( ^ω^)ブーンたちが戦場を駆け巡るようです
125 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 21:52:23.97 ID:CpUHCcWr0

待ち合わせ場所となっている、都内の某ホテルの一室。
私はその部屋の扉の前に立っていた。
真っ白で清潔感のある扉を三度ノックしてみる。
すると予想した通り、中から

「どうぞ、お入り下さい」

という、少ししわがれた女性の声が返ってきた。
私は一度深呼吸をし、取っ手に手を掛け、ゆっくりと回した。

部屋の中はそれなりに広さがある割りに、必要最低限の物しか置かれてなく、簡素な雰囲気が漂っている。
その中央に置かれたテーブルと2脚の椅子。
華奢な造りの椅子に、今回インタビューさせていただく女性は座っていた。
私は一礼して、女性と反対側に位置する椅子に腰掛けた。

131 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 21:53:57.37 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「初めまして、今日はよろしくお願いします、母木さん」

J( 'ー`)し「こちらこそよろしくお願いしますね」

川 ゚ -゚)「早速で申し訳ありませんが、お話を聞かせていただきますか? 鮫島戦でのことを。
      まず、何故取材を受けて下さったのでしょうか?」

母木さんがコクリと頷いた。それから静かな口調で話し始めた。

J( 'ー`)し「そうですね……私は息子の仇のためと、自分を誤魔化し、人を殺す道具を作るのを手助けしていました。
      でも、色々な人のお陰で気づけたのです。人殺しの道具を作っていても、息子は喜ばないって事を。
      それから戦争が終わって、私は考えました。息子の弔いに何が出来るだろうと。
      ある日気づいたんです。戦争の傷跡を引き摺る人たちの心に、希望の灯火をつけて廻る事。
      これが自分に出来る事だと」

言い終えると、母木さんがにっこりと微笑んだ。
それから何時間か、私と彼女のやり取りは続いた。

139 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 21:55:41.36 ID:CpUHCcWr0

私は来た時と同じように、母木さんに一礼してその部屋を立ち去った。

ホテルの外に出ると、相変わらず人がごった返していた。
ため息を吐いて、その人ごみの中に紛れ込む。

川 ゚ -゚)「戦争、か」

誰にも聞えない程度の大きさで、今回の取材のテーマであるその単語を口にする。
その単語は、どれだけの月日が経とうと、忌まわしく思えた。
大切な人を奪ったそれを、どうしても許す事が出来ない。

私は湧き上がった感情を振り払うように頭を振り、視線を上へと向けた。
そこにはビル街のせいで窮屈そうにしている、茜色の空があった。

戦争が終わった時、この街は一面焼け野原だった。
復興など無理だろうと諦められた土地に、まさかビル街ができ、
沢山の人で溢れかえるような街になるとは誰も思っていなかっただろう。
事実、私もこの国がこんなに発展するとは思っていなかった。

川 ゚ -゚)(……いろいろあったな。これまで)

あの頃の事がフラッシュバックする。色褪せぬまま。

それは10年ほど前、私がひよっこライターで、世の中が戦争一色だった時の話。

146 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 21:57:37.73 ID:CpUHCcWr0









川 ゚ -゚)クーは一輪の花を見つけたようです











149 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 21:59:14.15 ID:CpUHCcWr0

都内でそこそこの部数を発行している新聞社、VIP新聞。
私は1年位、そこで新聞記者として働いている。
と言っても、最初の半年は主に先輩記者の手伝いや雑用に追われていた。
記事を任されるようになったのはつい最近の話だ。

川 ゚ -゚)「よし、あとは写真だけだな」

私は先ほど書きあがった記事を、もう一度入念にチェックした。
誤字脱字はどうやらないようだ。仕上がりは上々といった所。
ふぅと息を吐き出し、大きく伸びをする。
それから向かいのデスクで作業をしている、同期のカメラマンに声を掛けた。

川 ゚ -゚)「ハイン、写真の選り分けは終わったか?」

从 ゚∀从「あー、もうちょいで終わる。もう少し待ってくれ」

中性的で整った顔に申し訳なさそうな笑みを浮かべ、答えるハイン。
この男は、中性的な顔立ちをしており、一見すると女に間違われそうである。
間違えられない理由、それは彼が髪を坊主と形容できるほど、短く刈っているからに他ならない。

しかも身長が、女では高い方である私と同じ位。男としてはかなり小柄である。
徴兵の際に行われた身体測定で、身長が小さいという理由で追い返されたと、社内で実しやかに囁かれる程だ。
何故追い返されたのか、本人に確認したところ、

