚Д゚)「ほっとくわけにもいかんだろう……。変な伝染病でも起きたら、笑い事じゃ済まないんだぞ?」

(*;゚ -゚)「でも……」

(,,゚Д゚)「それに、考えても見ろ。あんなのがゴロゴロ転がってるところで仕事するなんて……俺は、そっちの方がずっと嫌だが」

(*;゚ー゚)「う……」

 確かに……それは、かなり……いや、すごく、嫌だ。

(,,゚Д゚)「このクソ暑い鮫島で、しかも季節は夏ときてる。死後硬直から死体が腐るまでなんて、あっという間だぞ?」

 あの禍々しいタンパク質の塊が、腐敗して変色し、猛烈な腐臭を放っているのを想像した。
 もはや、嘗て生きていたものへの敬意など微塵もない。
 再び、吐き気が戻ってきた。


84 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:00:09.10 ID:txPOpYhS0
 思わず、口を押さえながら、言う。

(*;゚ -゚)「昨日の今日で……あんまり気分の悪い話ばっかりするの、やめてください」

(,,゚Д゚)「すまんな。悪ノリが過ぎた。……ああ、そうだ」

 思い出したように、隊長が言った。

(,,゚Д゚)「今日から村営銭湯が動くらしい。
     学徒隊は後回しになるらしいが……その汗まみれの身体を洗えば、ちょっとはすっきりするんじゃないか?」

 銭湯か……。
 そういえば、もう何日もお風呂に入っていない。肌もカサカサして、あちこち痒い。ちょうどいい機会だ。
 隊長の言うとおり……少しはこの気分も晴れるかもしれない。

(*゚ー゚)「……わかりました。わざわざ、どうもありがとうございます」

(,,゚Д゚)「なんだ? 嫌に機嫌が良くなったじゃないか?」

 隊長はニヤっと笑みを浮かべながら、私を揶揄した。

(*゚ー゚)「なんとでも言ってください」

 私も、口角をつり上げたままそう言い返して、軽い足取りで仕事へと戻っていった。





87 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:01:38.39 ID:txPOpYhS0
 夜も九時を回ったころ。ようやく、入浴の番が回ってきた。

 入場の際に一人一つずつ石鹸が支給されたけれど、隊長曰く、島に居る間はこの一つで凌げとのことだった。
 大切に使わなければいけないな、と思いながら石鹸を泡立て、全身を隈なく洗う。
 浴槽から汲み上げたお湯を頭から被り、泡を流してから浴槽に浸かった。

ミセ*゚ー゚)リ「お風呂なんて、久しぶりだねぇ」

 ミセリは私の隣で、ばしゃばしゃと激しく水音を立てて泳いでいる。

(*;゚ー゚)「気持ちは分かるけど、お行儀悪いよ」

ミセ*゚ー゚)リ「水に漬かるの、久しぶりだもん。泳ぎたくもなるよ」

 ふと、ミセリが泳ぐのをやめたかと思うと、水面で手のひらを組み合わせて、

ミセ*゚ー゚)リ「くらえー!」

 強く握ったかと思うと、同時に、そこから勢いよく水が放たれた。

(*;゚ -゚)「うわっ!」

 思わず、私は後ろに飛び退いた。
 小さい時、お風呂でよくやった水鉄砲だ。

(*゚ー゚)「……懐かしいね、それ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、よくやったよね。水泳の時間とか……」



88 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:03:38.62 ID:txPOpYhS0
 ミセリの言葉で、去年の今頃、体育の授業で水泳を行っていたことを思い出した。
 うちの学校にはプールが無いので、水泳の授業は海で行われる。
 基本的に、授業の時間は自由に泳いでよいことになっていて、よく男子が遠くまで泳ぎに行っては怒られていた。

 しょっぱい海の水を舐めながらも、皆で海を泳いだあの時は、たかが授業の一環に過ぎないけれど、今思うと本当に楽しかった。

ミセ*゚ -゚)リ「ね、しぃ」

 ミセリは、いつもの明るい様子からは想像もできないくらいに寂しげな顔で、言った。

ミセ*゚ -゚)リ「戦争が終わったら、また……みんなで揃って、海で泳げるかな?」

(*゚ー゚)「……どうしたの? いきなり」

 その様子があまりにも珍しかったから、私は気になって、そう尋ねた。

ミセ*゚ -゚)リ「昼間の……兵士さんたちを見て、しぃはなんとも思わなかったの?」

 嫌な物を、思い出した。
 焼け爛れた皮膚、まるで布切れのように破れた腹部、そして、そこから飛び出る、不気味に蠢く内臓……。
 絶対に思い出すまいと思っていたのに、ミセリの言葉を聞いて、やはり想像せずにはいられなかった。

(*;゚ー゚)「……大丈夫だよ。きっと。それに、私たちは直接戦うわけじゃないんだし……男子だって、補給の仕事が中心だって」

ミセ*゚ -゚)リ「その保障は……」

 ミセリは声を震わせながら、言う。



91 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:05:13.71 ID:txPOpYhS0
ミセ*; -;)リ「どこにも……ないよね」

 そしてとうとう、泣き出してしまった。

(*;゚ -゚)「だからって、悲観的になっちゃいけないよ。落ち着いて」

 今は、出来ることをやるしかない。そう言っていたのは、ミセリじゃないか。
 そう口にしようかと思ったけれど、やめた。
 もともと感情の浮き沈みの激しい子なのだ。責めれば、途端に崩れてしまう。
 そうなれば、余計ややこしいことになりかねなかった。

 ミセリの肩に手を沿え、精一杯に慰めの言葉を掛ける。
 けれどミセリは、やはり泣き止むことなく嘆き続ける。

ミセ*; -;)リ「もし、ラウンジが病院まで乗り込んできたら……私たち、きっと殺されちゃうよね……」

(*;゚ -゚)「そんなこと……」

 考えるなと言う前に、ミセリが堰を切ったように、早口で喋りだす。

ミセ*; -;)リ「私たちだけじゃないよ、入院してる兵士さんも、隊長も、ほかの衛生部の人たちも……。
       みんな、みんな、みんな、死んじゃうんだよ……」

(*;゚ -゚)「落ち着いて! お願いだから、落ち着いてよ!」



94 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:06:47.02 ID:txPOpYhS0
 だんだん、場内がざわめき出す。
 既にほとんどの人は上がっていて、浴場には、私たちを含め数人しか居なかったけれど、
その全ての視線が、哭するミセリに、そして、それを抑える私に向けられていた。

「しぃさん」

 私がどうすることもできず、困惑していると、後ろから背後から声が聞こえた。

(*;゚ -゚)「はい?」

 振り向くと、そこに、一人の女性が立っていた。
 誰だろうと一瞬だけ困惑して、すぐにはっと気付いた。
 いつもは後ろで一まとめにしている長髪を、今は解いて下ろしているので、分からなかった。
 けれど……この、優しそうな目の奥の、意志の強そうな瞳は、彼女に間違いない。

(゚、゚トソン「少し、どいてください」

 都村隊長だった。

(*;゚ -゚)「は、はあ……」

 促されるまま後ろに下がると、隊長は前に出て、ミセリと正面から向かい合う。



97 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:08:58.72 ID:txPOpYhS0
 そして、右手を大きく上げたかと思うと……
 そのまま勢いよく、ミセリの頬を目掛けて振り下ろした。

ミセ*;゚ -゚)リ「痛っ……」

 鋭い音が、場内に響いた。
 見ると、ミセリの頬に手形の赤い跡が出来ていた。数瞬遅れて、彼女が慄いた。

(゚、゚トソン「嘆きたいのは、皆同じです。弱音を吐くのも大概にしなさい」

 隊長はそれだけ言うと、浴槽から上がり、その場を後にした。

 私もミセリも、それからは何も話すことなく、ただ呆然と、静まり返った場内で浴槽に浸かっていた。




99 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:10:23.65 ID:txPOpYhS0
 見張りの時間、先ほど銭湯であったことを、隊長に話した。

(,,゚Д゚)「気持ちはわからんでもないが、露骨に態度に出すのは、あまり感心しないな」

(*゚ -゚)「ですけど……」

(,,゚Д゚)「相手が都村で良かったな。平手打ち一発で済んだんだから。その辺が、都村の優しさと言うか、器量の多さと言うか……。
     まあ、ただ単に上層部の連中が頭固すぎるだけかもしれんが」

