('A`)は愛の幽霊のようです
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:08:27.57 ID:cD4bRghd0
注意
・地の文はできるだけ読みたくない
・エキセントリックな展開がなきゃつまらない
・っていうかもう眠い

以上に当てはまる方はおやすみなさい。
でも多分すぐさま終わります

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:10:53.54 ID:cD4bRghd0
一、

8月は中ごろで蝉はみんみんと五月蝿く、僕は例年の如く退屈に遊ばれている日々である。

昼間の家は父も母もなく、その両者が不在のとき家を預かる婆もまた集まりに行ったので、家には僕が一人居る。
本日三本目のアイスキャンデーを口に咥えつつ、誰かから貸して貰った漫画本などを読みつつ時間を潰す昼下がり、
一階がぴんぽんぴんぽんとなにやら騒がしいので、推察するに誰かが入り口の呼び鈴を押している。
まったく留守番のときに限りて何故に来訪なのだと、僕は漫画本を開いたまま床に伏せて部屋を出る。もわもわとした陽気がこれまた不快を誘う。

不快に任せ強引に戸を開けようとするが、父や婆への客人で私より年長者であったら失態極まりない故、その刹那だけ僕はこころを心に置いた。
かといい高校生にもなった僕のもとへ、まるで幼年の如く「やァ」とアポもとらずに尋ねる友人が、はて僕にはいたでしょうか。
などと思いつつ私はそっと戸を引いた。不快をだるま落しの如くカァンとすっとばしてしまう人物がそこに立って居る。



('A`)「やァ」



戸を引いた瞬間に、何やら血生苦さがすると思ったら、彼の首筋から飛び出た管より滴る赤であった。
彼の首筋には縄で縛られた跡が残り、僕はまるで昔の情事を思い出すように「アァ」と心の中で思い出すのだった。
そうなのだ。そう、君は、ふむ。 
先日首吊り事故で死んだドクオ君が遊びに来てくれたのだ。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:13:53.56 ID:cD4bRghd0
「よく来てくれた。あがってくれよ」なんて一端の紳士のような口を、僕は咄嗟に用意して、彼を招いた。
彼は靴を脱いで家へとあがろうとしたが、その実体は幽霊らしく足がない。
”靴を脱ごうとしたが足がない”という一連の動作に対し毒男は照れ笑いをした。僕もつられて特に内容がない笑いを発す。

('A`)「それじゃァ、アガらせてもらうよ」


8月も中ごろというのはちょうど日本列島が年で一番暑くなる頃合であって、家を訪ねるに一筋くらい発汗するのが普通であるが、
そこのところはやはり幽体というか、毒男はお化け屋敷のそれと寸分の違いなく青ちょろい顔をしていた。
逆に発汗をしていたというのは僕のほうであり、幽霊を家にあがらせてしまった以上、幽霊の存在まで遡り苦悩をするのはひとまずヤメだと思考するも、
それでも無意識下で分泌される疑問や恐怖や滑稽が発汗を促しているのだった。

二階へ登る階段の足音も、勿論僕だけなのであって、後ろに人がいるのに足音は一組だけということで、
この状況から抜け出したいという恐怖が漸く前面に出始め、それは僕に一言喋らせた。



( ^ω^)「夏休みの課題は終わったかい?」



私は阿呆と心のなかで叱責した。 しかし叱責対象は自分自身である故、勿論待ち受けるのは虚無である。
極地に追い込まれた故、あっけらかんな言葉をつい発したということは容易く主観客観双方から分析できるのであるが、
やはり阿呆と言わざるを得ず、ただ僕は返答を待つのである。二人は部屋の前まで来ていた。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:16:57.51 ID:cD4bRghd0
('A`)「課題?」

('A`)「数学と英語は終わったよ」


普遍な返答に僕は為す術がない。そのまま会話を続けるのは自分の滑稽さが身に染みるのみである。
かといって無言の雰囲気は「なぜ人は生きるのか」という原始的レベルまで奥深く僕を悩まさせそうである。
こんな二択を考えている内、心の表っつらでは「死ぬ寸前まで課題は律儀にこなしていたのだなァ」と客観の目で見ればこれまた滑稽に僕は思考していた。