从 ゚∀从『俺、生まれつき片目が見えねぇんだわ』

と言っていた。悲しげにも見える笑みを浮かべて。

154 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:01:34.38 ID:CpUHCcWr0

从 ゚∀从「クー?」

ハインが訝しげにこちらを覗き込んで来た。
私はそれでハッと現実に戻った。

川 ゚ -゚)「あぁ、写真の件、了解した」

私はコクリと頷き、再び記事に顔を戻した。
見出しは、戦時下でもがんばる人達。内容は見出し通りである。
生活欄の端っこに小さく掲載される予定だそうだ。

川 ゚ ー゚)「まぁ、掲載されるだけで嬉しいものだな。初仕事だし」

誰にも聞えないような大きさで呟く。
なんとなく口の中がねばねばして気持ち悪い。
きっと集中していたから喉が渇いたのだろう。

そう思い、お茶を淹れに給湯室へ行こうと席を立った。
その時、向かい側のハインも同時に席を立った。手には大量の写真を持っている。
ハインもこちらに気づいたらしく、へらりと笑いかけてきた。

162 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:03:00.20 ID:CpUHCcWr0

从 ゚∀从「今からどっか行くのか?」

川 ゚ -゚)「ああ、喉が乾いたんでな。給湯室でお茶を淹れて来ようと思うんだが、ハインもいるか?」

从 ゚∀从「あー、んじゃあ俺の分も頼むわ」

川 ゚ -゚)「了解。写真は適当に置いておいてくれ」

从 ゚∀从「あいよ。あ、お茶温めで。お前のお茶、熱すぎるんだよ」

川 ゚ -゚)「お前が猫舌なだけだろ。猫舌の男は頼りない、っていうジンクスを知っているか?」

从 ゚∀从「はいはいはいはい、俺は頼りないですよーだ」

そんな感じでしばらく冗談を言い合った後、私は給湯室へ、ハインは喫煙室へ向かった。

167 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:04:55.34 ID:CpUHCcWr0

手に、それぞれ温度の違うお茶を持ってデスクに戻ってきてみると、写真とメモが置かれていた。
お茶を一度デスクに置いて、メモを手に取る。
筆跡から見てハインが書いたのは間違いなかった。

『猫舌男が頼りないなんてジンクス、誰も聞いた事ないって言ってるじゃねぇか。
 俺はデマだと思うね。絶対デマだ。地球が引っくり返って、それが世界の常識になってもデマだ』

川;゚ -゚)(……必死だな)

私はやれやれと小さくぼやいた後、温いお茶を持ってハインのデスクへ向かった。
お茶を渡すと、ハインは何度かお茶に息を吹きかけた。
それからゆっくりと口をつけた。白い喉が規則的に上下する。

从 ゚∀从「うん、ちょうどいい温度だった。ご馳走さん」

子供のような無邪気な笑みを浮かべるハイン。
思わず頬が綻ぶ。いつも大人ぶってる割に、こういう一つ一つの動作が子供っぽい。
きっとそこが周りから好かれるポイントなんだろう。
そんな事を考えながら、差し出された空の湯飲みを受け取る。

川 ゚ -゚)「そうそう、メモ読んだぞ。結論から言う」

一度そこで言葉を区切る。
ハインが目を何度も瞬かせて、私をじっと見つめる。

171 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:06:34.12 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「イチイチ細かい事を気にしていたら、身長縮むぞ」


从 ゚∀从……















从 ;∀从ブワッ

175 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:08:51.91 ID:CpUHCcWr0

川;゚ -゚)「ほらほら、泣くんじゃない。男だろ?」

ハンカチを差し出すと、ハインがパッとそれを私の手から奪い去った。
涙を拭い、仕舞いには鼻まで拭き始めた。
このハンカチはもう使えないなと思っていると、涙目のハインが私を見ていた。

从 ;∀从「クーが苛めるから……」

川;゚ -゚)「正直すまなかった。だから泣き止むんだ、な?」

从 ;∀从「じゃあ奢ってくれる?」

大きくまん丸な目に涙を浮かべる彼は、とても可愛らしく、私はついつい甘やかしたくなってしまった。
普段なら絶対に言わないであろう台詞を口に出す。

川;゚ -゚)「仕方ないな。今日だけだぞ?」

そう言うとハインがしばらく迷う素振りを見せた。
優柔不断な性格の彼の事だ。大方、候補は決まれど、一つには絞れないのだろう。

从 ;∀从「すき焼きがいいな」

すき焼きといえば、身近な料理とは言え、かなりのご馳走だ。
しかし、職業が職業なので、給料は普通の会社員よりはある。
それに丁度、数日前に給料日を迎えたばかりだ。どうにかなるだろう。

179 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:10:54.10 ID:CpUHCcWr0

川;゚ -゚)「まぁ……懐にも余裕があるし構わんぞ。他には? 遠慮せずに言ってみろ」

从 ゚∀从「じゃあ寿司も!」

その台詞を聞いた瞬間、私の堪忍袋の緒が切れた。








从#)∀(#从「正直、すびばせんでした。反省しでばす。俺が悪かったです」

川 ゚ -゚)「反省しているならそれでよし」

私は掲載する写真を選びながら、ハインの謝罪に、適当な返事をした。

183 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:12:45.51 ID:CpUHCcWr0

泥まみれで笑う男の子。
一家総出で畑を耕す田舎の風景。
工場で慣れない機械作業に戸惑う女性。

どれも被写体が生き生きとしている。
あくまで素人目から見てだが、彼にはどうやらカメラマンとしての才があるようだ。
写真とは技術云々より才能の問題だと、誰かから聞いた覚えがある。
いくら馬鹿で頼りない奴でもきっと将来は有名なカメラマンになるんだろう。

