( ^ω^)ブーンたちが戦場を駆け巡るようです
6 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:15:43.25 ID:kWWtgkGx0
 私の命はずっと孤独と共にあった。


 それは誰にも拭えなくて――――拭ってもらう気にもなれなくて。





 だからずっと、決めていたんだ。


 私は独りで生きるんだ、って。







 決めて、いたんだ。







   【リ*゚ー゚)|リオンはいつも孤独の側にいたようです】

9 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:17:25.66 ID:kWWtgkGx0
 東暦804年、夏。
 世界は以前と同じように廻り続けている。

リ;゚ -゚)|「暑いな〜……」

 麦わら帽子をかぶって外に出た。
 蝉の鳴き声がけたたましく響いている。

 庭から外に出て、あぜ道を歩いた。
 風に揺れる夏草。小川のせせらぎ。
 吹き抜ける爽やかな風。

 山の緑は今日も鮮やかだった。

リ*゚ー゚)|「よ……っと」

 小さな川をジャンプして飛び越える。
 麦わら帽子が落ちないように、手で押さえながら。

 誰もいない野道をひとり、歩き続けた。
 大きく呼吸しながら。

リ*゚ー゚)|(空気がおいしい……)

 鮫島も決して空気の悪いところではなかったが、ここと比べると劣ってしまう。
 豊かな自然があり、またそれが延々と続いているのだ。
 いま住んでいるあたりは民家が点在しているが、少し歩くだけでこんなにも自然に満ちた場所になる。

 穏やかな日々だった。

12 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:19:17.86 ID:kWWtgkGx0
リ*゚ -゚)|(……もうちょっとしたら、帰ろうかな……)

 そう思いながら、足は家と違う方向へ向かって行った。

 鮫島での戦争から、三年が経った。
 ずっと鮫島で暮らしてきた私も、本土で暮らすようになってから一年。
 その間の二年は、ラウンジにいた。

 鮫島から脱出する船がラウンジに爆撃され、沈没し、私は島に取り残された。
 戦場に居続けることとなった。

 戦争が終わってからは、ジョルジュという人の許で暮らしていた。
 捕虜となっていたため、一度ラウンジに連れていかれたのだ。
 そこにジョルジュさんが立てた小さな家で、ずっと暮らしていた。

 ジョルジュさんは優しい人だった。
 鮫島で一度会っただけだった私を引き取ってくれて、世話をしてくれた。
 色々と手伝いもしたが、その程度では返しきれないほどの恩を受けた。

 VIPに帰ってきてからも何度か手紙を出している。
 時間がかかるせいなのか筆不精なのか、返事はいつも遅いが、ちゃんと返してくれる。
 今も元気にしているようだ。

リ*゚ー゚)|(しぃちゃんは、どうしてるのかなぁ……)

 漂流して島に流れ着き、怪我をした私を看てくれた。
 自分より二つ年下の、可愛い女の子だった。

14 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:21:10.41 ID:kWWtgkGx0
 時々、背の高い男の人と話しているのを見かけた。
 今頃は、あの人と幸せに暮らしているのだろうか。
 そうだったらいいな、と思いながらまた小川を飛び越えた。

 散歩に出かけた頃、真上にあった太陽はいつしか山に近づいていた。
 それに伴い徐々に色を変えていく。
 景色が朱色に染まっていく。

 仕方なく、家路を辿った。
 夕日を背にし、自分の影を追うようにして。

「あら、リオンちゃんじゃないの」

 そんな声が遠くから聞こえた。
 麦わら帽子を少し上げて見ると、家から1kmほど離れたところに住んでいる山田さんがいた。
 いつも笑顔で優しい人だが、お喋りが長すぎるのが玉に瑕だった。

リ*゚ー゚)|「お久しぶりです」

「どうしたの、こんなところまで」

リ*゚ー゚)|「ちょっと散歩に」

「そうなの。でもそろそろ帰らないと、親御さんが心配するわよ」

リ*゚ー゚)|「……そうですね」

 無理に笑ってみせた。
 山田さんは、それに気付いただろうか。

16 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:23:06.04 ID:kWWtgkGx0
「リオンちゃん、今年でいくつ?」

リ*゚ー゚)|「もう21歳になりました」

「あらそうなの。いや、実はね……うちの息子の話なんだけど……」

 何となく、嫌な予感がした。
 作り笑いが崩れそうな、そんな予感。

「もう25なんだけどね、なかなかいい人がいなくてね……リオンちゃんがお嫁に来てくれたら、私すごく嬉しいんだけど……」

 山田さんの家の息子。顔は、ぼんやり思い出せる。
 いかにも真面目そうな顔立ちで、実際性格も真面目だ。
 何度か話したことがあるが、教科書に書いてあるようなことしか喋らない。

