( ^ω^)ブーンたちが戦場を駆け巡るようです
400 名前: ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:10:30.72 ID:2bLJfTVP0
遅れましてすみません

投下します

404 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:11:12.28 ID:2bLJfTVP0
 この引き金を引くことに、何の意味がある?

 人を殺すことに、戦うことに。


 俺は、この戦地鮫島でずっと、考えつづけることになる。







【( ^Д^)プギャーは戦う理由を探していたようです】









408 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:12:11.24 ID:2bLJfTVP0
 まどろみの中に浮かぶ花びら。
 七色の虹を作って散り落ちる。

 実際に目を覚ますと、そこにあるのは漆黒のみ。
 掻き消すように、プギャーは目を擦った。

( ^Д^)「んぁ……」

 華々しい空想から解き放たれる。
 そう思えば少しは楽しくなるだろうか、などとプギャーは考えた。
 実際には蹴落とされただけだとしても。

「おーい、朝礼始まるぞー」

 どこからか声が響く。
 聴き覚えのある声だ、と思いながらプギャーは衣服を正す。
 しかし、声の主を確認しようとはしない。

 放っておけばそのうち思い出すだろう、とプギャーは思った。

 プギャーより少し年齢の高い小男が前で声を出している。
 整列した状態でそれを聞く。
 毎朝のことに今さら嫌気は感じていなかった。

 空想の彩りを頭の中で動かし、プギャーは空白を塗り潰していく。
 味気ない現実が華やぐようにと。
 この殺風景な島が虹色に輝くようにと。

412 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:13:44.28 ID:2bLJfTVP0
 決められた道を決められた歩き方で、皆が進む。
 画一化された軍隊としての動き。
 嫌いではない。好きでもない。

 そうやって、物事を考えるだけの日々をプギャーは送っていた。
 戦場に来てから、ずっとだ。

 徴兵に応じてプギャーは軍隊に入った。
 何も考えずに訓練に身を投じ、鍛練を重ねた。
 いずれ敵兵を殺し、自らも死にゆくだろう、と漠然と考えていたのだ。

 そんなプギャーは、ふと考えた。
 それに、何の意味があるのだ、と。

( ^Д^)(……天気は悪くねぇな……)

 欠伸をしながら空を見上げた。
 事のついでのようにして。

 意味を見出すことがいつしかプギャーの目標になっていた。
 戦う理由。戦う意味。
 それは、生きる理由にも繋がるのではないかと考えたのだ。

 人として生まれた。
 だからこそ生きゆくのだと考えることもできる。
 しかし、もっと深く考えてみたくなったのだ。

 見出せないならそれでもいい。
 結論に至るまでは、探してやる。
 そう思いながらプギャーは日々をこなしてきた。

418 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:15:33.73 ID:2bLJfTVP0
 しかし、周りからやる気がないのか、とプギャーは言われるようになった。
 戦う理由を探している。ただそれだけなのに、だ。
 それが、プギャーの周囲からは無気力に感じられたのだ。

 改善する気はなかった。
 それはプギャーにとって改善ではないからだ。

 いつしか周囲も見放すようになり、プギャーは、独りになった。
 その状況を、楽だとも考えるようになった。
 考え事に没頭できるからだ。

 答えが見つかるとは限らない。
 見出せないまま果てるかも知れない。

 きっと何事もなくこの島での時間は過ぎていくだろう、とプギャーは考えていた。
 だからこそ、答えが見つかる気もしていないのだった。



〜〜7月7日〜〜

 その日、鮫島は。

 いつもと同じような暑さで。
 いつもと同じような風が吹いていた。

 ひとつの報せが、鮫島全体を駆け巡るまでは。

(;^Д^)「なっ……」

423 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:17:45.53 ID:2bLJfTVP0
 その報せはプギャーもすぐに得ることとなった。
 任務が中断され、即座に海岸へ向かうよう指示が下る。
 兵士たちの足音が騒々しく響き渡った。

 しばらくしてプギャーが海岸に到達したとき。
 そこはいつもと同じような静穏があった。
 潮騒も変わらずに穏やかなままだ。

 遠景の、沈みゆく船以外は、景色さえも何ら変わりなかった。

(;^Д^)(あれは……島民を本土に避難させるための船……!)

 一昨日から、ラウンジ軍による空爆が始まっていた。
 遂に鮫島を舞台とした戦が行われたわけだが、プギャーは、あまり関心がなかった。
 勝てばこれからも生きる。負ければ死ぬ。その程度にしか考えていなかったのだ。

 だからプギャーは、ラウンジの攻撃がどうだったとか、対するVIPはどう出たのかとかを、気にも留めていなかった。
 言ってしまえば、陸軍である自分には関係のないことだと思ったのだ。
 戦う理由がないままに戦うことは避けたい。それだけを考えていたのだ。

 しかし、ラウンジは避難用の船を爆撃した。
 抗う術もなく撃沈した船。片影さえ見えなくなっていく。
 あの船に、いったい何人の島民が乗っていたのか。

 そして、そのうちの何人が死んだのか。

(;^Д^)(…………)

428 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:19:30.70 ID:2bLJfTVP0
 戦う理由を持して戦い、死んでいったやつはまだいい。
 死ぬ覚悟で戦っていたのだ。悔いなどないはずだ。
 しかし、島民は違う。

 プギャーの苛みは、救助用の船が港を発ってからも止まなかった。
 残った兵は海岸を歩いて、漂流した人がいないかを探した。
 まだ沈没してからそれほど時間は経っていない。が、可能性はある。

 プギャーも他と同じように、漂流者を探した。
 自力で泳いだ者なら、近くまで来ている可能性もある。
 そして恐らく、一番陸に近いところへ向かうだろう、と予測した。

 プギャーが予測した地点。
 そこは磯辺であり、易々と陸に上がれる場所ではなかった。
 しかし、海に投げ出された者なら、ここを目指そうと考えるはずだ、とプギャーは思ったのだ。

 そのプギャーの、予想通りだった。

 一人の女が、ぐったりと倒れていたのだ。

(;^Д^)「おい! しっかりしろ!」

 胸部や首筋に手を当てて、生死を確かめた。
 いずれも反応があった。気を失っているだけのようだ。

 顔立ちを見るに、まだ二十歳にはなっていないくらいであろう少女。
 幼さを微かに残した顔は、蒼白で、呼吸も満足ではないようだった。
 水も多く飲んでいる。すぐにプギャーは腹を押して水を吐かせた。

430 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:21:08.03 ID:2bLJfTVP0
 少女が苦しそうに水を吐き出す。
 それに伴って、呼吸は少しずつ安定してきていた。

 やがて少女は、ぼんやりと意識を取り戻した。

リ!i;´ -゚)|「……兵……隊……さん……?」

(;^Д^)「意識を取り戻したのか、よし」

 少女を背負い、プギャーは磯辺を駆ける。
 命に関わるほど危険な状態ではないが、少女は苦しんでいる。
 それは、プギャーを突き動かすに充分な理由だった。

「おい、その女の子は?」

(;^Д^)「避難用の船に乗ってたみたいです! 病院に連れていきます!」

 走ったまま将校に断って、更に速度を上げていく。
 プギャーは、自分の身体能力に自信があった。
 他の誰かに任すより自分のほうが早い、と確信していたのだ。

 戦う覚悟とは、死ぬ覚悟だ。
 だからこそ兵は死にゆく。戦う理由があるからこそだ。
 しかし、この島民に、戦う理由などあろうはずがない。

 だから死ぬのは間違っている。
 この少女だけではない。戦う理由を持たない全ての島民がそうだ。
 どうあっても、生きるべきなのだ。

 プギャーは改めてそう考え、病院へと直走った。

433 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:22:50.84 ID:2bLJfTVP0
 ・
 ・
 ・

(*゚ー゚)「いまは眠ってます。大丈夫ですよ」

( ^Д^)「そうか……ありがとう」

 学徒隊の一人が、微笑んでそうプギャーに伝えた。
 可憐さを持したその顔立ちは、プギャーにあの少女をだぶらせる。
 どことなく似ている気がしたからだった。

(*゚ー゚)「リオンっていうんです」

( ^Д^)「リオンさんか、ありがとう」

(*゚ー゚)「私の名前じゃないですよ。あの人の名前です」

( ^Д^)「……俺が運んできた子か? 何で知ってるんだ?」

(*゚ー゚)「ちょっとした有名人ですよ、あの人」

 束ねた髪を解き、また微笑む。
 学徒隊の女子が椅子に腰掛け、すっかり闇色に染まった空を窓越しに見上げた。

(*゚ー゚)「あ、ちなみに私は『しぃ』っていいます」

(;^Д^)「え? あ、あぁ。ありがとう、しぃさん」

(*゚ー゚)「今はそんなことどうでもいい、ですか?」

436 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:24:27.34 ID:2bLJfTVP0
(;^Д^)「あ、いや……」