川 ゚ -゚)(まぁ、本人に言ったら天狗になりそうだしな。言うのは控えておこう)

そんな事を考えながら、ようやく50枚ほどある写真の中から1枚選び出した。
少年が大きく腕を広げながら、田舎のでこぼこ道を走っている写真だ。

189 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:14:29.71 ID:CpUHCcWr0

華がある訳でもない。構図が上手い訳でもない。
それでも惹かれる何かがあった。
少々見出しとはずれている気がしたが……そこは気にしない事にした。

写真を糊で仮止めし、記事が完成した。
提出する前に、最後にもう一度、記事をざっと眺めた。
問題は特に見当たらない。

川 ゚ -゚)「さて、編集長の所に行くかな……。ハイン行くぞ」

从 ゚∀从「お、おう!」

私はハインと連れ立って、オフィスの一番奥へと向かった。

川 ゚ -゚)「編集長、7月15日付の朝刊の3面用記事が完成しました」

(´・ω・`)「うん、お疲れ様」

編集長がしょぼくれた顔に柔和な笑みを浮かべて、記事を受け取った。
それから視線を記事へと向けた。
その間、何とも言えない沈黙が辺りを流れる。

191 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:16:00.45 ID:CpUHCcWr0

どれだけの時間が経ったのだろう。
ふいに編集長が顔を上げた。先と変わらぬ笑みを浮かべたまま。

(´・ω・`)「初仕事にしては上出来だよ。お疲れ様」

その言葉に、私は驚くしか出来なかった。

穏やかな雰囲気で、優しそうな笑みをいつも浮かべる初老のこの男。
見た目とは裏腹に、どんな記事でも必ず文句をつける事で有名だ。
酷い時は罵声を浴びせ、その上、心血こめて書いた記事を破り捨てる事もある。

そこからついた呼び名は、白い鬼。
そんな編集長から褒められるとは思っても見なかった。

しばらくの間、呆然としていたがハッと我に返り、頭を下げる。
ハインもそれに見習い、頭を下げた。

川 ゚ -゚)从 ゚∀从「「ありがとうございます!」」

(´・ω・`)「感謝されるような事はしてないつもりだよ。今日は帰っていいよ」

その一言で、私達は定時より3時間早く帰れる事になった。
もしかしたら編集長は、巷で流行のツンデレとかいうやつなのかもしれない。

195 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:17:54.67 ID:CpUHCcWr0

从 ゚∀从「よっしゃー、んじゃあ飲みに行こうぜ!」

川 ゚ -゚)「しょうがないな……行くか」

現金なハインを尻目に、私は呆れて笑った。

こんな日常がずっと続けばいいと思っていた。
だがその願いも空しく、平和な日常は音を立てて崩れ去った。









――戦争がなかったらこんな事にならなかっただろう。

197 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:20:01.65 ID:CpUHCcWr0

***

それから2ヶ月経った。
普通だと短く感じられるその月日。だけどその間に大変な事が起こった。
重要な拠点であった鮫島が陥落したのだ。
最もラウンジに近いその島が堕ちた事により、本土にも戦火が広がった。

空襲警報が毎日のように鳴り響いた。
その度に、土臭い防空壕の中に逃げ込んだ。
家や会社にいる時は、すぐにそれが出来た。

しかし、その日はたまたま取材の為、外出していた。
私は焦りながら、必死に防空壕を探した。

そして見つけたのが、今いる防空壕だった。

川 ゚ -゚)「ふぅ……助かった」

ようやく一息つけた、そう思った時。
カラン、と石が一つ足元に転がってきた。

202 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:21:24.47 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「?」

私以外に人がいる気配はない。
上からでも降ってきたのだろうと思い、放っておく事にしようとした矢先。
また石が音を当てて、私のそばに落ちてきた。
今度は何個も、何個も。

私は怖くなって逃げるように、その防空壕から抜け出した。

昔から幽霊だの妖怪などといった物が苦手だった。
誰もいないのに石が飛んでくるなんて、悪霊や祟り以外の何物でもないだろう。

他の人から見たら、たいした事じゃないのかもしれない。
それでも私には耐えられなかった。

外に出ると、空襲警報は既に鳴り止んでいた。
私はそれから取材を済ませ、会社へ戻った。
帰り際、さっきの出来事を思い出して、また怖くなった。

207 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:23:30.32 ID:CpUHCcWr0

从;゚∀从「クー!ちょっと来てくれ」

オフィスに着いてすぐ、ハインが凄い形相で駆け寄ってきた。

川 ゚ -゚)「うるさいぞハイン、何かあったのか?」

从;゚∀从「いいからちょっと来いって!」

急かすハインについて行くと、そこに小さな人だかりが出来ていた。
人の山を掻き分けて進むと、掲示板になにやら重要書類が張り出されていた。



「本日ヨリ新聞等ノ紙媒体ニオイテ 検閲ヲ行ウ
甲ヨリ下ノ評価ヲ下サレタ物ニ関シテハ 発禁処分トスル

                           内務省」



理解できなかった。否、心が理解する事を拒絶した。
目の前が真っ暗になりそうだった。
落ち着け、落ち着けと何度も自分に言い聞かせて、もう一度それを見直した。

209 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:26:55.03 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「検閲……発禁処分……」

