('A`)は樹海行きの切符を買うようです
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:03:57.23 ID:VbMl5tWc0
『第八話』

 まずルールを説明するわ、とツンは言った。

ξ゚听)ξ「これからあたしたちは殺し合う。
      あんたが勝てばあたしは解放されあんたは願いを叶えられ、
      あたしが勝てばあんたはただ目覚めることになる。
      そしてもう二度と『樹海』に来ることはない」

 僕たちの立つ一帯はいつのまにか激しく隆起していて、
穏やかな風の吹く草原はどこにも見当たらなくなっている。

 逃げることはできないの、とツンは言う。

ξ゚听)ξ「あんたとあたしは同じ条件で戦う。
     同じレベル、同じステータス、同じ装備でね。
     それらはあんたが基準になっていて、
     それはあたしを見ればわかるわね」

 待てよ、と僕は叫んだ。

('A`)「なんなんだよこれ! わけわかんねーよ!
   今までのはいったい何だったんだ!」

ξ゚听)ξ「今までのはレシピ作りよ。
      あたしもあんたと同じようにレシピを作られたわ。
      そしてあたしはそのレシピ通りに今から戦うの」

 自殺できないようにね、とツンは言った。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:06:07.62 ID:VbMl5tWc0
ξ゚听)ξ「レシピといえば料理の手順を連想するでしょうけど、
      "recipe"の原義はちょっぴり違う。
      『その通りにすれば必ずそうなるもの』みたいな感じかしら。
      あんたのレシピはこの戦いの後に完成される。
      それが書き換えられるのは、
      唯一ここで誰かと戦って勝った場合だけ。
      そして破棄されるのは負けた場合だけよ。
      勝った場合、あんたは
      あんたのレシピを持ってここで待つことになる」

 解放されるのをよ、とツンは言う。

ξ゚听)ξ「質問はある?」

 僕の口は言葉を発するのを忘れてしまったようだった。

 でははじめましょう、とツンは言った。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:10:52.51 ID:VbMl5tWc0
・1ターン目

■■■■■
■■ツ■■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■■ド ■■
■■■■■


ドクオ                  ツン
73/73                  73/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eタングステンシールド+1
E1本の木の矢           E1本の木の矢
 ミミタブシールド          ミミタブシールド
 お手当て草             お手当て草
 火ー吹き草             火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:13:24.81 ID:VbMl5tWc0
 僕の耳はツンの言ったことを受け入れ、
僕の脳はツンの言ったことを解読したにもかかわらず、
僕の心には何も伝わってきていなかった。

 僕が呆けたようにツンに歩み寄ると、
彼女から放たれた木の矢が僕の腹部に突き立った。

『ツンの攻撃! ドクオに12ポイントのダメージ!』

('A`)「くそ…本気なのか!」

 うめくような声を出し、僕は木の矢を無理やり引っこ抜く。
僕の腹部から抜けた木の矢は僕の手の中で消え去った。

 ジクジクと12ポイント分の痛みが僕の腹部を這いまわっている。

「本気なのよ」

 その痛みは僕にそう伝えていた。

11 名前:ズレてないよね?:2007/10/20(土) 16:18:09.16 ID:VbMl5tWc0
・2ターン目

■■■■■
■■ツ■■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■■ド ■■
■■■■■
■■■■■


ドクオ                  ツン
61/73                  73/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eタングステンシールド+1
E1本の木の矢
 ミミタブシールド          ミミタブシールド
 お手当て草             お手当て草
 火ー吹き草             火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:21:44.09 ID:VbMl5tWc0
 僕たちが『行動』を終えると、
一歩進んだ僕の背後のスペースが奈落へと崩れ落ちた。

('A`)「後退のネジは外して来いって?」

ξ゚听)ξ「そうよ。来なさい」

 僕は渇く喉に唾液を送り、無理やり飲み込んだ。
砂のような味がする。

「知り合いを犠牲にするのは気が引けるもんだけど、
 それでもあたしは解放されたら幸せよ」

 そんなことを言われたな、と僕は思い出していた。

('A`)「知り合いを犠牲にするのは、僕の方なのか」

 僕はそう呟いた。自分の願い事を叶えるために、だ。
そしてツンは誰かに殺されるのを待っている。

('A`)「僕にできるのか?」

 僕は自問自答した。
できるわけがない、という答えが返ってくる。

('A`)「じゃあ、誰かにそれをやらせるのか?」

 絶対嫌だ、という答えが返ってくる。
いったいどうすれば良いのだろう。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:23:51.01 ID:VbMl5tWc0
('A`)「どっちにしても、僕は後悔するんだな」