 煙草を吸いながら、隊長が答える。
 ……そういえばこの人は、どうしてこうも緊張感がないのだろう。
 いつ死ぬとも分からない戦場に居るのに、なぜこうも、平然としていられるのだろう。

(*゚ -゚)「隊長は……」

(,,゚Д゚)「ん?」

(*゚ -゚)「隊長は、怖くないんですか?」

 思えば、昨日もそうだった。
 死体処理をしているときも、ほかの衛生兵は苦い顔をしているのに、なぜかこの人だけは平気な顔をしているのだ。

(,,゚Д゚)「怖いって、何がだ?」

(*゚ -゚)「……死ぬこと、です」


101 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:11:56.52 ID:txPOpYhS0
 隊長はもともと、兵科にいたと言っていた。死の恐怖については、多少の慣れがあるのかもしれない。
 でも、いくらなんでも、慣れすぎているというか……とにかく、いろいろな面で、よくわからない人だった。

 隊長は相変わらず、緊張感のない面持ちで煙草を踏みつけ火を消すと、今度は逆に、私にこう尋ねた。

(,,゚Д゚)「死ぬって、そんなに怖いことか?」

(*;゚ -゚)「そんなって……当たり前じゃないですか!」

 一体、何を達観したようなことを言ってるのだろう、この人は。
 時々、隊長の言動に無性に腹が立つ。

 二本目の煙草に火をつけながら、隊長が呟いた。

(,,゚Д゚)「俺はある意味、生きることを諦めてるからな……」

(*゚ -゚)「……え?」

(,,゚Д゚)「いや、あんまり深い意味はねえよ」

 煙草を銜えながら、隊長は話を続ける。



103 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:12:48.90 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「どちらかと言えば、自分が死ぬことより、周りの連中みんなが死んで、自分だけが取り残されることの方が恐ろしく思えるな」

(*゚ -゚)「そういう、ものですかね……」

(,,゚Д゚)「今にわかるさ」

 隊長は煙を吐き出して、そして、こう付け加えた。

(,,゚Д゚)「特にお前は、人が良さそうだからな」

(*゚ー゚)「……褒めてるんですか? それは」

(,,゚Д゚)「褒めてるとも言えるし、皮肉ってるとも言える。まあ、ただ一つ、はっきり言えることは……」

 いつもはどこか飄々としている隊長の顔が、少しだけ、険しくなった気がした。

(,,゚Д゚)「人を助けたいと本気で思うなら、半端な優しさとか、情けとか、感情は、無いほうが良いってことだな」

 隊長の言ったことが、いったい何を意味するのか。
 このときはまだ、私には分からなかった。





105 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:14:42.01 ID:txPOpYhS0
---7月9日---

 リオンさんの意識が回復した旨をプギャーさんに伝えた直後だった。
 ほんの少し目を離した隙に、あの男の子がベッドの上から姿を消していた。

(*;゚ -゚)「ここにも、いない……」

 私は薄暗い病院内を走り回り、彼を探していた。
 お腹が減ったと嘆いていたので、食料庫にでも忍び込んだかもしれないと思っていたが、生憎、そこには彼の姿は無かった。

(*;゚ -゚)「いったいどこに……ん?」

 ふと見渡すと、部屋の片隅に積み上げられたダンボールのうち、ひとつが乱暴に開けられていることに気付いた。
 穴から中を覗けば、缶詰がいくつか減っているのがわかった。

(*;゚ -゚)「食料を持って……逃げ出した? そんな……」

 まさか、と思った。
 近海では、VIP海軍とラウンジ海軍が激戦を繰り広げているのだ。いつ鮫島に戦火が飛び火しても、おかしくない。

 そんな状況下、たった一人で逃げ出すなんて、馬鹿げている。
 そう思ったけれど、状況から考えると、やはり間違いはなさそうだった。



107 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:15:55.01 ID:txPOpYhS0
 私は捜索を諦め、仕事に戻る事にした。
 玄関でプギャーさんに会い、リオンさんの位置を伝えてから、持ち場につく。

 けれど、なかなか集中力が取り戻せない。
 ふとした瞬間にあの男の子のことが脳裏に浮かんで、つい考えてしまうのだ。

 彼は無事なのか。どうしているのか。
 道に迷うことはないだろうけど、もしかすると、今こうしている瞬間にも、敵軍が上陸して、彼の命が危険に晒されているのかもしれない。

「……おい!」

(*;゚ -゚)「は……はいっ!」

 誰かの呼ぶ声で、はっと気付く。

(,,゚Д゚)「聞いてるのか? 包帯と鎮痛剤、切れそうだから持って来い」

(*;゚ -゚)「あっ……はい、わかりました」

(,,゚Д゚)「しっかりしてくれよ?」

(*;゚ -゚)「すみません……」

 私は深く頭を下げ、慌てて倉庫へと走り出した。
 その間にもやはり……あの男の子のことは、頭から離れてくれなかった。

 結局この日は、ミスしては怒られ、ミスしては怒られてを繰り返して、過ぎて行った。




109 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:17:59.99 ID:txPOpYhS0
---7月10日---

 結局その晩は、折角見張りが休みだったのに、ほとんど寝つけないまま夜が明けた。

(,,゚Д゚)「おー、おはよー……」

 目を擦りながら、隊長が歩み寄ってきた。

(゚- ゚*)「……おはようございます……」

(,,;゚Д゚)「……挨拶くらいこっちを向け」

 私の顔を無理矢理前に向け、目を合わせるなり、隊長は言った。

(,,゚Д゚)「……泣いてたのか?」

 私は無言のまま、小さく頷く。

(,,゚Д゚)「昨日の男の子のこと、まだ気にしてるのか?」

(*゚ -゚)「……」

 はい、と言おうとしたけど、どうも喉の調子が悪くて、はっきり声が出ない。
 小さく頷いて、意志を示した。

(,,゚Д゚)「お前のせいじゃない、気にするな。腹が減ったら、すぐにでも戻ってくるさ」

(*゚ -゚)「だと、いいですけど……」


111 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:18:33.64 ID:txPOpYhS0
(,,;゚Д゚)「……いつからそんなにネガティブになったんだ?
     とにかく、お前は一応大事な人材なんだから、ちゃんと働いてくれないと困るぞ?」

 呆れたような表情でそういった後、隊長が続けた。

(,,゚Д゚)「……全体の安全を確保するために一人を切り捨てるなんてことは、命の遣り取りをする場じゃ日常茶飯事だ。
    それは、戦場に限った事じゃない。病院でも、だ」

(*゚ -゚)「……」

(,,゚Д゚)「別に、見捨てろって言ってるわけじゃない。けどな、ここに居る間は、いろいろと汚い物を見るだろうよ。
    国の命運も係ってる。非情になることも、時には必要だ。だからな……」

 そして、私に背を向け、言う。



115 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:20:54.01 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「――ったく、手の掛かる部下を持つと、苦労するわ」

 俺は休憩室で煙草に火をつけながら、そう吐き捨てた。

(゚、゚トソン「あの、しぃという子ですか?」

 傍に居た都村が、すかさず言った。

(,,゚Д゚)「……ああ、そうだ」

(゚、゚トソン「明るく元気で、誰にでも優しく接するいい子だと見ています」

(,,゚Д゚)「きっと……苦労するだろうな」

 火の付いたそれを銜えると、国産の安っぽい味が口の中に広がる。
 少し間を置いて、都村が言った。

(゚、゚トソン「あまり、人のことを言えた義理ではありませんがね」

 まったく。
 言動一つ取っても癪に障るな、このメンヘル女は。

118 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:22:16.48 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「お前に言われなくても、充分承知してる積りだが」