 いたずらっぽく笑うしぃ。
 無邪気な笑顔が月光を浴びる。

(*゚ー゚)「有名人と言っても、特に何かしたわけじゃないんですけどね。
    見ての通り、可愛い人でしょ? この島、小さいから、すぐに噂が広まるんです。
    あそこに可愛い子がいるとか、向こうにカッコイイ人がいるとか」

 プギャーはぼんやりと少女の顔を思い出した。
 幼く見えた。だから少女と心の中で呼んだ。
 それだけで、特に可愛いなどの感想を抱いた覚えはなかった。

 あのときは、顔色が悪かったせいもあるのだろう。
 焦っていたため、しっかり顔を見たわけでもない。

(*゚ー゚)「リオンさんの話は、私でさえ何度か聞いたことあるんです。
    初めてお会いしたけど、ホントに可愛い人だなって」

( ^Д^)「……また今度、確かめてみるよ」

 その後、しぃは仕事に戻り、プギャーも兵舎へと駆けた。
 すぐに戻らなかったため何らかの叱責を受ける覚悟だったが、逆に迅速な救護をプギャーは褒められた。
 ぶっきらぼうに礼を言って再び一人になる。

 風に揺れる草木を、プギャーは窓辺から眺めた。
 惑いを示すかのように左右に揺れている。
 それも、他の力によってだ。

440 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:27:12.99 ID:2bLJfTVP0
 あそこまで受動的にはなれそうもない、とプギャーは思った。
 プギャーの悩みは、あくまで自分自身から生じたものだからだ。

 視線を上げて、夜空を眺めた。
 空軍が戦ったあとだが、何事もなかったかのような閑寂さがある。
 今日も月は輝きを放っていた。

 いや、昨日よりいくらか丸みを帯びている。
 一日でそこまで変わるはずがない。しかし、プギャーは確かにそう見えた。
 不思議なこともあるものだ、と首を傾げる仕草を見せた。

 この時はまだ、目の覚めたリオンに会うのを楽しみにしている自分に、プギャーは気付いていなかった。



〜〜7月10日〜〜

 夜に行動することが多くなったな。
 プギャーはそう考えながら病院への道を歩いていた。

 リオンの意識が回復したとしぃから連絡があったからだった。
 「早く来ないと取られちゃいますよ?」などとまたいたずらっぽく笑いながら。

( ^Д^)(取られるも何も……別に俺のもんじゃねーだろ)

 そう言い返そうとしたが、しぃの微笑みを見るとプギャーは何も言えなかった。
 無邪気に見える。しかし、どこか憂いを秘めているようにも見える。
 何かを思い悩んでいるような気さえプギャーはしていた。

441 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:28:39.62 ID:2bLJfTVP0
 しぃは、学徒隊だ。
 兵士ではない。武器を手に取って戦うわけではない。
 だが、何も戦いとは直接的なぶつかりあいだけではないのだ。

 例えば、命との戦い。
 学徒隊は怪我人の手当てをし、命を助けるのが仕事だ。
 それはつまり、人命と戦っていると表現することもできる。

 あるいは、定めか。
 それに抗うべく、人の体に触れ、命の傍らで呼吸しているのか。

 いずれにせよ、人を助けるというのも、ある意味では戦いと言えるだろう。
 その表現は、しぃにとっては適切ではないかも知れない。
 しかし、プギャーの思考から言えばあまりに適切であり、最適とさえ呼べるものだった。

 やがてプギャーは病院に着いた。
 先日リオンを運んできたときは慌ただしかったが、今日は幾分か落ち着いている。
 ただし、しぃだけは以前と逆だった。

( ^Д^)「どうしたんだ、しぃさん」

(;゚ー゚)「プギャーさん」

 目を何度も左右にやって、時には後ろを振り返るしぃ。
 何かを探しているようだ、とプギャーはすぐに感じた。
 物ではなく、人だろう、とも。

( ^Д^)「……変態でもいたか? それとも誰か逃げ出したか?」

(;゚ー゚)「……後者です。この前の沈没で島に流れ着いた男の子が、いきなり逃げ出してしまって」

443 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:30:15.71 ID:2bLJfTVP0
( ^Д^)「いきなり、か。見知らぬ場所に怯えたのか?」

(;゚ー゚)「分かりません……でも、確かに怯えてたような感じはありました」

( ^Д^)「そうか……俺も探すの手伝おうか?」

(*゚ー゚)「いえ、プギャーさんはリオンさんのところに行ってあげてください。
    凄く会いたがってましたから。リオンさんはあっちにいますよ」

( ^Д^)「でも、その逃げ出した奴を捕まえるのも大事だろ?」

(*゚ー゚)「それは私の仕事です。だからプギャーさんは気にせずに行ってください」

( ^Д^)「……そうか、分かった。ありがとう」

(*゚ー゚)「こちらこそ」

 またしぃは微笑んで、プギャーに背を向けた。

 しぃが指差した方に向かってプギャーは歩き出した。
 病院の廊下は薄暗く、不気味さもあるが、プギャーは気にせず先へ進む。
 それは元来の性格だけによるものではないと、やはり気付けてはいなかった。

( ^Д^)「……ん?」

 月見草が咲いていた。
 雲間から覗く月の光の許でこそ、映える花。
 白に近いピンクの色を浮かべている。

(;^Д^)(……なわけねーじゃん……なに考えてんだ俺……)

447 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:31:48.87 ID:2bLJfTVP0
 花ではなく、人だった。
 仄暗い廊下にひとり佇む少女。
 月を見上げているリオンだった。

リ*゚ -゚)|「プギャーさん……ですか?」

 プギャーは一瞬、呆けてしまった。
 顔を覚えられていなかったことにではない。
 リオンを見つめていて、心が少し遠いところにあったためだ。

( ^Д^)「……あぁ、そうだよ」

リ*゚ -゚)|「助けていただいて、ありがとうございました」

 無表情のままに頭を下げるリオン。
 プギャーはそれに何も反応を示さなかった。

リ*゚ -゚)|「あのときは意識が朦朧としていたので……お顔を覚えられず……」

( ^Д^)「気にしてねーよ。それに、人の顔なんかどうだっていいだろ」

リ*゚ -゚)|「でも、命の恩人なのに……心苦しい限りです」

( ^Д^)「気にすんなよ。何とも思っちゃいねーよ」

 判然と、プギャーの声のトーンは落ちていた。
 義務的な会話だ、と感じてしまったせいだ。

450 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:33:32.97 ID:2bLJfTVP0
 何かを期待していたわけではない。
 ただ、ここまで警戒されるとは思っていなかった、というのが本音だった。
 現にリオンはプギャーに歩み寄ろうともしない。

 呼吸が届かない程度の距離を挟んだ二人に、沈黙が襲いかかる。
 無表情のままのリオン、無表情のままのプギャー。
 月が雲に隠れ、光が陰った。

 その二人の間にある静寂を、崩すものがあった。
 例えば明け方に向けて色を濃くする月見草のように。
 例えば雲間から再び射し込む月光のように。

リ*゚ー゚)|「……優しいんですね」

 リオンの、笑顔。
 無表情を崩して、柔らかに笑った。
 あまりに自然な笑み。

(;^Д^)「……は?」

リ*゚ー゚)|「ずっと怖い顔してたから、厳しい人なのかなって。でもそうじゃなくて、良かった」

 今度は、嬉しそうに笑った。
 同じような自然さを保ったままに。

( ^Д^)「……いや、別に優しくなんかない」

リ*゚ー゚)|「私はそう感じたんです」

( ^Д^)「何だそりゃ……勝手にしろ」

452 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:35:06.80 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ー゚)|「勝手にします」

 リオンが一歩近づく。
 そして、プギャーは一歩離れる。

 二歩、三歩。
 リオンが近づくたびに、プギャーは後ろに下がる。
 やがて、壁に到達する。

リ;゚ー゚)|「……なんで逃げるんですか?」

(;^Д^)「俺の勝手だろ」

リ*゚ -゚)|「勝手ばっかりですね」

(;^Д^)「どっちがだよ」

 プギャーは、完全に調子を狂わされていた。
 まだ二十にも達していないような少女を相手に。

 花の香りが、その場に漂った。
 リオンが動くたびに。

 それにプギャーは気付きながら、何故か頭の中で否定していた。

(;^Д^)「なんで近づいてくんだよ。ちょっと離れろよ」

リ*゚ー゚)|「ちゃんと近くでお礼が言いたいからです」

(;^Д^)「遠くから言え! そのほうが俺には伝わる!」

454 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:36:44.12 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ -゚)|「そんな人いないです」