 後悔するわよ、とツンに言われたことを思い出した。
確かに後悔するな、と僕は苦笑いを浮かべる。
なんせもう後悔しはじめている。
世の中には、知らない方が幸せなことや
関わらない方が幸せなことなどいくらでもあるのだ。

 それではどちらの方がマシなのだろう。
僕はそれを考えた。
ツンはいずれ殺されなければならないし、殺されるのを待っている。
しかし僕はツンを殺したくないし、誰にも殺されて欲しくない。

('A`)「僕はツンに永遠にここにいろと言っているのか?」

 そうだ、と僕は思った。
それが僕にとって一番心地よい選択である。

 しかし、それではだめなのだ。

('A`)「ツン! お前は解放して欲しいんだな!」

 僕は肺に挑むようにありったけの声を出した。
そうよ、とツンから答えが返ってくる。

ξ゚听)ξ「あんたも自分が言ったことに責任持ちなさい!」

 心を決め、僕はツンに向かって木の矢を放つ。
ツンは斜め前に移動しそれを回避した。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:29:52.52 ID:VbMl5tWc0
・3ターン目

■■■■■
■■■■■
■■■ツ■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■■ド ■■
■■■■■
■■■■■


ドクオ                  ツン
61/73                  73/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eタングステンシールド+1

 ミミタブシールド          ミミタブシールド
 お手当て草             お手当て草
 火ー吹き草             火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:35:20.59 ID:VbMl5tWc0
('A`)「なッ!」

 木の矢が避けられたことに僕は驚いていた。
そして思い当たる。
これはデザインされた通りに動く敵たちとの戦いではなく、
僕と同じように何度も死にながら探検を繰り返し、
やがて『樹海』を突破し前任者を殺したツンとの戦いなのだ。

 そして、僕たちと同様『樹海』を突破した者を
彼女は4人連続で殺しているのだ。

('A`)「こんな安直な攻めが通用するわけがなかったんだ!」

 僕は奥歯を噛み締める。

 改めて考えると、
僕が安易に食らった12ポイントのダメージはいかにも大きかった。
装備が同じで持ち物も同じである以上、
1ポイントのダメージの差は何かしらの方法で
相手を出し抜かない限り埋められない。

 つまり、と僕は結論づける。

('A`)「このまま接近して殴り合いになったら僕の負けだ」

 僕が軸をあわせようと斜め前に歩を進めると、
ツンの口から火が吐き出されるのが見えた。

『ツンは火ー吹き草を飲んだ! ドクオに25ポイントのダメージ!』

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:40:16.41 ID:VbMl5tWc0
・4ターン目

■■■■■
■■■■■
■■■ツ■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■■■ド ■
■■■■■
■■■■■
■■■■■


ドクオ                  ツン
36/73                  73/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eタングステンシールド+1

 ミミタブシールド          ミミタブシールド
 お手当て草             お手当て草
 火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:44:52.71 ID:VbMl5tWc0
('A`)「やられた!」

 お前は馬鹿か、と僕は何度も自分を罵倒した。
しかし、僕が自分を呪ったところで状況は何ら変わらない。

 僕は状況を確認した。
木の矢と火ー吹き草のダメージのせいで、
僕は37ポイントものビハインドを背負っている。
僕には遠距離攻撃の手段として火ー吹き草があるけれど、
木の矢を避けたときのように斜めに進まれれば
僕の吐く火はツンには当たらない。

 遠距離攻撃の手段をなくしたツンは、
ただジグザグと近寄り肉弾戦に持ち込めば良いのだ。

('A`)「絶望的だ」

 状況を分析すればするほど僕に勝ち目はないように思われた。

 僕にできることはなんとかして確実に火ー吹き草を
ツンに当て、ツンの空振りか僕の会心の一撃を期待し
肉弾戦にもちこむことのみである。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:47:32.37 ID:VbMl5tWc0
('A`)「どれだけ可能性が小さかろうが、
   僕はそれに賭けるしかない」