要するに、国に不利な事を少しでも書いたら、その時点で発売差し止めという事なんだろう。 
沸々と怒りがこみ上げてくる。
記者の仕事は、真実を正しく伝える事だと私は思っている。
だからこそ、国が、天皇が、自分の身可愛さに、国民から真実を隠そうとするこの姿勢に腹が立った。

川 ゚ -゚)「……ハイン、お偉いさんの所に乗り込んできてもいいか?」

从 ゚∀从「え、………えっ?」

川 ゚ -゚)「おかしいだろう、これは。問いただしてやる」

从;゚∀从「おいおいおい、ちょっと待てよ!クー、落ち着けよ」

川 ゚ -゚)「落ち着いているが?」

从;゚∀从「落ち着いてねぇよ!」

廊下で押し問答していると、騒ぎを聞きつけた人が集まってきた。
それでも私たちのやり取りは続く。

210 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:27:14.85 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「検閲……発禁処分……」

要するに、国に不利な事を少しでも書いたら、その時点で発売差し止めという事なんだろう。 
沸々と怒りがこみ上げてくる。
記者の仕事は、真実を正しく伝える事だと私は思っている。
だからこそ、国が、天皇が、自分の身可愛さに、国民から真実を隠そうとするこの姿勢に腹が立った。

川 ゚ -゚)「……ハイン、お偉いさんの所に乗り込んできてもいいか?」

从 ゚∀从「え、………えっ?」

川 ゚ -゚)「おかしいだろう、これは。問いただしてやる」

从;゚∀从「おいおいおい、ちょっと待てよ!クー、落ち着けよ」

川 ゚ -゚)「落ち着いているが?」

从;゚∀从「落ち着いてねぇよ!」

廊下で押し問答していると、騒ぎを聞きつけた人が集まってきた。
それでも私たちのやり取りは続く。

213 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:28:24.96 ID:CpUHCcWr0

从;゚∀从「お偉いさんにそんな事言ってみろ!処刑されちまうぞ」

川 ゚ -゚)「一向に構わん。むしろ本望だ」

从;゚∀从「……クー」

ハインが力なく私の名前を呼んだ。諦めたように項垂れて。
私は彼に背を向け、人ごみを掻き分けて玄関へ足を向けた。
それを制する者は、その場に誰一人いなかった。

しばらく歩いていると、編集長が廊下の真ん中に立っていた。
編集長の顔にいつもの柔和な笑みはない。
あるのは、悲しげにも見える、無表情。

川 ゚ -゚)「編集長」

(´・ω・`)「ハァ……お偉いさんの所に乗り込むって騒いでる奴がいるって聞いたんだが……
      まさか君だとは思わなかったよ」

川 ゚ -゚)「そうですか。先を急いでいるんで、済みませんが、失礼致します」

私は小さく頭を下げ、編集長の横を通り過ぎようとした。
その時、編集長にガッと右肩を掴まれた。
反射的にキッと睨んでしまった。編集長が、垂れ下がった眉を更に下げる。

215 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:30:07.49 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「離していただけませんか?」

(´・ω・`)「離さないよ。君がお偉いさんの所に行かない、って言うまでね」

そのまましばらくの間、睨み合いが続いた。
この場で行かないと嘘を吐けば、きっとこの静かな争いは終わるのだろう。
しかしそれは、私の信念に反している。

真実を伝える事。
それは同時に、嘘を吐かないという意味もあった。
悪意の無い嘘であろうと、それが人の心を傷つける事を、私は知っているから。
だからこそ、国の今回の所業が許せなかった。

心の底でそんな事を考えていると、不意に編集長が口を開いた。
そこから出た言葉は、激昂している私を止めるのに十分な程、重いものだった。

(´・ω・`)「……君の行動一つで、みんなが路頭に迷うかもしれない。
      もしかしたら処刑されてしまうかもしれない。
      上に立つ者として、それだけは避けたいんだ。
      だから……我慢してくれ、クー」