( ^ω^)「そ、そう」

( ^ω^)「入りなよ」


ゆっくりと部屋のドアを開けると、夏の光が二人に降り注いだ。
この表現はまこと清らかそうであるが、異常を孕んだ今の僕にとっては逆に疎ましいこと限りない。
横で毒男は気持ち良さそうな顔をしている。僕は彼の死後の生活を想った。しかし幽体は暗がりのほうが好むのではないか。

僕は入り口から17歩進み、椅子に敷いてあった薄い座布団を剥ぎ取って畳の上に置いた。
それを指して「座れよ」と指図すると、毒男はにこやかに微笑みそれに従う。
このとき観察したのだが、足がないというのは細やかに報告すると足首から下がないということである。
足首から下は陽炎の如く揺らめいていて、その一部分だけでも僕を含む世界の人々を驚嘆させるのには十分だ。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:19:58.89 ID:cD4bRghd0
しかし僕は前述の言動の通りで、必死でその驚嘆含む諸々の感情を抑えていた。

彼の飛び出した血管を見た瞬間では、もはや自分のなかの何かしらのメーターが振り切れ、何の疑いも持たずに彼を招き入れてしまったが、
今こうして馴染みの部屋で日常の空気を吸うと、自分が持っている異常に対しての常道たるリアクションを取り戻しつつある。

要するに僕は「うぁあああああ!!」と叫んで一目散にこの場から去ってしまいたいのだ。

言葉のままに、というわけにはいかず、かといってこのまま死人と同じ空間を共有するのも我慢ならず、
僕は部屋を出るための口実を咄嗟に毒男に告げた。


( ^ω^)「まァ、ゆっくりしてくれ。僕は、飲み物を持ってくるよ」

('A`)「うむ。有難う」


「うむ、有難う」じゃァないよあほんだら。と僕は冷や汗をかきつつ部屋を出た。
ぱたぱたと階段を降りてぽてぽてと廊下を渡ると見慣れたキッチンが僕を出迎える。ひとまず深呼吸をした。

( ^ω^)「…」


( ^ω^)「どうしたものかね」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:22:10.05 ID:cD4bRghd0
一先ずだ。

一先ず、この状況に対して疑問を一つ持ってしまうと樹形図の如くそれは派生に派生を重ねる。
それは僕の身を滅ぼし、またその態度は(一応)客人として迎えられた毒男に失礼である。

だから、

先日死んだはずの毒男が家にやってきた。などと設定付けるのはよして、
毒男が単に家にやってきた。 これでいいではないかと僕は開き直るのだった。
ふと我に還れば気が狂いそうな決断だったが、そうするしか術なしと僕のすっかり搾り取られた脳は判断した。


( ^ω^)「普通に、普通にふるまうのだ」

言いつつ、ペットボトルを持つ手はわなわなと震えている。
やはり完全には開き直れなくて、左頬をつねってみる。痛みが感じるので夢ではないらしい。
とても痛かった。 この、頬をつねるのにどれだけの力を込めたかという点について、僕は無意識下の恐怖を感じ取った。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:24:37.15 ID:cD4bRghd0
頬を不自然に赤く染めて二階へ再び上る。
盆に乗せたコップの中身を零さずに上るという行動は、僕にいくらかの落ち着きを与えてくれた。これは良かった。
乗じて、先程の開き直りの思考を持とうという決意を胸に一言を渡す。


「おぉい、僕は盆を両手で持っているのでね。ドアを開けてくれないか」


数秒のうちにドアは開いた。ここでの意思疎通がスムーズに行われたことにより、ますます僕は平静を取り戻した。

('A`)「別にそこまで気ぃ遣わなくていいのによ」

( ^ω^)「いや、僕は喉が渇いていたんだ。だからついでにね」



喉が渇いているのは事実であった。目の前にあるジュースを毒男の分まで一気に飲み干したいとさえ願望した。
しかし、その願望を制することもまた平静に繋がると思い、すぐにコップに手をつけなかった。
一先ずは深呼吸である。それから普遍の語を連ねるのである。そう、会話だ。会話をするのだ。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:28:12.90 ID:cD4bRghd0
('A`)「…」

