81 :別れ話のようです 1/5:2010/03/10(水) 00:27:33
ξ゚听)ξ「エンドルフィンに屈する私ではない!」
座右の銘が欲しくなったので、埃の被った広辞苑を持ち出した。
ふるい本の匂いと、眩暈がしそうなくらい小さい文字に
屈したり屈しなかったり、面倒くさくなったり眠くなったりした末に、
結局脳内の辞書から引用してようやく決めた。繰り返す。
ξ゚听)ξ「エンドルフィンに屈する私ではない!」
言葉の響き、覚えやすさ、インパクト、どれもパーフェクト。
脳内で反芻し、鼻歌のように口ずさみ、はたと唯一の問題にぶち当たる。
我輩の辞書にエンドルフィンの意味はのってない。
座右の銘の意味を知らないのは、秘書献金疑惑並みのちょっとした問題なので、
早急に解決しなければ支持率は急降下、辞任を求められる恐れがある。
だからといって、生きてない辞書は面倒臭いので、生きてる方の辞書に聞くことした。
82 :別れ話のようです 2/5:2010/03/10(水) 00:27:56
('A`)「マラソンとか走ってるとテンション上がるだろ?あれだよ」
自他ともに認める運動音痴がこんなことを言うので噴出しそうになる。
ξ゚听)ξ「上がらないよ?」
特に君はね。という下の句はぐっと飲み込む。
運動が出来なくても、彼がエンドルフィンを知っていることには変わりない。
('A`)「ランナーズハイっていうだろ?」
ξ゚听)ξ「言わないよ?」
クライマーズハイの間違いじゃないの。
('A`)「……脳内麻薬、」
ξ゚听)ξ「犯罪はまずい」
恋人として、友人として流石にそれは止める。
83 :別れ話のようです 3/5:2010/03/10(水) 00:28:18
('A`)「えー、あー、……うん。ひとを幸せな気持ちにさせる、脳内物質。」
ようやくそれらしい答えが返ってきたので、ゆっくりと咀嚼する。
('A`)「主に、興奮状態のとき。マラソンとか、あと性交時だとかに分泌される。以上」
そうして、私は遂に座右の銘を手に入れた。拳を握り締める。
ξ゚听)ξ「エンドルフィンに屈する私ではない!」
('A`)「ああ?」
馬鹿な君にもわかるように、わかりやすく言い換えてあげよう。
ξ゚听)ξ「幸せな気持ちに屈する私ではない!」
84 :別れ話のようです 4/5:2010/03/10(水) 00:28:41
('A`)「ながぐつ一杯の幸せを君に。」
彼にも座右の銘の所持を強要してみたら、こんな言葉が返って来た。
言葉の響き、覚えやすさ、インパクト、どれもナンセンス極まりない。
('A`)「いや、絶対お前のよりマシだよ、なんだよ幸せな気持ちに負けないって、意味わかんねえ」
それから彼は、其処に見られる、日本人的な美しさを説明した。
バケツだとか、両手一杯だとかじゃなく、
敢えてながぐつを選んだことにより現れる素朴さ、いじらしさとか、情緒だとか。
ξ゚听)ξ「つまり、」
でも、穴の空いたながぐつに幸せを詰め込んだって、しようがないことだ。
ξ゚听)ξ「浮気をしないということ。」
('A`)「え?」
ξ゚听)ξ「君と違ってね。」
85 :別れ話のようです 5/5:2010/03/10(水) 00:28:56
ξ゚听)ξ「君は、エンドルフィンに屈したんでしょう」
('A`;)「ツ、」
ξ゚听)ξ「エンドルフィンに屈する私ではない!」
今までにないくらいに、彼は動揺していた。
知らないと思っていたのだろう。バレないと思っていたのだろう。
私もその方が良かった。穴の空いてないほうのながぐつの行方なんて知りたくなかった。
辞書から引用される色とりどりの言い訳よりも、私は、彼の右耳の方に興味があった。
日本人的な可愛らしい独占欲から、ピアスを開けてやったはずの耳。
何もついていないのはどうしてだろう。
ああ。
私が下手くそだったから、膿んで、塞がってしまったんだっけ……。
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