('A`)は樹海行きの切符を買うようです
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/08(土) 13:07:19.78 ID:WGR9Giob0
プロローグ1

 とっくに夏休みは終わったにもかかわらず、
僕は2日連続で学校に行っていない。
誰にも文句をいわれないのは、9月1日2日が土日と休みだったからだ。
2日間の執行猶予もあと半日足らずで終わってしまう。
学校に行くくらいなら死んだほうがマシだ。

 僕は、ずっと夏休み最後の日に死のうと思っていた。

 靴屋の1人息子である僕は大学へは進学できない。
神に愛された頭脳や才能が僕にあったら
あるいは違っていたのかもしれないが、
僕は大学に行かずに靴屋修行をすることが決まっている。

('A`)「靴屋なんか嫌だ! 僕にはやりたいことがあるんだ!」

 僕にはそんな主張はできない。やりたいことなんてないからだ。
だから僕にとって高校3年の夏休みは人生最後の夏休みであり、
僕はその締めくくりに死のうと思っていた。

5 名前:1:2007/09/08(土) 13:08:14.40 ID:WGR9Giob0
 色々と考えたのだ。

 靴屋を継ぐなら学校に行く必要はないのではなかろうか。
だったらこのままだらりと半年間は遊んでいても良いのではなかろうか。
さすがにそう口にしないだけの賢さはあり、
僕は冷房の効いた部屋で布団にくるまるにとどまっている。
僕が大学に行けないのと同じ理由で高校に行かなければ、
すぐに金槌片手に靴型設計の勉強をさせられるに決まっているのだ。

 そんなのはごめんだ。学校もごめんだ。
このまま布団の中で1日を終えるのもごめんなので、
僕は起きだすことにした。
顔を洗って着替えると、財布と携帯を持って外に出た。

 なんせ明日までに死ななければならないのである。
僕には残された時間がない。
どこか遠くに行きたくて、僕は駅まで歩くことにした。

7 名前:1:2007/09/08(土) 13:09:11.23 ID:WGR9Giob0

「よおドクオ。どこ行くんだお」

 小太りの男に呼び止められた。

( ^ω^)「暇なら一緒に野球するお」

('A`)「嫌だよ暑い。最後の夏休みに他にすることねーのかよ」

( ^ω^)「ドクオは何かすることあるのかお」

 ないよ、とは言いたくなかった。蝉の鳴く声がする。

('A`)「死ぬ、とか」

( ^ω^)「それは面白いお」

8 名前:1:2007/09/08(土) 13:09:31.72 ID:WGR9Giob0
 こいつは本気にしていない。
にやにやしながら僕に近寄り汗ばんだ腕で肩を掴んできた。

( ^ω^)「じゃあ樹海で死ぬと良いお。
       百均で磁石買って行って、
       本当に使えなくなるのか調べてくれお」

 話しているのも面倒くさい。
僕は適当にあしらうと、VIP駅まで歩いていった。

 蜘蛛の巣状の路線図をぼんやりと見つめた。樹海は静岡の方だろうか。

 思えば生れ落ちて18年、路線図をちゃんと見るのははじめてである。
今日死ぬとしたら最初で最後だ。記念になるかもしれない。
注意深く1駅1駅の名前を辿っていくと、

『樹海』

 聞いたことのない名前の駅があった。樹海行きの切符は380円。

 500円もかからず行けるのならば、仮に何かがあったとしても、
最悪夜通し歩けば帰ってこられるだろう。

('A`)「帰ってくるつもりなのか?」

 1人呟き小さく笑った。どうやら僕は死ぬつもりではなかったらしい。

 僕は樹海行きの切符を買った。

11 名前:1:2007/09/08(土) 13:11:01.69 ID:WGR9Giob0
プロローグ2

 電車を降りると、あたり一面草原だった。
21世紀の世の中にこんな景色があったのか。僕は驚いた。
しかしすぐに異変に気づいた。

(;'A`)「何故電車を降りたばかりなのに草原しか目に入らないんだ?」

 ここは駅だ。駅の筈だ。しかし僕の目には、草原の他に何も見えない。
360度、見渡す限り草原だ。

(;'A`)「では今まで僕が進んできた筈の線路はいったいどこに行ったんだ?
    駅の建物はどこへ? そもそも僕は電車から本当に降りたのか?
    何故一歩踏み出す前に違和感を感じていないんだ?」

 なるほど、夢か。思い至った。それなら僕にも合点がいく。
おそらくは知覚夢というやつだろう。
明日からはじまる学校が嫌でしかたがない僕の脳が作り上げた幻想なのだ。
それなら全てに説明がつく。
どうせ見るならエロい夢なら良かったのにな。
そんなことを考えていると、

「こんにちは」

 女の子の声が聞こえた。

12 名前:1:2007/09/08(土) 13:11:43.25 ID:WGR9Giob0
 いつの間にか、僕の目の前に女の子が立っていた。
ウェーブのかかった金髪をツインテールにまとめている。
赤1色のワンピースから覗く真っ白な腕が妙になまめかしくて、
自分の夢の中だというのにドキドキしてしまう。

 女の子は僕をじっと見つめている。

ξ゚听)ξ「こんにちは。聞こえないの?」

(;'A`)「こ、こんにちは」

ξ゚听)ξ「なんだ、聞こえてるんじゃない。
      それなら返事くらいしなさいよね。
      あー、わかった。あんたここ来るのはじめてでしょ」

 そりゃそうだ。
何度も見ている夢なら、今頃はこの女の子はとっくに僕に犯されている。

13 名前:1:2007/09/08(土) 13:12:19.09 ID:WGR9Giob0
 僕が黙っていると、女の子はいつのまにか右手に刃物を持っていて、
僕の眼前に刃をピタリとつきつけてきた。
なんだこの展開は。
汗腺という汗腺から冷や汗が流れ出るのが感じられる。