(;^Д^)「ここにいるんだよ! いいから離れろ!」

 リオンの肩を掴み、強引に押し戻すプギャー。
 華奢で、力を込めれば崩れてしまいそうなほど柔い。
 その感覚が、プギャーの手からは消えなかった。

リ;゚ -゚)|「……ごめんなさい……怒らせてしまったみたいで……」

 リオンのしょげた顔を見て、プギャーは気付いた。
 確かに、言葉が強くなりすぎていた。

( ^Д^)「……すまん……気にすんな」

 リオンは顔を俯かせたまま首を振る。
 プギャーの視界には、髪の揺れしか映らなかった。
 またも花の香りが空間に広がる。

(;^Д^)「……だから、気にすんなって! 俺まで気にしちまうじゃねーか!」

リ;゚ー゚)|「それはまずいです」

 ぱっと顔を上げるリオン。
 様々な感情が入り混じったような複雑な表情を浮かべている。

 再び沈黙が流れるも、互いに先ほどのような気まずさはなかった。
 リオンの言葉にプギャーがうろたえ、それを見てリオンが笑ったからだ。
 プギャーは汗を額に浮かせながらその笑顔を見ていた。

455 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:38:16.61 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ー゚)|「あの……お願いしたいことがあるんです」

 その顔に再び笑みを宿した。
 リオンはまた少し近づいて、プギャーに言った。

( ^Д^)「お願い?」

リ*゚ー゚)|「……プギャーさんさえ良ければ……明日も、ここへ来ていただけませんか?」

 相変わらず病院は静穏に満ちていた。
 互いの息遣いまで、はっきりと聞こえているほどに。
 心音まで、響きそうなほどに。

リ*゚ー゚)|「明日じゃなくてもいいんです。明後日でも、その次の日でも……もし、お暇な時間があれば……」

( ^Д^)「お前……兵士をなめてんのか?」

 静けさは保たれたままに。
 しかし再び、月は姿を消す。
 それとは関係なく、リオンの表情は曇っていく。

( ^Д^)「俺たちは毎日生きるか死ぬかの世界に身を置いてる。遊んでる暇はねーんだ。
     それに一般人としょっちゅう会ってたら上の人に何言われるか分かんねぇ。
     敵と戦って死ぬならまだいいが、仲間の手によって殺されるってのは情けねー死に方だぜ」

 厚い雲の裏から、一向に姿を見せぬ月。
 光がなければ、月見草は、輝きを持さない。

 しかし、晴れぬ空などこの世にあろうはずがないのだ。

457 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:39:48.53 ID:2bLJfTVP0
リ;゚ -゚)|「ごめんなさい……私、私……」

( ^Д^)「……って、普通の兵士なら言うんだぜ。覚えとけよ」

リ;゚ -゚)|「は、はい……」


リ;゚ー゚)|「……え?」


 プギャーがこの日初めて、笑った。
 しぃのようにいたずらっぽく。
 自然と零れ出た笑みだった。

( ^Д^)「暇なときはいつだって来てやるよ。大人しく待っとけ」

リ;゚ -゚)|「で、でも、上の人に何言われるか分かんない、って……」

( ^Д^)「どーだっていい。そんなの気にしてねーよ。俺は俺のやりたいようにやる」

リ;゚ -゚)|「でも……」

(;^Д^)「どっちなんだよ。来てほしいのか来てほしくねーのか」

リ;゚ー゚)|「き、来てほしい!」

( ^Д^)「じゃーそれでいいだろ。どーせ俺の勝手だしな」

 また一歩、リオンはプギャーに近づいた。
 壁際でなくても、それを避ける気にはならなかっただろう、とプギャーは思った。

460 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:41:23.80 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ー゚)|「やっぱりすごく優しい。ありがとう、プギャーさん」

 今日何度目の笑顔だっただろうか。
 プギャーは、思いだそうとした。

 あえて冷静に考えることで、今の感情を、薄れさせたい気持ちになったのだ。
 それは気恥ずかしさから来たものだという自覚が、プギャーにはなかった。

( ^Д^)「……優しくなんかねーっつのに」

リ*゚ー゚)|「そう思うのは私の勝手、ですよね?」

( ^Д^)「……ま、それもそうだ」

リ*゚ー゚)|「私の勝ち〜♪」

(;^Д^)「何がだよ」

リ*゚ー゚)|「何にも〜♪」

 嬉々として、それを隠そうともしないリオン。
 嘆息を吐きながらそれを眺めるプギャー。

 今宵は、不思議な晩だった。
 月見草が月を見上げるのではなく、月が月見草を見ていた。
 その鮮やかな色を、いっそう映えさせていた。

 やがて花は風に吹かれた。
 揺らめく。ざわめく。その他の草木と同じように。
 しかし、違った。

464 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:43:19.29 ID:2bLJfTVP0
 花は、風に吹かれたいと願った。
 自ら、風に吹かれにいった。
 揺れることを楽しむようにして。

( ^Д^)「俺はそろそろ戻るが、最後にいくつか言っとく」

リ*゚ー゚)|「?」

( ^Д^)「俺に対しては敬語じゃなくていい。それから、『さん』も付けなくていい。
     これからはプギャーって呼べ。それじゃあな」

 階段を下るプギャーの体が、徐々に沈んで行った。
 背を向けたまま右手で手を振る。

リ*゚ー゚)|「……うん! またね、プギャー!」

 遠ざかるプギャーにはっきり聞こえるよう、リオンは大きな声で言った。
 驚いて出てきた近くの人に叱られたことも、まったく気にならないほどリオンは嬉しい気持ちでいっぱいだった。



〜〜7月11日〜〜

 子供の頃に帰ったような気持ちを、プギャーは抱いていた。

 夜、リオンの病院に行って、リオンをこっそり連れ出した。
 体調的には何ら問題ないとリオンは言った。軽やかな足取りで脱出を成功させた。
 人に見つからないようなルートをプギャーが選び、夜の中を移動していく。

リ*゚ー゚)|「ここは……」

467 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:45:01.14 ID:2bLJfTVP0
( ^Д^)「星が見やすいんだ、ここは」

 プギャーが先日、フサギコと会話した場所だった。
 林立した木々に囲まれている岩。人が数人は寝れるような大きな岩だ。
 プギャーがリオンの手を引き、二人揃って岩に昇った。

( ^Д^)「ほら」

リ*゚ー゚)|「ん? タオル?」

 プギャーが懐から取り出したのは、少し厚みのあるタオルだった。
 それを折りたたみ、岩の上に置く。
 リオンはすぐに何のためか気付いて、同じように折りたたんだ。

 タオルを枕代わりにし、星を眺める二人。
 プギャーは一度ちらりとリオンの顔を見た。
 軽い笑みのままじっと空を見つめている。

 不意に目が合って、リオンの笑顔は深まった。

リ*゚ー゚)|「そういえば私、自己紹介もしてないね」

( ^Д^)「名前は知ってる。リオンだろ?」

リ*゚ー゚)|「しぃちゃんに聞いたの? そうだよ」

( ^Д^)「年はいくつなんだ?」

469 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:46:50.58 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ー゚)|「もうすぐ18歳」

( ^Д^)「見えねー」

リ;゚ー゚)|「ヒドイ……そんなに幼いつもりないのに……。
     プギャーは何歳なの?」

( ^Д^)「26歳」

リ*゚ー゚)|「そんなに離れてないね」

( ^Д^)「いや、そうでもないだろ」

リ*゚ー゚)|「そう? まぁ、十歳差くらいまでなら大丈夫じゃないかな?」

(;^Д^)「……何が?」

リ*゚ー゚)|「別に〜♪」

 リオンが仰向けの状態からプギャーの方に向いた。
 プギャーは仰向けのままで、顔だけをリオンのほうに向けている。

 風がすり抜けていく。
 いつものように草木を揺らしながら。
 音を立てさせながら。

 ここが本当に戦地か。
 軍人であるプギャーでさえそう思ってしまうほど、静かな夜だった。

( ^Д^)(……ん?)

471 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:49:20.23 ID:2bLJfTVP0
 草木が、揺れている。
 風によって、ずっと。

 しかし、明らかに違うものもあった。

( ^Д^)「……隠れろ」

リ*゚ー゚)|「え?」

( ^Д^)「早く」

 囁くように、しかし強くプギャーは言い放った。
 リオンはすぐに岩から飛び降り、身を伏せる。

 プギャーはリオンのタオルを隠そうとしたが、懐に収めるのは不可能だった。

( ´_ゝ`)「プギャー一等兵か」

 兄者中佐。
 VIP国の司令官だ。
 鮫島の陸戦は兄者の指揮下で行われる。

( ^Д^)「……私のような者の名をご存じとは、光栄です」

( ´_ゝ`)「光栄に思う必要はない。いい噂を聞いてるわけじゃないからな」

 胸のポケットから一つの箱を取り出す兄者。
 箱の端を叩くと、逆側から煙草が顔を覗かせた。

473 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:51:44.10 ID:2bLJfTVP0
( ´_ゝ`)「要るか?」