 そう思った。
なんとか最善手を打ちつづけ、あちらの失着を期待するより他にない。
情けないことだけれど、可能性が小さいということは
ゼロではないということでもある。

('A`)「もっとも、
   それも僕が勝手に言ってるだけかもしれないけどな」

 僕はそう呟いたが、同時にこう考えもした。
僕が無い知恵絞って考えたとして、それで負けるなら
それはそれでしょうがないじゃないか、と。

('A`)「つまり、目の前だけ見てれば良いんだ。
   僕は考え得る最善の行動をとる。
   その結果までは僕の知ったことではない」

 そう思わなければ心が折れてしまいそうだった。

 ツンに遠距離攻撃の手段はもはやない。
火を吐くか?
そう考えもしたけれど、僕は今のうちに回復しておくことにした。

『ツンはミミタブシールドを装備した!』
『ドクオはお手当て草を飲んだ! 25ポイント回復した!』

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:49:54.63 ID:VbMl5tWc0
・5ターン目

■■■■■
■■■■■
■■■ツ■
■□□□■
■□□□■
■□□□■
■■■ド ■
■■■■■
■■■■■
■■■■■


ドクオ                  ツン
61/73                  73/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eミミタブシールド

 ミミタブシールド          タングステンシールド+1
                     お手当て草
 火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:53:09.07 ID:VbMl5tWc0
 完全に後手後手に回っているな、と僕はため息をついた。

('A`)「おそらくツンは十分な実験をこなしているに違いない」

 つまり、タングステンシールドとミミタブシールドの
守備力の違いによるダメージの差、
そしてミミタブシールドの特殊能力による
火のダメージの軽減を把握しているのだろう。

 僕はツンと隣接するまでに火ー吹き草を飲まなければならない。
隣接してからでは遠距離攻撃の意味がないからだ。

 それをわかっているからツンはミミタブシールドに装備を替えている。
火ー吹き草は通常25ポイントのダメージを与えられるが、
そのダメージはミミタブシールドによって半減される。

 おまけに彼女がどう動くか読み切らなければ、
その半減したダメージさえ与えられない。

('A`)「おそらくツンは斜め前に移動することだろう」

 受けるダメージはゼロにするのが望ましいからだ。
つまり、僕も斜め前に移動しツンと『行動』1回分をおいてて対峙し、
次のターンに彼女が前方3方向のいずれに移動するか予測して
そこに火を吐く必要があるというわけだ。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:56:35.16 ID:VbMl5tWc0
 ツンのこれからの行動は手にとるように読めるのに、
僕にはそれに抗う術がないように思われる。
僕は自分の無力さがもどかしかった。

('A`)「この戦いは、1ターン目が勝負だったんだ」

 そう思った。
1ターン目に僕が火ー吹き草を飲んでいれば、
僕は逆にアドバンテージをもった形でツンと対峙していたことだろう。

('A`)「しかし、それは現実的ではない」

 1ターン目から火ー吹き草を飲むのはギャンブル性が大きすぎる。
相手が斜め前に進んだ場合、
最大の遠距離攻撃の手段を失う結果になるからだ。

 つまり、と僕は考える。

('A`)「木の矢を打つくらいが妥当なところだった。
   僕は何も考えず、ただそれを食らったわけだ」

 ツンは『妥当なところ』を冷静に実行した。
僕にはそれができなかった。
それが勝負を分けるんだ、と僕は呟いた。

 詰みの形を作られながらも決して投了しない子供のように、
僕は斜め前に一歩進む。
僕はツンと『行動』1回分の距離を隔てて対峙した。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 16:59:24.89 ID:VbMl5tWc0
ギャー
ミスっとる!