ξ゚听)ξ「返事しなさいって言ったでしょ。耳ついてんの?」

(;'A`)「す、すいません。ついてます」

ξ゚听)ξ「聞きたいのはそこじゃないの。そんなの見りゃわかるって。
      ここに来たのははじめて?
      だよね。こんなにオタオタしてるもんね」

 なおもつきつけられている刃物にうまく口から声が出ず、
僕はアホみたいに首を縦に振った。

ξ゚听)ξ「そんなに動いたら刺さるわよ」

 僕の動きが止まる。喉がカラカラだ。

14 名前:1:2007/09/08(土) 13:12:55.05 ID:WGR9Giob0
ξ゚听)ξ「ああ、自己紹介がまだだったね。あたしはツン」

('A`)「ドクオです」

ξ゚听)ξ「なんだ、声出るんじゃない。
      それならサクサク進めてよね、こっちも暇じゃないんだからさ。
      じゃあはいこれ。はじめての人にはサービスね」

 手に持っている刃物を器用に回すと、僕に柄が向くように差し出した。
僕は思わずそれを手にする。
それは意外なほどずっしりと重く、
『刃物』という呼び方は似つかわしくないように感じられた。

ξ゚听)ξ「名前わかるでしょ。言ってみて」

('A`)「そんなのわかるわけが…ないのに。なんだろう。
    ひょっとして、『ナマクラソード』という名前ですか、これ」

15 名前:1:2007/09/08(土) 13:13:20.99 ID:WGR9Giob0
ξ゚听)ξ「そうそう。んー、じゃあ問題ないわね。
      あっち見て。下りの階段があるでしょ。
      すごいレトリックな、ザ・階段! みたいなやつが」

('A`)「あー、ありますね。雨のときとか大変そう」

ξ゚听)ξ「うん、ちゃんと見えてるね。じゃあ、あれ降りてってちょうだい」

(;'A`)「え。なんでですか」

ξ゚听)ξ「なんでって。
      あんた何しに来たのよ。一生あたしと駄弁ってる気?」

 どっちかというとしたいのはセックスだ。
夢の中とはいえとてもそんなことは口にできないので、
僕は何も言えなかった。
こんなにうだつのあがらない夢ならさっさと覚めてしまえば良いのに。

16 名前:1:2007/09/08(土) 13:14:04.64 ID:WGR9Giob0
ξ゚听)ξ「あ。ひょっとして。
      あんた夢だと思ってない?」

('A`)「違うんですか」

ξ゚听)ξ「違うわよー」

 ちょっと貸して、と剣を取る。
いきなり僕に斬りつけてきた。

(;'A`)「いたたたたたた!
    ちょっと何するんですか!」

ξ゚听)ξ「ほら痛いでしょー。夢じゃないって」

 はいこれ、と剣を返す。
ツンはバッグから妙な色の草を取り出すと、今つけた傷口にすりこんだ。
めちゃくちゃ痛かったのに、すぐに血が止まり、
動いても痛くならないようになった。
やっぱり夢じゃないのかな、これ。

17 名前:1:2007/09/08(土) 13:14:30.30 ID:WGR9Giob0
ξ゚听)ξ「夢じゃないことがわかったら、そろそろレッツゴーしましょ。
      さっきも言ったけど、あたしもそんなに暇じゃないんだから」

(;'A`)「ちょっと待ってくださいよ。
    夢じゃないならなおさら行きたくないですよ。
    だいたいあそこは何なんですか」

ξ゚听)ξ「え。樹海」

('A`)「地下なのに?」

ξ゚听)ξ「うん。樹海。わかったら行こ」

(;'A`)「じゃなくて。あんな得体の知れないところ行ったら
     何があるかわからないじゃないですか」

ξ゚听)ξ「それがいんでしょーが。
      だいたいあんたあそこ通らずにどうやって帰るつもりなの?」

('A`)「あ」

18 名前:1:2007/09/08(土) 13:15:06.09 ID:WGR9Giob0
 するってーと何かい。あそこ通らなきゃ帰れないってことなのかい?
そんなわけがない。僕は電車で来たのだから電車で帰れる筈だ。

ξ゚听)ξ「馬鹿ねー。線路もないのにどうやって電車で帰るのよ」

('A`)「むむむ」

ξ゚听)ξ「なにがむむむだ!
      良い? あんたはあそこに行くしかないの。
      別にここでのたれ死んでもあたしは良いんだけどさ」

('A`)「うーん。あそこ行ったら帰れるのですか?」

ξ゚听)ξ「帰れるよー。みんなそうして帰るんだもん」

('A`)「じゃあ行きますよ。行けばいんでしょ」

19 名前:1:2007/09/08(土) 13:15:40.12 ID:WGR9Giob0
ξ゚听)ξ「そうそう。じゃあ行く気になったところではいこれ」

 ツンは大きなうまい棒(めんたい味)と変なスイッチを手渡してきた。

ξ゚听)ξ「足踏みしたいときは押してね。
      それから、うまい棒は湿気ちゃったらだめだから。
      それでも食べられることは食べられるけど、
      色々イヤンなことになるからね」

('A`)「はあ」

 ほとんどツンの言ってることの意味がわからない。何うまい棒って。
こんなの誰が食うかっつーの。僕はコーンポタージュしか食べないんだ。

ξ゚听)ξ「じゃあがんばってねー」

 階段を降りる僕の背後でツンが大きく手を振っている。
ちょっとだけ頑張ってみようかなと思った。

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