(;^ω^)「…」


何か共通の話題を出そうとするが、口は動かない。毒男もまた話を出そうせずに、青白い顔で力無く微笑むだけである。
死人と生人という大前提に関わらなくても、僕と毒男の間には、まったくといっていいほど話題が無かった。


そう、毒男などという男は、通う学校が一緒というだけで、僕とは他に何の接点もなかったのである。
それどころか、例の自殺事件によって漸く学校がその存在に気がつくほど薄い影を持つ男だったのだ。
しかし彼は死してもなお活動し、生前まったく無縁であった僕を訪ねている。
蟠る疑問の一つが浮かび上がる。これは流さずにとっておくべきだと判断し、そこにようやく僕は活路を見出す。


( ^ω^)「あのさァ」

('A`)「いい部屋だなー」

( ^ω^)「…」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:31:58.42 ID:ySxqKG430
「ぼくと毒男クンとは何も接点なかったじゃん」

「だのにどうして遊びにきたの?」


など、用意していた言葉を頭の中のゴミ箱に捨て、僕は返答を繕う。


( ^ω^)「そうかな? 小汚いだけごみごみした部屋さ」

('A`)「俺はこういう雰囲気好きだよ。好きなレコードばーっと並べて聞いて… みたいなね」

僕はふと部屋の隅にある蓄音機と、その周囲に散らばる色とりどりのジャケットに目を向けた。

( ^ω^)「このレコードプレーヤーは親父からのお下がりなんだ。もっと本格的なやつが親父の部屋にあるのだけどね」


会話というものは、思わぬ所から展開するもので、僕は一つの波に乗ることができたと先ず安堵した。
それと同時に気になるのは、毒男の表情である。何故にこうして終始にこやかにしているのだろうか。顔色こそ真っ青だが。
死相を通り越した者は、再び晴れた顔を手に入れるのだろうか。お天気様のように。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:34:55.60 ID:ySxqKG430
( ^ω^)「毒男クンもレコード聞くのかい」

('A`)「ああ。生きているときはよく聞いてたよ」

( ^ω^)「じゃあ何か聞くかい」

('A`)「ああ」


すっかり僕はこの雰囲気における平静と主導権を手にいれたと思った。
レコードのラックから適当の一枚を取り出し、プレーヤに中央の穴をはめ込み、アンプをオンにする。
スタートボタンを押すと緩やかに黒い円盤はくるくると回った。掻き混ぜられるコーヒーみたいだ。
そして、僕は、いつもここを大事に思っているのだが、針をレコードのフチのフチに落とすよう位置を確認した。
失敗すると、一曲目だとしても3秒や5秒目から始まって気持ちが悪い。僕は曲が始まる前の数秒の空白が好きだ。

針を落とす。ぷつ、ぷつとノイズがおこり、「今から演奏が始まるよ」という合図を僕等に告げる。
そして、気取ったサックスの音が部屋で飛び跳ね始めた。


('A`)「やァ、ジャズだね」

( ^ω^)「聞くかい」

('A`)「結構好きだ。自分に酔いたい気分のときによく聞いた」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:38:12.96 ID:ySxqKG430
この時点で、毒男は中々面白い人間性を持っていたのだなァとふと気付く。
真夏の、真昼のジャズに、気持ち良さそうに心を傾けるこの男は、何が苦で他界したのだろうか。
今は、この世にいるけれども。


('A`)「ああ、いい音楽だ」

('A`)「心がオープンになっていくみたいだ」

('A`)「ここで俺は君に一つ、お近づきの証しに告げ事をしたいんだ…」

( ^ω^)「なんだい」




('A`)「好きな人がいるんだ」




僕はただ「ふぅン」と、まるで長年の友のように相槌を打った。
ジャズに酔い痴れる毒男の首からはやはり血が出ていて、後始末の方法を考える頭もあった。
空では大型旅客機が、飛行機雲を残してごおおおおっと飛んでいく。
その音が、流れるジャズよりも大きな音で、頭の中で、繰り返し繰り返し鳴っている――――――――――――