(゚、゚トソン「……失礼致しました。では、私は先に行きますので」

 都村が扉を開く。
 俺は黙って、煙草を吸う。

(゚、゚トソン「……隊長」

(,,゚Д゚)「……なんだ?」

(゚、゚トソン「仲間に情を持つと、苦労しますね」

 それだけ言い残して、都村は休憩室を後にした。

 ……本当に、いちいち癪に障る女だ。
 黙ってりゃあ、美人なんだがな……。



(,,゚Д゚)「そういやあ、お前のカーチャンも美人だったよな。黙ってれば」

 俺は窓を開けて、雲の上の幼馴染に語りかけるように呟き、笑う。

(,,゚Д゚)「空軍に入って戦闘機に乗り込んだっきり、そのまま帰ってこないなんて、冗談が過ぎるぜ。まったく……。
    ……カーチャン、きっと今頃、家で泣いてるぞ。この親不幸者が」

 俺はなおも独り言を呟き続けながら、煙草をふかした。


122 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:24:42.29 ID:txPOpYhS0

 ――ここで働き始めてから、随分と日時が経過した。


 少しずつではあるけれど、仕事にも慣れてきた。……相変わらず、死体処理の仕事は行くたびに吐き気を催すけれど。
 少なくとも普段の仕事はしっかりこなせるようになったし、それなりに皆の役に立てるようになってきた気がした。


 無事に退院して戦線に戻る人も居れば、致命傷を負い、病院内で死んで行く人も少なからず居た。
 人の最期に立ち会ううち、この戦争の惨い現状を、自分なりに受け止められるようにもなっていった。


 辛いことは多々あるけれど、いつも笑顔で居るように徹した。
 それが出来るようになるくらい、心には僅かではあるけど、ゆとりが生まれていた。


 ギコ隊長は、たまに嫌な冗談を言ったりするけど、気さくで面倒見のいい人だ。
 辛いとき、苦しいとき。
 何かあればいつも傍に居て、私たちの感情を何でも受け止めてくれた。


 都村隊長は、いつも無表情で、よくミセリたちを叱ったりしていて怖い印象があるけど、本当はいい人だ。……多分。
 この人とはあまり話したことがないので、よくわからない。
 けれど、よくミセリたちを叱っているところを見ると、きっと部下思いな人なんだろう。



123 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:25:49.29 ID:txPOpYhS0
 プギャーさんは、なんだかんだで毎日リオンさんに会いに来ている。
 最初の頃は、リオンさんに対して酷いことを言ったりして、会うたびに「ものすごく口が悪い人だ」と思ったものだ。
 けれど、三人で話したりするうちに、彼が本当にリオンさんを想っているのだということがわかった。


 一方のリオンさんは、相変わらず綺麗だった。
 それどころか、ここの数日は一段と艶やかになったようにも見える。

 普段は折れてしまいそうなほど繊細なのに、プギャーさんと会うときは、露骨なまでに元気になるのだ。
 プギャーさんと同様、彼女もプギャーさんのことを想っているのだろう。
 殺伐とした戦場の中でも、二人には是非、愛を育んでいって欲しい。




125 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:26:06.02 ID:txPOpYhS0
 戦いが始まってから、様々な人との出会いがあった。
 皆に支えられて、私は危うくもここに立っている。



 だから……。
 どうしても、耐えることができなかった。

 私を支えてくれる人達が、命を落としていく様が、信じられなかったんだ。




128 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:27:23.06 ID:txPOpYhS0
---7月14日---

 ―――このまま何事も無く戦争が終わればいいと、柄にも無く祈った。
 仰いだ神様に唾を吐かれたのは、奇しくもその日の真昼だった。

 一人の兵士が、息を切らして病院へと駆け込んでくる。

「空襲だー! ラウンジの空襲だー!」

 途端に、病院内が騒然とした。

 タイミングが悪かった。
 先ほど、ギコ隊長率いるB班を含む大勢の衛生兵が、物資の補給のためベースキャンプに向かったばかりなのだ。
 残っている者だけで、怪我人の退避をしなければならなかった。

 軽症の患者の運搬が最優先された。
 それが終わるとようやく、今度は、自分では動けない重症の患者の運搬が開始された。

(゚、゚トソン「ミセリさん、こちらに来て、手伝ってください!」

ミセ*;゚ -゚)リ「は……はい!」

 タイミングが悪かったとはいえ、ここは医療施設。まず空爆を受けることは無いはずだ。
 加えて、以前も空襲警報は何度かあったものの、いずれも何事も無く終わっていた。
 そのためか、緊急事態でありながらも、不思議と皆、落ち着いている。


131 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:28:31.72 ID:txPOpYhS0
(゚、゚トソン「せーの、で持ち上げますよ。せーの!」

 けれど……なぜか、どうしても。
 私は、この背筋がゾクゾクするような悪寒が、どうしても拭えなかった。



 今思えば、私達は悠長に構えすぎていた。
 警報を受けてから、すでにかなりの時間が経過していた。
 それでもなお退避の作業を続けたのは……まず空襲はこないだろう、そんな油断が、頭のどこかにあったからだ。

 私も、都村隊長も、班のほかの隊員も、入院していた患者さえも……みんな、みんな。



 まさか、落とされた爆弾が、この病院を直撃するとは、夢にも思って居なかっただろう。





133 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:30:51.52 ID:txPOpYhS0
 ―――私は、病院へと続く坂道をひた走っていた。
 もう、道など頭に入らない。先頭を走る隊長の背中を、ただひたすらに追いかけた。

 数分の後、隊長が立ち止まり、呟いた。

(,,;゚Д゚)「なんてこった……こりゃあひどい」

 私も立ち止まり、激しく呼吸をした。
 久しぶりに全力で走ったせいで、胸が苦しかった。

 ようやく、走るのに無我夢中になるあまり失われていた聴覚が、戻ってくる。

 まず初めに聞こえてきたのは、焚き火のパチパチという音を何千、何万倍にもしたような、轟音だった。
 それは、踏み切りで、機関車が目の前を通っていくときのあの音に似ていた。

 それらと違うのは、燃えているのは薪ではなく、森全体だということ。
 いつまでたっても消えてくれそうになく、あちこちから強烈な悲鳴と腐臭をもたらしているということくらいだろうか。



 ごうごうと音を立て、キャンプファイアーのように燃える木々と、焼け落ちる枝を掻い潜り、私たちは走った。
 走って、走って、必死に探した。
 退避の遅れた患者を、兵士を、医師を、島民を……仲間を、助けるために。



134 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:31:42.84 ID:txPOpYhS0
 走り回って、ようやく見つけた。
 真っ白だった肌を、墨で黒く染め、全身焼け焦げ、それでもなお走ってくる、ミセリの姿を。
 そして、その胸に抱かれた、幼子の姿を。

(*゚ー゚)「ミセリ!」

ミセ*゚ー゚)リ「……しぃ? しぃ、なの?」

 私が呼びかけると、ミセリもこちらに気付き、駆けて来た。

 手を伸ばす。
 私とミセリが触れ合うまで、あと20メートル。
 15メートル……10メートル……5メートル……4、3、2……。


 差し出した手を、思わず引っ込めた。


 激しい音を立てながら、一本の大木が……私たちの方に向かって、倒れてきた。





137 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:34:30.40 ID:txPOpYhS0
 あまりにも不運だった。

 こんなことが起きてなるものか。

 目を擦った。目を開いた。
 やはり現実は変わらずに、そのままの姿であった。

 惨い奇跡だった。酷い偶然だった。

(*;゚ -゚)「ミセリ!」

 私の目の前には、両足を大木によって拘束され、土を舐めているミセリの姿があった。

ミセ* - )リ「痛っ……」

(*;゚ -゚)「待って、今……助けるから!」

 私はミセリの両腕を引っ張り、なんとか大木から身体を引き抜こうとする。
 しかし、いくら力を入れても、大木はビクともしない。

 ならばと、今度は大木を退かそうと試みる。
 両腕で、樹皮に触れる。

(*;゚ -゚)「あっ……」

 しかし、あまりの熱さに、すぐに手を離してしまった。
 手の平を見ると、数箇所が赤く腫れていた。



141 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:35:56.04 ID:txPOpYhS0
(*;゚ -゚)「……嘘」