川 - )「……っ」

自分の正しい道を貫き通す。それは確かにいい事だ。
しかし、その為に、他の人に迷惑をかけるのはお門違い。
そう思っていた、はずなのに。

217 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:31:41.06 ID:CpUHCcWr0

自分の浅はかさに腹が立った。
同時に、申し訳ない気持ちと後悔で胸が一杯になった。

川 - )「すみませんでした……ショボン編集長」

口から出た声は、自分のものとは思えないほど弱弱しく、震えていた。

編集長がため息を吐くのが聞えた。
俯いているため表情は見えないが、やはり呆れたのだろう。
いや、もしかしたら失望したのかもしれない。

そう思っていると、頭に何か温かいものが置かれたのを感じた。
少し顔を上げてみると、編集長の腕が、私の頭の上まで伸びている。
頭の上の暖かい何かは、手だった。

(´・ω・`)「誰でも過ちを犯すもんだ。だから、そう自分を責めなくてもいいんだよ」

言葉と、大きな手の温かさに、目から雫が零れた。

222 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:33:19.39 ID:CpUHCcWr0

***

その事件から1週間ほど経過した。

編集長はそう言って下さったが、自責の念はいつまでも纏わりついて離れなかった。
処刑されるハインや編集長、みんなが夢の中に出てきた。
その度に起きる為、眠る事もままならない。

それに加え、負け戦なのにも関わらず、記事にはそれと真逆の事を書かなければならなかった。
嫌悪感に耐えながら、私はそんな記事を書き続けた。

疲労感と倦怠感で体が悲鳴を上げていたが、それを隠して、仕事した。
ここで逃げたら、志がポキリと音を立てて、折れてしまいそうな気がしたからである。

そんなある日、仕事中、突然ハインに呼び出された。

从 ゚∀从「クー、ちょっと来てくれないか?」

川 ゚ -゚)「あぁ、構わないが……」

連れて行かれたのは、編集長の所だった。
どうしてここに連れてこられたのだろうか。
疲労と眠気で全く働かない頭では、結論が出るはずも無く。
私は霞む目を擦り擦り、ハインをぼーっと見つめるしか出来なかった。

从 ゚∀从「編集長。こいつに1週間ほど、有給をやってくれませんか?」

227 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:35:06.19 ID:CpUHCcWr0

いくら動かない頭でも、彼の言っている事ぐらいは分かった。
確かに最近、仕事に集中できていない。
それを見かねて、彼はこう言い出したのだろう。

しかし、私はその親切を受け取るつもりはなかった。

川 ゚ -゚)「編集長、結構です。有給はいりません」

編集長はしばらく、じーっと私たち二人の顔を見つめていた。
しかしすぐに結論が出たのか、ハインの方を向いて、首を縦に振った。

(´・ω・`)「クー君に有給を出そう」

川 ゚ -゚)「先ほどから申し上げておりますとおり、有給は必要ありません」

从 ゚∀从「だってお前、かなr (´・ω・`)「大分前から無理してるだろう。一度休んだ方がいい」

从; ゚∀从「人の台詞盗るの、やめてくれませんか?」

(・ω・`)「だって僕の出番あんまりないし」

いつも通り振舞っていたつもりだったのだが、バレていたようだ。
ハインにならともかく、普段あまり関わらない編集長にまで。
という事は全く隠れていなかったという事だ。

229 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:38:07.40 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「……無理なんてしてません」

私の頑固さに見かねたのであろう。
編集長がため息を吐いて、一つの案を出した。

(´・ω・`)「それじゃあ、こういうのはどうだろう。
      君の実家のあるT県へ取材に行く。それなら文句無いだろ?」

川 ゚ -゚)「それなら……構いませんけど」

反論できない私に、編集長が満足げな笑みを浮かべた。







そういう成り行きで、私は実家へ戻る羽目になった。
この日を最後に、二度と会えなくなる事になるとは知らずに。

230 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:39:17.41 ID:CpUHCcWr0

***

電車で1日ほど行った、とある地方都市。ここが私の生まれ故郷だ。
大きな工場などは特に無い為、空爆の被害も比較的少ない。

天高く馬肥ゆる秋と言われるように、秋の空は高く見える。
高く見えるだけ、夏よりも薄い青な気がする。
私はそんな薄い色の空を眺めるのが好きだ。

そんな空とは対照的に、町の至る所に生える木々は、鮮やかな色に染まり始めている。
本格的な秋がやってくる予兆だ。
もうすぐ米や野菜などといった、農作物の収穫でこの町も賑やかになるだろう。

川 ゚ ー゚)「どこも……変わらないな」

思わず頬が綻びた。
数年前と変わらぬ雰囲気に、胸の中が懐かしい気持ちでいっぱいになる。
ゆっくりと歩きながら、私は変わらぬ景色を眺めた。

街中から少しはずれた、辺鄙な場所に、古びた屋敷がある。
江戸時代から立っているらしい、その家は奥めかしい雰囲気を醸し出していた。
これが私の生まれた家である。

233 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:40:53.63 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「ただいまー」

ボロボロの玄関を開けて中へと入ると、奥から着物姿の姉が出迎えてくれた。

腰まで伸びた、長い黒髪。
キッと細い目だが、垂れた眉で中和され、キツイという印象を与えない。
色が白く、線も細い。等身大日本人形だといわれても、誰も違和感を抱かないだろう。