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:40:44.28 ID:ySxqKG430
二、

僕らは街へ出た。

街を行く人々は誰もが前だけを見て真っ直ぐ歩き、それぞれの持つ目的地を思わせる。
そんな忙しい街の中で、一人突っ立っている僕が異質に感じた。

僕は毒男の姿を人々に不審に思われたらどうするかを気にかけたが、自分は幽霊である故僕とそのすきな娘以外にその姿は見えない・見せないと説明した。
ここにきてまるで漫画のような辻褄に僕は安堵した。同時に、段々と僕のなかで一つのストーリーが出来上がってきていたのである。
僕はそれを毒男に告げてみる。


( ^ω^)「つまりあれだろう」

( ^ω^)「君はその娘に思いを告げられなかったから未練が残り成仏ができないのだな」

('A`)「ご名答だ。凄いな。君は作家志望か」


首から血を垂れ流しながらそんなことを聞いてくるので僕は面白く思った。


( ^ω^)「そんなわけじゃない。ただの予想さ」

( ^ω^)「その娘の名はなんだい? 教えてくれよ」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:43:25.67 ID:ySxqKG430
毒男は照れながら頭をぼりぼりと掻いた。
生前は机に突っ伏して、「自分」を誰にも見せなかったであろう彼のキャラクタを踏まえると、
彼がそんなリアクションをとってくれることに一種の嬉しさを感じた。
僕もそれに応じてまた一言を投げかける。 
毒男の姿は人に見えないのでさぞや周囲は僕を奇妙だと思っただろうが、そんな因果さえ今は楽しめる心理が出来上がっていた。

( ^ω^)「はやく言いたまえよ」

('A`)「へへ… 誰にも言うんじゃないよ?」

彼は死人だというのにやはりその言葉一つ一つが滑稽である。

( ^ω^)「言わないさ。僕や君と同じ学校だよな?」

('A`)「あァ… 五組の、素直さんだ」



素直さんか。生前存在を殺していた(或いは殺されていた)彼はどんな女子に興味を抱いているのかと思いきや、
案外普遍的な人物であった。素直さんといえば、本名は素直空であり、僕と同じクラスに在籍する端正な顔つきな女子である。
その容姿と内容に恋する異性も(実は同姓も)多い。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:46:49.07 ID:ySxqKG430
( ^ω^)「へぇーエ」

( ^ω^)「素直さんに想いを伝えられることができれば成仏できるんだな?」

('A`)「多分な」


もはや幽霊という超常の存在は、僕にとって退屈な日々を刺激するエッセンスに摩り替わっていた。
僕は霊体というものは信じていない、だけれども、もしあったら素敵だねェ。という非常に曖昧なスタンスをとっていた故、
今の状況は、「本当の意味で」平静を取り戻せば実に楽しいことなのである。


というわけで、僕の頭の中は、
彼のこれから織り成す短いストーリーが、どのような結末に至るのかに集約された。僕はストーリーの先導者として小さく笑った。

('A`)「どうしたんだ?」

( ^ω^)「僕は素直さんのアルバイト先を知っている。さァ、行ってみようじゃないか」

('A`)「照れくさいよ」

( ^ω^)「何言ってんだ幽霊のくせに。ほら、行こう」


僕らは信号を渡り、様々な話題を交わしながら素直さんの勤める軽食店へ向かう。
旅客機が残した飛行機雲はくっきりと青の空に残り、僕がぽつりと「明日は雨だなァ」と言うと、
毒男は「でも上手くいけば俺は明日を過ごさなくていいかもしれんな」と返した――

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:49:24.72 ID:ySxqKG430
( ^ω^)「へぇーえ」