( ^Д^)「……遠慮しておきます」

 兄者は笑みを浮かべて、煙草を再びポケットに収めた。
 その笑顔は、しぃやリオンのものとはかけ離れていた。

( ´_ゝ`)「俺にも君の名が届いているということは……分かるだろう」

( ^Д^)「素行不良の問題兵士、ですか?」

( ´_ゝ`)「いやいや、そこまでは言わんが……まぁ、やる気がないだとか、戦う気がないだとか」

( ^Д^)「そんなつもりはありませんよ」

 保身ではなかった。
 プギャーは、率直にそれを否定した。

( ^Д^)「私はただ、戦う理由というものを探しているだけです」

( ´_ゝ`)「……おかしなことを言うな。軍に身を置いていながら、理由を探す、とは」

( ^Д^)「軍に入ったときは、何も考えてなかったのです。
     ただ鮫島に来てからというもの、何のために戦うのか分からなくなりました」

( ´_ゝ`)「司令官の前だというのに、そこまで正直に話していいのか?」

( ^Д^)「偽るよりはいいでしょう」

( ´_ゝ`)「まぁ、一理ある」

475 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:53:50.85 ID:2bLJfTVP0
 兄者が煙を吹かした。
 ゆらりと立ち上るそれはやがて消えゆく。
 夜の闇に溶け込んでいく。

( ´_ゝ`)「しかし戦う理由を見失うとは、兵としてあるまじきことだと思わないか?」

( ^Д^)「思いません。人間なんて不安定の塊です。
     失礼ながらお訊きしますが、兄者中佐は何のために戦っているのですか?」

( ´_ゝ`)「平和のためだ。二国間の紛争を解決して、平和を取り戻すのが俺の使命だからな」

( ^Д^)「その理由が自分にも当てはまるか、考えたことがあります。
     ですがやはり私は、平和のために戦おうという気になれませんでした」

( ´_ゝ`)「平和でなくてもいい、と?」

( ^Д^)「違います。世の中、平和であるに越したことはありません。
     ただ、そのために銃の引き金を引く気になれないんです。
     そこまで大きなことは考えられないんです」

( ´_ゝ`)「そんなものか。お前とは考えが合わんようだな。
       ……ところで、プギャー一等兵。聞きたいことがあるんだが」

 岩に煙草を押しつけ、火を消した。
 兄者は潰れた煙草を指で弾き、草むらに放る。
 そして一歩、プギャーに近づいた。

( ´_ゝ`)「……最初から、このあたりに甘い香りがする。まるで女のような。
       それと、同じようなタオルを二枚持っているのも気にかかるんだが」

478 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:56:11.02 ID:2bLJfTVP0
 微動もするな、と願った。
 プギャーが、リオンに対してだ。

( ´_ゝ`)「それに俺の姿を見たとき、一瞬慌てただろう」

( ^Д^)「……当然でしょう。兄者中佐がこんなところを歩いていたら」

( ´_ゝ`)「俺は島の把握のために歩いていただけだ。お前は何のために?」

( ^Д^)「星を見るために」

( ´_ゝ`)「そんなキャラじゃないだろ」

( ^Д^)「そうですか? 自分に似合ってると思うんですが」

( ´_ゝ`)「まぁ、いい。お前が何をしていようが、俺には関係のないことだ」

 兄者がプギャーに背を向けた。
 遠ざかるその背中にプギャーは安心を覚える。

( ´_ゝ`)「……プギャー一等兵」

 しかし、兄者は不意に立ち止まった。
 プギャーの背中に、嫌な汗が流れた。

( ´_ゝ`)「俺はお前が何をしてようが、それを咎めるつもりはない。
       例え博打に興じようが、女に現を抜かそうが、星を見ようが、関係のないことだ。
       しかし、いつまで経っても戦う気になれないのであれば――――色々考えなければならない」

( ^Д^)「…………」

484 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 00:57:58.17 ID:2bLJfTVP0
( ´_ゝ`)「お前の才能は知っている。"駒"として見れば優秀そのものだ。
       しかしお前は人間だ。だからこそ精神的な問題が出ているのだろうとも思うが」

( ^Д^)「戦いさえすれば何も言わない、ということですか?」

( ´_ゝ`)「理解が早くて助かる。俺の言ったことを分かってくれん部下が多くてな、辟易しているんだ。
       何故戦う理由を見失ったのかは知らんが、早めに取り戻すことだ。自分のためにも、"誰か"のためにも」

 今度こそ、兄者は立ち去って闇に消えていった。
 すぐにリオンは岩に昇ってプギャーの側に座る。
 半ば呆然としていたプギャーの側に。

リ;゚ -゚)|「……バレてた……?」

( ^Д^)「分かんねぇ……そんな気もするな。お前のことは見てないはずだが……」

リ;゚ -゚)|「勘のいい人だね……」

( ^Д^)「いや、五感が優れてるんだろうな。匂いまで嗅ぎ取るなんて……」

リ;゚ -゚)|「ちゃんとお風呂入ったのに……」

(;^Д^)「だからこそなんじゃねーの? 汗臭い男の匂いばっか嗅いでるから、女の清潔な匂いに敏感になったとか」

リ;゚ -゚)|「そんなもんなの? よく分かんないけど……」

 二人揃って岩から降り、周りを一通り確かめてから再び病院へ向かった。
 夜はずいぶんと深まっている。

487 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:00:12.82 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ -゚)|「また来てくれる……?」

( ^Д^)「暇があればな」

 戦争は既に始まっている。
 ラウンジの艦隊が鮫島に攻め寄せ、VIPの海軍が必死に抵抗している状態だ。

 戦力ではラウンジが優る。
 緒戦となった海戦で、VIPは完全に圧倒されていた。
 このままならあと数日で、ラウンジの艦隊は空戦が行えるまでの距離に迫るだろう。

 ラウンジの艦隊から戦闘機が飛び立てば、鮫島全体が危機に陥る。
 僅かに残された民間人も、命の保証はなくなるだろう。

リ*゚ -゚)|「……実はね、私みたいに取り残された民間人は、また前みたいに船で本土に退避させられるらしいの」

 リオンの視線は、僅かに低い。
 前を見据えるのでなく、故郷である鮫島の地を見つめていた。

リ*゚ -゚)|「まだ具体的には決まってないけど、近いうちにそうする……って。
     だから……プギャーとは会えなくなっちゃう」

( ^Д^)「……そうなるな」

リ*゚ -゚)|「……少しでも多く会いたい」

( ^Д^)「暇があれば、だ」

リ*゚ -゚)|「分かってる……」

491 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:02:50.93 ID:2bLJfTVP0
兵士と、一般人。
 二人が立つ地は同じくとも、歩くべき道は違う。
 対極とも言えるほどに。

 どうあがいても、それは変わらないのだ。

( ^Д^)「病院で大人しく待ってろよ」

リ*゚ -゚)|「子供扱いしないでよ。分かってるって」

( ^Д^)「どーも17歳には見えなくてな。なんか小さい子を相手にしてるみたいで」

リ;゚ -゚)|「ヒドイ……プギャー以外にそんなの言われたことないよ……」

( ^Д^)「言われたことねーのか、そりゃ意外だ」

 憎まれ口を叩き、軽く笑うプギャー。
 怒りながらも、同じように笑うリオン。

 永劫続くものではない。
 二人とも分かっているからこそ、笑うのだ。
 今を精一杯生きるようにして。

 二つの月影は、少しだけ間の距離を縮めていた。

493 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:05:01.40 ID:2bLJfTVP0
 その後も二人はたびたび会った。
 夜になればプギャーが病院まで行き、リオンを連れ出す。
 何をするでもなくただ語り合い、歩き回り、遊んだ。

 リオンはひたすらそれを喜んだ。
 また、感情を顕わにした。

 プギャーも夜のことを考えながら日中を過ごす日々が続いた。
 しかし、感情を顕わにすることはなかった。

 リオンは毎日、病院で大人しく待っていた。
 実のところ体調は万全ではなかったものの、プギャーの前では平調に振舞った。
 ただ一緒に居たいがために。

 プギャーは毎日病院へ行った。
 兄者からの視線を感じる日もあったが、あえて気にしないようにして。
 周りの目を盗んではリオンを連れ出し、からかって笑った。

 しぃは二人の行動に気づいていた。
 立場的にはそれを咎めなければならなかったが、逆に手助けすることさえあった。
 しぃがリオンの気持ちに気づいていたからこそだった。

 雨の日には病院の片隅で話し合った。
 そのときはプギャーとリオン二人ではなく、しぃが加わることもあった。

 戦地鮫島。
 ここでいずれ激しい戦闘が始まることは間違いない。

496 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:07:01.72 ID:2bLJfTVP0
 それを感じさせないほどほのぼのとした会話があった。
 永遠に続くのではと思えるような。
 続いてほしいとそれぞれに思わせるような。

( ^Д^)「しぃさんは15歳だろ?」

(*゚ー゚)「そうですよ?」

( ^Д^)「同じくらいに見えるよ俺には。リオンが」

リ;゚ -゚)|「おかしいよー……だってしぃちゃんは年相応の見た目じゃん……」

( ^Д^)「いや、だからお前が幼いんじゃねーの?」

(;゚ー゚)「そんなことないと思いますけど……」

リ*゚ー゚)|「だよね!」

(*゚ー゚)「プギャーさん、憎まれ口ばっかり叩かないで、少しは素直になったらどうですか?」

( ^Д^)「ありのままの自分を表現してるつもりだぜ」

(*゚ー゚)「ホントはリオンさんのこと気に入ってるくせに」

( ^Д^)「俺がいつそんなこと言ったんだ」

(*゚ー゚)「だってそうじゃなきゃ毎晩連れ出したりしないはずです」

( ^Д^)「側に置いときゃ好きにできるからな。それだけだよ。
     見た目は幼いが体はちゃんと女だしな。文句ない」

497 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:08:55.01 ID:2bLJfTVP0
(;゚ -゚)「なっ……」

