( ^ω^)ブーンとツンは別れるようですξ ゚听)ξ
- 1 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:28:20.83 ID:yNW9RYX50
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変わる事なく世界は朝を連れて来る。 太陽が東から昇るように、朝起きたらツンの作ったご飯が用意されているように。 これから先も変わった事なんか何一つなく、こうして過ごして行くんだと密かに思っていた。 そう、思っていた。 ξ ゚听)ξ「ブーン、別れましょう」 そんな当たり前だと思っていた毎日は彼女によって壊された。 始まりあれば終わりあり。明けない夜がなければ終わらない愛もない。 いつかは終わりがくるものだとは分かっていたけれど、こんなにも唐突に来るとは思わなかった。 彼女の、ツンのその言葉は僕の胸に鋭く突き刺さる。 けれどそこに悲しさや寂しさは存在しない。むしろどこか晴れ晴れとしていた。 晴れ晴れといっても決してツンが嫌いだった訳じゃない。 これはそう、愛しているからこそそんな気持ちになったんだと思う。 ( ^ω^)「いいお。別れるお」 元気よくおはようと言うように、愛おしそうに大好き
7だと紡ぐように。 僕はツンの別れの意を飲み込み、そう告げた。 迷いのない僕の声に、ツンは戸惑いを隠せないらしく、目に焦りが見えた。
- 3 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:31:45.43 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^)「家まで送っていくお」 気遣いながら零した言葉が伝わったんだろう。 ツンははっとしたような顔をすると、さっきまで不安そうだった目に光が差し込んだ。 強気な目が僕を捕らえ、決して揺らぐ事のない声が僕の耳に飛び込んで来る。 ξ ゚听)ξ「当たり前でしょう? いくら別れるからって、ここでバイバイだなんて許さないんだからね」 ( ^ω^)「おっお、それは怖いお」 ああ、そうだ。それがツンだ。 最後にツンの落ち込んだ背中なんて見たくない。 ただの押し付けなのかもしれないけど、いつもと違うツンなんて嫌だ。 重い雰囲気を壊したくて、用意された朝食を勢い良くかっ込んで行く。 ( ^ω^)「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」 ξ ゚听)ξ「ちゃんと行儀良く食べなさいよ」 向かいに座っているツンから、お箸を投げられる。 先の方を向けて投げられたそれを上手くかわし、普段以上に顔をにやけた。 悔しそうなツンの顔にニヤニヤしながら、僕は残っているご飯を全て平らげた。
- 5 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:34:01.05 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^)ブーンとツンは別れるようですξ ゚听)ξ
- 8 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:36:32.27 ID:yNW9RYX50
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外は快晴。天気予報は多分一日中晴れ。 別れ話には似つわない空だ。 せめて雨でも降ってくれれば、もう少しおセンチな気分になれたかもしれないのに。 ツンに別れを突きつけられて早数時間。 けれど僕らは何事もなかったかのようにおしゃべりをしている。 ソファーの前に置いているテレビでは、今日も下らない下ネタが飛び交っている。 あまりの下らなさに、僕たちはテレビそっちのけで色んな事を話していた。 昨日はこんな夢を見た、そういえばこんな事があったんだよ。 残り少ない時間を、僕とツンは大切に過ごしていた。 ξ ゚听)ξ「ねぇ、お昼はなにがいい?」 膝を抱えて座るツンが、僕の方を見てそう聞いて来た。 ( ^ω^)「お昼ご飯まで作ってくれるのかお?」 ξ ゚听)ξ「勘違いしないでよ、あんたの為じゃなくて食材を腐らせたくないだけなんだからね」 残念ながらテンプレ通りに、真っ赤な顔をして言ってはくれなかった。 それでも何だかんだで最後まで僕の心配をしてくれる辺り、やっぱりツンだと思う。
- 9 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:38:20.02 ID:yNW9RYX50
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ソファーから立ち上がり、ツンは手慣れた動きで冷蔵庫の中身を漁る。 ツンがここに来てもうどれくらい経つんだろう。 最初の頃ははっきりと覚えていたのに、今はもう思い出せなかった。 それくらい、一緒にいるのが当たり前になっていたんだろう。 ξ ゚听)ξ「ニンジンにじゃがいもに肉……後カレールーがあればカレーが出来るんだけど」 ( ^ω^)「そのままでも肉じゃがが出来るお」 ξ ゚听)ξ「あらそうね。じゃあそれにしようかしら」 オニオンキャロットポークとポテト。何となく懐かしい歌が僕の頭に響く。 糸こんにゃくはなくても肉じゃがは肉じゃが。美味しければ何だっていいんだ。 一度流れてしまえばそのメロディは中々消えてくれない物で、気がつけば僕は鼻歌を歌っていた。 僕の鼻歌に同調してか、ツンも楽しそうに何かを口ずさんでいる。 何を歌っているのかまでは分からなかったけれど、楽しそうに料理をしているツンを見ると僕も嬉しくなった。 ツンが来るまではロクなご飯を食べていなかった。 でも今は三食しっかりツンが作ってくれている。お陰で毎日僕のお腹は100%満腹状態だ。 エプロン姿のツンの背中を後ろから伺う。 もうツンのエプロン姿を見るのも、ツンが台所に立つのも最後なんだな。 そう思うと、何だか急に寂しくなった。
- 10 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:40:12.86 ID:yNW9RYX50
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ξ ゚听)ξ「ブーン。悪いけど私の荷物纏めて貰える?」 ( ^ω^)「分かったお」 台所から漂うご飯の香りに思わず涎が出る。 忙しそうに台所で戦うツンにそう言われて、僕はツンの部屋へ向かった。 ツンの部屋と行っても、ほぼ僕と共同で使っているような物だ。 ここにツンが来たときは一つしかない部屋に遠慮をして、ツンに僕の部屋を全て明け渡したっけ。 結局風邪を引くからというツンの言葉に、二人肩を並べて寝る事になったな。 随分昔の事なのに、まるで昨日の事のように思い出す。 この部屋には沢山ツンとの思い出があるんだと改めて気付かされた。 ( ^ω^)「……」 部屋に入ってすぐに確認できたのは、ほんの少しのツンの荷物が入った鞄だった。 いつの間に準備をしたんだろう。起きたときは寝ぼけ眼で全然気付かなかった。 纏めて貰える、と言っても荷物はほぼ帰宅準備を整えている。 取り敢えず忘れ物がないかと部屋を見渡してみると、小さな布が落ちていた。 何かと思い拾い上げてみると、それはツンのパンツだった。
- 12 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:41:49.46 ID:yNW9RYX50
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強気なふりしてうさちゃんパンツ。 お尻のプリントには可愛らしいうさぎのイラストが描かれている。 このパンツともおさらばになるのか。 そう思うと何故だか口惜しくなって、僕はパンツを被った。 ( ^) (^)「パンツだお! パンツだお!」 パンツを被って直後に感じたのは石けんの匂い。 洗い立てなんだから石鹸の匂いがするのは当たり前だ。 けれどこの石鹸の匂いは僕の洋服とほぼ同じ匂い。 そう考えると妙にテンションがあがって来た。 ( ^) (^)「パンツマン! 参上だお!」 興奮のあまりベットの上に立って、ヒーローの真似事をする。 興奮と行っても性的な意味とは違う。 そもそも今までツンに対してそういう目で見た事がなかった。 言ってしまえばこれは、寂しさを紛らわす為の行動に過ぎなかったのかもしれない。 だから僕は、普段は決してしない馬鹿げた真似をしていたんだと思う。 ツンの気配に気付いた時には、既に僕の顔に向かってフライパンが投げられていた。
- 14 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:43:03.94 ID:yNW9RYX50
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ξ ゚听)ξ「頂きます」 ( メω( #)「頂きますお」 朝と同じように、向かい合って早めのお昼ご飯を食べる。 同じじゃないのは僕の顔が酷く傷だらけになっている事だ。 あの後、怒りのツンにフライパンでさんざん叩かれた。 怒るのも無理はないと思うけど、出来ればもう少し手加減して欲しかった。 ほかほかのご飯に肉じゃが。肉じゃがで残った材料で簡単な野菜炒めも付いて来た。 大きめのじゃがいもを食べると、口内にじゃがいもが出す甘味と肉の味が駆け巡る。 ツンの作る料理はどれも美味しいけど、肉じゃがは随を抜いて美味しい。 ξ ゚听)ξ「何よニヤニヤして。気持ち悪いわね」 知らない間に僕はにやついていたようだ。 元々ニヤけ顔だと言われていたけれど、更にそれに輪をかけてニヤけているんだろう。
- 16 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:44:31.83 ID:yNW9RYX50
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ツンの作るご飯が美味しいから、なんて自然に言えたらどんなにいいか。 それを言ったらツンはまた照れながら怒るに違いない。 照れるツンを見るのいいけど、今日は言わない事にした。 ツンと過ごす最後の食事だ。水をささずにゆっくりと味わおう。 ( ^ω^)「おっお、何でもないお」 ξ ゚听)ξ「……変なの」 はぐらかしたのがバレたのか、ツンの頬が少し赤い。 ツンの言う変なの、という言葉はもしかしたら、いつもと違う僕の返事に対するものなのかもしれない。 真偽を確かめることはないけど、なんとなくそんな気がした。 ( ^ω^)「ツン、おかわりだお」 ξ ゚听)ξ「おかわりはないわ」 ( ^ω^)「そんなぁ」
- 18 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:45:41.01 ID:yNW9RYX50
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ご飯を食べ終わると休む間もなく出掛ける準備。 いつものお出かけと違うのはツンの荷物が多い事。 ツンの準備が終わるまでの間、僕は玄関で一人待っていた。 ( ^ω^)「ツン、準備出来たかお?」 ξ ゚听)ξ「ええ、大丈夫よ」 家を出る直前、ツンは部屋を見渡すと小さな溜め息を一つ漏らした。 溜め息を吐くツンの横顔は今までに見た事がないくらい、綺麗で、儚かった。 ξ ゚听)ξ「ありがとう」 僕に聞こえないようにと呟いたであろうその言葉は、今まで暮らして来た部屋に向けられた。 聞こえないふりをした僕は、ツンが部屋から出るのを確認するとゆっくりと扉を締めたのだった。
- 19 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:47:33.94 ID:yNW9RYX50
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街は今日も騒がしい。 誰かが誰かを笑って、自分を思って泣いて、世の中に苛立って声を荒げている。 目紛しいくらい、色んな感情がぶつかっている街に僕は生まれた。 大きな笑い声が雑音に聞こえる。前を見ないで走る人達とぶつかりそうになる。 多分、この街の事を知らない人からすれば、居心地の悪い場所だと言うだろう。 でもこの街は嫌いじゃない。むしろ僕はこの街が大好きだった。 人の間を駆け抜け、自由に走れるこの街が好きだった。 他の街じゃこんなに走れない。この街だからこそこんなに早く走れるんだ。 そしてなにより、ツンと出会えた街だからだ。 あの日ツンと会わなければ、今の僕は何をしていたんだろう。 ただ走るだけじゃない、特定の誰かを思う気持ちはそれと同じくらい気持ちよかった。 特に何か思った訳でもなく、ただ何となくツンの手を握った。 顔を真っ赤にして怒るかと思ったら 一瞬驚いたような顔をして僕を見、そのまま小さく手を握り返して来た。 いつものツンなら絶対にそんな事しないのに。 普段通りじゃないツンに、本当に別れてしまうんだなと改めて実感した。