桃色の、柔らかそうな口が開かれる。
そこから発せられる言葉は、外見とはかけ離れた物だった。

lw´‐ _‐ノv「久帰りんぐね、クー」

川 ゚ -゚)「相変わらず訳が分からないな、シュー姉さんは。父さんは?」

lw´‐ _‐ノv「お国の人に連れられて、どんぶらっこっこーどんぶらっこっこー、兵隊さんになりました」

川 ゚ -゚)「そう……か」

健康が取柄の父の事だから、戦争に引っ張り出されている事は分かっていた。
しかし、実際にそうだと言われると、悲しくなる。
それに気づいた姉が、やんわりと微笑みながら、私の頭を撫でた。

lw´‐ _‐ノv「大丈夫よ、あの変態の事だから生きて帰ってくるわ」

この台詞で一気に悲しみが吹っ飛んだ。

川;゚ -゚)「姉さん、知らない人が聞いたら、本当に父さんが変態だと思われるだろ」

235 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:42:00.11 ID:CpUHCcWr0

lw´‐ _‐ノv「まぁ、それは置いといて。今からお昼にするつもりだったんだけど、食べる?」

川 ゚ -゚)「ちなみにメニューは?」

lw´‐ _‐ノv「雑炊よ。アクセントに生米を飾ってみました」

川;゚ -゚)「それ、アクセントになってないだろ」

うふふと笑う姉を尻目に、私はため息を吐いた。
幼少からこんな風だった姉なので、扱いには慣れている。
だが、久々に相手にしたので、この短い会話だけでも、精神的に疲れた。

川 ゚ -゚)(こんな人が沢山いたら、VIP終わるよな……)      

そんな事を考えていると、姉がこちらを凝視していた。
こっちみんなwww、と言おうとしたその時。
姉の方が先に言葉を発した。

lw´‐ _‐ノv「悩み事があるんじゃない?」

238 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:44:12.21 ID:CpUHCcWr0

川;゚ -゚)「どうして……」

会ったばかりなのに分かったんだ、と言おうとしたその時。
姉がニタリと怪しい笑みを浮かべ、こう言った。

lw´‐ _‐ノv「フフフ、柏木様のお告げよ。だから私には何でもお見通し」

ツッコむべきポイントが沢山ある気がしなくもない。主に柏木や柏木など。
しかし、それよりも話の続きが聞きたかった。
黙って姉を見つめていると、しばらくの間の後、姉が口を開いた。

lw´‐ _‐ノv「深くは聞かないけど、、私からいえる事は一つ。
人生は一度しかないんだから、やりたいようにやりなさい。
       あと、作者が身長1hydeなのも、バラしちゃ駄目よ」

川 ゚ -゚)「……姉さん、なんか、ありがとう」

最後の1行は、とんでもなく爆弾発言な気がするが、気にしない事にした。
この人の言葉をいちいち気にしていたら、日が暮れてしまう。

素直に礼を述べると、姉さんは柔らかく微笑んだ。

lw´‐ _‐ノv「私は何もしてないわ。
       感謝するなら、白い神様と、母なる大地に感謝なさい」

家族という存在の大切さが身に染みた。
例えそれが、地球が引っくり返っても変わりそうにない、奇人だとしても。

241 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:45:58.65 ID:CpUHCcWr0

***

実家での生活も6日間経った。
楽しい時間は早く過ぎていく。それを改めて実感していた。
あっちへ帰る準備をしながら、何気なく、ラジオの正午ニュースという番組を聴いていた。
どこそこで我が軍が戦闘機を云々だのといった、嘘で塗り固められた事が放送されている。

他愛も無い、無意味な時間。
そんな中、突然、緊急速報が飛び込んできた。

『先ほど、都内にて大規模な空襲が発生した模様。死者・行方不明者は未だ不明』

川; - )「う、そ……だろ?」

我が耳を疑いそうになった。
しかし、ラウンジは今までにも、何度も中規模な空襲で、沢山の民間人を殺している。
そこから考えると、今回の大空襲は嘘じゃなさそうだ。


245 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:47:21.29 ID:CpUHCcWr0

頭ではそう理解していた。だが、心が納得していない。
自分の目でそれを確認するまで、納得できそうにも無かった。
私は財布と少しばかりの食べ物を持って、駅へと駆け出した。

急げ、急げと心が急かす。だが、思ったより前に進まない。
もどかしさに涙が出そうになった。だが、歯を食いしばり、ひたすら走る。
走って走って走って、ようやく駅へとたどり着いた。

駅構内を見ると、ちょうど上り電車が止まっている。
満員だったが構わず、私は飛び乗った。

川;゚ -゚)(どうか……みんなが無事でいますように)

ぎゅうぎゅう詰めの車内で、私は祈る事しか出来なかった。

248 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:48:46.81 ID:CpUHCcWr0

1日掛けて、ようやくたどり着いた都内は、一面焼け野原だった。
私はその光景に、呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
ふと我に返り、VIP新聞社があったであろう場所へと走って、走って……走った。
だが、どれだけ走っても瓦礫の山しか見当たらない。

川 う -;)「ハァ……ど、どこだ……どこにあるんだ」

零れそうになる涙を拭きながら、私はずっと探し続けた。
そして、日が暮れ始めた頃、黒ずんだ『VIP新聞社』と書かれた看板と、瓦礫の山を発見した。
もうみんな避難したのか、辺りには誰もいない。