( ^Д^)「おっと、もうこんな時間か。今日はそろそろ帰るぜ。じゃあな」

 いつもと同じように、淡々とした調子を崩さず、闇にまぎれていくプギャー。
 その背中をいつもと違う眼で見ていたのは、しぃだった。

(#゚ -゚)「なんであんな人と一緒にいるんですか!? サイテー!!」

リ;゚ー゚)|「お、落ち着いて……」

(#゚ -゚)「いいんですか!? あんな風に言われて!!」

リ*゚ー゚)|「……本当は、優しい人なの。しぃちゃんも分かってるでしょ?」

(*゚ -゚)「そう思ってましたけど……あんなこと言う人とは……」

リ*゚ー゚)|「だから、あれは……照れ隠し? かな?
     だって、プギャーが私に触れることなんてまずないもん」

(*゚ -゚)「えっ……」

リ*゚ー゚)|「岩に昇るときに手を引いてくれるくらいで……あとは全然だよ。
     もっと触れてほしいなぁって思うくらいで……もちろん、プギャーが言ったようなことは、一回もしてないし……」

(*゚ -゚)「……そうなんですか……」

リ*゚ー゚)|「態度には出さないけどね……やっぱり優しい人だなぁって、思う」

500 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:10:39.32 ID:2bLJfTVP0
 いつの間にかそこには、二つの笑顔があった。
 最初から崩さなかったリオンと、つられたしぃ。
 陰湿な病院の片隅に花を植えるような明るさ。

 咲き誇る月見草。
 柔らかな光を受けて輝きを放つ。

 それもいずれは枯れゆく。
 花びらを一枚一枚落として消えるように。
 あるいは萎れて身を竦めるように。

 永劫咲き続けることは、叶わないのだ。



〜〜7月14日〜〜

(;^Д^)「ハァ、ハァ……」

 プギャーは夜道を駆けていた。
 悪路にふらつきながら、それでも速度を緩めることはなく。

 ラウンジが、鮫島を取り囲んだ。
 大艦隊。圧倒するような物々しさ。
 思わず皆が竦みあがってしまったほどだった。

 その艦隊から、砲撃が開始された。
 空の色を、塗りかえるほどの無数の砲弾。
 鮫島全体を襲った。

502 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:12:34.65 ID:2bLJfTVP0
 島の多くの施設が破壊された。
 港や飛行場は既に壊滅状態。
 村落も砲撃を受けたかも知れない。

 何より心配なのは、病院だった。
 あそこには、リオンやしぃがいる。

(;^Д^)(無事なのか……?)

 誰かに聞けばわかったかも知れない。
 それでもプギャーは自らの足で駆けた。
 確かめに行った。

 居てもたってもいられなくなったのだ。

 やがて病院に到達したプギャー。
 その瞳に移ったのは、無残なものだった。

 崩壊し、瓦礫と化した病院。
 昔からそうであったのではないか、と思えるような廃病院だった。

(;^Д^)(……みんな……死んで……)

 いや、そんなはずはない、とプギャーは自分に言い聞かせた。
 見る限りでは形を留めているし、とても全員が死ぬほどの被害を受けたとは思えなかった。

 だが、亡くなった人もゼロではないだろう。
 そしてその中に、リオンやしぃが居る可能性も――――。

503 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:14:32.12 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ー゚)|「プギャー!」

 そんな恐怖に包まれていたプギャーに、後ろから抱きつくリオン。
 何ら変わりない様子で。
 いつものように。

(;^Д^)「リオン! お前っ……!」

リ*゚ー゚)|「あのね! 聞いて聞いて! 実はね!」

(;^Д^)「いったん離れろ! 離れてから言え!」

 背中から無理やりリオンを引き剥がすプギャー。
 しがみついて離れまいとリオンは粘るが、結局は力に押し切られた。

 リオンの笑顔は、やはりいつもと変わらない。
 思わず息が漏れるほどの安堵がプギャーを包みこんだ。

( ^Д^)「んで、何だ?」

リ*゚ー゚)|「実はね! 私、本土に退避しなくてもよくなったの! ずっと一緒にいられるの!」

(;^Д^)「……はぁ?」

 元々、本土に退避しようとしていたところでラウンジに襲われ、島に流れ着いたリオンだ。
 本当はこの島にいてはならない人間であり、実際、本土へ再び送る計画もあったはずだ。

 そこでふと、思いだした。
 ラウンジ軍の攻撃による、港の壊滅だ。

506 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:16:58.15 ID:2bLJfTVP0
( ^Д^)「そうか……港が潰れたからか」

リ*゚ー゚)|「そうなの! だから一緒にいられるの!」

(;^Д^)「一緒にいられる、っつってもなぁ……ってかお前、なんでこんなとこにいるんだよ。
      病院は潰れちまったんだから、ここに来る意味はないはずだろ?」

リ*゚ー゚)|「プギャーが来てくれるかなーって思って」

( ^Д^)「じゃあ、今はどこで寝泊まりしてるんだ?」

リ*゚ー゚)|「ベースキャンプだよ。しぃちゃんも一緒なの」

( ^Д^)「なるほどな……病人はそこに移したわけか……」

リ*゚ー゚)|「だから今度からはベースキャンプに来てね。後で場所教えるから」

( ^Д^)「分かった。でもリオン、知ってるか?」

リ*゚ー゚)|「?」

( ^Д^)「ラウンジの部隊が、近々上陸してくるんだ」

 この日、風はほとんど吹いていなかった。
 大人しく、穏やかで、静けさを作りだしていた。

 しかし、徐々に声が響きだした。
 風声だった。

509 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:18:58.66 ID:2bLJfTVP0
( ^Д^)「陸戦になる。当然、陸軍に所属している俺にも影響は出る」

リ*゚ -゚)|「…………」

( ^Д^)「今までより、会える頻度は落ちる……それは分かっておいてくれ」

リ*゚ -゚)|「……うん……分かった」

 リオンが右手でプギャーの腕を掴んだ。
 プギャーは一瞬力を込めかけて、やめた。
 振りほどこうとはせずに、そのままにしておいた。

( ^Д^)「……悪ぃ、リオン……今日はもう帰らなきゃいけねーんだ……」

リ*゚ -゚)|「……うん」

( ^Д^)「大人しく待ってろよ」

リ*゚ -゚)|「……大人しく待ってたら……」

( ^Д^)「ん?」

リ*゚ -゚)|「……待ってたら……今度、会ったとき……」

 吹きだしていた風が、不意に止んだ。
 リオンの息遣いのみがその場に佇む。

 何かを考えるように俯く。
 そして、頭を振った。
 同時に、笑った。

513 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:20:57.77 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ー゚)|「何でもない。次会える日、楽しみにしてるね」

( ^Д^)「……あぁ」

 リオンが何を言おうとしたのか、気にかけつつも、プギャーが深く聞くことはなかった。
 ベースキャンプまで送り届け、リオンと別れたプギャー。
 ひとり、夜道を歩く。

 何を考えるでもなく、しかしぼんやりと空想を浮かべながら。

 月に雲がかかっていた。
 薄雲で光が遮られている。

 それでもそこに月があることは分かる。
 形はぼやけていても、光は薄れていても。

 それがプギャーの心に、微かに引っかかった。
 何故なのかは分からなかった。考えたくもなかった。



〜〜7月17日〜〜

 陸戦が始まっていた。
 ラウンジの軍隊が鮫島に上陸したのだ。

 しかし、プギャーが思っていたほど環境の変化はなかった。
 ラウンジの上陸地点と離れていたせいもある。
 上陸時にVIP軍が奮戦し、ラウンジ軍に甚大な被害を与えられたせいもある。

516 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:23:04.92 ID:2bLJfTVP0
 そうそうリオンには会えなくなるだろう、とプギャーは思っていた。
 実際、容易く抜け出せなくなったのは事実だ。
 それでも不可能ではなかった。

 夜、抜けだせること。
 それもプギャーは心のどこかで嬉しく思っていた。
 しかし、気が楽になれているのは、他の要素もあった。

 プギャーは未だ戦う理由を見出せてはいなかった。
 何人かの兵に理由を聞いたが、どれもプギャーには当てはまらなかったのだ。

 誰かに答えを求めること自体が間違っているのか。
 やはり、自身で考えて見出すしかないのか。
 そんな煩悶をプギャーは続けていた。

 何十日も考えている。
 なのに答えが出ない。
 これはもしや、永久的なのではないだろうか。

 自分には、本当に戦う理由がないのではないか。
 プギャーは、不安にも似た思いを抱いた。

 それでも、リオンと一緒にいる間は忘れていられた。
 絶やさぬ笑顔と明るい空気。
 魅せられているのだとプギャーは本当は分かっていた。

 ただ、それをリオンに見せることはなかった。
 気恥ずかしさ。一言で言えば、そうなる。
 リオンはきっと喜ぶのだろう。分かっているからこそ、恥ずかしい気がしたのだ。