- 22 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:49:27.96 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^)「お?」 遠くの方でいくらかの声が上がる。 どよめきざわめきが溢れる中、突き刺さるような甲高い悲鳴が響いた。 この街では幾分珍しいことじゃなかったけれど、胸に引っかかるような痛々しい声だった。 ξ ゚听)ξ「変なの、今日は一段と騒がしいわね……」 ツンの言う通りだ。 この街が騒がしいのはいつもの事だけど、今日はまた別の騒がしさだ。 何事かと思い、興味本位で人垣をかき分け進んで行く。 何かを囲うようにして出来た人垣は思っていた以上に人口密度が高く 歩けど歩けど人の背中しか見えなかった。 人垣を抜けた先には何もなく、煙が静かにあがっていた。 爆発が起きているなら、もう少し派手な音が出てもいいはずだ。 僕とツンは、首を傾げて周りを見渡した。 「おい、何があったんだ?」 「そんなことよりゲームしようぜwwwwwwww」 「僕ニィトオオオオオオ!」
- 24 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:50:50.87 ID:yNW9RYX50
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先程までそこにいた人達は、まるで今まで何もなかったかのようにそこを離れ出した。 騒ぎのあったであろうその場所は何かがいた形跡があるのに、誰もそのことについて話さない。 煙のあがって行く様を見ていると、僕の横を数人の男達が通り過ぎていった。 「なあ、そういえばあそこに誰かいなかったっけ」 「そういえば耳の生えた……あれ、名前思い出せね」 「まーいいんじゃね。それよりあの店行こうぜ」 名前が思い出せない。 僕は言葉の意味を理解する前に、視覚で理解してしまった。 足下にはラムダの耳。 周囲に散らばるのはピリオドといった小さな記号。 それらを見ただけでもぞっとするのに、更に背筋が凍る事が目の前で起きた。 耳が、消えたのだ。 同時に感じる殺意。 その意思がどこからなのかは知れないけれど あまりの強大さに、すぐに動くことができなかった。
- 25 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:52:37.78 ID:yNW9RYX50
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本能が叫ぶ。危険だと早鐘を打つ。 何が起きたのか分からず、ただ立っているツンの手を引っ張ると、僕は足早に駆け出した。 ξ;゚听)ξ「ちょっとブーン、そっちは違うわよ」 ( ^ω^)「いいからこっちに行くお」 不安そうなツンの声が聞こえる。けれど振り返る暇はない。 たまにこの街を荒らす悪い奴らが暴れ出したのかと思ったけど、それとも違う。 走る。走る。目的もなくただ走る。 恐怖に似た何か、この胸のざわめきは何だろう。 こんな感覚は初めてだった。 人の合間を抜けて、誰よりも早く走る。 足には自信がある。除々に背中から感じる恐怖から離れて行くのを感じる。 けれど、どんなに走っても安心できなかった。 このまま走っても逃げ切れない。そんな気がした。
- 27 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:55:22.51 ID:yNW9RYX50
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ξ;゚听)ξ「きゃっ!」 ( ^ω^)「!」 ツンの悲鳴が聞こえて立ち止まり、慌てて振り返る。 勢い良く止まった僕の身体に突撃して来たツンを抱きかかえると、足に傷を負っていた。 転んだ物とは違う、何か鋭い物で斬りつけられた痕だ。 ( ^ω^)(これはまずいかもわからんね) 気配は先程よりは感じない。でも、もしかしたら近くにいるのかも知れない。 いつ傷つけられたのか分からない不安と、焦っている僕の様子に 怯えているツンを背中に背負って、再び走り出す。 ツンの身体はとても軽く、走る支障は何一つなかった。 転がっているツンの鞄も一緒に持って行こうとしたけれど、逃げることだけが頭を駆け巡り 鞄にまで気を向けている余裕はなかった。 ξ;゚听)ξ「ブーン!」 ( ^ω^)「大丈夫だお、逃げるお」 不安そうなツンの声が耳元で響いた。 大丈夫だなんて大見栄を張ったけれど、実際本当に大丈夫かなんてわからなかった。 正体が知れない相手ほど怖い物はない。僕はただ無我夢中で走っていた。
- 29 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:58:42.96 ID:yNW9RYX50
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暫く走った先に、僕はある一件の店を見つけた。 昼間にもかかわらず『中学生だけど暇だから質問しながらおっぱいうpする』と書かれた場違いな看板。 その店からは人の気配を感じなかった。 ( ^ω^)「あれは……」 もしかすると、そんな期待が僕の中にはあった。 先程まで僕たちの後を付けていた"誰か"の気配はない。 けれどそれは一時的な物で、完全に存在をなくしたかと言えばそういう訳でもないだろう。 体当たりするようにドアを開けると、バランスを崩した身体は床へと叩き付けられた。 僕の後ろにいたツンはというと、しっかり抱きかかえていなかったせいで僕の隣に転がってしまった。 「久しぶりだね。ここに人が来るのも」 頭上から聞き慣れた声が聞こえて来た。 声の主はゆっくりと僕とツンの間を歩き、開いたままのドアを閉めた。 ξ;゚听)ξ「ここは……」 辺りを見渡すツンに差し伸べる手を視界の端で見た。 相変わらず女性に対して紳士的な所は変わっていない。 ツンの視線の方向に合わせて僕もそちらへ向けると、懐かしい顔がそこにあった。
- 30 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 00:59:43.61 ID:yNW9RYX50
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(´・ω・`)「ようこそ、バーボンハウスへ」 ( ^ω^)「久しぶりだお、おいすーだお」 (´・ω・`)「やあブーン。相変わらずのにやけ顔だね」 ( ^ω^)「そういうショボンは相変わらずのしょぼくれ顔だお」 軽口を叩き合って、横になっていた身体を起こす。 次いで、ツンもショボンに手を借りる形で起き上がった。 (´・ω・`)「この女の子は?」 ξ;゚听)ξ「私は……」 ( ^ω^)「ツンだお、僕の好きな人だお」 ξ*゚听)ξ「違うわよ! ブーンのばか! 勘違いされちゃうじゃない!」 ( ^ω^)「おっおっおっwwwwwwww」 顔を赤くして否定するツンのほっぺをつつきながら二人、カウンターに座った。
- 31 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:01:32.83 ID:yNW9RYX50
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年季を感じさせる店内は、どこにでもあるようなバーの形そのままだ。 店内に入ると長いカウンターがあり、カウンターの向こう側には多種多様なお酒が ずらりと棚を占領している。 ショボンは僕らとは反対側のカウンター、バーテンダーの定位置に戻ると ツンにオレンジジュースを、僕にテキーラを出してくれた。 (´・ω・`)「僕が聞きたいのはそういう事じゃあない」 カウンターに肘をついたショボンは、視線をツンへと向ける。 (´・ω・`)「このコ、AAじゃないね。人間なんじゃないかい?」 ショボンの言葉に、ジュースを飲んでいたツンが動揺したのが分かった。 ツンのようにこの街で遊んでいる人間は数多くいるけれど、それはあくまで仮想世界の仮の姿。 いわゆるアバターと呼ばれている姿で人間はここで生活している。 飽きたら街から出る。都合の悪い事があれば姿形を変えてまた新しいアバターで街で遊ぶ。 この街に、いや、この世界に住む人間と呼ばれる者達は皆アバターという仮の姿をしている。 けれどツンはそうじゃない。正真正銘。この世でたった一人しか存在し得ないツンという人間だ。 ツンのような普通の人間と、仮の姿であるアバターとの違いはほぼ無に等しい。 今までこの街に住んでいて、ツンを普通の人間と見抜いたのはショボンが初めてだった。 コップを片手に握ったまま、俯いているツンの肩を優しく叩く。 心配そうに僕を見るツンを安心させる為に、僕はにっこりと笑った。
- 32 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:03:31.57 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^)「やっぱりショボンにはバレバレかお」 (´・ω・`)「笑っている場合じゃないよ。そのコ、ここに来てどれくらい経つの?」 ( ^ω^)「わかんないお」 率直に言う。コップの中のテキーラを飲むと、アルコールの味がしなかった。 不思議に思って中を再確認するとただの炭酸水だった。これはひどい。 ショボンは僕の返答に対し一つため息をついて、視線だけではなくしっかりとツンの方に顔を向けた。 (´・ω・`)「AAに侵されている」 ξ;゚听)ξ「え?」 (´・ω・`)「見た限り、まだ人間の匂いがするけど姿形は記号の集まりになりつつあるよ。 このままだと完全なAAになる。そうなったらもう人間には戻れないよ」 ( ^ω^)「そうなのかお?」 そういえばと、ツンのトレードマークでもある金髪縦ロールを見る。 以前はふわふわで、触れると髪の毛一本一本の細かさが指に感じられた。 髪だけじゃない。それこそ人間という身体の中に存在する小さな細胞一つ一つに対して。 僕らAAには一生分からない、生身の人間だけが持てる独特の触覚がツンにはあった。
- 33 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:05:51.19 ID:yNW9RYX50
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でも、今こうしてツンの髪をじっくり見ると、もうあのふわふわとした感じはなくなりつつあった。 僕らAAでいう表現に置き換えるなら、クシィーと呼ばれるギリシア文字だ。 (´・ω・`)「ま、知らなくて当然だと思うよ。ここに普通の人間が来る事自体稀なケースなんだ。 僕も今日初めて生身の人間を見たよ。 アバターやAAと違って『生きている』生々しさを感じるからね」 言いながらショボンは、手元にあった空のグラスを磨き始めた。 相変わらず俯いたまま、顔を強ばらせているツンの顔を覗き込む。 ξ;゚听)ξ「……戻れない」 小さく呟いた言葉は、とても頼りない物だった。 僕はツンの方に顔を寄せ、ショボンには届かない程の声で大丈夫だと言った。 ( ^ω^)「心配ないお。実は僕、今からツンを見送るんだお。 僕たちもう別れちゃったんだお。だからもう僕は今日からまたぼっちなんだお」 (´・ω・`)「おや、それは残念。じゃあ、傷心のブーンにはもう一杯テキーラをサービスしよう」 さっきは飄々と炭酸水を出したショボン。 今度はちゃんとテキーラを入れるみたいで、棚を占領しているお酒の中から 迷わずテキーラを手にした。