川 ゚ -゚)「……ぶ、じでいてくれ……みんな」

煤で汚れた空気を一生懸命吸い込んでいた所為か、ようやく出した声は枯れていた。
荒れた息を落ち着けようと、下を向いたその時。

川;゚ -゚)「っ!」

赤色に染まった手が、外に向かって伸びていた。
その手のそばには、見覚えのあるカメラが落ちている。






――それはハインが始終大切にしていたカメラだった。

253 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:50:54.84 ID:CpUHCcWr0

川 - )「う、そだろ……?なぁ、嘘だよな?お前が死ぬ訳ないよな、ハイン。
     頼むから、返事をしてくれ……なぁ、ハイン、ハイン……ッ!」

しかし、呼び掛けも空しく、血の色の手が動く事はなかった。
ハインが死んだ。それを理解した瞬間、涙が止め処なく溢れ、零れ落ちた。

どうして、未来のある人間が死ななくてはならないのだろう。
どうして、戦争に参加していない人まで、殺すのだろう。
血と涙と瓦礫の山しか生まない、この非生産的な行為を何故、続けるのか。

疑問が心の中で反芻する。
だがそれらに答えが出ることは無く、答えてくれる人もいない。

先ほどまで晴れていたはずなのに、急に雨が降ってきた。
まるで、空がこの出来事を悲しんでいるかのように。
私はずぶ濡れになりながら、ハインの死体の前で、ずっと泣き続けた。


259 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:52:37.51 ID:CpUHCcWr0




それから2週間後、VIPは平和条約に調印し、日楼戦争は幕を閉じた。
もっと早くそうしていれば、ハインは助かったかもしれない。
そう思うと、悔しくてまた涙が零れた。





263 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:55:05.45 ID:CpUHCcWr0

***

終戦から1ヶ月。
焼けた大地には小さな闇市ができ、1日に1度、食べ物の配給もなされるようになった。
人はどんなにショックな状況でもしぶとく生きれるようだ。

私は毎日行く当ても無く、荒野を彷徨っていた。
いや、もしかしたら皆を探していたのかもしれない。
だけど、心の中では、彼等もハインと同じように、死んでいるんじゃないか、と諦観していた。

そんなある日、一人の少年が道端に倒れていた。
ここら辺じゃ珍しい、小麦色の肌。
私は気になって、少年に駆け寄った。


265 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:56:23.07 ID:CpUHCcWr0

(ヽ´ω`)「おっおっ……」

川;゚ -゚)「少年大丈夫か?」

(ヽ´ω`)「お、お腹が空いた、お……」

川;゚ -゚)「ちょっと待っててくれ少年。すぐに食べ物を出す」

私は急いで懐から干し芋をいくつか取り出し、少年に渡した。
少年はそれをガッと奪うと、口の中に押し込むようにして食べる。

( ^ω^)「ハムッ、ハフハフッ!」

川 ゚ -゚)「きめぇwwww」

( ^ω^)「ありがとうだお、助かったお!」

268 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 22:58:46.12 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「それにしても、食事は配給されてるのに……どうして君は行き倒れてたんだ?」

( ^ω^)「それはですね、チンチンカユカユビックリスルホドユートピアだからですお」

川;゚ -゚)「鮫島から逃げてきたのか!?」

( ^ω^)「はいですお。いろんな人が助けてくれましたお。恩知らずもいましたけど……」

そう言うと、胸に下げたロザリオを大切そうに触った。
少しひしゃげてはいるが、少年が大切にしている所から、誰かからもらったのだと分かった。
ここは余計な詮索をしないでおこう。

川 ゚ -゚)「これから君はどうするつもりなんだい?」

(;^ω^)「親戚の家を頼ろうと思ってますお。ただ……どうやって行くのか分からないんですお」

川 ゚ -゚)「親戚の家の住所は分かるんだな?」

( ^ω^)「ここですお」

少年が差し出した紙を受け取る。
そこには、ここから比較的近い漁村の名前が書かれていた。
これならすぐにでも、送り届ける事ができるだろう。

269 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 23:00:28.15 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「少年、行くぞ。ここから乗合自動車で3時間ほどで着く。
     降りる場所がわからないだろうから、送っていく」

( ^ω^)「mjsk?命の恩人、いや女神様ですお!」

川;゚ -゚)「女神は流石に言いすぎだろう……常考」

嬉しそうな少年を一瞥し、私は停留場の方向へ歩を進める。
私と、3歩程の距離を保ちながら、少年が付いて来た。

停留所には、歩いて2分ほどで着いた。
それからしばらく、色々と話しながら待っていると、バスがやってきた。
田舎の方向にいくからだろうか、車内は比較的空いていて、座る事ができた。

川 ゚ -゚)「少年、助けたお礼と言ったらおこがましいが、
     その……鮫島戦について話してくれないか?」

その一言に、少年がたじろいた。無理もない。

戦地にすら行ってない私でさえ、先の大空襲で、ハインや先輩方を何人か亡くしている。
あくまで憶測に過ぎないのが、激戦地にいたのだから、もっと惨い状況に立ち会ったのだろう。