518 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:25:06.42 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ー゚)|「あのね、プギャー」

( ^Д^)「んぁ?」

リ*゚ー゚)|「私、プギャーに会えて良かった」

 今宵も月は輝き。
 光を浴びる月見草は、それ以上に輝きを見せている。

 ただ、煌々と。

リ*゚ー゚)|「ありがとう。私を助けてくれて」

(;^Д^)「いきなりどうしたんだ?」

リ*゚ー゚)|「ううん。ただ、お礼が言いたくなったの」

( ^Д^)「急に畏まられると、なんか違和感あるぞ」

リ*゚ー゚)|「別にいいじゃん、たまにはさ」

 リオンがプギャーに寄り添った。
 若干の抵抗を見せつつ、無理に離れようとはしないプギャー。
 流れに身を任せるようにして。

リ*゚ -゚)|「例えばさ」

( ^Д^)「ん?」

519 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:26:53.18 ID:2bLJfTVP0
 掌で石を転がし、放り投げ、掴む。
 そんな動作をプギャーが繰り返す間、リオンは必死で言葉を選んでいた。

リ*゚ -゚)|「……このまま二人とも生き残れたとして……本土に帰れたとして……。
     そしたら……私たち、どうなるのかな?」

 月見草は尚も揺れつつ、それでも根はしっかりしている。
 決してブレることはない。

( ^Д^)「……さぁな」

リ*゚ -゚)|「会えるよね?」

(;^Д^)「そんな根本的な話かよ。そりゃ会えるだろーよ」

リ*゚ -゚)|「毎日?」

( ^Д^)「まぁ、それも可能だろうな」

リ*゚ -゚)|「……一緒に住むとかは?」

( ^Д^)「……できなくはない……と思うが……」

 そこでいったん、会話が途切れた。
 顔をほのかに赤らめながら、ちらちらとプギャーを窺うリオン。
 無関心を装うプギャー。

( ^Д^)「……だいたい、お前家族いるんじゃねーのかよ」

リ*゚ -゚)|「……いないよ、そんなの」

521 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:29:00.68 ID:2bLJfTVP0
 無表情のままリオンは言った。
 プギャーは訝った。

 しかし、深く追及することはできなかった。

リ*゚ー゚)|「プギャーは、家族とか……恋人とかいたりするの?」

( ^Д^)「家族はいるけどな……」

リ*゚ー゚)|「恋人は? いないの?」

(;^Д^)「うるせーな」

リ*゚ー゚)|「私がなってあげてもいいよ?」

( ^Д^)「9つも下の子供に手を出せってか」

リ;゚ -゚)|「むー……この年になったら9つとかあんまり関係ないじゃん……」

( ^Д^)「考えてもみろよ。俺がお前の年齢のとき、お前はまだ9歳だぞ?」

リ;゚ -゚)|「それこそ関係ないよ! 今は17歳と26歳だもん!」

 苦しい、とプギャーは分かっていた。
 こんなことを言ってもリオンは納得しない、と。

 避けなければならない理由があるわけではない。
 ただすんなりと頷きたくなかったのだ。
 素直になれなかったのだ。

523 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:31:06.64 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ー゚)|「ほら、プギャーだってずっと独り身じゃ寂しいでしょ? もう26だしさ」

(;^Д^)「勝手に決めんなよ……」

リ*゚ -゚)|「私は真剣だから」

 不意だった。
 やはりいつも通りの笑顔を浮かべたまま。
 しかし、口調は強く。

 リオンは、はっきりと言い放った。

(;^Д^)「……お前……」

リ*゚ -゚)|「プギャーが好きってこと、隠したってしょうがないと思う」

(;^Д^)「……ッ……」

 明らかに、言葉に詰まるプギャー。
 言に窮する。喉奥に蓋される。
 寄り添っているリオンをただ見つめることしかできていない。

リ*゚ー゚)|「ずっとそうだったし、これからも変わらないと思う。
     だから……本土に帰ったら……」

 リオンの右手が、そっとプギャーの左手を掴む。
 握り締める。

 熱のこもった二人の手。
 固く固く、結ばれて。

526 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:33:07.63 ID:2bLJfTVP0
 その熱を、保って。

リ*゚ー゚)|「……ごめん、やっぱなんでもない」

(;^Д^)「おい、それ二回目だぞ」

リ*゚ー゚)|「なんか言いにくくて……まぁいいじゃん」

(;^Д^)「よかねーよ。気になるだろ」

リ*゚ー゚)|「気になる? これは脈あり?」

(;^Д^)「ちげーよバーロー……それとは話が別だろ」

リ*゚ -゚)|「なーんだ……期待して損した」

 風に揺れる月見草は、ある方向には笑顔を、ある方向には背中を見せる。
 再び風が吹けば、また違う方向に笑顔を、背中を。

 そうして、何度も何度も回っていた。

リ*゚ー゚)|「別にね、はっきりとした答えが欲しいわけじゃないの」

 そして風が止めば身も留まる。
 次の風を待つようにして。

リ*゚ー゚)|「気持ちを隠したってしょうがないし、言いたかっただけだから」

( ^Д^)「……俺はどーすりゃいいんだよ」

528 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:35:07.29 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ー゚)|「どうもしなくていい。ただこうやって、一緒に居てくれるだけで嬉しい」

( ^Д^)「……ま、それならそれでいいけどな」

リ*゚ー゚)|「うん。だから、今まで通り私を連れ出してくれればいいの」

( ^Д^)「はいはい」

リ;゚ -゚)|「呆れないでよ」

( ^Д^)「別に呆れちゃいねーよ。そうしてやるか、って思っただけだ」

リ*゚ー゚)|「そうしてやって♪」

 ベースキャンプまで戻るべく、歩き出した。
 寄り添う二つの影。
 月に照らしだされた、薄影。

 その影を、プギャーが一度振り返って見た。
 影も同じように動く。
 しかし、表情はない。

 掌の石を何度も上に放り投げながら、またプギャーは後ろを見た。
 二人の間を行き来しているように見える。
 プギャーは何となく、その石を放り投げるのをやめた。

リ*゚ー゚)|「ね、その石なに?」

( ^Д^)「んぁ? これか?」

530 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:37:00.52 ID:2bLJfTVP0
 懐に収めかけたところで、リオンが言った。
 掌を開いてリオンに見せるプギャー。

( ^Д^)「さっきそこで拾ったただの石」

リ*゚ー゚)|「へぇー……でもちょっとキレイだね」

( ^Д^)「磨けばもっとキレイになりそうだな」

リ*゚ー゚)|「……ね、それ私にくれたりしない?」

(;^Д^)「なんでこんなの欲しいんだよ」

リ*゚ー゚)|「プギャーからのプレゼントが欲しいの。別に石じゃなくてもいいけど」

( ^Д^)「……なんとなく、いやだ」

リ;゚ -゚)|「えぇー!?」

( ^Д^)「気が向いたらやるよ」

リ;゚ -゚)|「むー……」

 微かに足跡を残し、二人は歩いて行く。

 干からびた大地。
 この地に染み込んでいくのは、多くが血だ。
 感情なら、歓喜や悲憤といった様々なものが流れていく。

534 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:39:25.14 ID:2bLJfTVP0
 そこに咲いた月見草。
 月灯りだけではなく、水も浴びて映えていく。
 育っていく。

 ただ、切々と。



〜〜7月24日〜〜

 ラウンジ軍の侵攻は激しさを増していた。
 猛攻に次ぐ猛攻でVIP軍は後退するより他なく、苦戦を強いられていた。

 当然、プギャーも今まで通りではなくなった。
 陸戦が始まってからかなり経った頃ではあったものの、戦いに向かわされたのだ。
 そのプギャーの体を支配していたのは、躊躇いだった。

 引き金を引く理由が、見つからないからだ。

( ^Д^)(……静かなもんだな……)

 早ければ今日にもこの道をラウンジ軍が通る。
 そういった予測が立てられたための、待ち伏せだった。
 息を潜め、気配を殺し、じっと敵兵を待っていた。

 銃声が遠来する。
 どこかでは戦いが行われているようだ。
 こちらにまで押し寄せてくる波だろうか、とプギャーは考えた。

536 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:41:36.40 ID:2bLJfTVP0
 この道をラウンジ軍が侵攻した場合。
 否が応にも、引き金を引くことになる。
 まだ戦う理由を見出せていないのに。

 避けたい。
 しかし、どうしようもない。

 プギャーは苦しんでいた。

( ^Д^)(…………)