まあいいや。
最後に修正するのでブーン速!さんお願いします

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:02:22.81 ID:VbMl5tWc0
・6ターン目

■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■ツ■■
■□□□■
■■ド ■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■


ドクオ                  ツン
61/73                  73/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eミミタブシールド

 ミミタブシールド          タングステンシールド+1
                     お手当て草
 火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:07:15.98 ID:VbMl5tWc0
 何かの拍子に落ちてしまいそうなほどに狭められた足場の上、
吹き上げてくる風がツンの髪を揺らしている。

 僕たちはしばらく無言で向き合っていた。

('A`)「もうすぐ終わる」

 僕がそう呟くと、ツンは静かに頷いた。

('A`)「ツンの考えでは、
   僕がここから逆転することはあり得るのかな」

ξ゚听)ξ「はっきり言って、ないわね。
      この戦いは互いの装備が同じである以上、
      いかに遠距離の攻防を制するかがキモなのよ」

 僕はツンの言葉にどこか引っかかりのようなものを感じていた。
それが何なのかわからず黙りこむ。

 あんたはがんばったわ、とツンは僕を慰めた。

ξ゚听)ξ「あたしは『樹海』であらゆる実験を繰り返した。
      そして完全な理論を組み立て、対人戦も経験している。
      そんなあたしに勝てる筈がないのよ」

 奇跡でも起こらない限りね、とツンは言う。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:09:31.82 ID:VbMl5tWc0
 僕は目を瞑り、思考の海に飛び込んだ。
考えろ考えろマクガイバー。
僕は自分にそう言い聞かせ、深く深く進んでいく。

 僕は自分の状況、ツンの状況、
そしてこれまでのツンの行動を思い浮かべ、考える。

('A`)「本当にそうか?」

 やがて思考の海から引き上げると、
僕はツンの目を見て問いかけた。

('A`)「完全な理論なんてものはこの世には存在しない。
   もしツンがそれを完全な理論だと思っているなら、
   それはただの思考停止に他ならない」

 僕が彼女にそう言うと、ツンは僕を睨みつけた。

ξ゚听)ξ「だったらそれを証明してみせなさい」

('A`)「もちろんだ」

 奇跡を起こしてやるよ、と僕は言った。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:12:20.50 ID:VbMl5tWc0
 ツンはあらゆる実験を繰り返したと言っていた。
そしてツンのレシピはその経験に基づいて作られたものである。
つまり、ツンはきちんと期待値計算をできているのだろう。

('A`)「あのときの僕のような判断ミスなどしないのだ」

 僕はそう考えた。

 まず、3分の1の確率だ。
これに成功すれば僕の勝利は確定する。

 しかし、成功しなかったとしても、
これまでのツンの行動と今の状況を考えるに
僕の勝率は5割を下回らないことだろう。

 僕の計算ではそうだった。
奇跡の起こる確率にしては高すぎる。

('A`)「僕はツンを殺す。そして解放する」

 僕は自分の意志を確認すると、正面に向かって右手を振り払う。
ツンは斜めに進み、攻撃に当たることなく僕と隣接した。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:14:57.25 ID:VbMl5tWc0
・7ターン目

■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■ツ■■■
■■ド ■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■


ドクオ                  ツン
61/73                  73/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eミミタブシールド

 ミミタブシールド          タングステンシールド+1
                     お手当て草
 火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:17:11.60 ID:VbMl5tWc0
ξ゚听)ξ「残念だったわね。
     3割バッターは7割凡退するのよ。
     それがあんたの言う奇跡だったのかしら」

('A`)「もちろん違う。
   奇跡というより、ツンの理論の穴だな。
   この状況においてそれは、
   すでに塞がらない大きさになっている」

ξ゚听)ξ「どこに穴があるっていうのよ!」

 落ち着けよ、と僕は言った。
自分の理論に対する自信とプライドがそうさせるのだろうが、
ツンは興奮しすぎている。

('A`)「実験は十分に行ったんだよな?」

ξ゚听)ξ「もちろんよ! 期待値計算もすべてできてるわ」

 ツンの穴はそれだよ、と僕は言った。

('A`)「条件付き確率と期待値計算だ。
   数学なんて大嫌いだ」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:19:16.21 ID:VbMl5tWc0
 僕はラスボスーンとの戦いを振り返る。