 こんなに熱いのに、背筋が凍りつくようだった。
 ミセリは、この責め具を絶え間なく受け続けているというのか。

ミセ* - )リ「も…………い……ら……」

 ミセリが小さな声で、呟く。
 私は轟音の中で耳を澄まし、それをなんとか聴き取った。

ミセ* - )リ「私は……もう、いいから……この子を……」

 そう言って、ミセリは布に包まれた幼子を指差す。

ミセ* - )リ「その子は……お母さんが命を捨ててまで守った……大事な、子なの……
      その子だけでも……はやく」

(*; -;)「や……やだ、やだよ!」

 恐怖と、絶望と、助けたいという想いと。
 色んな感情が、私の中で渦巻く。
 もうどうしていいか分からなくなり、膝を落とし、まるで子供のように声を上げ、大声で泣きながら言った。

(*; -;)「みんなで……みんなで生き残って、また一緒に海で泳ぎたいって……言ってたじゃない……」

ミセ* - )リ「……」

(*; -;)「どうして……どうして……」



144 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:37:41.26 ID:txPOpYhS0
(*;゚ -゚)「……嘘」

 こんなに暑いのに、背筋が凍りつくようだった。
 ミセリは、この責め具を絶え間なく受け続けているというのか。

ミセ* - )リ「も…………い……ら……」

 ミセリが小さな声で、呟く。
 私は轟音の中で耳を澄まし、それをなんとか聴き取った。

ミセ* - )リ「私は……もう、いいから……この子を……」

 そう言って、ミセリは布に包まれた幼子を指差す。

ミセ* - )リ「その子は……お母さんが命を捨ててまで守った……大事な、子なの……
      その子だけでも……はやく」

(*; -;)「や……やだ、やだよ!」

 恐怖と、絶望と、助けたいという想いと。
 色んな感情が、私の中で渦巻く。
 もうどうしていいか分からなくなり、膝を落とし、まるで子供のように声を上げ、大声で泣きながら言った。

(*; -;)「みんなで……みんなで生き残って、また一緒に海で泳ぎたいって……言ってたじゃない……」

ミセ* - )リ「……」

(*; -;)「どうして……どうして……」



146 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:39:07.68 ID:txPOpYhS0
 不意に、背中を引っ張られた。

(,,゚Д゚)「……その子を連れて逃げるぞ、しぃ」

 隊長が低い声でそう言った。

(*; -;)「隊長……」

(,,゚Д゚)「ミセリと……その子の母親が身を挺して守った命、そして自分の命まで、お前はこの森に投げ捨てる積りか?」

 木が地面にめり込んでる。助からないだろう、と隊長が言い放った。

(,,゚Д゚)「お前の仕事はなんだ? 救える命を出来るだけ救う、それがお前の仕事じゃないのか?」

 相変わらず、隊長の言うことは至極当然のことだった。
 私は、反論出来なかった。

(,,゚Д゚)「行くぞ」

 隊長は左手で幼子を抱え、右手で私の手を引き、走り出そうとした。
 そのとき。

「うわあああああぁぁぁぁ!!」

 一体何の音かと思うくらいに甲高い叫び声が、森中に響き渡った。



150 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:40:27.01 ID:txPOpYhS0
(;、;トソン「ミセリさん……私が今……助けますから……」

(,,;゚Д゚)「都村……!」

 隊長は軽く舌打ちし、私に幼子を託し、言った。

(,,゚Д゚)「この子を頼む。俺は都村を連れて行くから」

 急げ、と言われ、私は数瞬立ち止まった後、やっと駆け出した。
 脚の震えが止まらない。
 炎の道を、泣き叫びながら、ひた走った。

 しばらく走っていると、顔に一筋の水滴が当たった。
 瞬く間に雨が降り出した。
 激しい激しい通り雨が、私の涙を流し、煙を伴いながら森の火を消していった。

 雨はすべてを浄化し、空はすべてを清算する。
 そんなことを言った作家がいた。

 激しく慟哭しながら、天を仰いだ。


 見上げた空は、真っ黒だった。




153 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:42:09.58 ID:txPOpYhS0
---7月15日---


 臨時の野戦病院として、物資の集積所であったベースキャンプが使われることとなった。

 あの翌日、私は気分が悪く、一日中寝込んでいた。
 寝込んでいた、と言っても眠っていたわけではない。

 ミセリの最期の顔が、都村隊長の泣き叫ぶ姿が、あの地獄絵図が。
 ずっと目に焼き付いて、まったく眠れなかった。



 空爆から、二日目の朝。

(゚、゚トソン「しぃさん?」

 優しげな声で、目が覚めた。

(゚、゚トソン「すみません、起こしてしまいましたか?」

( う-゚)「あ……いえ、大丈夫です」

 目を擦りながら、相手の顔を確認すると、都村隊長の顔が、そこにあった。



154 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:42:48.68 ID:txPOpYhS0
(゚、゚トソン「ひとつ、話したいことがあって来ました」

(*゚ -゚)「……なんでしょう?」

(゚、゚トソン「ミセリさんのことですが……」

 つい、私は押し黙ってしまった。
 構わず、隊長は話を続ける。

(゚、゚トソン「あれは、まったくの事故でした。どうしようもありませんでした」

 私は俯き、訊いた。

(*゚ -゚)「……死んだの、ですか?」

 隊長は無言で頷いた。
 今更になって、悔しさと、無力感が押し寄せてきた。

 都村隊長の率いるA班は、空爆で全滅してしまった。
 ギコ隊長の率いるB班も、山火事に巻き込まれ、二人が命を失った。
 開始時は二十人居た山百合学徒隊は、僅か十日ほどで八人まで減少してしまった。

 それだけ報告して、隊長は私のもとを去った。
 どうにもミセリ以外の死が実感できないのが不思議で、なにか不気味でもあった。





159 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:44:48.33 ID:txPOpYhS0
 それから寝付けず、しばらく何も考えずにベッドで横になっていると、隊長が私のもとに尋ねてきた。

(,,゚Д゚)「……起きてるか?」

(*゚ -゚)「……はい」

 私は身体を起こし、隊長は椅子に座り、相対する。

(,,゚Д゚)「辛いだろう、仲間が死んで行くってのは」

 無言のまま、私は頷く。隊長が、続けた。

(,,゚Д゚)「お前が寝てる間に、また何度も空爆があったぞ。目ぼしい施設は、全部やられたみたいだ」

 当分、物資は届かないだろうな……と、小さな声で付け加える。
 隊長の表情は、平静を装ってはいるものの、やはり沈痛そうだった。
 同時に、怒りを堪えきれないようでもあった。

(,,゚Д゚)「……取り残されるっていうのは、あんまり気分のいいもんじゃないだろう?」

(*゚ -゚)「……はい」

 泣いて泣いて枯れてしまった声で、ようやく返事をした。

(,,゚Д゚)「俺も何度も経験したよ。生きてるのも、嫌になるくらいにな……」

 死に損ないのギコ、それが俺のあだ名だった。
 隊長は、今度はどこか寂しげにそう呟いた。


163 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:45:23.31 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「でもな……そう思うなら、やっぱりお前は生きなきゃいけない。辛くても、な」

(*゚ -゚)「辛くても……ですか」

(,,゚Д゚)「お前には、海の向こうに家族がいるだろう? だったら、家族を悲しませるようなことは、絶対にしちゃいけない。
    今のお前と同じように……いや、何倍も、何十倍も、親御さんは、きっと辛いと思うぞ」

 故郷で空爆の知らせを聞く、両親の心情を想った。
 少し、胸が痛くなった。

(,,゚Д゚)「よし、俺は行くぞ。お前は気分が良くなったら、仕事に戻れ」

(*゚ -゚)「……隊長」

(,,゚Д゚)「あん?」

(*゚ -゚)「隊長は、どうしていつも……そうやって、健気に働けるんですか?」

 少し考えて、隊長が答えた。

(,,゚Д゚)「……背負うものが、無いからな」

(*゚ -゚)「へ?」

(,,゚Д゚)「前にも言ったろ? 俺は、生きることを諦めてるんだ」

 隊長が再び、話し始めた。



169 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:48:25.65 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「……二年前な、一緒に戦地に赴いた仲間が居た。」

 二年前……というと、ちょうど、ラウンジとの武力衝突があったことだろうか。
 隊長はゆっくりと、思い出すように呟く。

(,,゚Д゚)「俺は陸軍で、そいつは空軍だったんだけどな。初任務だ、って張り切ってたよ。
     この任務が終わったら、一緒に酒を飲もうと言った。
     でも、そいつは死んで、俺だけ生き残った」