- 36 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:09:04.32 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^)「おっお。嬉しいけど今から僕は走らないといけないんだお。 どうせならテキーラより水をくれお」 (´・ω・`)「なるほど、確かに飲酒走行はあまり見られたもんじゃないからね。 それじゃあ炭酸水をあげよう」 ( ^ω^)「普通に水をくれお」 背中を向けたショボンから舌打ちが聞こえた気がするけど、気のせいだと思おう。 僕とショボンのやり取りに、ツンは落ち着かない様子でずっと見ていた。 ξ ;゚听)ξ「随分仲が良い……のかしら?」 ( ^ω^)「おっお。バーボンハウスはよくお世話になっているお。 wktkして入った店でしょぼくれ顔を見る時のあの切なさは異常だお」 今はもうほとんどショボンの店を見る事は無いが ツンがここに来る前まではよくショボンの店が建っていた。 実はショボンというAAは量産型ロボットなんじゃないかと思う位 建っては移転し、再び僕らのような純粋な少年を罠にかけるような酷い事をしていた。 ショボン曰く、それが大人になるという事だと言っていたが、今なら分かる気がする。 美味しい話程総簡単に転がっている訳ではない。昔はそんなショボンの言葉を理解出来ず 店を荒らしてはショボンに沢山の暴言を吐いてしまっていた。 ショボンの言う事を理解してから、僕らは仲が良くなった。 今はもう誰もひっかからない店に入っては、僕よりも長く生きているショボンから色んな話を聞くのが楽しかった。 けれど、段々バーボンハウスは日の目を見る事が少なくなって、今はそう簡単にショボンにも会えなくなった。
- 37 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:10:34.04 ID:yNW9RYX50
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だから今日、ショボンに会えたのは本当に久しぶりだった。 最後に会ったのはツンと僕が出会うほんの少し前。 口には出さないけれど、相変わらずなショボンを見て安心したと同時に嬉しくなった。 (´・ω・`)「そういえばブーン。外が騒がしかったけど何かあったのかい?」 背を向けていたショボンが、新しいコップを片手に戻って来た。 ショボンは持っていたコップを僕の前において、自分の分を入れている。 中身は先程僕にサービス、と言っていたテキーラだ。 ( ^ω^)「僕もよくわからないんだお。ただ……何かに追われている気がしたんだお」 (´・ω・`)「それでウチに駆け込んだってことか」 大人の貫禄なんだろう。幾つなのかは分からないけれど、少なくとも僕より年上なのは確かだ。 テキーラを入れ、コップを掴み、飲み込んでいく動作その一つ一つ。 僕がどんなに格好付けてもツンにダサイと言われるのに、ショボンにはそんな文句もつけられない。 現に隣にいるツンもショボンを見て口を開けている。見惚れているにしても口は閉じて欲しかった。 悔しいけれどショボンのこういう部分には敵わなかった。 ( ^ω^)「ショボンの店に好んで入る人はいないから、隠れるにはちょうどいいと思ったんだお」 (´・ω・`)「ぶち殺すぞ」 ショボンから受け取ったコップを飲むと、水に混じって口内で何かがはじけ飛ぶ感覚がした。 何だかんだで水で炭酸水を割っていた、嫌がらせにも程がある。今の言葉をそっくりそのまま返したい気分だ。
- 38 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:11:34.58 ID:yNW9RYX50
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店の片隅にあるテレビ画面に光が走る。 リモコンを作動させているショボンは適当なちゃんねるに切り替えると、テレビ音量を上げた。 テレビ画面には見た事の無い街の中継が映し出されていた。 猫型AAのリポーターが早口で何かを喋る。残念ながら僕はそのAAが言っている言葉を理解出来なかった。 いわゆる方言。僕の住むこの街で通用する言葉が他の街では通用しないように、他の街の言葉がここでは通用しない。 唯一通用するのは、他の街でも住んでいた事があるAA。 ショボンはこの街に辿り着く前、色々な街で住んでいたことがあるらしく この世界で使われている方言のほとんどは理解出来ると、いつだったか僕に言っていた。 リポーターの言葉を聞いているようで、ショボンは時々テレビに向かって頷いていた。 僕とツンはというと、言葉の節々に辛うじて理解出来る言葉を探しながら話を聞き リポーターが説明する画面を食い入るように見ていた。 話しながらリポーターは、ある一枚の古い本を取り出した。 古い本の中には一つだけ挿絵が描かれていて、その絵には黒い怪物が載っていた。 年季を感じさせる本は、字も掠れて読めなくなっていて、挿絵も所々虫に食われていた。 けれど僕はすぐに分かった。両手に持つ鋭い爪に、テレビ越しからでも伝わる悪意。 話の流れから、もしかしたら今日僕を追いかけていた奴はこいつなのかもしれないと直感した。
- 39 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:13:08.13 ID:yNW9RYX50
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リポーターが話を終えるような言葉を並べていると、状況を確認したショボンは テレビを見たまま、ぼんやりとした声で呟いた。 (´・ω・`)「これは……AAキラーか」 ξ ゚听)ξ「何ですかその、AAキラーって」 ( ^ω^)「虐殺厨みたいなものかお?」 初めて聞く言葉に僕もツンも揃ってショボンに詰め寄った。 キラー、殺人鬼なんて穏やかじゃない代名詞を聞いて心無しか寒気を感じる。 虐殺厨の話を出した僕に、ショボンは首を横に振った。 (´・ω・`)「対象が存在する分、まだ虐殺厨の方がいいかもしれないね」 ξ;゚听)ξ「存在する分……?」 レポーターの話も終わり、別の番組を流し始めたテレビは ショボンによって電源を切られた事で、その続きを放映する事を中断された。 らしくなく真面目なショボンに嫌な予感がする。 テレビで聞いた話を今からするであろう、僕とツンは向き直るショボンに対し ただ黙ってショボンが話し始めるのを待っていた。
- 40 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:15:02.18 ID:yNW9RYX50
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(´・ω・`)「ブーン、数年前から急激にAAが減りつつあるのは知ってるよね?」 ( ^ω^)「そういえばそうだお。前は沢山いたのに、今はあんまりみかけないお」 全てのAAがどれほどいるのか、僕も分からないけれど 僕らのような一行AAから、とてつもなく大きな巨大AAと呼ばれる物まで その数は千を越えると聞いていた。 ほんの少し前まではこの街にも多くのAAが住んでいたけれど 今はAAの姿を見る事はほとんどなかった。 ここに来る前、AAキラーという化物に殺されてしまったであろう、名も知らぬAAを思う。 悲しさで胸が押しつぶされそうになるのを堪えて、ショボンの話を聞き続ける。 (´・ω・`)「僕も良く知っているわけじゃないけど、このAAキラーは目的もなくAAを捕まえては 原型がなんだったのか分からない程身体を切り刻んでいるらしい。 ……そして、切り刻まれたAはもう二度と蘇らないんだ」 ( ^ω^)「でも虐殺厨の時だってぼろぼろになったAAをみんな助けてくれたお。 心配する事はないと思うお」 (´・ω・`)「……それが違うんだよ」 違うんだ。もう一度そう呟いたショボンは、どこか諦めたような表情をしていた。
- 41 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:16:57.23 ID:yNW9RYX50
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(´・ω・`)「言っただろう、存在を消されるって。 AAキラーに消されたAAは誰からも思い出してもらえない。 言ってしまえばAAそのものの死、なんだ」 ( ^ω^)「AAそのものの死、かお?」 (´・ω・`)「そう。人によって生み出された僕らAAは誰からも思い出してもらえない。 忘れられた時点で初めて、死を迎えるんだ」 AAは、勝手に生まれる物ではない。いつだったかショボンが言っていた言葉を思い出した。 忘れられてしまえば、二度と命を受ける事は無い。 目の前に迫り来る死の可能性に、僕は恐怖を感じた。 (´・ω・`)「今朝の騒がしさはそのせいかもしれないね。 ブーン、そのコを送り届けるなら気をつけたほうがいいよ」 ( ^ω^)「わかったお! 僕に任せるお!」 ξ ; ゚听)ξ「……」 ツンが僕の手を握る。 僕は何も言わずに、力のないその手を握り返した。
- 43 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:17:54.42 ID:yNW9RYX50
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(´・ω・`)「ツンちゃん、だっけ?」 ξ;゚听)ξ「は、はい!」 突然ショボンに呼ばれたツンが、うわずった声で返事を返す。 握られた手の力がまた強くなった気がした。 (´・ω・`)「気をつけてね。AAキラーはAAだけを対象にしているとはいえ ツンちゃんも言ってしまえば半分だけAAみたいな存在になっている」 ξ ;゚听)ξ「は、はい」 ガチガチに緊張しているツンに、ショボンはそうだと言って奥の部屋に引っ込んだ。 ごそごそと何かを探している音が聞こえたかと思えば、肩にホコリを乗せたショボンが戻って来た。 手には小さな、紅い何かが握られている。 (´・ω・`)「……君にお守りをあげるよ。 気休めにしかならないと思うけど、きっと君を守ってくれるはず」 神社で良く見かけるようなお守りは年季が入っている様で、とても古く見えた。 実際本当に古いらしく、近くで見ると糸の綻びが所々伺えた。 安全、と断言されたお守りはその古さのせいか、どんなものでも守ってくれそうな気がする。
- 44 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:19:01.01 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^)「おお! ツンもらっちゃうお!」 ξ ゚听)ξ「……でも」 差し出されるお守りを、ツンは中々受け取ろうとしなかった。 その真意は分からないけれど、奥へ戻ってまでお守りを持って来たショボンに対し 感謝と同時に、申し訳なさを感じているんだと思う。 ショボンも僕と同じ事を感じていたんだろう。 受け取ろうかどうか迷っているツンの背中を押すように、僕の言葉に続けた。 (´・ω・`)「うん、ブーンの言う通りだよ。 これは僕の好意なんだ。受け取って欲しい」 受け取るツンの手を待たず、ショボンはお守りをツンに握らせた。 空を握りしめていたツンの掌に握らされたお守りは どこか弱気なツンに対して威厳を放っているように見えた。
- 45 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:20:23.64 ID:yNW9RYX50
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受け取らされたお守りを握ると、ツンはショボンに向かって頭を下げた。 ξ ゚听)ξ「ありがとう、ショボンさん。大切にします」 丁寧に礼を言うツンに、ショボンは面食らったような顔をした。 バーボンハウスなんて店をやっていて、こんな風にお礼を言われる事なんてほぼ皆無なはずだ。 照れているような、嬉しさを隠しているような そんな顔をしつつもクールを装っているショボンが何だかおかしかった。 店から出る前、もう一度ショボンのいるカウンターに目を向ける。 古びた店内にいるショボンは、飲みかけのバーボンを口にしながら僕らに手を振った。 (´・ω・`)「道中気をつけて。健闘を祈るよ」 ( ^ω^)「大丈夫だお。僕がついてるお」 胸をどんと、大きく叩くと思っていた以上の痛みが身体を駆け抜けた。 堪らず痛みで胸を押さえると、ショボンが大きな声で僕を笑った。 こんな状況じゃなければ、今すぐにでもショボンを殴りに行く所だけど、今日はそれどころじゃない。 隣にいるツンの腕を掴み、格好付けようとして失敗してしまった僕はそのままドアを開けて飛び出した。 (´・ω・`)「どうせ格好付けるなら最後までそのコを送り届けるんだよ。 それじゃあ、また会う日まで」 ドアを閉める直前に聞いた声に押されて、僕は誰よりも早く駆け抜けた。
- 47 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:22:09.71 ID:yNW9RYX50