 先の戦争では軍人をやっていたという。
 その色に、染まってしまったのだろうか。
 あるいは元からそんな性格だったのだろうか。

 最近ここに住み始めた私には、よく分からなかった。

「もちろん本人同士の気持ちが大切なんだけどね。でも、リオンちゃんも年頃だし……」

 必死だった。
 愛想笑いを、保つのに。

「リオンちゃんみたいに可愛くて気立てのいい子、なかなか居ないから、もしリオンちゃんに少しでもその気が」

リ*゚ー゚)|「すみません、私もうそろそろ帰らなきゃ……」

18 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:25:07.71 ID:kWWtgkGx0
 強引に遮った。
 少し、申し訳ない気分だった。

「あらそうなの? ごめんなさいね、引き止めちゃって」

リ*゚ー゚)|「いえ、こちらこそ……」

「良かったら考えておいてね。それじゃあ、またね」

 山田さんは、最後まで笑顔を絶やさなかった。
 しかし、もしかしたら、あの笑顔は自分と同じものかも知れない。

 不快にさせてしまわなかっただろうか。
 最後の遮り方はやはり、強引すぎたかも知れない。

 だけど、それ以上言って欲しくなかった。
 聞きたくなかった。

 私は、他の誰のものにもならない。
 私は、私は――――。

リ* - )|(……プギャー……)

 沈んだ気持ちを抱えながら、黙々とでこぼこ道を歩き続けた。


リ*゚ -゚)|「……ただいま」

 小さく呟いて、縁側から家に入った。
 玄関のすぐ側には台所がある。あまり近づきたくないところだ。

22 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:27:16.04 ID:kWWtgkGx0
「どこへ行ってたんだい? リオンちゃん」

 祖母が優しく声をかけてくれた。
 少しだけ気分が明るくなる。

リ*゚ー゚)|「散歩。楽しかったよ」

「そうかい、そうかい……ここの空気はおいしいからねぇ」

リ*゚ー゚)|「うん、すごく」

 やっと、自然な笑みがこぼれた。
 心が落ち着いた。

 しかし、食卓へ向かうとまた気分は落ち込んでしまった。

リ*゚ -゚)|「…………」

 静かな鈴虫の声がうるさく聞こえる。
 風が草木を揺らす音さえ響いてくる。

 まったく会話のない食卓。

 目の前に座っているのは、母親。
 その隣に座る祖母。

 食器に箸が触れる音が断続的に聞こえる。
 自分の咀嚼の音もはっきり頭に届いた。

 なんて、居心地の悪い場所だろうか。

27 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:29:16.48 ID:kWWtgkGx0
リ*゚ -゚)|「ごちそうさま」

 そう言っても、母親はこちらを見向きもしなかった。
 こんな母親がよく毎日ご飯を作ってくれるものだ、と思った。

 あまり社交的なほうではなく、いつも小さな声で喋る。
 長い前髪を垂らしていて、その髪は波状にうねっていた。
 どこからどう見ても、私とは似ていない。

 似ていない理由を探ろうとしたことは、一度もなかった。
 父親に聞こうという気にもなれなかった。

 これが、私の母親なのだ。
 滅多に会話もしない。眼も合わさない。
 それでも母親なのだ。

 そう思って、ずっと生きてきた。

 祖母は父方だった。
 そのせいだろうか、やはり母親とあまり会話はしていない。
 だから食卓はいつも静かなのだ。

 父親は都会で働いている。
 この家に帰ってくることは滅多にない。

 私ももう、学生ではない。
 働くか、家の手伝いをするか。
 どちらかを選びたいが、選ばせてくれない。

33 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:31:04.69 ID:kWWtgkGx0
 母親はいつも、何もしなくていいと言うだけだ。

 真意は分からない。


 廊下をゆっくり歩いて、自分の部屋に入った。
 物は多くない。鮫島からは何も持ってこれなかったからだ。
 何となく、増やす気にもなれなかった。

リ*゚ -゚)|「ふぅ……」

 窓を開けて、椅子に座った。
 机に伏しながら、顔だけを上げて、窓の外をじっと見ていた。

 胸のポケットから、小石を取り出した。
 眩しいほどの煌めき。月明かりを浴びると、それが増す。
 輝かしくなる。

 思わず顔が綻んだ。
 ずっと肌身離さず持ち歩いて、ずっと眺めている小石。
 それでも見るたびに嬉しい気持ちで満ちる。

 寂しさなど、介在する余地もないほどに。

リ*゚ー゚)|(……だよ)