 僕がタングステンシールドを装備しているとき、
ラスボスーンの攻撃によって受けるダメージは14ポイントだった。
火によるダメージは20ポイントだ。

 そしてミミタブシールドを装備しているとき、
攻撃によって受けるダメージは22ポイント、
火によるダメージは10ポイントだった。

 つまり、それぞれ2分の1の確率で行われるとすると、
タングステンシールド装備時に受けるダメージの期待値は17ポイント、
ミミタブシールド装備時に受けるダメージの期待値は16ポイントとなり
ミミタブシールドを装備することが賢い選択となる。

 今の僕たちの状況を考えると、
火ー吹き草によるダメージは通常25ポイントなので、
盾の守備力によるダメージの差が8ポイントである以上、
同じ理由でミミタブシールドを装備することが賢い選択となる。

('A`)「ツンは僕に遠距離攻撃を2度ともベストな形で成功している。
   それに対して僕は1度も成功させられていない。
   もはや僕たちは隣接しているのだから、
   計算上僕に勝ち目はない」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:21:20.91 ID:VbMl5tWc0
ξ゚听)ξ「それでもあんたは勝てるって言うの?」

('A`)「"Exactly"」

 その通りでございます、と僕は言った。

('A`)「ツンが僕に勝てるとしたら、
   それは僕が火ー吹き草を飲むまで接近しないことだった。
   あるいはタングステンシールドのままで
   突っ込んでくれば良かったんだ。
   そうすれば木の矢12ポイントの差は僕には埋められない」

 ツンのレシピは完全な勝利を求めすぎている。
勝利条件は相手のHPをゼロにすることであって、
それさえ満たせば他はどうでも良いのだ。

 ツンは僕の言葉で気づいたようで、
自分の左手に握られているミミタブシールドを睨みつけた。

('A`)「僕は簡単に心変わりする不安定な人間だ。
   僕の行う行動は、同様に確からしいとは限らない」

 覚悟はいいか? 俺はできてる。
僕はツンにそう言うと、バールのようなものを握る右手に力を込めた。

『ツンの攻撃! ドクオに15ポイントのダメージ!』
『ドクオの攻撃! ツンに23ポイントのダメージ!』

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:24:03.79 ID:VbMl5tWc0
・8ターン目

■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■ツ■■■
■■ド ■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■


ドクオ                  ツン
46/73                  50/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eミミタブシールド

 ミミタブシールド          タングステンシールド+1
                     お手当て草
 火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:25:49.05 ID:VbMl5tWc0
 とめどなく吹き上げてくる風の中、
僕とツンはわずかばかりの足場の上にいる。
女の子たちがブーツを履くような季節になっているにもかかわらず、
僕はツンを解放させられていなかった。

 しかし、それももうじき終わる。
僕は大きくひとつ息を吐く。

 仮に今のターンでツンが装備を
タングステンシールドに変更するようなことがあったなら、
僕が火ー吹き草をいつ飲むかの駆け引きに突入していた。
ツンがタングステンシールドを装備している間に火を吐ければ
僕の勝ち、僕が火を吐くタイミングでミミタブシールドを装備できれば
ツンの勝ちとなっていた筈だった。

 しかし、ツンのレシピの完全さは、そんな駆け引きの余地を許さない。
そしてだからこそ、彼女はそれに縛られるのだ。

 ツンはその大きな目を真っ赤にし、そこに涙を浮かべていた。
唇を噛みしめ僕を睨みつけている。

('A`)「悔しいのか?」

 僕は彼女にそう訊いた。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:28:52.14 ID:VbMl5tWc0
 ツンは僕の問いかけに答えない。

ξ゚听)ξ「悔しいわ」

 ツンはやがて、猫が毛玉を吐き出すようにそう言った。

ξ゚听)ξ「悔しい。すごく悔しい。
     あたしが今あんたに対して感謝するべきだっていうことは
     誰よりわかってるんだけど、
     そんなことはどうでも良いくらいに悔しいわ」

 あたしの理論は完全だった筈なのに、とツンは目を閉じ、
そこから涙が溢れるのをこらえている。

('A`)「あるいは完全な理論だったのかもしれない。
   ただ、必ずしも最善の行動が最良の結果を生むとは限らないんだ」

 科学の悲劇は美しい仮定が
醜い現実によって打ち砕かれるところにある。
僕はそんな言葉を思い出していた。
ツンは優秀な科学者になる素質をもっているに違いない。
僕にはどうやらなさそうだ。