( ^ω^)「素直さんに想いを伝えられることができれば成仏できるんだな?」

('A`)「多分な」


もはや幽霊という超常の存在は、僕にとって退屈な日々を刺激するエッセンスに摩り替わっていた。
僕は霊体というものは信じていない、だけれども、もしあったら素敵だねェ。という非常に曖昧なスタンスをとっていた故、
今の状況は、「本当の意味で」平静を取り戻せば実に楽しいことなのである。


というわけで、僕の頭の中は、
彼のこれから織り成す短いストーリーが、どのような結末に至るのかに集約された。僕はストーリーの先導者として小さく笑った。

('A`)「どうしたんだ?」

( ^ω^)「僕は素直さんのアルバイト先を知っている。さァ、行ってみようじゃないか」

('A`)「照れくさいよ」

( ^ω^)「何言ってんだ幽霊のくせに。ほら、行こう」


僕らは信号を渡り、様々な話題を交わしながら素直さんの勤める軽食店へ向かう。
旅客機が残した飛行機雲はくっきりと青の空に残り、僕がぽつりと「明日は雨だなァ」と言うと、
毒男は「でも上手くいけば俺は明日を過ごさなくていいかもしれんな」と返した――

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:49:54.07 ID:ySxqKG430
ごめん二重投稿
>>19 thanks!!

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:51:55.70 ID:ySxqKG430
さて、軽食店に辿りついた。向かいの時計屋に飾られた時計から鳩が出てきた。時刻は15時である。



軽食店の入り口の前で毒男は立ち止まった。僕は言葉をかけるがやはり恥ずかしいものがあるらしい。
そのときの彼の態度が、やや大袈裟だったということを覗けば、微笑ましくて面白いのだが、
入り口の前でただ停止するわけにもいかず、毒男を置き去りに僕が店内に入ることで毒男の前進を促した。


( ^ω^)「来なよ、ほら」

('A`)「ん」


僕はハンバーガーとドリンクを敢えて二人分注文し、席に座り込んだ。
ぱっと見渡す限りでは、素直さんはいない。
そのことを告げると、毒男は一先ず安堵の色を浮かべた。
注文の品を届けに奥から着た店員も素直さんではなかったが、髪や肌から察するに、僕と同年代と判断し、問うてみた。

( ^ω^)「あの、素直さんって人、ここで働いていますか?」

「ええ」

( ^ω^)「今日、いますか?」

「今日は、入っていないわ。なに、あなた素直さんのカレシ?」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:54:26.87 ID:ySxqKG430
( ^ω^)「いいえ! とんでもない。有難うございました」

「いえいえ」


窮屈で慌しい職場で同年から声をかけられたからか、店員は機嫌良さそうに奥へ戻っていった。
さて、僕はハンバーガーを目にして取り敢えずは手にとって食べるのであった。
そしてドリンクも飲むのである。せっかく二人分を注文したというのに、ドクオは要らないというので彼の分も口にした。
先程、どれだけ恐怖により腹を空かし喉を渇かせていたかを確認した。


( ^ω^)「それで、どうするのだ?」

('A`)「どうするかねェ」


流石に彼女の家まで知らないということで、僕は次の目的地に迷っていたが、
ドクオは依然として微笑んでいた。まだ頭の中でサックスやピアノが飛び跳ねているのだろうか。
やはり僕は彼のことはよく理解できないと思う頭もあった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:57:27.26 ID:ySxqKG430
気がつくと僕たちは歩き疲れ公園に軟着陸していた。



幽霊にも疲れはあるのかと問うと、毒男は「ない」と答え、ベンチの上でコーヒーをすする音だけが二人の間に流れた。
僕はいくらか心が自由になり、毒男に幾つかの質問もできるようになり、
そして重要なファクターを担う問いもそろそろ出しておこうと決断した。