 止まることはなく、短い言葉で簡潔に。

(,,゚Д゚)「部隊長になったときもそうだ。部隊の奴はほとんど全滅して、俺と、数人だけが生き残った。
    ボロボロになって家に帰ったら、男手ひとつで俺を育ててくれた親父が死んでた」

(*゚ -゚)「……」

(,,゚Д゚)「それから、衛生部に転科することになった。もう周りの連中が死ぬのが嫌だったから、ちょうど良かったな」

 そして、自嘲するように言った。

(,,゚Д゚)「だが、結局この有様さ。俺の行くところ、みんな人が死んで行く……とんだ、疫病神だろ?」

(*゚ -゚)「そんなこと、ありません」


171 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:49:16.20 ID:txPOpYhS0
 私は強い口調で、隊長の言葉を否定した。

(*゚ -゚)「隊長がいなかったら……都村隊長も、私も、あの小さい子も……きっと、みんな命を落としていました。
    それに……辛いとき、私たちをいつも励ましてくれたのは、勇気をくれたのは、隊長だったじゃないですか」

(,,゚Д゚)「……すまない、ネガティブが過ぎたな」

 隊長は後ろを振り向き、この場を去ろうとした。

 それを見て、何を思ったのか。

(*゚ -゚)「隊長」

(,,゚Д゚)「……今度は、どうした?」

 私はつい、隊長を呼びとめ、こう言ってしまった。


174 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:50:47.52 ID:txPOpYhS0
(*゚ー゚)「死んでもいい、なんて、思わないでください。隊長が死んだら……私は……皆、きっと悲しいですから。
    一緒に、皆の分まで頑張って、生き残りましょう。約束してください」

 言った後で妙に恥ずかしくなって、私は小さく俯いた。
 隊長は背を向けたまま、伸ばしっぱなしで髪がボサボサになった頭を掻きながら、言った。

(,,゚Д゚)「……わかった。わかったから、早く元気出せよ」

(*゚ー゚)「……はい」

 心に射した重苦しい闇は、未だに影を潜めないけれど。
 少しだけ吹っ切れて、頑張ろうという希望が沸いてきた。




177 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:52:21.31 ID:txPOpYhS0
 港を失い、ほぼ孤立無援状態となった鮫島でのVIPの戦況は、日に日に目に見えて悪化していった。

 野戦病院となったベースキャンプでは、それが顕著に現れた。

 まず、以前病院に受けた空爆により、衛生兵の数が減少した。
 すぐに臨時の衛生兵が補充されたものの、状況は芳しくなかった。

 ラウンジ軍の艦隊が、補充を終え本土へ帰る最中の船を砲撃し、沈めたのだ。
 武器は一切搭載しておらず、衛生部を示すマークを掲げているのに、である。

 これにより、衛生部といえど必ずしも安全とは言い切れなくなり、その後の補充・補充が見合わせられることとなった。



 補給の無くなったベースキャンプで、兵士の療養は困難を極めた。
 とにかく物資が足りない。
 最初は良かったけれど、日が経つにつれて、だんだんとそれが露呈していった。



180 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:53:50.77 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「ったく、本部は何をやってるんだ……」

 隊長が椅子に座り、嘆いた。
 物資がまるで届かない今の状況を、呪っているようだった。

 ここ数日、まともに仕事をしていない気がした。
 とはいっても、決して喜べる状況ではない。
 することがないのではなく、あってもまともにこなせないのだ。

 薬品も、包帯も、食料も、衣類も……すべてが、不足していた。
 食事に至っては、水を飲んでなんとか凌ぐ日が続いている有様だ。
 戦いの傷が、癒えるはずもなかった。



 傷ついた兵士が、運ばれてくる。
 私は医師の指示を仰ぎ、承知する。

 モルヒネを投与する手も、随分慣れたものだ。

 兵士は目を閉じ、安らかな顔で、生き絶えていった。



 傷ついた兵士でごったがえす床。
 僅かなスペースを作り、私たちは並んで横になった。



185 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:56:15.80 ID:txPOpYhS0
(*゚ -゚)「……隊長」

(,,゚Д゚)「どうした?」

 隣の隊長へ、周りに声が届かないように、小さな声で訊く。

(*゚ -゚)「私たちのやってることって……意味あるんですかね……」

 隊長は少し押し黙って、答えた。

(,,゚Д゚)「あまり深く考えるな。約束しただろう? 今は、とにかくやれることをやるしかない」

 約束、か……。
 それを思い出し、少し元気が戻ってくる。


 このまま、VIPは負けてしまうのだろうか。
 死なせるためだけの治療に、意味はあるのだろうか。

 考えても仕方がない。
 今は、明日に備えて眠ることにしよう。




188 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:58:36.04 ID:txPOpYhS0
 戦況は、悪化の一途を辿った。

 鮫島の陥落は、もはや秒読み段階だった。
 VIPは序盤こそ、砲撃により上陸して来たラウンジ軍を壊滅させるなど奮闘した。
 しかし、その後凌ぎ会いに破れ、とうとう、ラウンジ軍の侵攻を許してしまったのだ。

 戦いの中心が陸に移ったため、補給部隊の被害が増大した。
 そして……そのツケは、衛生部へと回ってきた。



 補給部隊は、常に死と隣り合わせの仕事。
 荷物を持っている分、普通の兵よりも危険かもしれない。

 そんな仕事を、ロクに指導も受けていない人間が行うのである。
 被害が、出ないはずがなかった。


 また一人、また一人と減って行き……
 とうとう、山百合学徒隊の生き残りは、両隊長を含めても、片手で数えられる五人になってしまった。


 人の死に、あまりにも慣れすぎてしまった。

 本当は悲しくて、悲しくて、仕方ないはずなのに……。
 思ったよりも平気で居られるようになってしまった自分が、怖く、そして、憎くなった。





193 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 22:59:44.02 ID:txPOpYhS0
 久しぶりに、プギャーさんに会った。

 お願いがある。
 プギャーさんはまず第一に、私にそう言った。



( ^Д^)「リオンを頼む。俺は多分もう、ここには来れない」

 『あいつは……可愛くて、明るくて……文句のつけようもない女だよ』
 『俺みたいな、碌に戦いもしねぇ兵の嫁って器じゃねぇだろ』

 そう言葉を並べるプギャーさんに、私は呆れて言った。

(*゚ -゚)「……責任転嫁ですか?」

( ^Д^)「いや……本心だ」

(*゚ -゚)「リオンさんは、プギャーさんのこと、心の底から愛してると思います」

( ^Д^)「分かってるよ……でも俺は軍人なんだ」

(*゚ -゚)「そんなの……」

( ^Д^)「関係ない、か? ところが、そうもいかねぇんだ。
     俺には、戦う理由があるから」

 プギャーさんはそう言うと、懐から何かを取り出し、私に手渡した。



201 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:02:03.75 ID:txPOpYhS0
( ^Д^)「これを、リオンに渡しといてくれないか?」

(*゚ -゚)「これは……?」

( ^Д^)「月光石、っていうんだ」

(*゚ -゚)「聞いたことない名前の石ですね……」

( ^Д^)「だろ? 俺がいま命名したんだ」

(*゚ -゚)「…………」

(;^Д^)「そんな冷たい目で見るなよ。別にいいだろ」

(*゚ -゚)「別にいいですけど、なんでそんな名前に……?」

( ^Д^)「あいつに似合うかな、と思ってさ」

 プギャーさんは空を見上げ、大きく伸びをした。



207 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:03:27.08 ID:txPOpYhS0
 プギャーさんは空を見上げ、大きく伸びをした。

( ^Д^)「じゃあ、頼む」

(*゚ -゚)「……リオンさんには……」

( ^Д^)「会わない。もう、別れは済ませた」

 ……嘘だ。と思った。
 先程会ったとき、リオンさんは、いたって元気そうな様子であった。
 あれほど、プギャーさんに依存していたリオンさんが、突然別れを切り出されて、平気で居られるはずがない。

 けれど……。
 プギャーさんの顔を見ていると、途端に何も言えなくなった。

( ^Д^)「ありがとう」

 プギャーさんは振り向き……それから振り返ることなく、去って行った。


 ……プギャーさん。
 本当に……それで、よかったの?