 しかし、いつまで経ってもラウンジ軍は来なかった。
 やがてその日は引き上げることが決まり、プギャーは安心を示すように足跡を残し帰った。



〜〜7月27日〜〜

( ^Д^)「最後かも知れねぇな……」

 森の中。
 木に背を預けたプギャー。
 そのプギャーに全身を委ねるリオン。

 音もない森。
 ただ寂寞感だけがそこに在った。

リ*゚ -゚)|「……もう……会えないの……?」

( ^Д^)「その可能性は、ある……」

538 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:43:34.20 ID:2bLJfTVP0
リ*゚ -゚)|「……やだ……」

( ^Д^)「……しゃーねぇだろ……」

リ*゚ -゚)|「分かってるけど……!」

 リオンがプギャーの懐に顔をうずめる。
 しばらく、そのまま。
 そして、顔を離す。

 少しだけ、プギャーの懐は濡れていた。

リ*゚ -゚)|「戦いに行くなら……私も行く」

(;^Д^)「無理言うなよ」

リ*゚ -゚)|「離れたくない……」

 リオンの腕が、プギャーの背中に回る。
 プギャーは右手でリオンの頭を抱え込み、再び懐にうずめさせた。

 この森には、月の光も届かない。
 月見草は、輝きを持たないのだ。

リ*゚ -゚)|「また会えるよね? 一緒に、本土に帰れるよね?」

( ^Д^)「……だといいな」

541 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:45:19.87 ID:2bLJfTVP0
 それが、プギャーの表現でき得る、精一杯の優しさだった。
 決して肯定はできない。否定もできない。
 小さな葛藤の末に弾きだされた答えだった。

( ^Д^)「……ん?」

 音のない森が、動いた。
 微かに、声を発した。

 月灯りはない。
 なのに、影がある。

 人影。
 いや、人の気配。

 プギャーはすぐにそれを感じ取った。

( ^Д^)「リオン、ここにいろ」

リ;゚ -゚)|「え?」

( ^Д^)「誰かいる」

 リオンを木陰に置いて、プギャーはゆっくりと歩き出した。
 柔らかい土を踏みしめ、音を立てないように、慎重に動いていく。
 敵兵かも知れないからだ。

 ラウンジ軍の侵攻は続いている。
 しかし、もうこの森にまで達したのか。
 俄かには信じがたかった。

543 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:47:17.17 ID:2bLJfTVP0
 プギャーが思考しながら歩き続けた。
 辺りを探る。確か、この近くに感じた。
 いるのか、いないのか。

 しかし不意に。
 敵兵の姿を、プギャーは発見した。

 白い髪を伸ばした男。
 しかしすぐにその男――――ジョルジュも、プギャーに気づいた。
 ほぼ同時だった。

(;゚∀゚)「くそっ……!」

 ラウンジの兵。
 銃に、手を伸ばした。

 そしてプギャーも同時に、銃を手に取った。

 ここは退けない。
 退いてはならない。

 プギャーは無意識にそう思い、銃を構えていた。

 しかし、互いに引き金を引くことはしない。
 銃口を向けたままの膠着状態。
 牽制しあった結果、互いに動けなくなっていた。

 それも、声が聞こえるまでは、だった。

リ;゚ -゚)|「プ、プギャー……? 大丈夫……?」

545 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:49:00.02 ID:2bLJfTVP0
 置いてきたはずのリオン。
 不安げな表情を浮かべて姿を現した。

 プギャーの掌に、汗が生じる。

(;^Д^)「バッ……!」

( ゚∀゚)「喰らえっ!」

 その一瞬の隙を突いて。
 ジョルジュが、動いた。

 振り上がった銃のストック。
 プギャーの銃を叩き上げる。

 闇色に染まったプギャーの銃が、虚空に舞う。

 そしてジョルジュの銃がプギャーに向く。
 その手に何も持たぬ、プギャーの体に。

 そのはずだった。
 銃口は、プギャーに向いているはずだった。

 一瞬の後に、ジョルジュの銃も宙に舞った。
 両者ともに武器を失い、睨みあう。

( ^Д^) 「テメェ、新兵だな……? 度胸はあるみてーだが……今の状況で銃はねーよ」

 プギャーが静かに、しかし威圧を込めて言った。
 それにジョルジュが怯んだ様子はなかった。

547 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:51:10.02 ID:2bLJfTVP0
( ^Д^) 「リオン……下がってろ」

 そしてプギャーは大腿のナイフを抜く。
 同じようにジョルジュもナイフを構えた。

( ゚∀゚)「らあぁぁぁぁぁ!!」

 互いの全力が、ぶつかり合った。

 そして、鬩ぎ合いが続いた。
 激しく動き回る両者。
 互いに一歩も退かず、互角の戦いを繰り広げる。

 血を流しながら。
 息を切らしながら。

 半ば、命の奪い合いであることを、忘れたかのように。

 そんな二人の戦いを止めたのは、ひとつの小さな十字架だった。

( ^Д^)(神父……か)

 戦場に立っても十字架をぶら下げるとは、敬虔なことだ。
 その程度にしか最初は思わなかったプギャーだが、不意に疑問が沸いた。
 そして、自分の中だけに留めておけなくなった。

( ^Д^) 「……1つ、聞かせてくれ」

 二人が動かなくなり、森には静寂が戻りつつある。
 静かな声でも相手に響く。

549 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:53:14.64 ID:2bLJfTVP0
( ^Д^) 「戦う事が目的じゃないなら、何でお前はここにいるんだ? 戦場に、それも、敵軍の領地の真っ只中に」

 すぐには、答えが返ってこなかった。
 悩んでいる、といった表情で、ジョルジュは唸っていた。

 そして、数秒経ってから、その口は開かれる。

( ゚∀゚)「そこの子供……、リオンって言ったか? 俺の教会にな、あの子そっくりのシスターがいたんだ。
     あの子と同じ、善良な一般人だったけど……死んだよ。爆撃にあってな。
     俺はもう二度と、あんな事は御免だ。そう思って、戦場に立った。
     ……もしかしたら、ただ単に、復讐がしたいだけなのかも、知れないけどな」

( ^Д^)「…………」

( ゚∀゚)「……そして……今、俺には探している物がある。放っておいたら、また多くの罪無き人々が殺される物をだ。
     もしそうなれば、また、俺みたいな奴が生まれる」

 そこでジョルジュは間を置いた。
 プギャーは、ジョルジュの言葉を理解し、飲み込んだ。
 これが、戦う気になった理由か、と。

(  ∀ )「俺は……、こんな事になりたくなかった。
     でも、無理なんだ。もう俺は、何も持ってない」

 ジョルジュの手が握り拳を作る。
 ぐっと、何かを掴もうとするかのように。
 しかし、そこには何もない。

552 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:55:07.13 ID:2bLJfTVP0
(  ∀ )「教会も、俺を慕ってくれた人々も、全てなくなっちまった。
 あるのは、教えだけだ。……『常に、利他的であれ』『隣人の為に働け』ってな。
 俺は、今の俺の状況が、大ッ嫌いだ。……だからこそ俺は、俺と同じ奴を出しちゃいけないんだよ」

 切なさを込めて語られる、ジョルジュの戦う理由。
 それとは裏腹のような、あるいは相応しいような、不思議な笑顔が浮かべられていた。

( ^Д^) 「……それが、お前がここにいる、ここで戦ってる理由なのか?」

 ジョルジュの反応はない。
 しかし、プギャーは分かっていた。
 それでも何故か改めて聞いてみたい気分になったのだ。

( ^Д^) 「……互いに、百歩。それまでは絶対に振り向かない。それで、いいか?」

 ジョルジュが頷く。
 プギャーはリオンを手招きし、銃を拾った。
 そして、互いが離れていく。

 無言のままに。
 決して振り向くことはなく。

 百歩の距離に到達したとき、プギャーは大きく息を吐いた。
 木に凭れ掛かり、腰を下ろす。
 リオンが気遣うようにしてプギャーの手を握った。

( ^Д^)「大丈夫だ」

リ;゚ -゚)|「ホントに……?」

555 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 01:57:31.63 ID:2bLJfTVP0
( ^Д^)「ホントだ」

 リオンの髪を優しく撫でるプギャー。
 それはいとも容易く、リオンの顔を赤く染め上げる。

 プギャーは空を見上げた。
 木々の隙間から微かに星が確認できる。
 あまりに眩しい、と感じた。

( ^Д^)「帰ろう、リオン」

リ*゚ -゚)|「……うん」

 優しくリオンの手を引くプギャー。
 リオンはずっと心臓の鼓動の激しさが治まらなかった。
 それは、プギャーが手を握ってくれたことだけではない。

 晴々しいような。
 清々しいような。

 今までになかったような表情を、プギャーが浮かべていたからだった。


リ*゚ー゚)|「……ありがとう、またね」

 ベースキャンプに到達した。
 どことなく騒がしいような、しかし静かなような。
 何とも形容しがたい空気だ。

リ*゚ー゚)|「……どうしたの?」

557 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:00:00.69 ID:2bLJfTVP0
 愛らしく微笑むリオン。
 一途な瞳でプギャーを見つめる。