( ^ω^)「なあ毒男クン」

('A`)「うん」

( ^ω^)「なんで僕なんだい」

( ^ω^)「素直さんへと未練が残って成仏できないというのは分かるが、
       成仏のための協力者に僕を選択した理由はなんだい」

('A`)「気まぐれさ。適当さ。ぱっと頭に浮かんだのが君だったのだ」



そしてまた朗らかに彼は笑い出した。 何か重要な理由でもあったら面白かったのにと、僕は内心がっかりした。


落胆の気持ちから回帰してふと気がつくと、蝉がみんみん、みんみんと鳴き声で僕等を包んでいた。
陽炎の向こうでは幼稚園児が母の手を引きつつ何かお歌を歌っている。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 03:59:39.77 ID:ySxqKG430
陽気な天気にほだされて、僕は何やら語りを始める心地になった。


( ^ω^)「やァー。平和だねえ」

('A`)「あァ」

( ^ω^)「いつもこんなカンジさ。別にね、平和は悪いってことじゃない
       しかし、17の年に何も事件が起らないってのはいささか退屈だ」

( ^ω^)「そんな中君は命を絶ったね… 倫理とか誰かの言葉とか借りないけど
       今の時点では僕は自殺なんてできないな。どうして死のうと思ったんだい…」

('A`)「シンプルさ」

('A`)「いじめ」

( ^ω^)「…そっか。 ごめんなァ。僕はそれに気付けなかったヨ」

('A`)「別にいいさ。だって俺と君とは無関係だ」


彼の朗らかな表情変わらず。僕は結構厳しい問いを投げているつもりだが。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:02:38.63 ID:ySxqKG430
('A`)「ウーン。でもね。一番辛かったのはあれだな。見つかっちまったことだな。」

( ^ω^)「何をだい」

('A`)「愛の情事」

( ^ω^)「はァ…?」



さっぱり事情が飲み込めないが、別にそこまで深く突っ込まなくてもいいと判断した。
毒男はあくまで僕に暇つぶしを供給してくれるだけの存在なのだ。切り詰めて言うならば。
ここで彼の深い重い事情を聞いたならば、僕の思いは揺れ、この日を気持ちよく過ごせなくなる可能性がある。
そんなことを思いつつ立ち上がった。


('A`)「どこ行こう?」

( ^ω^)「学校でも行こうか」

('A`)「…学校かァ」


やはり表面と核では描いている思考は少し違う。僕は毒男の何かを把握しておきたいのだ。本当は……

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:04:35.88 ID:ySxqKG430
三、





夏休みの学校。 吹奏楽部の下手な演奏が蝉の声と重奏になって、乾いて響く。










誰もいない一直線の廊下をぺたりぺたりと行くのは気持ちがよく、窓から見えるテニスコートを眺めながら歩は進んだ。
怒声が飛び交うコートで健気に頑張る少女の太腿に下心を抱きつつも、学校にきた理由が明確にされないまま時も進んでいた。
朗らかな毒男も学校ではいい思い出はあまりないらしく、俯き加減で漸く幽霊らしく振舞い始めた。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:08:30.94 ID:ySxqKG430
空は何時の間にやらオレンジに染まり、それがあまりに鮮やかすぎるので僕は益々後日の不安定な気候を思い描く。
ところでその空は毒男がいたクラスの窓から見たものであり、
いつの間にか僕らは教室の椅子に腰掛けていた。だって学校をぐるぐる周ってても得るものは恐らく無い。
黒板に貼られた数枚のプリントが夕暮れの風に揺れ、僕は一日の終わりを想う。


('A`)「そこ、俺の席だったんだ。はは」

( ^ω^)「そうなのか。君は夏休みに死んだからか、まだ机の中身とかが変わっていないよ」

机は窓際の後ろから三番目の席で、僕は「やはりなァ」などと思っていた。

('A`)「ふぅん。 あ、そろそろ時間だなァ…」

( ^ω^)「何が?」

('A`)「なんでもないよ。俺、ちょっと散歩してくる。じゃな」


そう言って毒男は僕を残して教室からゆらり出て行った。
僕は目を閉じ音に身を傾ける。廊下では吹奏楽部と蝉のセッションだったが、こちらはサッカー部の怒声と野球部のヒット音だ。
そしてふと目を開けると僕の興味は机の中身へ自然と移る。無理矢理押し込まれたプリントの奥に教科書があった。