 問いかけても、答えは帰ってこない。



220 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:06:17.18 ID:txPOpYhS0
(*゚ -゚)「……リオンさん」

リ*゚ー゚)|「どうしたの? しぃちゃん」

(*゚ -゚)「これ……プギャーさんから」

 私から石を受け取るなり、リオンさんの表情が変わった。

(*゚ -゚)「……どうか、したんですか?」

リ*;゚ー゚)|「あ、う、ううん、なんでもないの。ありがとう」

 なんとなく、嫌な予感がした。



 プギャーさんは、なぜ彼女に別れを告げたのか。
 あの石を渡され、なぜ彼女は慄いたのか。

 それを私が知ることは、もう出来ない。

 この日を最後に、二人は私の目の前から、姿を消してしまった。

 もう、三人の人生が交わることは、二度とない。



231 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:08:47.76 ID:txPOpYhS0
 なぜ、リオンさんまでもが消える必要があったのか。
 止めることは、できなかったのか。
 それすら、知ることは許されない。

 二人を失ったと知っても、涙は出なかった。
 その代わりに、何かもっと悪いものが、自分の中で影を延ばしていく気がした。

 嫌悪感だけが、際限なく積もっていく。
 隊長もいつか、これを経験したのだろうか。



『人を助けたいと本気で思うなら、半端な優しさとか、情けとか、感情は、無いほうが良いってことだな』

 今まではぼんやりとしか理解できなかった隊長の言葉が、痛いくらいに感じられた。


237 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:10:17.53 ID:txPOpYhS0
---7月31日---


 朝。
 たった五人での、全体集会が開かれた。

(,,゚Д゚)「―――以上だ」

 山百合学徒隊及びその隊長、島民、そして、重傷の兵士。
 それらへの、退避命令が出された。

 集会が終わり、隊長と少し話をした。

(*゚ -゚)「いよいよ……って感じですね」

 私が言うと、隊長がこう返した。

(,,゚Д゚)「いや……今更、だな」

 その言い換えには、私も納得できた。
 そもそもこの作戦は、数週間前に見送られた島民の再退避の意味合いも含んでいるのである。

 せめて、もっと早ければ……。

 命を遣り取りする場で、「たられば」は禁句だ、と以前隊長に言われたことがある。
 けれど今は、そう思わずにはいられなかった。



245 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:11:58.36 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「でもまあ、またとないチャンスだ。これで、ラウンジの捕虜になることもないな」

(*゚ -゚)「捕虜……ですか」

 ふと、病院を襲ったあの空襲を思い出した。
 ラウンジは、大勢の人を殺戮する目的で、あの攻撃を行ったのか。

 考えれば考えるほど虫唾が走り、ラウンジへの嫌悪は増大していった。

 隊長が、呟いた。

(,,゚Д゚)「あのラウンジなんかに頭を下げるくらいなら、自ら脳天を吹き飛ばして死んでやるさ」

 今までに無いくらい、隊長の言葉から、怒りというものが感じられた。
 とても、冗談では無さそうだった。





249 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:13:13.52 ID:txPOpYhS0
---8月2日---

 草木も眠る午前二時。
 とうとう、決行の時がやってきた。

 退避の対象となるのは、重症で戦力にならない兵士、諸事情で島に取り残された島民。
 そして……もはや、両隊長を含め五人しか残っていない、山百合学徒隊。
 これが、私たちにとって最後の仕事になる。

 危険の大きい任務だった。
 成功する確率より、失敗する確率のほうが高いかもしれないと、都村隊長は言っていた。


 このままラウンジに降伏し、捕虜となれば、とりあえず確実に生き延びることは出来るだろう。
 けれど……。

 ラウンジは病院に空爆を仕掛け、私たちの仲間を……何十人もの、尊い命を奪った。
 そんな連中に頭を下げるなんて、死んでもお断りだ。
 隊長は前夜、そんなことを言っていた。まったく同意だった。

 だから、この作戦に賭けるのだ。
 生きて帰りたい、けれど、死んでも降伏はしたくない。
 矛盾した感情を抱えた私達には、この作戦に賭けるしかないのだ。





256 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:15:47.63 ID:txPOpYhS0
 A班は三人、B班は二人で、それぞれ別のルートを利用し、作戦へと移った。

 十人でスタートしたB班は、とうとう、私と隊長の二人だけになってしまった。

 自ら動ける人たちの退避は、思いのほか早く、すんなりと終わってくれた。
 その後、二人で無言のまま、延々と病院と船との往復を続けた。
 大した距離ではないけれど、久しぶりの運搬作業は、やはりかなり堪える。

(*;゚ -゚)「ハア……ハア……」

(,,゚Д゚)「……疲れたな。だが、もうすぐ終わりだ」

 これで終わりか。腑抜けがするくらいだな。
 隊長がそう呟くと、私も少し、気が楽になった。

(*゚ー゚)「……隊長」

(,,゚Д゚)「なんだ?」

(*゚ー゚)「本土に行ったら、まず何がしたいですか?」

 担架の上で眠る患者をそっちのけで、私と隊長は話し始めた。

(,,゚Д゚)「……とりあえず、メシだな。ここんとこ、ロクなもの食ってないし」



258 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:16:19.39 ID:txPOpYhS0
(*゚ー゚)「私は……まず家族に会って、挨拶して……。
    それから、みんなの家族にも会いたいです」

(,,゚Д゚)「……死んでいった、みんなのか?」

(*゚ー゚)「はい……それで、ごめんなさいって、謝りたいです」

(,,゚Д゚)「そんなことをしても、空しいだけだと思うがな」

 私が何か言っても、隊長はぶっきらぼうに返すだけだった。
 けれど、時折、微かにその顔に笑みが浮かぶと、つい嬉しくなり、私も笑った。
 笑ったのは、随分久しぶりな気がした。

 まるで、ここが戦場であることなど忘れたように。
 たくさんの命が失われたことも、まるで無かったかのように、私たちは会話した。

 乾いていた心に、明るい会話が新鮮だった。



 だから―――。

 この後に起きる悲劇など、予測出来る筈も無かったのだけれど。


264 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:17:27.30 ID:txPOpYhS0
 そうこうしているうちに、最後の一人を運び終えた。
 後は、A班の到着を待つのみだ。

(,,゚Д゚)「これで……終わりだな」

(*゚ー゚)「はい……」

 VIPは、いずれ戦争に負けてしまうだろう。
 こうして船で一か八かの退避をするというのも、所詮は悪あがきに過ぎない。

 それでもよかった。
 ラウンジの捕虜になるより、数百倍マシだった。

(,,゚Д゚)「それにしても……」

(*;゚ー゚)「……遅いですね」

 こちらの到着から、既に十分以上経過していた。



268 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:19:05.95 ID:txPOpYhS0
 ……まさか、何かあったのではなかろうか。
 いや……充分に、その可能性はあった。
 むしろ、今まで無かったのが、奇跡だったのだ。

(,,;゚Д゚)「そう、上手くも行かなかったか……。しぃ、いくぞ」

(*;゚ -゚)「はい」

 私たちは、暗い夜の森の中を、月明かりを頼りに駆けて行った。




274 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:20:37.71 ID:txPOpYhS0
 A班のルート上を動き回り、三人を探す。
 しかし、思いのほか捜査は難航し、暗さのせいで何度も道を見失いかけた。

(,,;゚Д゚)「くっそ……いったい、何処に」

 隊長が呟くと、近くの茂みで、何者かが蠢いた。

「「うわあっ!」」

 心臓が止まるくらいに驚いた。

 暗闇の中、ばったり出くわしたその人は、紛れも無く……。

(゚、゚;トソン「曹長……それに、しぃさん」

 都村隊長だった。

(,,;゚Д゚)「脅かすなよ……。都村、それより、後の二人はどうした?」

(゚、゚;トソン「それが……」

 今にも泣きそうなくらいにか細い声で、都村隊長が説明した。



(*;゚ -゚)「……そんな、逸れたって」

( 、 トソン「すみません、私が……不甲斐ないばっかりに……」



280 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:23:28.72 ID:txPOpYhS0
 隊長が言うには、こうだった。
 運搬中、偶然ラウンジの兵に出くわしてしまった。
 そこで慌てて逃げ出したため、担架で患者を運んでいた二人と、先導していた隊長でバラバラになってしまったというのだ。