 僕はツンに向かって右手を振った。

『ツンの攻撃! ドクオに15ポイントのダメージ!』
『ドクオの攻撃! ツンに23ポイントのダメージ!』

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:30:44.23 ID:VbMl5tWc0
・9ターン目

■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■ツ■■■
■■ド ■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■

ドクオ                  ツン
31/73                  27/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eミミタブシールド

 ミミタブシールド          タングステンシールド+1
                     お手当て草
 火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:31:51.89 ID:VbMl5tWc0
 詰みだよ、と僕は言った。

('A`)「これでもう、装備変更を行ったところで駆け引きの要素は
   生じなくなった」

 おそらくはね、とツンは頷く。
大きくひとつ息を吐くと、だいぶ落ち着いたようだった。

ξ゚听)ξ「あんたはクラックよ」

 そして彼女はそう言った。

('A`)「クラック?」

ξ゚听)ξ「"crack"、『叩き割る』。
     凍りついた局面を打ち砕いてしまうような名選手のことを、
     サッカーにおいてはそう呼ぶの」

('A`)「打ち砕けたのかな」

 おそらくはね、とツンは微笑んだ。

ξ゚ー゚)ξ「終わらせてちょうだい」

 僕は頷いた。

『ツンはお手当て草を飲んだ! 25ポイント回復した!』
『ドクオの攻撃! ツンに23ポイントのダメージ!』

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:34:02.95 ID:VbMl5tWc0
・10ターン目

■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■ツ■■■
■■ド ■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■



ドクオ                  ツン
31/73                  29/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eミミタブシールド

 ミミタブシールド          タングステンシールド+1

 火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:36:09.78 ID:VbMl5tWc0
 あたしのレシピは実にデキが良い、とツンは愉快そうに言った。

ξ゚ー゚)ξ「とっても冷静。もう勝ち目はないのにね」

('A`)「そうだね。このまま2回殴ればツンは死ぬ。
   僕はわずか1ポイントを残して生き長らえることになる」

 相討ちになったらどうなってたのかな、と僕は訊いた。

ξ゚听)ξ「相討ちはあたしの勝ちよ。
     引き分けだったらチャンピオンベルトは移動しないでしょ」

('A`)「チャンピオンなんだ?」

ξ゚听)ξ「4回防衛のね」

('A`)「ベテランだな」

ξ゚听)ξ「同じ条件で戦うんだから、
     2分の1で負けそうなもんなんだけどね」

 あたしのレシピはとってもデキが良かったの。
ツンは誇らしげにそう言った。

『ツンの攻撃! ドクオに15ポイントのダメージ!』
『ドクオの攻撃! ツンに23ポイントのダメージ!』

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:38:01.31 ID:VbMl5tWc0
・11ターン目

■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■ツ■■■
■■ド ■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■
■■■■■



ドクオ                  ツン
16/73                  6/73

Eバールのようなもの+1    Eバールのようなもの+1
Eタングステンシールド+1    Eミミタブシールド

 ミミタブシールド          タングステンシールド+1

 火ー吹き草
 わかってますの巻物       わかってますの巻物
 タッパー(3)            タッパー(3)
  →大きなうまい棒         →大きなうまい棒
 足踏みスイッチ          足踏みスイッチ

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:40:06.33 ID:VbMl5tWc0
ξ゚听)ξ「何か言い残したことはある?」

 ツンは僕にそう訊いた。
僕はそれを聞いた瞬間、思わず吹きだしてしまった。

('A`)「そういうのは、普通、殺す側が訊くものだと思うけど」

 そうね、とツンは笑った。

ξ゚ー゚)ξ「でも、あらゆるものには例外が存在するじゃない?
     完全な理論にも穴はあるんだし」

('A`)「確かにね」

ξ゚听)ξ「で、あるの?」

('A`)「うん。実はある」

 訊きたいことと言いたいことが1つずつ残ってる。
僕はツンにそう言った。

('A`)「どっちが先が良い?」

ξ゚听)ξ「じゃ、先に言ってちょうだい。
     そのあと訊かれたら答えるわ」

 僕は頷き、深呼吸して口を開いた。

('A`)「僕はどうやら、ツンのことが好きみたいだ」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:42:57.86 ID:VbMl5tWc0
 そう、とツンはニヤついた。