( ^ω^)「なんか荒んだ教科書だな」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:10:33.59 ID:ySxqKG430
裏表紙の空白に謎の文字が記されてあった。
「・・・野郎」と。 消したようなあとがある。罵倒の言葉か。所謂これがいじめの現場なのかと思い胸がちくりとした。
さて、この消した箇所に入るのは何の文字なのだろう。

僕が云々唸っていると、また毒男はすっと教室に入ってきて、僕の肩を叩いた。
ぎょっとして後ろを振り返ると、彼は朗らかな表情を取り戻していた。


('A`)「美術室、行こうぜ」

( ^ω^)「美術室? ああ、いいよ」






廊下を歩いているとき、教科書のことを尋ねようとしたがやはりやめておいた。
空は益々オレンジを増し、今にも太陽が落ちてきそうである。実際向こう向こうの海に太陽が沈んでいるのを想像すると、
僕は世界の終末を思い描いて心が落ち着くのだった。さて、今日寝床の中で良い気持ちを持つため毒男の願いを叶えなければ。
ふと拳を握っていた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:13:34.51 ID:ySxqKG430
美術室の入り口周辺には油絵の匂いが漂い、中で誰かが製作をしているとすぐ分かった。
邪魔をせぬようゆっくり戸を引くと、見慣れた美人がこちらを向いた。




( ^ω^)「あ」




そういえば、素直さんは美術部なのである。 毒男もこの偶然には目を丸くして僕と顔を見合わせた。
毒男は「せめて素直さんが美術の時間にかいた自画像だけでも拝んでお陀仏したい」と言っていたが、
こいつ、好きな娘の所属している部活動さえ把握していなかったのか。


川 ゚ -゚)「…やあ。内藤、クン」

( ^ω^)「こんちは、素直、さん」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:16:46.48 ID:ySxqKG430
僕と素直さんの間にはある意味当然の沈黙が流れていた。僕自身は素直さんに用件は無い。 
キャンバスにさて向かわんとしていた素直さんは、突然の僕等の登場にきょとんとしている。
しかし、この沈黙を破るのは簡単であって、毒男が素直さんに正直な思いを打ち明けて感動のフィナーレを迎えればいいだけである。


(;^ω^)(さあ、毒男)

('A`)「…」

川 ゚ -゚)「どうしたの?」



毒男は一歩前に大きく出て、管から流れる血を気合いで塞き止めながら告白を始めた。
僕は始めての御使いを見守る親の如くそれを見つめる。



('A`)「あのッ、素直、空さんッ」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:19:28.19 ID:ySxqKG430
('A`)「俺は、毒島毒男という、者でですすがが」

('A`)「あなたとお付き合いしたく」

('A`)「あの世のフチからよみがえって参りましたたたたたっ」


('A`)「あの」

('A`)「だから」

('A`)「付き合って下さい!」



素直さんはその言葉を正面で受け止めたのち、背中を向けて返事を放つ。




川 ゚ -゚)「ごめん」

川 ゚ -゚)「首から血管出てる人とは付き合えないなァー」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:22:17.85 ID:ySxqKG430
('A`)「…」

( ^ω^)「…」


僕らはゆっくりと美術室を出た。僕は毒男の肩をぽんと叩く。
結果は、まァ、予想内であったが、机に突っ伏せるキャラである毒男があれだけストレートに思いを伝えれたのは天晴れではないか。
彼への殊勲を称え、そして、どうフォローするかに僕の頭は切り替わっていた。



―――しかし、彼はやっぱり朗らかだった。
ははは などと笑いながら薄暗くなってきた空をただ眺める。



思わず僕は強く言う。


( ^ω^)「…君、悔しくないのかい!?」

( ^ω^)「そりゃあ思いを伝えられただけで君は満足かもしれないけどさァ」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:26:00.38 ID:ySxqKG430
('A`)「まァ… 別に」