(,,゚Д゚)「まあ、逸れちまったものは仕方ない……見捨てていくか、さもなくば共倒れだ」

 隊長の言葉に、ついカッとなる。

(*;゚ -゚)「見捨てるって……」

 そこまで言いかけて、口を塞いだ。
 すでにかなり、計画から遅れを取っていることを思い出した。
 これ以上の計算違いは、許されないのだ。

(,,゚Д゚)「……仕方ないと思って、諦めてくれ。これは、ギリギリの上で実行してる作戦だからな」

 向こうが、船に到着していることを祈ろう。そう、隊長は言った。

(,,゚Д゚)「よし、そうと決まれば、早く行くぞ―――」

 隊長が立ち上がるのとほぼ同時に。
 遠くの方から、銃声が聞こえた。

(,,;゚Д゚)「―――!」



283 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:25:05.84 ID:txPOpYhS0
 まさか、と思った。
 聴き間違いだと思った。思わず我が耳を疑った。
 けれど、それを打ち消すように、二発目、三発目の銃声が鳴った。

(*;゚ -゚)「嘘……」

(,,;゚Д゚)「……いや、まだ……わからん」

 やがて、銃声が止んだ。

 銃声は、丁度私たちが向かうべき方向から聞こえた。
 嘘か、真か。
 進めば、嫌でも知ることになりそうだった。



 数分歩いて、急に何かが目に飛び込んできた。

(*;゚ -゚)「いやっ……!」

 まるで、スイカ割りのスイカのように頭を弾き飛ばされ、その近くにゼリー状の赤いものを撒き散らした、誰の物ともつかない遺体。
 腹部からおびただしい量の血を流し、顔面を蒼白させ絶命した、学友。
 右胸の辺りに二箇所小さな穴を空け、口をあんぐりと開き、空を仰いでいる、兵士。

 どうやら、山百合学徒隊はとうとう、私一人、取り残されてしまったようだった。



289 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:27:05.54 ID:txPOpYhS0
(゚。゚;トソン「!!!……」

 都村隊長は目を見開き、両手で口を塞いで、地面に膝を付いた。

(,,;゚Д゚)「……地獄絵図だな」

 ギコ隊長はまだ冷静だけれど、そう言うのがやっとのようだった。

(;、;トソン「……ごめんなさい、ごめんなさい、ゴメンナサイ……」

 都村隊長が、狂ったように繰り返し何度も泣き叫ぶ。
 それを、ギコ隊長が両手で口を塞いで、なんとか止める。

(,,;゚Д゚)「やめろ、都村……」

( 、 トソン「……」

(*;゚ -゚)「こうなった以上……仕方ありません、私たちだけでも、早く逃げましょう」





292 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:27:48.25 ID:txPOpYhS0
 しばらく泣いて、都村隊長もなんとか落ち着きを取り戻した。
 もう時間が無い。急がなければ

 そう思っていた矢先。
 再び、どこからか銃声が響いた。


 先ほどと違うのは……それが、私たちの目に届く場所。

 ギコ隊長の腕を、強襲していたことくらいだろうか。

(*;゚ -゚)「隊長!」

(,,;゚Д゚)「くっそ……ここまで来て……」

 左手の二の腕を押さえ、隊長はうずくまる。




301 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:30:39.21 ID:txPOpYhS0
(*;゚ -゚)「隊長……しっかり!」

 そして、言った。

(,,;゚Д゚)「しぃ……」

(*;゚ -゚)「はいっ!」

 ゆっくりと、小さい声で。
 しかし、はっきりと、耳に届くように、言ったのだ。



(,,;゚Д゚)「都村と一緒に、逃げろ。ここは、俺が囮になる」





312 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:34:14.92 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「船に着いたら、すぐに出発しろ。林が深いから大丈夫だと思うが、万が一、見つかるかもしれん」

(*;゚ -゚)「そんな……」

 私は、戸惑った。
 隊長を、見捨てる?
 そんなこと、できるわけ……。

(*;゚ -゚)「一緒に……生きるって、約束したじゃないですか……」

 ……私は、一体何を言っているんだろう。

 ここまで、さんざん皆を見捨てて来て……何が今更、約束だ。

 自分でも、バカだと思った。
 けれど、見捨てられなかった。

 思わず「約束」なんてくだらないものを持ち出すくらい、私は、隊長にだけは死んで欲しくなかった。

(,,;゚Д゚)「悪いな……約束、守れなくて」

(*; -;)「……そんなこと言う隊長なんか……嫌いです!」

 ワガママを言う私の頭を撫で、隊長はふらふらと立ち上がり、言った。


318 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:37:05.34 ID:txPOpYhS0
(,,゚Д゚)「今更、俺が死んだところで……別段変わりはないだろう?」

(*; -;)「そんなっ……」

 不意に、身体を抱き締められた。

(*;゚ -゚)「ん……」

 隊長の鼓動が伝わる。
 ドクドクと、心臓は早く脈打っていた。

(,,゚Д゚)「……行かせてもらうよ」

 隊長は呆然とする私を尻目に、小銃を持ち出すと、銃声の元を目指して、走り出した。
 隊長の姿は、森の奥深くへと消えて行き……すぐに見えなくなった。

 それが、私が目にした、隊長の最後の姿になった。

(゚、゚トソン「……行きましょう、しぃさん」

 銃声とともに、隊長の雄たけびが聞こえた。
 敵の注意を引きつけ、船から逸らすためだろう。

 感謝すべきだった。感謝してもしても、足りないくらいだった。
 なのに、素直に感謝できない自分が嫌だった。





324 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:39:10.79 ID:txPOpYhS0
 とうとう、船が出発してしまった。

 私は、船室の隅でうずくまって泣いていた。
 倦怠感が、虚無感が、喪失感が、罪悪感が、滝のように押し寄せてくる。
 あまりの気分の悪さに、何度もモノを吐き出した。



 少し落ちついたところで、ふと、こんなことを考えた。



 ミセリは自らの身を挺して、幼い子の命を救った。

 ギコ隊長は自らが囮になって、私と都村隊長を助けた。

(* - )「私は……」

 消えそうな声で、自分自身に問いかける。



 果たして私は、誰かのことを救えたのだろうか?





329 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:40:54.78 ID:txPOpYhS0
 あの男の子も、リオンさんも、プギャーさんも、そして、隊長も。
 空爆で命を落とした皆に、ベースキャンプの劣悪な環境で命を落とした人達……。

 結局、誰一人として、私は救えなかったじゃないか。

 こんな私たちに救える命があるならと、躍起になって働くつもりだった。

 けれど結局は、自分の無力さに打ちひしがれただけだった。



 あまりの自分の不甲斐なさに、胸が苦しくなった。
 耐え切れなくなり、やはりまた、こみ上げてくるものを吐き出した。

 今更になって、やっと、皆を失った悲しみが、無力な自分への悔しさが。
 涙になって、堰を切ったように溢れ出た。

 辛いことがあれば、いつも隊長に吐き出した。
 そうすれば、すぐに気分がすっと楽になった。

 けれど、隊長はもういない。
 私たちを助けるために、身を投げ出したから。



332 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:43:09.59 ID:txPOpYhS0
(゚、゚トソン「……ラウンジ軍の捕虜になれば……なんとか、生きることはできるかもしれません」

 都村隊長が、私を宥めるように行った。

(゚、゚トソン「死に損ないの異名を取った曹長です。今回も、なんとかして生き延びるはずです。
     何ヵ月後か、何年後か……検討も付きませんが、生きていれば、いつかまた、きっと……」

(* - )「そう……ですね」

 そんなことは、ありえない。
 信じたいけれど、ありえないのだ。



 『あのラウンジなんかに頭を下げるくらいなら、自ら脳天を吹き飛ばして死んでやるさ』

 脳裏にふと、隊長の言葉が蘇って、反芻した。





334 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:43:54.37 ID:txPOpYhS0
(,,メ;゚Д゚)「―――ハァ……ハァ……」