ξ゚ー゚)ξ「言っちゃうんだ?」

('A`)「うん。言っちゃうんだ」

ξ゚ー゚)ξ「あたしはブーンの恋人なのに?」

('A`)「そして僕はブーンの友達なのにね」

 トラブルを起こしたいわけじゃないんだ、と僕は言った。

('A`)「僕はブーンの友達をやめるつもりはないし、
   ツンを奪いたいわけじゃない。
   ただツンのことが好きなんだ。それを言っておきたかった。
   そうすることによって、
   僕はふんぎりのようなものをつけられると思うんだ」

 都合の良いことに、ツンの記憶は消されるらしいしね。
僕は彼女にそう言った。

 奈落から吹き上げる風が僕たちのことを撫でている。
ツンはなおもニヤついていた。

ξ゚ー゚)ξ「そういうのってさ、ちょっとズルいと思わない?」

 あたしはズルいのは嫌いだな、といたずらっぽくツンは笑う。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:45:06.37 ID:VbMl5tWc0
('A`)「うん。僕はズルいんだ。
   ズルいし、自分勝手だ。完全な理論も覆す。
   なにしろ僕には納得が必要だからね。文句ある?」

 ないわ、とツンは言った。

ξ゚ー゚)ξ「納得はすべてに優先するって
     あの人も言ってるらしいしね」

 ていうかあの人っていったい誰なのよ。
ツンがそう訊いたので、僕は少しだけ回転使いの話をした。

ξ゚听)ξ「で、訊きたいことは何?」

('A`)「うん。つまらないことかもしれないけど良いかな」

ξ゚听)ξ「何今更遠慮してんのよ。馬鹿じゃないの?」

 そうだね、と僕は言った。
僕は馬鹿なのかもしれない。
なんせ、おそらく小学校低学年のときから今の今まで
こんなつまらないことを気にしているのだ。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:46:47.64 ID:VbMl5tWc0
('A`)「攻撃的なポジションの選手は
   ドリブルができないとだめだと思う?」

 しばらく時間を置いた後、僕はツンにそう訊いた。

 そんなことを訊かれるとは思ってもいなかったのだろう。
虚をつかれたような表情で、ツンはまじまじと僕の顔を見つめている。

 やがて僕を眺めることに飽きてしまうと、
あんた馬鹿なんじゃないの、と本当に馬鹿にした様子でツンは言った。

ξ゚听)ξ「そんなわけないじゃない。誰がそんなこと決めたのよ」

 ツンの口調には憤りのようなものさえ感じられて、
それがいっそう僕を爽やかな気分にさせてくれる。

 だよね、と僕は何度も頷いた。

ξ゚听)ξ「じゃ、そろそろ終わりにしましょ。
     あんたは慣れてるかもしれないけどね、
     あたしは死にそうなほどの痛みにずっと耐えてんのよ」

 そうだね、と僕は言った。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:50:22.11 ID:VbMl5tWc0
ξ゚听)ξ「じゃ、またね」

 また今度。ツンは何でもないことのようにそう言った。
その口調はいかにも軽く、僕は微笑まざるを得なかった。

 僕は大きくひとつ息を吐く。

『ツンの攻撃! ドクオに15ポイントのダメージ!』
『ドクオの攻撃! ツンに23ポイントのダメージ!
 ツンをやっつけた!』

 その場に崩れ落ちたツンの体が光の粒子となって消えていく。

 僕はそれに触れようと手を伸ばしたが、
それらはあまりに早く風の中に散ってしまう。

('A`)「…遠いよ」

 雲ひとつない青空の下、僕はひとり呟いた。

          『ツンを撲殺』エピローグへつづく

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:52:12.68 ID:VbMl5tWc0
『エピローグ』

 あたり一面見渡す限りの草原の中、
緑の芝生が整備された一角に22人の男が絶えず動き回っている。

 僕はそれを時に大空高く俯瞰して眺め、時に彼らの間近で観察する。

 上下白を基調としたユニフォームを着る背番号10の選手が
ボールと共に左サイドを駆け上がる。
それに連動して彼と同じ格好の選手達が動き回り、
また彼とは違った格好の選手達が動き回る。

