71('A`)水道水のようです川 ゚ -゚) 1/5:2010/03/09(火) 23:00:43

その日、首都美府(びっぷ)の水道水に思慕が溶け込んだ。

ドクオはそれを知らぬまま、起き抜けに一杯の水道水を飲み干した。
酒を煽った翌朝の水は、乾いて張り付いた喉によく染みた。

( A )「ああ……」

そうして、汚い台所に座り込んでほろほろと涙を流した。

(;A;)「あれ……なんで……?」

ドクオには、どうして自分が泣いているのか見当がつかなかった。
水と一緒に飲み下した思慕は、もう胃を通過して腸にまで行き渡っていた。

どれくらいそうして居ただろうか。
建て付けの悪い薄いドアを開く音に顔を上げると、
コンビニの袋を持ったクーが、静かにドクオを見下ろしていた。

川 ゚ -゚)「君は、もしかして水道水を飲んだのか。鈍臭いやつだな。
     ああ、ほら鼻も出てるぞ。ティッシュティッシュ……」

クーは、ドクオの顔に優しくティッシュを当てて鼻水を拭った。

川 ゚ -゚)「うちの兄も、ジョギングの後にガブガブ飲んだもんだから、しゃくりあげて泣いていた。
     五月蝿くって、かなわなかったよ」

( A )「水道水……?」

川 ゚ -゚)「ニュースを見ていないのか。
     ほら。ミネラルウォーターを買ってきたから、喉が渇いたら、これを飲むといい。」

72('A`)水道水のようです川 ゚ -゚) 2/5:2010/03/09(火) 23:01:23
('A`)「水に、何か……?」

クーは座り込んだままのドクオに手を差し伸べて立たせると、
そのまま二人で狭いワンルームの部屋の、テレビの前へと移動した。
クーがテレビの電源を入れる。丁度アナウンサーがニュースを読んでいるところだった。

ミセ*゚ー゚)リ『繰り返しお伝えします。ただ今、美府(びっぷ)の広域に渡る水道水に、浄水場のろ過装置の故障によ

り、思慕が溶け込んだと思われます。
      該当地域の方は、水道水の飲用利用には充分ご注意下さい。健康への被害は今のところ確認されて

おりません。
      また、溶け込んだ思慕は、昭和31年に美府(びっぷ)の水道水確保のためにダムに沈んだ新巻村の村

民のものと思われ……』

('A`)「ああ、そうか。だから涙が止まらなかったんだ……」

川 ゚ -゚)「しかし、溶け込んだのは【思慕】なのだろう。どうして皆泣くんだ?
     それは、悲しい気持ちではないだろう」

('A`)「クー、分からないのか?」

川 ゚ -゚)「おもい、したうと書いて、思慕だろう?言葉の意味くらい、分かるさ」

('A`)「違う。そうじゃない。そうじゃないよ。ああ……
    君も、飲んでみればいい。そうすれば、分かるよ。」

川 ゚ -゚)「御免だね。他人の心の混ざった水だなんて、不気味じゃないか。
     それに、美府(びっぷ)の水道水は、不味くって飲めたものじゃないよ」

('A`)「そうか……」

ドクオは、また一筋、新しい涙を流した。

73('A`)水道水のようです川 ゚ -゚) 3/5:2010/03/09(火) 23:02:14
川 ゚ -゚)「ねえ、だからどうして泣くんだい。
     参ったな。話をしに来たのに、話す前から泣かれてしまったら、困ってしまうよ」

('A`)「気にしなくていいよ。こんなものはなんでもないから。話を聞くよ」

川 ゚ -゚)「そうか。有難う。それでだな。別れて欲しいんだ」

('A`)

('A`)「……俺が、情けないから、嫌になった?」

川 ゚ -゚)「君が情けないことなんて、百も承知で付き合ったさ」

('A`)「……他に、好きな人が出来た?」

川 ゚ -゚)「いや、付き合っていいとまで思えたのは、今のところ君しかいない」

鼻をすすり上げる音が部屋に響いた。ドクオは、既に泣き腫らしていた目を、更に拭った。

(;A;)「うっ……ぐす……じゃ…なん……で……」

川 ゚ -゚)「ほら、やっぱり泣くじゃないか。私は、君が泣くところは、見たくないのに」

(;A;)「ごめ……くぅ……だ、だって……」

川 ゚ -゚)「怖いんだ」

(;A;)「な……にが……?くぅが、…ぅぐっ……やなら、俺……、え、えっちだって……ず、ずっと……待つし……」

74('A`)水道水のようです川 ゚ -゚) 4/5:2010/03/09(火) 23:03:24
川 ゚ -゚)「そうじゃない。ドクオは優しい。そう言う、私を気遣ってくれる事には、本当に感謝しているし、嬉しく思う。
     だからこそ、私は怖いんだ。君は、あまりにも私の中に溶け込みすぎている」

(;A;)「う、うざいって……言うなら、俺……俺から、連絡…しないし……」

川 ゚ー゚)「そう言うことではないんだよ。私はね。そう。君から連絡を待つ自分が嫌なんだ。
     君の言葉に一喜一憂する自分が嫌いなんだ。
     自分の心が、君と言う私に制御出来ない要素に支配されるのが、嫌なんだよ」

( A )「それは……」

川 ゚ -゚)「冷静でありたいんだ。
自分で自分を制御出来ない瞬間が何より腹立たしいんだ。君に恨みすら覚えるんだ。
     いっそ、そんなものなら、いらない、捨ててしまいたい、と思えるほど」

( A )「くぅ…くぅ…ねぇ……」

川 ゚ -゚)「有難う。愛していた。ドクオ。
     これからは、良い友達でいよう、と言いたいところだが、すまない。顔も見たくないんだ」

( A )「ああ……くぅ、俺は、クーのこと、好きだよ。」

川 ゚ -゚)「分かっている」

( A )「クー、最後に、俺の話も……聞いて」

川 ゚ -゚)「うん。なんだ?」

75('A`)水道水のようです川 ゚ -゚) 5/5:2010/03/09(火) 23:04:00
( A )「どうか、幸せに……」

川 ゚ -゚)「………」

(;A;)「どうか、どうか、俺じゃない人を、好きになって。
    本当に、何もかも、許せるほどに。
    その人の心なら、悲しみや、苦しみが溶けた水ですら、飲み干せるように」

川 ゚ -゚)「分からない。そうしたいとは、思わない。
     私は、他人の思慕を飲み込んでしまう君のように、優しくないから」
    
( A )「優しさじゃない……、いつか、クーにも、分かる時が、来るよ……」

(゚ 川川「………さよなら。有難う。短い間だが、楽しかった」


( A )


その日、首都美府(びっぷ)の水道水に思慕が溶け込んだ。

美府(びっぷ)の水道水確保のために、水の底へと眠った村。
そのダムの水面(みなも)は、今はもう無い新巻村への恋しさと、
急成長を遂げつつあった首都美府(びっぷ)への、不思議な優しさに満ち溢れていた。




余談だが、その日、美府(びっぷ)ではたった一人の自殺者も出なかったと言う。


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