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生まれた時から足の速さには自信があった。 それは、僕自身が身につけた早さではなく、人間が僕にくれた特技だった。 内藤ホライゾンという名前も、僕の口調も。僕という人格が生きていく過程で得た物じゃない。 いつ、誰が、どんな会話の中で僕をつくっていったのか。 今はもう生まれた時の事を忘れてしまった。 AAの中には自分の存在意義を問う者もいる。ショボンが丁度それに近かった。 自分はいつ、どこで、誰によって生み出されたのか。 ショボンは自分の生まれた理由を知るため街を転々とし、この街に着たらしい。 僕はショボンと全く逆の考えだった。 今が楽しければいいんじゃないか。 昔、存在意義について話をしたショボンに僕はこう返した。 その時のショボンの反応は今でも忘れられない。 その頃のショボンはあまり感情を表に出さず、バーボンハウスに訪れた人に対ししても 淡々とした態度でバーボンを振る舞っていた。 そんなショボンが、声を上げて笑った。 吹っ切れた思いを感じさせる笑いに、僕は驚いた。 ショボンの事だから絶対に批判すると思っていたからだ。 久々にあの吹っ切れた笑いを聞いた。 笑った理由が大分気に食わないけれど、ショボンが本当に元気そうで良かった。
- 48 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:23:20.66 ID:yNW9RYX50
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人通りの多い通りに差し掛かる。 流石にこの通りの中、ツンの手を掴んだまま走るのは危ない。 質の悪い奴にぶつかってトラブルが起きるのは避けたいからだ。 ツンの腕を引っ張り、そのまま両手でツンを抱きかかえる。 言ってしまえばそれはお姫様抱っこだ。 ツンは突然の僕の行動に顔を赤くして、僕の顔を叩き始めた。 ξ*゚听)ξ「ちょ、ちょっと! 別にさっきみたいに手を引っ張ってもいいじゃない!」 ( ^ω^)「だって、そのまま走るのも危ないお。暴れるのも危ないから大人しくして欲しいお」 僕の言葉でようやく大人しくなったツンは、ショボンから貰ったお守りを見て呟いた。 ξ ゚听)ξ「いい人だったわね、ショボンさん」 ( ^ω^)「しょぼくれ顔だけおね」 ξ ゚听)ξ「アンタ、私以外の人とあんまり話した所見た事無いからビックリしたわ。 ただのコミュ力ゼロの引きこもりじゃなかったのね」 ( ^ω^)「ヒドスwwwwwwww」
- 49 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:24:18.98 ID:yNW9RYX50
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笑いながらふざけて走っていて、あまり周りをよく見ていなかった。 僕の横を通り過ぎて行こうとしていた女の人とぶつかってしまったのだ。 女の人も、とてつもないスピードで走っていたようで、僕とツンはそのまま横に倒れてしまった。 ショボンの店の時のようにツンを腕から離すことはなかった。 地面に叩き付けられた左半身はほんの少し痛いけれど ツンを守る事が出来たならこれくらいどうってこともなかった。 ( ^ω^)「すみませんだお。ツン大丈夫かお?」 ξ ゚听)ξ「ええ、平気よ」 ツンが起き上がり、次いで僕も立ち上がった。 膝をついて僕らを見上げている女の人は、驚いた様子で僕とツンの顔を交互に見ていた。 川 ゚ -゚)「……君は」
- 51 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:25:34.20 ID:yNW9RYX50
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続いて何かを言おうとした女の人は、ハッとした表情で背後を確認した。 女の人の視線を見ても、そこには僕らを興味深そうに見ている人だかりしか見えない。 けれどその人には何かが見えているんだろう。 険しい顔をして立ち上がると、それまで見ていた方とは別の道を顎で促した。 川 ゚ -゚)「こっちだ、ついてこい」 ( ^ω^)「お?」 川 ゚ -゚)「君はAAだろう? ここで話したいのはやまやまだがAAキラーが既に近くまで来ている。 一度場所を変えるぞ」 AAキラー。つい先程知った言葉にに、あの恐怖心が再び襲いかかって来た。 有無を言わせず先へ行く女の人に とにもかくにも僕らは慌ててついて行く。 少なくともこのまま走り続けるより、あの人について行った方が安全な気がしたからだ。 ( ^ω^)「よくわかんないけどついていくお!」 ξ ゚听)ξ「暢気に言ってる場合?」 僕の頭をチョップするツンを隣に、僕らと女の人は人だかりの向こう側へ歩いて行った。
- 54 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:27:51.62 ID:yNW9RYX50
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人の間をくぐり抜けていく内に、狭い路地裏に辿り着いた。 寂れた路地裏には、過去の街の栄光を思い馳せては独り言を呟く人や 人目に触れない路地裏を選んで、誰かが恥ずかしい失敗をする瞬間を 垣間見、誰よりも先に騒ごうと待ちわびている人がいた。 そんな人たちの中に、今はもう見なくなったAA達の姿もあった。 この街しか知らない僕は、彼らが一体どんなAAでどんな名前を持っているのかわからなかったけれど 向こうは僕の事を知っているらしく、ブーンだと言って僕の事を指差した。 川 ゚ -゚)「ふむ。流石は新速別府の子か。 恐らく、この街で君を知らない奴はいないだろう」 ( ^ω^)「そうでもないお。僕も最近は忘れられてるお」 ξ ゚听)ξ「……」 昔は駆け抜けるたび、みんなが僕の名前を呼んでくれた。 けれど今はもうそんな事は無くて、街を歩いても誰も僕を見てくれなかった。 小さな子猫型AAが僕を見て笑っている。 無垢な笑みを見て、久しぶりにあの頃の高揚感が湧き出た気がした。
- 55 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:29:45.57 ID:yNW9RYX50
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小規模な人の集まりの向こう、路地裏の一番奥にある小さな家に女の人は立ち止まった。 後ろを振り返り、僕とツンがついて来ている事を確認すると 目の前にあるドアに視線を向けた。 川 ゚ -゚)「ここだ」 ( ^ω^)「あれ、ここって……」 そういえば僕はこの家のドアに見覚えがある。 もう少し具体的に言えばドアじゃない。ドアに掛かっている表札の、癖のある字体だ。 表札の文字は既に掠れていて、どんな文字が書いているのか分からない。 それだけならまだしも、癖のある文字が手伝って更に読みにくくなっている。 もはやそれは表札の役目を果たしていなかった。が、その字体に僕は覚えがあった。 ドアだけじゃない。今まで通っていた路地裏も思い返せば通った記憶がある。 入り組んだ路地裏に住む友人に会いに行くのが面倒で、気付けば長らく友人と会っていなかった。 長らくといってもショボン程ではない。 ツンがここに着てからも最初のうちは何度か会いに行っていたが 僕に告げずに引っ越した友人宅の跡地を見て、また遠くへ旅に出たのかと思っていた。
- 56 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:31:01.50 ID:yNW9RYX50
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もしかして、と一人考えている僕の前で女の人がドアを開けた。 冷めた声で女の人は暗い室内に向かって、ただいまと言う。 我が物顔で入って行く女の人に続いて僕が、その後にツンが入る。 暗い室内を見渡していると、部屋の隅にいる何かがごそりと動いた。 小さく悲鳴を上げたツンの側で、動いているその物体を凝視してみると 貧相な顔が毛布の中からひょっこりと顔を出した。 ('A`)「おかえり……あれ、ブーンじゃないか」 ( ^ω^)「やっぱりドクオだお! ドクオおいすー」 右手を上げ、ドクオに向かって手を振ると どっこいしょ、と親父臭い事を言いながらドクオがこちらにやってきた。 ('A`)「やべー。ちょう久しぶり。お前全然こねーんだもん。 俺このまま孤独死するかと思ったわ」 ( ^ω^)「それはこっちの台詞だお。何も言わずに引っ越して、どうしたんだお」 ('A`)「や、前の家の家賃が払えなくて……。 仕方ないから前よりも安い所に引っ越して来たんだ」 ( ^ω^)「なら電話するなりして新しい住所教えろお」 ('A`)「マンドクセ」
- 57 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:32:20.33 ID:yNW9RYX50
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久しい再会に色々と言いたい事を並べていると、ドクオの視線が僕から隣にいるツンへと変わって行った。 上から下まで、じっくりとツンを見たかと思うと それまで僕と楽しそうに話をしていた余裕はどこへいったのやら、目を見開いて僕らから一歩後ずさったのだ。 (;'A`)「ぎゃああああああ!」 ξ;゚听)ξ「へ?」 いきなり自分を見て大きな声を上げられれば、誰でも驚いてしまうものだ。 異常なまでのドクオの怯えっぷりを見たツンは、どうすればいいのかと僕とドクオを交互に見て助けを求めていた。 :(;'A`):「女だ女だ怖い怖い怖い怖いひいいいいいいい」 川 ゚ -゚)「うるさい」 と、今までどこに行っていたのか分からなかった女の子が突如ドクオの後ろに現れては 一人勝手に騒いでいるドクオの頭を殴りつけた。 痛そうなげんこつに目が覚めたのか、甲高い悲鳴が止み 我に返ったような顔をしてドクオは、自身の後ろにいる髪の長い女の子の方を向いた。
- 58 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:33:23.94 ID:yNW9RYX50
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部屋が全体的に薄暗いせいで、女の子の姿があまりよく見えないが ドクオに対して何か耳打ちをしている事だけはしっかりと見る事が出来た。 ξ;゚听)ξ「あ、えっと……」 ( ^ω^)「気にするなお。ドクオは女が苦手なんだお」 今の今まで忘れていたけれど、そういえばドクオは異性が苦手、いや、好きではない。 もう少し厳密に言うと他人が嫌いで、対人関係もあまり良好とは言えない。 それが何故なのか、本人はあまり言いたくないようで詳しい理由は知らない。 そんなドクオが見知らぬ女の子と一緒にいるのを見て、会わない間に何かあったのだろうと察した。 僕でさえもまだツンと一緒に寝る事だけで精一杯なのに、ドクオのくせに生意気な。 ( ^ω^)「それにしてもドクオもやるお。こんなカワイコちゃんを捕まえるなんて」 (*'A`)「え、あ、えへへ……」 川 ゚ -゚)「私はただの居候だ」 ('A`) ( ^ω^)「 wwwwwwwwwwwwwwwwww」 何もなくてよかった。やっぱりドクオは独男のままが一番だ。
- 59 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:34:21.07 ID:yNW9RYX50
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僕らから数歩離れていた女の子とドクオがこちらにやって来る。 相変わらずの暗い部屋の中、距離を詰めても表情を判別するのがやっとのことだった。 僕の右隣にツン、ツンの真向かいに女の子。 そして僕の真向かいにドクオという位置でひとまず腰を据える事になった。 時折ドクオは挙動不審にツンをチラチラ見ているが その視線に気付かれる度にドクオは女の子に腿を抓られていた。 川 ゚ -゚)「いきなり連れ出してすまなかった。 私は素直クールという。クーと呼んでくれて構わない。 伝えたい事が沢山あるが、まず現状を伝えようと思う」 落ち着いたクーの声に、僕とツンはほぼ同時に頷いた。 川 ゚ -゚)「ここら一帯でAAキラーがAAを襲っているのは知っているか?」 ( ^ω^)「勿論だお!」 重苦しい空気を破るため、KY並みの勢いで明るく返答する。 クーは腕を組む動作をすると、少し考えるように間を空けた。
- 60 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:36:01.72 ID:yNW9RYX50