 背番号10の選手がトップスピードでボールをまたぐと
彼に対峙していた背番号2の選手はそれにつられてバランスを崩し、
背番号10の選手はその脇をすり抜ける。
背番号2の選手が反則を犯してでもそれを止めようとするが、
その手は白いユニフォームを掴むことなく空を切る。

 背番号10の選手がペナルティエリアに侵入する。
青とエンジ色のユニフォームを身にまとう選手たちは
それを許してはならなかった。
もはや彼を止めることは誰にもできず、
彼は抜け目なくシュートコースを発見すると、
足の内側を使って丁寧にボールを蹴りこんだ。

 ボールがサイドネットを揺らすのを確認したところで
時が止められる。
ここは僕の世界だった。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:55:19.14 ID:VbMl5tWc0
 左サイドのスペースに走り込む彼にパスが渡る時点まで
彼らの時計が巻き戻される。
ここからすべてははじまったのだ。

('A`)「後方からのロングパスだ」

 背番号10の選手は、やや角度のついた後方からのロングパスを、
足の外側を使ってなめらかにトラップする。

 僕は何度も時を巻き戻しては進め、
そのプレーを様々な角度から分析する。

 そして僕は彼と同じポジションに立った。

 後方からやや角度のついたロングパスが送られる。
僕は先ほど見たのと同じように、足の外側を使ってそれを受ける。
ボールは僕の足を弾くと転々と転がった。

 僕はそのボールに走り寄るが、
背番号2の選手にあっさり取られてしまう。

('A`)「もう一度だ」

 僕は7回同じことを繰り返し、
やがて満足いくトラップができたところで芝生の一帯を消去した。

 僕の世界に異物が混入したからだ。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:56:37.10 ID:VbMl5tWc0
 神のようなものに尋ねられた僕は、
サッカーの勉強がしたいと答えた。

/ ,' 3「勉強?」

 神のようなものはそう訊き返した。
どうやらこいつは全知全能というわけではないな、と僕は思った。

('A`)「そう、勉強」

/ ,' 3「ディエゴ・マラドーナの才能が欲しいわけではなくて?」

('A`)「そんなもの、僕は欲しくない」

/ ,' 3「なるほど。ではもう少し具体的に聞こうか」

('A`)「図書館のようなものをひとつ用意してもらいたい。
   そこには現在までのあらゆるサッカーの試合が録画されていて、
   他にも戦術書や練習法、様々な書物や映像が並んでいる」

 そして、ここで僕が身に付けた動きや知識、筋力を、
目覚めたときに還元してもらいたい、と僕は言った。

/ ,' 3「ずいぶん回りくどいことをするんだな」

 半分呆れた様子で神のようなものはそう言った。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 17:59:18.92 ID:VbMl5tWc0
 そうかもしれない、と僕は言った。

('A`)「僕の願い事はすごく回りくどいやりかたなのかもしれない。
   それでも僕はなんとか自分が満足できる方法を考えて、
   これ以上のものは思いつかなかったんだ」

/ ,' 3「なるほど。よくわからん」

('A`)「僕には納得が必要なんだ。
   何故なら願い事は一つしかできないし、
   それは二度と取り消せないからだ」

 そんなもんか、と神のようなものは呟いた。
そんなもんさ、と僕は言った。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 18:01:22.42 ID:VbMl5tWc0
 こうして僕は、僕の世界で待つことになった。
僕はプレッシングサッカーの成立について学び、
トータルフットボールの美しさを知った。
それまで僕は、オフサイドのルールさえ把握していなかったのだ。

 僕は今、ここで門番のような役割を果たしている。
誰かが樹海行きの切符を買うと、
歯にソフトキャンディが張り付いたときのような異物感が
それを知らせてくれるのだ。

 やがて電車が樹海に辿りつくと、僕は訪問者に挨拶をする。
そして心の中で問いかける。

('A`)「あんたは僕を解放してくれるのか?」

 僕は殺されるのを待っている。


          ('A`)は樹海行きの切符を買うようです 完

inserted by FC2 system