('A`)「そんなことより、内藤クン。トイレに行かないか」

(;^ω^)「…?」



そんなことより? 死の淵から蘇ってまで果たしたいことではなかったのか。 そんな簡単に流していいのか?
僕は一物の疑問を抱えてトイレへ向かった。 
トイレの窓からグラウンドが見え、見慣れた同級生は顔を真っ黒にしてサッカーボールを追う。

軽食店でドリンクを二人分飲んだからか、僕はすぐさまに尿意を晴らした。
毒男は隣接して排泄をする。空いているんだからわざわざ隣に来なくてもいいではないかと問うと、毒男は語りを始めた。






('A`)「……いやァ 今日はいい日だったよ」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:34:49.70 ID:ySxqKG430
( ^ω^)「そうだろォね」

('A`)「多分今日が人生最良の日だ」

('A`)「心置きなく成仏できる」

( ^ω^)「そのわりには話題をスッと流していたじゃないか」

('A`)「いや、それはね、ただの口実なのさ」

( ^ω^)「?」


二人の排泄が終わった。
毒男は大便個室の扉の前に立ち、改まったようにして語りを続けた。
窓からは橙が差し込む。少し眩しいと感じていた。



('A`)「今日は本当に有難う。内藤クン」

( ^ω^)「いやいや。どういたしまして」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:37:09.94 ID:ySxqKG430
('A`)「…………」

('A`)「部屋でレコードを一緒に聞いた」

('A`)「一緒に街を歩いた」

('A`)「一緒にご飯を食べた」

('A`)「それに… 念願の”連れション”もできたしね」

(;^ω^)「…?」


僕の頭には当然あらゆる疑問句で一杯になったが、毒男はなおも語りを止めず、僕に言及の余地を与えず。
ふと気がつくと彼の体躯が、まるで彼が今日一日見せてくれた微笑のように優しい光の粒で包まれているのに気がついた。


('A`)「どうやらサヨナラの時間だなァ」

(;^ω^)「ちょっと待てよ!」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:43:55.93 ID:ySxqKG430


「―――俺が本当に好きなのはね、内藤クン、君なのさ」





「今日一日本当に楽しかった。幸せだったよ」








「…愛してるよ」








毒男は大便個室の扉を開け、ばたむと閉めた。
溢れていた光の粒は瞬時に消え去ってしまった。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:44:54.71 ID:ySxqKG430





僕は堪らずドアを開いた。勿論そこに毒男はいない。
和式の大便器には、誰かが捨てた煙草の吸殻が三本浮いてあり、水は黄色く濁っていた。


左のほうへバルブをあげると、大量の水が押し寄せ、便器を綺麗にした。
水の流れは音を伴い、僕は旅客機の轟音を思い出す。頭の中で再び鳴り響く。


何回も何回も何回も鳴り響く。 この現象は特に頭痛や苦しみを伴わないが、この昼間の幽霊に出くわした気分は一体なんだ?
いや、実際にして僕は昼間の幽霊と出くわしたのだ。そして見事に驚かされたね。なァ毒男クン。



ごぉおおおおん、ごぉおおおおんって―――――
鳴り響く――――――








(終)

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/16(日) 04:53:14.50 ID:ySxqKG430
あとがき


ナンカもう色々むしゃくしゃして気がついたら23時ごろからこれを書き始めていて
そして今ふとPC画面を見るともう朝ですおはようコケコッコーだ
しかもいざ投下してみると量が少なすぎて総合にでも投下したほうがよかったんじゃなねーのと言わんばかりの閑古鳥
それでも読んでくださった小数の方々蟻が十匹数の子天丼鼠はちゅーちゅーあびぼばぶべぼ

作品の内容については特になし。テーマも特になし。
ただ、直前までつげ義春の漫画を読んでいたせいか登場人物の口調がなんか変。
>>1に地の文についての注意書きをしたにも関わらず、リズムを重視したり改行をいれまくったりしている。

さーてひっそり現れひっそり消えるよ。今度あうときは桜咲くときだね
よっしゃあ!!!!!!!!!


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