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川 ゚ -゚)「ではそいつの目的が、全AAを抹消することは知っていたか?」 ( ^ω^)「全AA?」 僕の返しの言葉と、ツンの戸惑うような反応を見て、クーは更に話を続ける。 川 ゚ -゚)「そうだ、大型一行関係なく記号で集められた生ける物達を消しているらしい。 何故そうしているのかはわからないが、確かなのはAAを無差別に攻撃している事だけだ。 つい先程私も奴と対峙した。結果は逃げて帰ったのだがな」 ('A`)「……だから危ない事はしないで隠れていようって言ってるだろ」 川 ゚ -゚)「隠れていても助からない。現に君の仲間である独男達は皆……」 そこまで口にして、クーはすまないとドクオに言った。 察したくないが、落ち込んでいるドクオの様子やクーの反応を見るに 各地に存在していたドクオの仲間達は皆、もしくは殆どAAキラーにやられてしまっているのだろう。 川 ゚ -゚)「ところでブーン。君はそこの彼女を連れてどこへ行こうとしていたのだ?」 話題を変えるためだろう。クーが僕に声をかけて来た。 投げかけられた問いに僕は答える。 ツンをこれから元いた世界へ見送りに行く事。 その途中でクーとぶつかってしまった事。 ぶつかった辺りの下りを説明している最中、急いでいる時に連れて来てしまってすまないとクーは言った。 別に謝って欲しくて話した訳ではなく、ここまで来るようになった話の流れを説明しただけだったから 突然謝り出したクーに、逆に僕の方が申し訳ない気分になった。
- 64 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:38:14.99 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^)「あのままだとAAキラーに捕まっていたかもしれないお。 僕たちからすれば、むしろありがとうと言いたいお」 川 ゚ -゚)「そうか……。そう言ってもらえると嬉しいよ。 今、奴の勢いは恐ろしい物になっている。ここに長居すれば彼女もAAになり攻撃対象となるだろう。 早めに彼女を元の世界へ帰す方がいい。君の足なら大丈夫だろう」 クーはそう言うと、立ち上がり懐に持っていた棒状の長い何かを振りかざした。 外から漏れる光に反射するそれは、刀だった。 川 ゚ -゚)「私はもう一度奴を倒しに行く。逃げているだけでは何もならないからな。 それと同時に君たちの護衛もしよう。見た所、逃げ切れる足は持っても立ち向かう武器はなさそうだ。 道中、奴とまた会う可能性もないとは言い切れない。私でよければ一緒に行ってもいいか?」 刀を片手に言い切るクーの、はっきりとした声色に心強さを感じた。 確かにクーの言う通り、逃げ切れる自信はあっても万が一対峙した時、立ち向かえる力はなかった。 現に先程逃げている途中、ツンの足に傷を負わせてしまった。立ち向かえる人がいれば、そんな心配も少しはなくなるだろう。 ( ^ω^)「お! よろしく頼むお!」 お言葉に甘えてと言わんばかりにクーに了承の返事をすると 僕とツンも立ち上がり、部屋から発つ準備をする。 刀を鞘に納めたクーは、隣でずっと座ったまま微動だにしないドクオに声をかけた。
- 66 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:39:51.15 ID:yNW9RYX50
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川 ゚ -゚)「もし私が帰ってこなかったら、その時はここから逃げろ。 まだAAキラーに制圧されていない街もある。そこへ行って現状を知らせるんだ」 ('A`)「お、おう」 はっきりドクオの顔を見なくても分かる。 自信のない表情でそれでも弱音を吐いてはいられないという 決意を込めた目をしているんだろう。 最後の最後に、僕はドクオにおどけた台詞を投げかけた。 ( ^ω^)「次にドクオと会うのはdatの海かもしれないおね」 ('A`)「バーカ。縁起でもねぇ死亡フラグだなそりゃ。 俺は童貞を捨てるまでは死ぬに死にきれねえんだよ」
- 67 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:40:42.60 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^)「それは僕も一緒だお。じゃあな童貞野郎」 ('A`)「おうよ」 暗闇の中で、恐らく最後の会話になるであろう言葉を交わすと、僕はドクオに背を向けた。 死亡フラグを敢えて自分で立てる何て、と思うけれど状況が状況なだけに仕方が無い。 例え本当に死亡フラグになったとしても、最後にこうして話が出来ただけでも幸福だと僕は思う。 クーを先頭に、僕とツンが後を追うように歩き出す。 右手に刀を構えたまま、振り返り僕らに目を向けた。 川 ゚ -゚)「では行くぞ」 ( ^ω^)「おー!」 僕の声を合図に、外へ飛び出したクーに続いて僕らも後を追った。
- 68 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:42:23.61 ID:yNW9RYX50
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近道を通ろう、と言うクーの背中を追いかける。 ドクオの住処だった路地裏を通り抜け、人でごった返す大通りを横切り走り続けていると 人気が少ない通りに辿り着いた。 アバターがほんの少しだけしかいない通りは、四方八方に様々な大きさのスクリーンが表示されていた。 いわゆるROM専とよばれる人達は、こうしてスクリーン越しでのみ、この世界に干渉しなかった。 普段街で遊んでいるアバターも、ここからこの世界に干渉する。 つまり、僕らAA以外の人間達はスクリーンという媒体を元に僕らの世界と繋がっているらしい。 聞いた話では僕らからは見えないけれど、スクリーン越しからは様々な世界を一望出来るという。 この世界で生まれた僕らAAには分かることのない景色なんだろう。 スクリーン越しに僕を見る人間に、僕は手を振った。 最も、彼が見ていたのは僕なのか、僕ではない何かなのかは分からなかったけれど。 川 ゚ -゚)「AAの気配がないな……」 僕の前を走っているクーの呟きが流れて来た。 先程と同じくツンを抱きかかえている僕は、辺りを見渡してみる。 そういえばいつもなら、数はさほどいなくてもAAが何人かいるはずだ。 それが今日は誰もいない。いるのは数人のアバターと僕ら三人だけだった。
- 69 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:43:25.66 ID:yNW9RYX50
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ξ ゚听)ξ「もしかしてみんなもう……」 僕やクーが考えていた事をツンが口に出した。 思っていてもやはり口には出したくない物だ。 ツンの言葉を覆い隠すように、僕はクーにも聞こえる程の声を上げて言う。 ( ^ω^)「二人ともwwwwwwwww辛気くさいおwwwwww ドクオみたいに隠れてるかもしれないしwwwwwwwww 心配することないおwwwwwwwwwwwwwwwwww」 川 ゚ -゚)「ああ、そうだな」 相変わらず冷静な反応で返すクーだったけれど 何となく安心したような声に聞こえた。 暫くすると、クーの走るスピードが少しずつ落ちていった。 走る事に疲れを感じない僕は分からないけれど、クーは元々走る事を前提に作られたAAではないんだろう。 少し歩かせてもらって良いかと聞くクーに、僕とツンは頷いた。
- 70 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 01:45:05.82 ID:yNW9RYX50
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ξ ゚听)ξ「歩くんだったら下ろしてよ。私だって普通に歩けるんだし」 ( ^ω^)「ツンの香りクンカクンカwwwwwww」 ξ#゚听)ξ「この変態!」 思い切り頭を殴られて、大人しくツンを抱えていた腕から下ろす。 本当は別れの時まで、出来るだけツンの側にいたかったけれど、これ以上殴られるのは勘弁だった。 名残惜しいけど、何も言わずツンの隣に立って歩いた。 何も言わずに歩いていると、突然ツンがクーの隣に立とうと早足になった。 ξ ゚听)ξ「あの、クーさん」 後ろから歩いている僕にツンの顔はよく見えないけれど どこか迷っているような感じの声が聞こえて来た。 川 ゚ -゚)「クーで構わない。何だ?」 ξ ゚听)ξ「変な言い方になっちゃうんだけど……クーみたいな人型に近いAAなんて私、初めて見るの。 人の形をしたAAなんて殆ど大型AAだから、その……」 自慢じゃないけど、AAの事はある程度知っているんだ。 初めて会ったとき、ツンはそんな事を言っていた。 昔から存在していたAAや、今はあまり見かけなくなってしまったAA等 知らないAAの数の方が圧倒的に多いではあるらしいが ここ近年姿を見せているAAや、昔から馴染みのあるAAの事はある程度知っているらしい。
- 75 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:03:30.61 ID:yNW9RYX50
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特にこの街でよく見かけるAAはほとんど分かると言っていた。 流行に敏感なこの街は、人気のAAはすぐに知れ渡るけれど、廃れるのもまた早かった。 ツンは、そんな皆に忘れ去られたAAを覚えていて 時々僕と話している時に、あのAA達は今はどうしてる?なんてよく言っていた。 自分から言い出したにも関わらず上手く説明出来ないもどかしさに ツンは頭を抱えて悩ませていた。 川 ゚ -゚)「君の言いたい事は何となく分かった。 予想通りかどうかは知らないが、私は元々君みたいな人間だったんだ」 ツンの意を読み取ったクーの発言は、ツンだけではなく僕も驚いた。 クーのようなAAは確かに僕も初めて見るけれど、それはただ単純にこの街で見た事がないだけだと思っていた。 けれどまさか、クーもツンと同じ人間だった存在とは。 何も言わない僕とツンに構わず、クーはゆっくりと話し始めた。 川 ゚ -゚)「気がついたら私はここにいた。何故かは知らない。 いつもと同じようにパソコンの前で眠っていたらこうなっていたんだ」 ξ ゚听)ξ「……」 川 ゚ -゚)「そこにたまたまドクオがいてな、時々こうして人間が間違って来てしまう事を教えてくれたよ。 それと同時に、帰る方法も教えてくれた。奴も帰れと言っていたしな」
- 78 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:06:38.00 ID:yNW9RYX50
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ξ ゚听)ξ「でも、帰らなかったの?」 川 ゚ -゚)「この街が楽しかったんだ。 縛り付ける物もない。何もかも自由で、好きにできる。 だが気がついた時には、私はAAになってもう元の世界に戻れなくなってしまった」 川、と表現されているクーの髪は、きっと綺麗な髪をしていたんだろう。 明るい口調で話してはいるけれど、クーの話からはどこか諦めや後悔を思わせた。 川 ゚ -゚)「君を見ていると昔を思い出すよ。 ここの生活は飽きないが、やっぱりたまに恋しくなるんだ」 ツンの方を向いて微笑むクーに、ツンは何も言えないでいた。 どんな言葉を掛けるべきなのか迷っているんだろう。 クーの生き方に誰がどう言うかなんて、正解は無い。 人の感情程ややこしいものは無いと僕は思っている。 この街で、些細な事や大きな事まで言い争う人たちを見ていると本当にそう思うんだ。 ( ^ω^)「楽しければオールオッケイなんだお!」 クーとツンの間に割って入り込み、僕は僕の答えを出す。 僕の考えを押し付けているんじゃない。 ただ、そういう考え方もあると、クーやツンに知って欲しかった。
- 79 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:08:28.23 ID:yNW9RYX50