私は自分の無神経さを呪いつつも、胸の奥から湧き上がる好奇心を抑えきれなかった。

( ^ω^)「……いいですお。ただあまり面白い話じゃないですお」

少年は困ったように微笑むと、鮫島での出来事を話してくれた。

271 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 23:02:09.74 ID:CpUHCcWr0

彼の話してくれた内容は、戦場の恐ろしさと人の温かさが詰まっていた。
戦争は愚かしく、『壊す』事以外しない。
それは故郷だったり、大切な仲間であったり……。
しかし、そこで戦っている人々は、決して悪ではない。
それぞれの背負うものの為に戦っている。

ハインが死んだ時、憎くてたまらなかった人たちが、今は同士のように思えた。

川 ゚ -゚)「すまなかったな……話してくれてありがとう」

( ^ω^)「お礼を言われるような事はしてないつもりですお。
      それに……もしかしたら、僕は誰かに話したかったのかもしれないですお
      あの人たちの生き様を」

そう言った少年の瞳には、真っ直ぐな光があった。
その瞳と呼応するかのように、首から掛かった、歪んだロザリオがキラリと輝いた気がした。

273 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 23:03:33.23 ID:CpUHCcWr0

そうこうしている内に、バスは目的の停留所に着いた。

川 ゚ -゚)「ここでお別れだな」

( ^ω^)「本当にありがとうございましたお!」

川 ゚ -゚)「達者でやるんだぞ」

( ^ω^)ノシ「お姉さんもお元気で」

快活のいい笑みを浮かべて、少年は私に手を振りながら、バスから降りていく。
私は手を振り返す代わりに、最敬礼をした。
感謝の気持ちをこめて。

少年が降りた後、扉が閉まり、バスが発車し出した。
外では、少年がまだこちらへ手を振り続けている。
私はその姿が見えなくなるまで、後ろを振り返っていた。
満面の笑みを浮かべながら、大きく手を振る少年の姿を眩しく感じながら。

276 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 23:05:01.99 ID:CpUHCcWr0

1人でバスに乗りながら、私は考え事をしていた。

少年は自分よりも酷な状況に置かれていたのに、強く生きていた。
それなのに、自分がめそめそしていては駄目だ、と。
これからの未来はあの子達の世代によって作られるのだろう、と。
それなら私を含め、大人は、彼らに何が出来るだろうか、と。

ふと窓の外を見ると、先ほどまで海が見えていたのに、いつの間にか山ばかりになっていた。
ここから導き出される事は、唯一つ。










川 ゚ -゚)「このバスじゃ、首都に戻れないじゃないか」

282 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 23:06:52.63 ID:CpUHCcWr0

***

終戦後のVIPは発展の一途を辿った。
焼け焦げた大地に家が建ち、ビルが建った。
道路はコンクリートで舗装され、そこに車が走る。
以前のVIPでは見られない光景だった。

VIP復興を支えているのは、驚く事に、敵戦国であったラウンジである。
流石兄者の元、瓦礫の山となった首都が整備された。
ファシズムの塊だった憲法も改正され、平和を謳う国へと姿を変えた。

激戦地だった鮫島は、ラウンジが占拠し、そこに研究所などが建設された。
関係者以外立ち入り禁止だと聞いたが、ラウンジ側に取材交渉をしてみた所、

「機密に関わらない程度なら」

との回答が来た。

それを聞いた瞬間、私は準備を整え、鮫島へと向かった。
ハインのカメラを携えて。

284 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 23:08:23.65 ID:CpUHCcWr0

川 ゚ -゚)「……ここで、戦っていたのか」

荒れ果てていたであろう土地には、木々が芽吹き、花が咲き乱れていた。
地図によれば、戦争以前、ここには集落があったようだ。
それすらもないという事は、よっぽどの激戦だったのだろう。

平和で、まるで戦争など無かったかのような光景。
何も知らない人がここに訪れたら、きっと戦争があった事など気づかないだろう。
それでも、少年から聞いた戦いの様子が目に浮かんだ。

287 名前:川 ゚ -゚) ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 23:09:52.51 ID:CpUHCcWr0


志半ばで散った人もいただろう。
婚約者と別れの挨拶をせずに、死んだ人もいたかもしれない。
血で血を洗う事に慣れ、狂ったまま、殺された人もいるだろう。


私は目を瞑り、手を合わせた。
戦って死んだ御霊が、せめてあの世では幸せでありますようにと。
それが、直接戦争に関わってない私が、唯一できる事だった。




一陣の風が、小さな花を揺らし、また何処かへと向かう。
まるで、誰かの祈りを運ぶように。





川 ゚ -゚)クーは一輪の花を見つけたようです   終わり

293 名前: ◆SugarIiluA :2007/08/31(金) 23:11:23.93 ID:CpUHCcWr0
以上です。

しばらく経った後、エピローグが投下されます。

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