 プギャーは、黙ってリオンを抱き寄せた。

リ*゚ー゚)|「?」

 初めて、プギャーのほうからリオンを抱擁した。
 華奢なその体。力を込めれば、砕け散ってしまいそうな。

 そしてプギャーはリオンの顔を引きよせ、唇を重ねた。

 それは時間にすれば数秒で。
 プギャーにとっては一瞬で。
 リオンにとっては永遠に近い時間だった。

リ*゚ -゚)|「……プギャー……」

 リオンの頬は赤らんでいた。
 唇を離すと同時に、体も離れる。
 そしてプギャーは、笑った。

( ^Д^)「またな、リオン」

 手を振るプギャー。
 またも笑顔を見せながら。

リ*゚ー゚)|「……うん、またね!」

560 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:02:29.94 ID:2bLJfTVP0
 リオンも大きく手を振った。
 プギャーの大きな背に向かって。


 兵舎までの道のりを、小走りで駆けた。
 大きめの石を跳躍で越え、地面に大きな足跡を残す。

 そのプギャーの頭を支配していたもの。
 それは、戦う理由。

 森で、ジョルジュと戦った。
 いや、戦えた。
 何故か。戦いが終わってから、考えていた。

 理屈など何もなかった。
 ただ自然と銃を抜き、ナイフを振るった。
 戦っていた。

( ^Д^)(……探す必要なんてなかったんだ……)

 バカなことをしていた。
 戦う理由を、探すなどという。
 あまりに愚かしいことだった。

 ずっと、あったのだ。
 リオンに出会ったときから。
 あいつを、好きになったときから。

 戦場に身を置くあいつを、守りたいと思った。
 そのためなら、戦えた。

563 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:04:55.44 ID:2bLJfTVP0
 理由なんて、探すものじゃなかった。
 気付けばそこにあるもの。自然と生じるもの。
 そうだ。みんなそうだったじゃないか。

( ^Д^)(はは……ホントバカだな、俺……)

 やっと気付けた。
 愛する人を守るために、戦う。
 そんな大きな理由があった。

( ^Д^)(リオン……元気でな)

 歩幅が広がった。
 軽やかな足取りで夜道をプギャーは進んで行った。



〜〜その日の深夜〜〜

( ^Д^)「お願いがあるんだ、しぃさん」

 ベースキャンプへの道もいつしか歩き慣れた。
 岩のひとつひとつまで記憶に残っている。

 それももう、今後見ることはないだろう。
 この道を進むのは、今日が最後になる、とプギャーは思った。

(*゚ -゚)「え……?」

( ^Д^)「リオンを頼む。俺は多分もう、ここには来れない」

564 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:06:57.65 ID:2bLJfTVP0
(*゚ -゚)「それって……!!」

( ^Д^)「ラウンジが別地点から上陸してきた。VIP軍は窮地に立たされている。
     だから……分かるよな?」

 しぃが息を呑んだ。
 プギャーは尚も淡々と語り続ける。

( ^Д^)「あいつは……可愛くて、明るくて……文句のつけようもない女だよ」

 プギャーは微かに笑いながら月を見上げた。
 今日も月見草は、輝いているだろうか。
 これからも、輝くだろうか。

( ^Д^)「俺みたいな、碌に戦いもしねぇ兵の嫁って器じゃねぇだろ」

(*゚ -゚)「……責任転嫁ですか?」

( ^Д^)「いや……本心だ」

(*゚ -゚)「リオンさんは、プギャーさんのこと、心の底から愛してると思います」

( ^Д^)「分かってるよ……でも俺は軍人なんだ」

(*゚ -゚)「そんなの……」

( ^Д^)「関係ない、か? ところが、そうもいかねぇんだ。
     俺には、戦う理由があるから」

566 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:08:39.74 ID:2bLJfTVP0
 そしてプギャーは懐からある物を取り出した。
 それは微かに煌きを持している。
 小さな小さな、石だった。

( ^Д^)「これを、リオンに渡しといてくれないか?」

(*゚ -゚)「これは……?」

( ^Д^)「月光石、っていうんだ」

 石は輝く。
 月光を浴びて。
 自ら発光するようにして。

(*゚ -゚)「聞いたことない名前の石ですね……」

( ^Д^)「だろ? 俺がいま命名したんだ」

(*゚ -゚)「…………」

(;^Д^)「そんな冷たい目で見るなよ。別にいいだろ」

(*゚ -゚)「別にいいですけど、なんでそんな名前に……?」

( ^Д^)「あいつに似合うかな、と思ってさ」

 再びプギャーは空を見上げた。
 そして、腕を伸ばし、手を開いた。
 その行動の意味が、しぃには分からなかった。

568 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:11:10.31 ID:2bLJfTVP0
( ^Д^)「じゃあ、頼む」

(*゚ -゚)「……リオンさんには……」

( ^Д^)「会わない。もう、別れは済ませた」

 嘯いている。
 しぃはそう感じた。

 しかし、プギャーの言ったことが真実に思えるほど、プギャーの顔は清々しく見えた。
 当然だった。プギャーにとっては、あの口付けが別れだったからだ。

 しぃは何も言わず、ただ頷き、石を受け取った。

( ^Д^)「ありがとう」

 礼を言ってプギャーは背を向けた。
 別れなんて、こんなもので充分だ、とプギャーは思った。
 でなければ、無用に辛くなってしまう。

 誰しもが別れを経験する。
 出会った以上、その人とは必ず別れることになるのだ。
 形は違えど、時は違えど。

 遅かれ早かれ。
 いずれは、そうなるのだ。

 だから何も悔いはない。
 心残りもない。

571 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:13:16.18 ID:2bLJfTVP0
 この世との別れにさえも。



〜〜7月28日〜〜

 入念に装備を確かめた。
 銃剣、ナイフ、弾倉。
 頭から爪先までの防具。

 何も不備はない。

 隊長の声がいつもより厳しく聞こえた。
 脱出艇を守るためのラウンジ兵掃討に向かうのだ、という程度しか頭には入ってこない。
 ただ、今までのような生ぬるい戦いに挑むのではないことは分かる。

 生きるか死ぬか。
 今までずっとその世界に身を置いてきたと思っていた。
 しかし、実際には違っていたのだ。

 今度こそ死に直面する。
 それに対する恐怖は、ない。

 進発、と声がかかる。
 駆けだした。

 ラウンジは、数日前に別地点から上陸した。
 そのためVIPは窮境に追い込まれ、敗戦は濃厚だという噂が立っている。
 上は必死で否定しているが、隠し通せる事実ではない。

572 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:15:02.37 ID:2bLJfTVP0
 この戦いでは、兵隊のみならず、一般人も命を落としている。
 今後もそれは増えていくだろう。
 リオンの命が脅かされるときも、もしかしたら、来るかも知れない。


 鮫島に来てからというもの。
 プギャーはずっと、戦う理由を探しつづけてきた。

 それは軍人として、あるまじきことだった。
 分かっていた。だからこそ早く見つけたい、とも思ったのだ。
 あちこち歩き回り、迷い、それでも見つけることはできなかった。

 本当は、自分の中にあったからだ。

( ^Д^)(……守るために戦う、か……いい理由だな……)

 リオン。
 俺は、お前を守るために戦う。
 戦場に身を置いているお前が、無事に本土に帰れるように。

 俺の放った一発の銃弾が。
 お前の命を、救うことになるかも知れない。
 無事に本土に送り届けることになるかも知れない。

 だから、俺は戦うんだ。

 プギャーは声にしないまま、そう喋りかけた。
 当然、返事はない。
 あっては困る、と苦笑いした。

573 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:17:03.76 ID:2bLJfTVP0
 血の匂いがプギャーの鼻をついた。
 銃声が響いている。

 戦いが、近い。

( ^Д^)(……リオン……必ず生きて本土に帰ってくれよ……)

 そのためなら俺は、腕一本になっても戦える。
 戦ってみせる。

 お前のために。
 お前がこれからも、生きるために。

 戦う。

 戦い抜く。


 最後の、一瞬まで。


(#^Д^)「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 素早くラウンジ兵に近づき、銃剣を突き刺した。
 的確な一撃。

 蹴って引き抜き、すぐに違う兵に襲いかかった。
 俊敏な動きで、瞬く間に三人の敵兵が倒れた。

574 名前:( ^Д^) ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:19:01.21 ID:2bLJfTVP0
 最後の、一瞬まで。

 戦う理由は、確たる状態で、プギャーの中にあった。
 失うはずもなかった。

 素早く体勢を立て直したプギャーは再び駆け出した。
 周りが慌てるほどの速度で疾駆していく。


 やがてその背中は、闇の中に溶け込んでいった。
















  【( ^Д^)プギャーは戦う理由を探していたようです】

              〜End〜

575 名前: ◆azwd/t2EpE :2007/08/30(木) 02:19:48.13 ID:2bLJfTVP0
投下は以上です
ありがとうございました

プギャーとリオンの話は他作者さんの話で続きが描かれます
是非読んでみてください

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