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一呼吸おいて、はじけた様にクーが笑い出した。 君らしい、と言うクーが笑う。今度は先程ツンに見せた微笑みとは違う 晴れ晴れとした笑みだった。 川 ゚ -゚)「はは、そうだな。楽しければ何だって構わないんだーー」 そこまで話して、突然クーは鋭い目つきで僕とツンの後方を見据えた。 傍らの刀に手を添え、息を殺して一点のみを見つめる目。 釣られて僕も後ろを振り返るけれど、そこには何もなかった。 けれど、徐々に近づいて来る妙な寒気に、見えない恐怖を再び思い出させた。 川 ゚ -゚)「おしゃべりはここまでか。ブーン、その子を連れて先へ行け」 ξ;゚听)ξ「でもクーは」 川 ゚ -゚)「心配するな。すぐに追う。」 クーはそれだけを言うと、僕とツンの間を走り抜けた 次いで現れる黒い影。初めて視界に捉えたそれは、テレビで見た怪物の姿そのものだった。 鋭い爪、真っ赤な瞳。四本足で立つ、そいつこそがAAキラーだった。
- 81 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:10:58.44 ID:yNW9RYX50
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ツンの手を引いて僕はクーが駆け出した方向とは別の方へ走り出す。 後ろから刀と何かがぶつかる金属音と、化物の声が響き渡っているのが聞こえる。 身に迫る恐怖を感じながら走っていると、視界の端に黒い影が見えた。 川;゚ -゚)「しまった!」 クーの声が聞こえる。走りながら振り返ると、焦った表情でこちらへ駆けて来るクーの姿があった。 行き先方向転換。右に逃げると、僕の左目を見ている赤い目がいた。 ( ^ω^)「お、おお?」 足に自信はあった。追いつかれる可能性が全くないとは思わなかったけれど 上手く逃げればやり過ごせられる。そう思っていた。 ξ;゚听)ξ「! ブーン、私の手を離して!」 怖い。このままここで死にたくない。 けれどそう思う以上に、僕はツンのことが気がかりだった。 ( ^ω^)「 だ が 断 る 」 ξ;゚听)ξ「何言ってんの! アイツの狙いはAAなんでしょ!? だったら私は今まだ人間だから、だから!」
- 83 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:13:11.31 ID:yNW9RYX50
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だから。その続きを聞く前に激痛が走った。 同時に地面に叩き付けられる。 何をされたのか、僕がどうなってしまったのか。 その判断すら出来なかった。 ξ ;凵G)ξ「ブーン! ブーン!!」 ああ、ツンの声が聞こえる。 怒ったような、泣いているような、混ざりに混ざった感情の叫びが聞こえる。 泣いちゃ駄目だよ。ツンに泣き顔は似合わない。笑っていて欲しい。 その為に僕は、ツンの側にいるんだ。
- 84 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:15:41.02 ID:yNW9RYX50
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最初にツンを見た時の事は今でも覚えている。 いつもニコニコ笑っている子で、可愛いなんて思いながらツンの事を見ていた。 僕を見かける度、ブーンだ!なんて言いながら僕を見てくれるツンの事が、いつの間にか好きになっていた。 もっとツンが笑って欲しい。 そう思うようになった僕は、みんなに作ってもらった僕の設定や新しいネタを披露してツンを笑わせていた。 徐々に僕の存在が街の住人から忘れられて行く中で、いつしかそれが僕の生き甲斐となりつつあった。 けれど時が経つに連れて、ツンの笑顔がなくなっていった。 僕を見ても嬉しそうな顔をしてくれない。何か考え込むように独り言を重ねる日が多くなっていた。 長い間街へ遊びにこない時もあった。街に来ても思い詰めたような顔をしているツンに、僕は何も言えなかった。 僕は所詮AAだ。人間の意を介して自分の思いを人間に伝える事が出来ても 自らの意思で人間に思いを伝える事は出来ない。 スクリーン画面越しに見る泣きそうなツンの姿に、僕はやりきれない思いをいつも抱えていた。 そんなある日、いつも通りツンが見えるスクリーン画面の前にやってくると そこにツンが一人、どこか遠くを見るようにぼうっと立っていた。 初めて直接見るツンは、スクリーン画面越しに見ていた姿以上に可愛らしい姿をしていた。
- 85 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:17:27.24 ID:yNW9RYX50
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『あなたは……ブーン?』 『おっお、ブーンだお。君はツンちゃんだおね』 『なんで、私の事知ってるの?』 『ブーンはツンちゃんの事なら何でも知ってるお』 『う、嘘よ! じゃあ私が今日夕飯で何食べたか知ってるの!?』 『おーん……。流石にそれはわからないお。 ブーンはパソコンの前にいる間のツンちゃんの事しか知らないお……』 不安そうに辺りを見渡すツンの手を僕は握った。 僕より少し大きな手が、僕の手を握り返して来た。 『ねえ、ここは夢?』
- 87 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:19:04.83 ID:yNW9RYX50
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『どうだお? ブーン達は夢を見ないから、多分全部本当の事だお』 『じゃあ私は……ブーン達がいる世界に入り込んで来たってこと?』 『そういう事なのかお? ブーンは難しい事は分からないお』 『何それ、全然分かってないじゃん』 『おーん……ごめんお』 『いいわよ、それに……』 『……本当に、夢じゃなかったらいいな……』 小さく呟いたツンの声と、安心したような横顔を思い出した。 それから、時々こうして人間が僕らの世界に直接入り込んでくる事や 帰る方法もある事を調べて行くうちに分かっていった。 帰りたくないと言い、パソコンの前で泣いていた理由を言わないツンを 僕はずっと自分の部屋に住まわせていた。 いつかツンが帰りたいと、この街から出て行くと言った時は笑って見送ろう。 そんな事を思いながら、今日まで過ごして来た。
- 89 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:20:49.07 ID:yNW9RYX50
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ブレる視界の向こうで、僕の方にやってくるツンの姿が見える。 けれどそれは叶わず、ツンは何者かによって身体を引っ張られ、僕の視界から消えてしまった。 もしかして、と思って起き上がろうとするけれど、腕に力が入らない。 左手は動く。けれど右手が動かない。いや、無くなっていた。 ツンの手を引いていた手は、AAキラーに吹っ飛ばされていた時に千切れてしまったのだろうか。 痛む身体を堪え、辺りを見渡すとツンの側にクーがいた。 AAキラーの攻撃を刀でかわしながら、ツンを連れて距離を取り、またAAキラーの攻撃をかわしていた。 川;゚ -゚)「ちぃっ!」 キィン、と一際高い金属音が鳴り響き、クーはAAキラーが下した爪の刃を必死で受け止めている。 側で立ち尽くし泣いているツンに向かってクーが怒鳴り上げた。 川;゚ -゚)「何をしている! 人間とはいえ、君はもう殆どAA同然になりかけているんだぞ! 奴の攻撃対象になりうる可能性は十分にある! 早く! 私もブーンもすぐに追いかけるから!」 ξ ;凵G)ξ「嫌よ! もしクーも、ブーンも、ドクオやショボンや他のAAがいなくなったら私どうすればいいの! そんなの嫌よ……そんなの…………そんなになるなら、私もここで」
- 90 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:23:29.27 ID:yNW9RYX50
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川;゚ -゚)「ふざけるな! 君はブーンの気持ちを踏みにじるつもりか!」 視界が少しずつクリアになっていく。 今にもAAキラーの力に押しつぶされそうなクーと、その側で泣いているツン。 助けないと。そう思った瞬間、既に身体は動いていた。 自分がこんなに早く走れるなんて思わなかった。 風に背中を押されて、勢いに任せて飛び出した僕は AAキラーの顔に鋭いパンチを食らわせてやった。 川;゚ -゚)「ブーン!」 ( ^ω^)「平気だお、ちょっと腕が一本取られただけだお」 努めて明るく振る舞うけれど、どうしても顔が痛みで歪んでしまう。 強がりな返事をしてもう一度AAキラーに攻撃をする。 今度は距離を詰めていたせいで 先程のような強力な一発を食らわせることは出来なかったけれど クー達からAAキラーを離れさせる為には丁度いいくらいだった。 雄叫び声を上げたAAキラーは、標的をツンから僕へと変える。 逃げる準備をしていた僕を助けるように、発砲音が鳴り響いた。
- 98 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:35:14.10 ID:yNW9RYX50
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この場に銃を持っているのは、誰もいないはずだ。 発砲音が聞こえた方を辿って見ると、そこにはドクオが立っていた。 ( ^ω^)「ドクオ!」 遠くに居るドクオに向かって手を振ると よう、と相変わらずの間の抜けた声が聞こえて来た。 ('A`)「ヒーローは遅れて来るもんだろ?」 ( ^ω^)「足震えてるじゃないかおwww」 (;'A`)「うるせぇな。せっかくキメて来てんだから余計なこと言うなよ」 率先して動くなんてドクオらしくない。 らしくないけど、今日のドクオはいつもより心強く見えた。 大、中、小、と抱えている様々な銃を全てAAキラーに打ち込む。 時に連続的に激しく、時に鈍く巨大な音を響かせていく。 最初こそAAキラーも攻撃を避けたり、反撃を試みようとしていた。 だが、乱射している銃弾のうちのどこか、痛い所に当たったんだろう。 AAキラーは抵抗を止め、その場に踞った。
- 100 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:38:18.98 ID:yNW9RYX50
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ドクオの側にクーとツンが駆け寄る。 クーの姿を見るなり、ドクオは受け取れと言って刀をクーに渡した。 受け取り、鞘から刀を抜いたクーは感嘆の声を漏らす。 今まで使っていたクーの刀と、今持っている刀の価値がどう違うかはわからなかったけれど 光に反射する刀の輝きを見る限り、良い刀であることが分かった。 川 ゚ -゚)「いい刀だな。その銃も、どこで手に入れた?」 (;'A`)「ショボンの店だ。アイツがこれを持って行けって」 そういえばショボンは色々な街を歩いて行く中で、色々な物と出会ったなんて言っていたっけ。 大事な物だから誰にも見せられないけどね、なんて言葉も添えて。 ドクオに対してショボンは、とは聞かなかった。聞きたくなかった。 自分の物を人に渡したがらないショボンの物がここにある時点で、ある程度予想出来てしまったからだ。 ほんの数分の会話と落ち着きが僕らに与えられたけれど、それもすぐに終わってしまった。 <
br> 踞っていたAAキラーが再び起き上がり、僕らに向かって走り出す。 慌ててドクオが銃を乱射し、クーが再び構えの位置についた。 川 ゚ -゚)「ブーン、先に行け」 (;'A`)「そこのツンデレっ娘を連れて帰るんだろ? さっさと行けよ」
- 104 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:41:15.78 ID:yNW9RYX50
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僕から少し離れた位置にいるツンを見る。 涙の歩いた後が頬に残り、ちょっと赤くなった目がドクオと、クーを見ている。 小刻みに震える首は横を振っていて、それが何を意味しているのか、僕は理解した。 ( ^ω^)「お! それじゃあちょっと行って来るお!」 ξ;゚听)ξ「あ、ちょっと!」 有無を言わせず僕はツンを抱きかかえて走り出す。 抱きかかえて、といっても今の僕は左腕しかない。 もはや担ぐようにと言った方がいいだろう。とにかく僕はツンを連れて、AAキラーとは反対の方向へ逃げ出した。 このままここにいると、先程のようにツンはここで死ぬなんて言い出しかねない。 それだけはどうしても避けたい。これは、僕だけではなくクーやドクオ、ショボンの思いでもあった。 AAキラーの叫び声にまぎれて、遠くからクーの声が聞こえて来た。 川 ゚ -゚)「じゃあなツン。久しぶりに人間と話が出来て嬉しかったよ。 どうか悔いの無い、人としての人生を歩んでくれ」 ツンにまでこの言葉は届いているだろうか。 前を向いたまま走り続けている僕はツンの表情を確認することも出来ず ただただ、ツンを送り届けることだけを考えていた。