 もう、どれだけ走り続けただろう。
 既に脚の感覚は殆ど無く、出血が酷いせいか、視界にも闇がちらつている。

 追ってきたラウンジ兵、およそ四人程。
 衛生兵の貧弱な装備では、まず勝ち目はないだろう。

 一か八か、坂道を転げ落ちた。
 視界が二点、三点し、ようやく平らな場所に出る。
 足音は、もう聞こえなかった。

 しかし、安堵したのも束の間だった。

「誰だ?」

 霞掛る視界の中に、人影を捉えた。

 VIPのカーキ色のそれとは異なった、深緑色の軍服を着込んだ男。
 間違いなく、ラウンジ兵だった。

( ゚∀゚)「……貴様、VIPの兵か?」

(,,メ゚Д゚)「見りゃ……分かるだろうよ」

 俺は、右手の銃を米神に向ける。



338 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:45:34.82 ID:txPOpYhS0
( ゚∀゚)「……死ぬのか?」

(,,メ゚Д゚)「ラウンジの世話になるくらいなら……死んだほうがマシだ!」

 まさに引き金を引こうとした、その瞬間。
 ふと視界に、もうひとつ影が飛び込んできた。

(,,メ;゚Д゚)「……!」

 見覚えのある、少女だった。
 僅かだが話したこともあり、お互いに名前も知っている。

リ*゚ -゚)|「……ギコ隊長、ですか?」

(,,メ;゚Д゚)「リオンさん……あんた、どうして、こんな所に……」

( ゚∀゚)「なんだ? アンタ、リオンの知り合いか?」

 男が口を挟み、言う。

( ゚∀゚)「何を勘違いしてるかは知らないがな、俺はあんたを捕まえようだとか、殺そうだとか、そんなことは微塵にも思っちゃいねえよ」

 男は俺の顔をまじまじと見つめる。



340 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:47:36.00 ID:txPOpYhS0
( ゚∀゚)「見たところアンタ、別段悪人ってわけでも無さそうだな……」

 悪人じゃない?
 笑わせるな、と言いたかった。

 今まで、この手で何人を血祭りに上げてきたことか。
 そうでなくても、俺の力不足で、何人の人を見殺しにしてきたことか。

(,,メ゚Д゚)「呆れるな……俺ほどの悪人も、なかなかいないぜ?」

( ゚∀゚)「いや、俺にはわかるよ。あんたは、悪人じゃない」

 俺の言葉を、男は即座に否定し、尚も話を続けた。

( ゚∀゚)「俺はこれでも神父だから、善人が目の前で死んでくのを見るのは、ちょっと苦でね。
     この女の子も、あんたが死んだら悲しむだろうし、やめないか?」

 この女の子……。
 その言葉は、リオンさんのことを指しているのだろう。

 しかし、俺の脳裏に浮かんだのは……他でもない、死んで行った、仲間達の顔。
 そして……こんな薄汚い俺を、最後まで慕い、生きてくれと言ってくれた、あいつの顔だった。

 俺は口を開く。

(,,メ゚Д゚)「……どうしても、救いたい奴等がいた。
     俺の命ひとつでそいつらが助かったなら……俺は、本望だ」



344 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:48:30.19 ID:txPOpYhS0
 男の問いかけの答えではない。
 溢れだした感情が、ただそのまま言葉になっていった。

 俺は、男……いや、神父に向かって、懺悔を続けた。

(,,メ゚Д゚)「さっきも言ったがな、俺はラウンジの世話になる気なんか、さらさら無い。
     あんたがここで俺を捕まえなくとも、いずれVIPは負けるだろう。
     そうなったら、俺はどちらにしても自決する」

 そして最後に、こう尋ねた。

(,,メ゚Д゚)「……神父さん、俺、間違ってるかな」

 神父は首を振り、こう答えた。

( ゚∀゚)「……正解不正解なんかな、神様にしか分からないもんだ。
     それに、お前の命は、お前一人のものじゃないんだぜ?」

 そして、告げた。

( ゚∀゚)「俺は、ただの田舎の神父だ。神父は生きろとしか言わねえよ」

(,,メ゚Д゚)「……」

( ゚∀゚)「じゃあな」

リ*゚ -゚)|「……」

 リオンさんを引き連れて、神父は去って行った。


348 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:50:42.54 ID:txPOpYhS0
 俺は両手で銃を構え、その銃口を額に当てた。
 このまま引き金を引けば、俺はようやくこの世ともオサラバできる。
 ラウンジの捕虜になることなく、生涯を閉じる。

 思い返せば、それほど悪くない人生だった。

 兵科に居たときは、なかなか葛藤に悩まされた。
 人を救うため、人の命を奪う。それがとても不毛で、永遠に続くイタチごっこのように思えた。

 衛生部に移ってからの仕事は、自分の活躍で人が助かっているのが手に取るように分かり、やりがいがあった。
 山百合学徒隊を、たった二人しか生き残らせることが出来なかったのは不本意だったが、それでも、都村としぃだけは助けてやることができた。



 指に、力を加える。
 いつもよりも数倍、引き金が重く感じられる。

 不思議と、怖さは無かった。
 まあ、今まで何人も殺してきたからな……。





352 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:52:31.78 ID:txPOpYhS0

 『お前の命は、お前一人のものじゃないんだぜ?』

 ああ、そういえば、約束してたっけな……一緒に、生きて帰るって。


 ……ああ、畜生。

 もっと、生きてえな……。

 けど、もう生きるの疲れたな……。

 あいつらの世話になるの、嫌だなあ……。

 約束……守ってやりたかったな……。




354 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:52:47.36 ID:txPOpYhS0



 様々な思考が、頭の中で渦巻いた。

 引くべきか、引かざるべきか。
 しばらく考え、俺の出した結論は―――。





358 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:53:57.08 ID:txPOpYhS0
 ―――あれから、長い月日が流れた。



 共に笑い会って日々を過ごした仲間。

 過酷な戦場の中で、時間を共有したプギャーさんとリオンさん。

 モルヒネを打つことしかできない無力な私に、『ありがとう』と言い、安らかな顔で眠っていった兵士さん。

 そして……最後まで皆を生かそうとした、心優しきギコ隊長。

 ……歴史には名前すら残らないだろう、星の数ほどの人々。
 沢山の弊害を齎し、『日楼戦争』と呼ばれたこの戦いは、VIPの惨敗で幕を閉じた。





360 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:55:28.57 ID:txPOpYhS0
 戦争は終わっても、私の戦いは終わらなかった。
 『山百合学徒隊』の代表として、私と都村隊長には、果すべき責務が残っていた。

 あの戦場で何があったか。
 何を見て、何を聴き、何を知り、何を得て、何を失ったか……。

 今はまだ辛くて、とても出来そうにないけれど、いつか筆を取り、書くべきだと思った。
 偶然生き残った私たちには、あそこに居た者にしか分からないことを、後世へと伝えていかなければならない。

 あの悲劇を、二度と繰り返さない為にも。

 そして、あの戦いの中で、不本意の内に散っていった皆を、歴史の中に埋もれさせない為にも……。



 それが、誰一人として救えなかった私に出来る、唯一の償いなのだから。


364 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:56:17.44 ID:txPOpYhS0
「ごめんくださーい」

 声と共に、乱暴に玄関のドアがノックされる。
 手にしていた小説を机に置き、時計を見ると、夜の10時を回っていた。

 こんな時間に、一体誰だろう。
 まったく、非常識にも程がある。
 家のものはみんな眠っているようなので、仕方なく、私が出て相対することにした。

(*゚ー゚)「はい、今出ますねー」

 鍵を外し、扉を開き―――。





367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/29(水) 23:57:20.09 ID:txPOpYhS0



「……どうやら、死に損ないは、どうやっても死ねんらしい」



「あんな風に飛び出して行って……生き残っちまうなんて、ほんと、カッコ悪いよな」



「今更だけど―――」






「約束、守りに来たぞ」





368 名前: ◆175R.0ombs :2007/08/29(水) 23:57:41.33 ID:txPOpYhS0






 (*゚ー゚)しぃは誰一人として救えないようです






おしまい




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