 寂しさなんか、どこにもないんだよ。
 あるわけないよ。
 自分の上辺がそう呟く。

40 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:32:48.49 ID:kWWtgkGx0
 だって、プギャーは帰ってくるから。

 必ず生きている。生きて帰ってくる。
 私に、会いに来てくれる。

 だから私は誰のものにもならない。
 ずっとプギャーを待ち続けているから。

 絶対に、生きている。
 帰ってきてくれる。

 私を、抱きしめてくれるはずだから。

 父親はずっと仕事ばかりで構ってくれなかった。
 母親は私と口を利こうともしなかった。

 私の側にあったのは、孤独だった。
 幼い頃から、ずっと、ずっと。

 色んな男の子が言い寄ってきた。
 その全てが嫌だった。
 誰も、私の孤独を取り除いてはくれない。そう思ったからだ。

 でも、違った。
 プギャーは、私の気付かない間に、孤独を吹き飛ばしてくれていた。

 助けてくれた、会いに来てくれた。
 優しく、私の手を引いてくれた。

48 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:34:51.46 ID:kWWtgkGx0
 孤独を取り除くどころではなかった。
 助けてくれたときの温かさが忘れられなくなって、私はプギャーを求めるようになった。
 恋しくなった。

 病院内ではやはり孤独だった。
 怪我をした兵隊さんが私に話しかけてきても、孤独が消えたりはしなかった。
 むしろ深まるような感覚さえあった。

 それも全て、プギャーと会えばたちまち消えてなくなった。
 ぶっきらぼうで、少し言葉が悪くて、でも心の優しい人。
 私の、最愛の人。

 口付けてくれた。
 抱き寄せて、すっと、唇を重ねてくれた。
 あの感覚は今も忘れられない。

 しかし、プギャーの姿を見たのはそれが最後だった。

リ* - )|(……プギャー……)

 しぃちゃんにこの小石を託して、プギャーは、いなくなった。

 何故か、分かった。
 しぃちゃんから小石を受け取ったときに、全て。

 プギャーはきっと、戦う理由を見つけたのだ。
 戦いに行ったのだ。

58 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:36:58.20 ID:kWWtgkGx0
 その理由がなんなのかは、分からない。
 しかし、確信だった。プギャーは、見つけたはずだ。
 だから、この小石をくれたのだ。

 居ても立ってもいられなくなって、プギャーを探しに行った。
 どこから銃弾が飛んでくるか、分からない状況で。

 結局、プギャーは見つけられなかった。
 途中でジョルジュさんに出会い、保護してもらい、そのままラウンジへと向かった。
 本当はずっと探していたかったが、わがままを通せる状況でもなかった。

 きっと生きてるさ。
 ジョルジュさんは、そう言ってくれた。
 本心からなのか、慰めなのか。分からなかった。

 しかし、あの言葉には今も救われている。
 希望を持つことができている。

 だから私は、プギャーを待ち続ける。
 これまでも、これからも。
 生きている限りは、ずっと。

69 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:38:48.18 ID:kWWtgkGx0
 いつか、プギャーと再会できる日を。
 プギャーと、一緒に暮らせる日を。

 幸せになれる日を――――夢見ながら――――

リ*- -)|「……プ……ギャー……」


 ――――夢見ながら――――。












77 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:40:48.74 ID:kWWtgkGx0


















                                 「……えっ……」




                  「ほ……ほんとうに……!?」






87 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:43:38.09 ID:kWWtgkGx0


            「VIPの兵に運よく助けてもらえたのは良かったんだけどさ……」




    「大怪我してたから、完治するのにずいぶん時間がかかっちまって……」






                      「こんなとこに住んでるって調べるのにも時間くっちまったしな……」












          「……でも俺は、戦う理由を見つけられた。お前を守るために戦ったんだ」



95 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:45:06.36 ID:kWWtgkGx0

                             「ごめんな、長い間、待たせちまって」








          「……泣くなよ。悪かったって」






                   「これからは、ずっと一緒に居るから」





                                 「お前を、独りぼっちにはさせないから」




              「それで、許してくれるか?」


99 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:46:14.31 ID:kWWtgkGx0

                          「……許してあげるよ、仕方ないなぁ……」




       「号泣しながら言うなよ、リオン……」





                    「……嬉しいから、泣いてるんだもん……」










           「もう絶対、私を独りにしないでね!」




                             「あぁ、もちろんだ」


101 名前:リ*゚ー゚)| ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:46:40.43 ID:kWWtgkGx0









                  「……これからは、ずっと一緒だ」
















   【リ*゚ー゚)|リオンはいつも孤独の側にいたようです】


              〜End〜

106 名前: ◆azwd/t2EpE :2007/08/31(金) 21:46:59.44 ID:kWWtgkGx0
以上です

ありがとうございました

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