- 106 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:44:31.62 ID:yNW9RYX50
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AAキラーの気配もなくなり、僕らが初めて出会った場所に辿り着こうとしていた。 相変わらず沢山の数のスクリーン画面が宙に浮かび、その中から人が覗いている。 多く存在するスクリーン画面の内の一つ、薄暗く、画面の向こうに誰もいないスクリーン画面があった。 ξ ゚听)ξ「ここだわ。私の家」 薄暗いスクリーンを指差し、ツンがようやく口を開いた。 ドクオとクーと別れてから、ツンは一言も喋らないでいた。 僕のつまらないギャグにも、どうでもいい会話にも 曖昧な返事を返すだけで、どこか上の空だった。 ツンの家であるスクリーン画面の前に行く。 元の世界へ帰る方法は簡単だ、自分の家であるスクリーン画面の向こう側にいけばいい。 水の中へ潜るように通って行けば、何事もなかったかのように元の世界へ戻れる。 担いでいたツンを地上へ降ろし、帰るように促した。 けれどツンは一歩も動かず、俯いて立っているだけだった。 掌を堅く握りしめるツンは何かを呟いている。その声はあまりにも小さすぎて、聞こえなかった。 ( ^ω^)「ツン? どうしたんだお? 早く行かないとツンもAAに……」 ξ )ξ「……る、の?」 ( ^ω^)「お?」
- 109 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:46:34.60 ID:yNW9RYX50
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ツンの顔を覗き込むと、頬を伝う涙が地に落ちる瞬間を垣間見た。 瞬間、僕のことを激しく睨みつけ、僕の肩を激しく前後に揺らす。 苛立ちと、悲しみと、もう何と言えば良いんだろう。 言い表せないくらいの表情で、ツンは泣きながら僕に怒鳴り散らした。 ξ ;凵G)ξ「何で笑ってるのよ!? 私が別れるって言ったときもずっと笑って! 今もずっと笑って! いきなりこの世界に来て!勝手にアンタの家に居座って! 私のせいで右腕までなくなって! なのにアンタはなんで笑ってるの!? 何でそんな能天気でいられるのよ!」 徐々に声に勢いがなくなっていく。 捲し立てるように全て言い終えると、ツンは下唇を噛み締め、声を上げずに泣いていた。 そんなツンの頭を撫でる。いつもなら右手で撫でる所を、今日は左手で。 ( ^ω^)「そんな事ないお。別れようって言われた時は凄い嫌だったし、ベットが狭くなったのはちょっと辛かったお。 それに右腕がなくなっちゃったから、もう僕は今日から左手を恋人にしないといけないお」 ξ ;凵G)ξ「な……なら」 ( ^ω^)「でも、だからって悲しい顔をしたらツンも悲しい顔をするお」 顔を真っ赤にして涙を流し、鼻水も流し、それでもわあわあ泣かずに静かに泣くツン。 悔しそうに、悲しそうに、泣いているツンの涙を拭おうと、頬を左手で拭う。 それでも涙はとどまることを知らずにツンの瞳から溢れ出て来る。 僕は笑う、ツンを安心させる為に。 それが僕というAAが出来る唯一のことだから。
- 110 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:48:27.11 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^)「ツンは良い子だから、誰かが落ち込むと一緒になって落ち込んじゃうお」 ξ ;凵G)ξ「違うわ。私は、ただ。自分勝手で、我侭で」 ( ^ω^)「そんな事ないお。ツンは自分に自信がなさすぎるお。 ツンに泣き顔は似合わないお。ほら、笑って欲しいお」 顔をツンに近づけて、もう一度笑う。 今度はいつもより口角を持ち上げて、目尻を下げて笑ってみせた。 いつもはしない笑みにツンが吹き出しす。 そんなに変な顔になっていたんだろうか、首を傾げる僕にツンは言う。 ξ ;ー;)ξ「何よ……ブーンのくせに、格好いいじゃない」 泣きながらツンが笑った。 無理をしている笑顔じゃない。けれど、悲しさは隠せなくて涙はまだ流れていた。 ふと、辺り一帯の空気が歪んだのを感じた。 瞬時に、AAキラーがここまで来ているんだと察した。 ( ^ω^)「ツン」 ξ ;ー;)ξ「わかってるわよ」 仕方ないわね、なんて言いながらツンは僕に向き直った。
- 112 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:50:04.15 ID:yNW9RYX50
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ξ ;ー;)ξ「大好きよ、ブーン」 ( ^ω^)「僕もだお」 ξ ;ー;)ξ「また、会えるかしら」 ( ^ω^)「約束は出来ないお」 ξ ;ー;)ξ「バカ、嘘でもここは”また会おう”って言うものよ」 ( ^ω^)「ごめんお。でもツンに嘘はつけないお」 ξ ;ー;)ξ「本当バカね」 でも、好きよ。 ツンはそう言って、僕に背を向けた。 ツンの歩く方向には、ツンの家であるスクリーン画面。 一歩、一歩踏み出して行く度に僕の中にも寂しさが溢れ出そうになった。 けれど僕らは、いや、ほぼ笑っている顔をしているという設定の僕はツンの様に涙を流すことは出来なかった。 ツンの身体がスクリーン画面に触れる。 水面に浸かっていくように、ツンの身体半分がスクリーン画面の向こう側に飲み込まれて行った。 その刹那、僕はツンに向かって叫んだ。
- 115 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:54:36.04 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^)「ツーン! 僕はいつでもツンの味方だお! ずっとずっと! ツンの味方でいるお!」 一瞬、ツンの身体が立ち止まったけれど、すぐに歩を進めた。 顔が見えなくなり、背中が消えかけ、最後に揺れるツインテールが スクリーン画面の向こう側に行ってしまったのを最後に、ツンはこの世界から消えてしまった。 次の瞬間、背後におぞましい悪意を感じた。 振り返らずとも誰かは分かる。今までなら逃げるという選択肢を選んでいたかもしれないけれど 僕は逃げずに、ただそこで立っていた。 ( ^ω^)「その中にクーやドクオやショボンもいるんだおね」 背中を向けたまま一人呟く。 当然だけど返答なんて返ってこない。相手は言葉も通用しない化物だからだ。 ( ^ω^)「こういう時、どういう事を言えば良いのかわからないお。 わからないけど、せめて痛くないように僕を食べてくれお」
- 117 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:56:48.07 ID:yNW9RYX50
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ツンの事を想うなら、逃げ続けてもう一度スクリーンの向こう側にいるに元気な姿を見せることなんだと思う。 けれど、それが出来ないことを薄々感じていた。 AAキラーの驚異的な力、クーから聞かされていた、AAキラーの目的。 今逃げ切れることが出来ても、これから先ずっとそれが叶うかは分からない。 また会おう。本当は言いたかった言葉だけど、ツンに嘘はつけなかった。 背後から強い痛みを感じる。今まで感じたことのない、焼けるような痛みだ。 暫く痛みを感じたかと思うと、急に身体が軽くなり、何も考えられなくなった。 今までのことも、僕という存在そのものに対しても、全て真っ白になった。 消えてゆく意識と自我の間に見えた、金髪ツインテールの女の子の後ろ姿。 そういえばあの子の名前は何だっけ。 思い出す間もなく、僕の身体は何者かによって粉々に砕かれた。
- 118 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 02:58:43.30 ID:yNW9RYX50
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【AA消滅事件】 大型掲示板『2ちゃんねる』内にて起きた事件。 明確な理由ははっきりと分かっていないが 掲示板に設置されていたスクリプトのバグが起きたことをきっかけに 2ちゃんねる内で発祥され、活躍していたAAが次々と消されていった。 バグが起きた原因については現在解析中。現在はバグはほぼ消えているとのこと。 何者かが悪意のあるウイルスを仕込み、AAだけを消していったと見られている。 また、この事件をきっかけにAAが存在するスレがすぐに落ちる等のバグも同時に発生したことから AAに変わる新しい表現方法を見つけ、次第に積極的にAAを使う者はいなくなっていた。 これにより、バグもなくなり自由にAAが使えるはずにも関わらず、AAは使用されなくなっている。 尚、このAA消滅事件が発生したのは20xx年と言われているが詳細な発生時期は誰も知らない。 今となっては「過去、こんな方法で文字でイラストを描いていた」という言葉のみが残るだけで 実際にどのようなAAが存在し、どのような方法でつくられていたのかは情報として残っていない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
- 121 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:00:59.06 ID:yNW9RYX50
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どれくらい眠っていたんだろう。随分長い夢を見ていた気がする。 いつもの癖でまたパソコンの前で眠っていたみたいだ。 目の前の液晶も、部屋の電気も付けっぱなしだった。 傍らの目覚まし時計を見ると明け方四時。 誰が出て来たのかまではもう思い出せないけれど とても楽しくて悲しい夢だったことははっきりと覚えている。 母さんや父さんは最近忙しいと言って家に中々帰ってこない。 何かした訳ではないのに変な噂を流されて、学校に居場所が無くなっている。 誰にも言えない悩みとストレスで、押しつぶされそうになっていた。 そんな時に見た夢はとても幸せだった。 そんな幸せも現実に引き戻されれば、簡単にしぼんでしまう。 憂鬱な気分のまま学校へ行く支度を始めようと立ち上がった。 朝ご飯を作って、弁当も用意して。他に何かやることはあったかな。 母さんと父さんがが海外へ仕事に行って半年。 広い家の一人暮らしは不便な事ばかりだ。
- 123 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:02:41.31 ID:yNW9RYX50
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部屋から出る途中、何かが落ちた音がした。 何かと思い、音のした方を見てみると、そこには小さなお守りがあった。 古びた、年季の入っているお守りには、安全と書かれていた。 と、同時に夢の中の出来事が思い出される。 誰か忘れてしまった。けれど、私は確かに夢の中でこのお守りを受け取った。 心臓が早鐘を打っている。あの夢は夢ではなく、やっぱり現実だったのだろうか。 ふと、お守りの端が切れているのが見えた。 中身がちらりと見える。何か紙がお守りの中には入っていた。 不思議に思って、お守りを縛る紐を解いて中身を開けた。 掌に収まる程に折り畳まれた小さな紙。 広げてみると、そこには様々なイラストが書かれていた。 いや、これはイラストではなくAAだ。様々なAAが小さな紙一面に描かれていた。
- 124 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:05:18.59 ID:yNW9RYX50
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( ゚∀゚)o彡゜ 懐かしい。ジョルジュのAAだ。 今はもう見かけなくなってしまったけど、VIPで初めて見たAAがジョルジュだった。 おっぱいうp!なんて言いながら腕を振るあの仕草がとても好きだった。 (`ェ´) 佐藤裕太のAAだ。そういえば一時期とても流行ってたなあ。 普通に名前を晒しただけじゃ、きっとここまで盛り上がらなかった。 このAAとピャーなんて不思議な鳴き声があったからこそ、広まった名言だったと思う。 他にも色々なAAが書かれていた。 ショボン。初めてVIPに来た時はよくバーボンハウスされていたな。 ドクオ。有名なカーチャンAAは反則だ。母さんがいなくなった日の夜に見て思わず泣いてしまった。 素直クール。AAで見るのは初めてだ。新ジャンルスレ、時々覗いたりしていたっけ。
- 126 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:07:33.51 ID:yNW9RYX50
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( ^ω^) ブーン。内藤ホライゾン。私が一番大好きなAA。 我侭な私に付き合ってくれたAA。 最後まで私の味方だと言ってくれた、優しいAA。 堪えきれず、涙が溢れ出す。 忘れかけていた夢の出来事を、思い出した。 何より悲しかったのは、私自身ブーン達のことを忘れそうになっていたことだ。 もしショボンさんからお守りを貰わなければ きっとブーン達のことを思い出せないまま過ごしていたのかもしれない。 いてもたってもいられず、点けっぱなしのパソコンからVIPへ入り込む。 そこにはもうAA達の姿はなかった。クーも、ドクオも、ショボンも。ブーンも。 皆忘れて、今までいなかったかのように話している。 あんなに笑わせてくれたAA達のことを、誰も話したりしなかった。 ならばと思い、私はキーボードを素早く打ち込んだ。
- 129 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:08:54.64 ID:yNW9RYX50
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新しいAA出来た 1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーンするお! 今までVIPはずっと見ているだけだった。 書き込んだことも、ましてやスレを立てたことすら初めてだった。 待っている時間が怖くて、学校へ行く準備を始める。 朝ご飯を作って、弁当も用意して。制服に着替えて。 そうしているうちに時間が経っていて、スレにはいくつか書き込みがされていた。
- 130 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:11:50.42 ID:yNW9RYX50
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2 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします だおとか何だこいつwwwwきめぇ 3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします AAってなんだ 4 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ブーンブンシャカwwwww 5 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします なにこれ? 6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします >>1 マジ勘弁wwwwwww
- 131 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:12:58.56 ID:yNW9RYX50
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ある程度予想していたとはいえ、やっぱり寂しかった。 AAってなんだ、という書き込みを見て改めて思った。 正体不明のAAキラーが、ブーン達AAの存在そのものを消してしまったんだと。 ネット上からも、私たちの頭の中からも。 更に新しく書き込みをされたレスを見ていると 徐々にブーンのAAを使って色々遊んでいる人の姿が出て来た。 17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ⊂二二二( ^ω^)二⊃ u u 足生やしてみた 18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします きめぇwwww
- 134 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:15:01.10 ID:yNW9RYX50
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19 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ところで>>1はいないのか?AAってググってもでねーぞ AA消滅事件がでてきたけどこれのこと? >>19の書き込みを見て慌ててキーボードを叩く。 緊張して思うように打てず、時間がかかってしまった。 25 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 思ってたより反応あってよかった わすれてるかもしれんがAAは大分前からあるぞ アスキーアートでAAだ 文字で打つイラストとおもえばいい /⌒ヽ ⊂二二二( ^ω^)二⊃ | / ブーン ( ヽノ ノ>ノ 三 レレ 全身ブーン。一応内藤ホライゾンって名前もついてる あとAA消滅事件ってなんだ?
- 136 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:15:42.07 ID:yNW9RYX50
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書き込み表示されてみると、ブーンの身体がズレていた。 慌ててまた打ち直す。半角スペースは連続して打たないように気をつけながら。 ブーンの走っている姿をもう一度思い出しながら。 27 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします >>25 腰がずれてるwwww 28 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします まちがえた。これがただしい /⌒ヽ ⊂二二二( ^ω^)二⊃ | / ブーン ( ヽノ ノ>ノ 三 レレ そこまで書き込んで、そろそろ学校へ行く時間であることに気付く。 名残惜しいけれど家に帰ってから続きを書こうと思い、慌てて家から出た。
- 141 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:24:48.46 ID:yNW9RYX50
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その日は一日中落ち着かなかった。 時々携帯を開いては、自分が立てたスレを見たりしていた。 気がつけば他の人もブーンを使って新しいAAを作っている。 見覚えがあるブーンのAA。初めて見るブーンのAA。 平日の午前だというのに、スレは早くもブーンでいっぱいになっていた。 多く書き込まれているスレの中に、一つ気になるレスを見つけた。 66 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 凄いんだけどさ、>>1の言う大分前っていつよ 覚えてる奴だれもいねーし 家に帰って書き込むまで待てず、携帯から書き込む。
- 146 :>>143 文字化け修正:2010/10/17(日) 03:29:21.19 ID:yNW9RYX50
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79 ◆Tund30s.bo 携帯から 一応トリ付けた うまくいえないんだけど 俺達の記憶はAAに関する物だけごっそりなくなっちゃってたんだ 俺はたまたまAAに関する情報を持っていたお陰で覚えていたんだけど 本当にAAってすごいんだって いま皆いろいろブーンでいじっているけど他にももっとAAはいる 数百、いや、もっといるかもしれん 暫く待ってリロードする。書き込みは思いの外、すぐに来た。
- 149 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:31:49.68 ID:yNW9RYX50
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80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 数百とかポケモンかよwwww 81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします おもしろそうだな。もっとにたようなAAとやらをみてみたい 82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします なんとなくこんな感じのやつら見たことがあるような もう思い出せねえけど 83 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします おいwwwwたいへんなことに気付いたwwww Λ_Λこれでネコ耳ッ娘つくろうずwwwwwwwww レスがどんどん増えて行く。 見覚えのあるAAが、初めて見るAAがまた人の手によってつくられていく。 数週間もすれば、また掲示板にはAAの姿が見かけられるようになった。 耳の付いたAA、既存のアニメキャラを使った複雑なAA。 勿論数も少ない上、認知度もまだ限られているけれど きっとまた、新しく生まれ変わった彼らの姿が掲示板で見られるようになるんだろう。
- 152 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:33:19.47 ID:yNW9RYX50
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ブーンというAAをもう一度蘇らせればまた会える。 最初はそう思ってスレを立て、AAを復活させようと思っていた。 /⌒ヽ ⊂二二二( ^ω^)二⊃ | / ( ヽノ ノ>ノ 三 レレ 今私が見ているブーンは、私が知っている今までのブーンとはきっと違う。 ブーンがつくられた頃にいる住人と今の住人は、同じではない。 それは他のAAにも当てはまることでもあった。 ショボンやドクオ、クーも、私が知っている姿ではなく かつ、性格や設定が少しずつ違っていた。 これからまた色々な人の手によって、新しいブーンが完成されていくんだろう。 けれど、それで構わない。彼の、AA達が再び蘇ることが出来たならば。 また会おう。敢えて言わなかった彼の再開の言葉を飲み込み、私は今は亡き彼に告げた。 「さよなら、ブーン」 心の中に生き続けるあなたに、別れの言葉を捧げた。 泣きながら、笑いながら。
- 154 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:36:02.58 ID:yNW9RYX50
- 以上で投下は終了です
支援してくださった方、読んでくださった方 深夜にも関わらずありがとうございます 初めての人は初めまして 見覚えがある人は今までごめんなさい ( "ゞ)デルタは青い夏を感じるようですの作者こと、感想ブログの泡沫です 昨年のサマー三国志から早一年 色々ありましたがこの度私事の方が落ち着いてきましたので デルタは青い夏を感じるようですの再開宣言をします 待ってくださった方、今までごめんなさい。ありがとうございます 一度は逃亡した身ですが、デルタだけは絶対に完結させたいと思います もしよろしければまた読んで頂けると幸いです 最終投下から大分経ったということと、個人的に手直しをしたいということで デルタは10月中に改めて1話から投下をし直します
- 160 : ◆AoH6mbCY.w :2010/10/17(日) 03:51:55.45 ID:yNW9RYX50
- ありがとうございます
投下ペースは前程早くないかもしれませんが しっかり完結させることを一番に書いていこうと思います それではここらで失礼します おやすみなさい
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